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アルニラム騎士団の憂鬱  作者: 古川モトイ
8/10

私、ケン・ダールの証言と見解4

 賢明な読者の諸兄はそろそろ気づいているだろうが、この騒動では「地球がなぜ勝てたのか」を問うよりも「エイリアンがなぜ負けたのか」を問う方が容易だということが分かってきた。まず彼らは極力地球を無傷で征服したかった。そして、質量兵器に対してあまりにも免疫が無かった。忘れられがちなのは彼らの艦から飛び出した汎用戦闘機は当初、目覚ましい戦績を挙げたということだ。多くの戦艦を沈め、地上部隊に打撃を与えた。誤算だったのは彼らの戦闘機に並々ならぬ関心を持ったのが地球人類ではなかった。お察しの通り、蚊だ。ニューヨークでは定期的に保健所が殺虫剤を撒いていたのだが、ゴタゴタでその機能が麻痺していた。瓦礫の山になったニューヨークでは例年では考えられないほどの蚊が大量発生し、地球の軍人たちもかなり迷惑していたところ、なぜかエイリアンの戦闘機に蚊が吸い寄せられるように集まる現象が頻発したそうだ。彼らの推進技術に反重力フィールドが関わっているのも頂けなかった。普通、蚊は一定の光度を限界に上昇をあきらめる。反重力フィールドではその作用が起きないため、結構な高さまで蚊を引き連れてしまう。高度な文明を持っていた彼らなので、蚊に精密機械が壊される訳ではない。気密を蚊は通り抜けない。窓の類に張り付いた蚊やその死骸が、ただただ不快で、ひたすらに集中力を削がれたというただそれだけのことだった。彼らの士気は残念な水準まで下がった。彼らはその不快なオブジェクトを地球人の放った新兵器だと思い、そのハッキングに着手したが、その無謀な試みは当然無駄になった。一部の兵卒を発狂寸前まで追い込んだその不快兵器は、いつしか彼らの揚陸艦を取り囲み、その複雑な表面構造や砲撃のへこみに溜まった(この表現はあまり適切ではない、低重力フィールドのせいで枝に実ブルーベリーのような水たまりが形成されていた)雨水の中でまで恋の季節を迎えて、2世代目、3代目と繁殖しては彼らの不快指数に貢献した。ここに及んでは地球人vsエイリアンvs蚊という様相は誇り高きアルニラム騎士団の中では決定的になっていたと聞く。早々に地球に投降した幾ばくかのエイリアンは蚊帳や虫よけ、殺虫剤の存在を教えられて快適な捕囚生活を送っていたようだが、その中には「投降したと見せかけて艦に情報を横流していたスパイ」も混じっていた。彼はこの不快兵器が地球人による兵器ではない情報と共に、吸血性があるという情報をリークしたため、質量兵器で穴あきチーズのようになりつつあった揚陸艦トゥレイスを恐慌状態に陥れた。現実には蚊は彼らを襲うのではなく、彼らの艦の表面の自己修復機能に関わる物質をエサに繁殖していたので、エイリアンが蚊に刺されることは無かったようだが、「ヤツらは体液を吸う」という情報は地球の生き物全体に適用され、地球人に捕まると体液を吸われるという妄執に陥った。ちなみに、蚊はアルニラム騎士団を襲わなかったが、不幸にも南京虫トコジラミは地球人も誇り高きアルニラム騎士団人も平等に襲った。

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