二十六本目 トーナメント二戦目 剣vs剣①
開始の合図と共に、オレは血刃の剣を抜き放った。赤黒い刀身が光を反射して鈍く光る。
対する長身で筋肉質なオーガ――ドゥジは、片刃の細長い剣を構えていた。
オレもドゥジも動かない。いや、オレは動けなかった。ドゥジがカウンターを狙っていることは明らかだ。力を抜いた立ち姿から、ドゥジが剣の道に精通していることは一目瞭然だった。迂闊に動いては、あっという間にやられてしまうだろう。
「……怪我は治っているな?」
「えっ?」
突然、ドゥジは言った。あまりに急だったので隙を見せてしまったが、ドゥジが斬り込んでくることはなかった。
「手負いの者を打ち負かすのは、我が流儀に反する」
「……勝つ前提かよ」
先に踏み込んだのはオレだ。距離を詰めるべく重心を前に倒して、一気に駆け寄った。余裕綽々の鼻っ面を叩き折ってやりたいと思った。
ギギンッと、金属がぶつかり合う音がふたつ響く。
「さすがここまで勝ち残っただけのことはある」
ドゥジは感心したようにつぶやく。
血刃の剣を細身の剣で受けながら、ドゥジは膝のツノでオレの腹部を狙っていた。それを、オレは腰を捻って鞘で受けたのだ。
鍔迫り合いになるとオレが不利なので、すぐに地面を蹴って後方に逃れる。
「お褒めに預かり光栄だね」
オレは吐き捨てるように言って、次の攻撃に備える。すぐ後に地面を蹴って追撃の構えに入ったドゥジを受け流すためだ。
上から叩きつけるような一撃。オレとの体格差を活かした素晴らしい一撃だった。
オレはすんでのところで歯を斜めにして衝撃を受け流す。血刃の剣の刃が容赦なくすり減り、あたりに飛び散る。
オレはそのまま剣を斜め下から振り上げる。剣を振り下ろしたことにより空いた脇腹を狙ったが、ドゥジはひらりと跳び上がり、これをかわした。
跳び上がったドゥジはそのまま半身を捻り斬撃を繰り出した。咄嗟にしゃがみ込み、横薙ぎの一閃をかわす。
オレは着地点まで走り込みそこで剣を振り上げた。しかし読まれていたのか、ドゥジはそれを紙一重でかわし、オレの剣を強か打ち付けた。
「……っ!」
指先まで痺れるような衝撃。血刃が砕け散り、水音を立てながら血溜まりに変わる。かろうじて剣から手を離さなかったものの、大きな隙を生んでしまった。
ドゥジの強襲が始まる。
着地の勢いを殺さぬ上段回し蹴り。血刃の剣を滑り込ませ、なんとか直撃を免れたものの、痺れの残る手では衝撃を受け流しきれない。
衝撃でぐらついたところに腹へのアッパー。これはガードが間に合わずモロに食らってしまう。胃がへしゃげるような衝撃に、口からは胃液が飛び出る。
ドゥジは気を失うことすら許さなかった。ふわりと浮いたオレの体に、上から叩きつけるように剣を振るった。鮮血が飛び散る。
オレは地面を転がりながら、激しく咳き込んだ。
「ゲホッ……なぜ、殺さない……?」
一言話すだけで、ぼたぼたと血が滴る。……そう、オレにはまだ口を聞けるだけの余裕がある。ドゥジは息こそ上がっているが、全力ではないだろう。
「小さき者を殺したくはない。棄権せぬか?」
小さき者、だって? オレは思わず吹き出してしまった。
「ますます棄権なんてしたくなくなったね」
魔法と血の輝石で自身の動きをサポートしながら起き上がる。視界が真っ白になるほどの痛みがあったが、それでも構わず起き上がった。
「……なにがそこまでオマエを駆り立てる?」
ドゥジは眉をひそめた。『小さき者』をさらに痛めつけなければならないことが不快だとでも言いたげだ。
「別に駆り立てられてるわけじゃない。オレを舐めてるオマエにだけは負けたくないと思っただけだ」
オレは右手を突き出した。刃のない剣を握る手には血濡れの輝石が光っている。オレは力を振り絞って、血を刃へ変えた。
「……!?」
ドゥジの胸から赤黒い刃が飛び出る。少し遅れて余裕綽々といったドゥジの表情が苦痛に歪む。
後ろから刺されたことが信じられない様子だ。
胸から飛び出る刃はひとつでは終わらない。二本、三本、四本……とその数を増していく。
「『小さき者』が少ない血を無駄に使うわけないだろ」
ドゥジは振り返る。視線の先にはオレに猛攻を仕掛けた地点がある。
「あのときの血か……」
ドゥジに斬り付けられ流した血。血刃の剣の刃が瓦解した残骸。
そこにあった血溜まりは刃に形を変え、ドゥジを貫いていた。
ドゥジは咆哮した。
はじめは苦痛のあまり叫んでいるのかと思った。
だが、違った。
ドゥジの全身に浮かび上がった見慣れぬ文字が妖しく光出し、身体中に生えた無数のツノが膨張し、捩れていく。
「な……に……」
オレの目の前にいるのは、先程までのドゥジではなくなっていた。
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◾️改訂履歴
2022/05/10 タイトルを変更しました。




