第18章 名目
極夜の部屋には、音波と縁がいた。音波は縁に悪魔についてのことを色々と教えてやっていた。極夜はこの2人を見ながら、初めて夢魔について考えていた。
夢魔ってなんだろう。夢魔の言い伝え。俺には自分の事とはいえまったくなんの事だかわからない。俺がどうしたら歓喜になり、どうしたら災いになるのか。俺はどうしたいんだろうな。たぶん、歓喜になるってのは、音波の言うとおり魔羅にとっても悪魔にとってもいいことなんだろう。もし災いだったらその逆か。俺は魔界のことなんてどうでもいい。魔羅だろうが悪魔だろうがどうでもいいんだ。ここにいる奴らは魔羅の命令は何でも聞く。俺にはまったく理解できない。魔羅の命令なんてきかなければ、人を殺す快感を味わえるのに。魔界に帰ってきたくはないが、闇の補充をしないとただの闇に戻ってしまう。この快感をもう2度と味わえないなんて俺には無理だ。だからしょうがなくいつも帰ってきていた。でも魔界に帰る直前に殺した奴。あいつは俺に絶望を向けた。あれは忘れられない。力が体の底からみなぎる様に強まった。今まで一度もあんなことは経験したことがない。俺は今回魔界に帰ってきたのを最後にもう二度と戻るつもりはなかった。自分の闇が尽きるまで人間界で暴れまわってやろうと思っていた。もう死魔に消されてもいい。俺は心残りがなにもないほど人間界で楽しみまくった。最後は死魔に消されるまで、闇が尽きるまで、自分のために生きようと思って魔界に帰ってきたのに。
音波と縁を改めて見つめながら極夜はため息をついた。
魔界に帰ってきて、縁の教育を命令された時は何もするつもりはなかった。だけど、他の悪魔とは何もかもが違うこいつを見ていたら自分を見ているようでほっとけなくなった。俺は最初から夢魔のことを考えなかった訳じゃない。初めて夢魔だと言われた時から、言い伝えはどういうことなんだろうと思っていた。でも他の悪魔との違和感を感じてからは考えるのをやめた。音波だって、側にいるのは楽だったが、魔羅に絶対の忠誠を誓っていた。俺にはその忠誠がわからない。でも、それだけだったのか。忠誠がわからないから好きに生きようと思ったのか。皆とは違うことを何とも思っていないつもりだったが、俺も縁のように皆と違うことを悲しいと思っていたのか。それで夢魔のことなんてどうでもいいと思っていたのか。
この前、音波が言った言葉のことを極夜は思い出していた。
音波は俺のためになることをしたいと言っていた。広場でだって、俺のために自分の考えを話してくれた。音波はきっと皆に責められ辛かっただろう。音波には他の悪魔と同様に魔羅に絶対の忠誠を誓っている。それなのに魔羅を侮辱したと言われ辛かっただろうな。いつも音波は歓喜になれという。だけど、俺はどうしたいんだ。歓喜になりたいのか、災いになりたいのか。それとも何も考えず、好きに生きたいのか。それはまだよくわからないが、一つだけはっきりわかることはある。俺は自分の力を抑えられない。人間のことを思い出すだけで力がみなぎる。自分の力を試したくなる。どれだけ強くなったのか試してみたいと強く感じる。そして、人間の絶望の顔をもう一度見たい、という感情が溢れてきて止まらない。
極夜がそんなことを考えているなんて知らない縁は音波に次々質問を浴びせていた。
「ねぇ、人の心を染めるのにどのくらい時間がかかるの?」
「ん~、まあ最初のうちは染まりやすい人間が相手だからなぁ。心がほとんど染まっている時が一番悪魔の影響を与えることができるんだ。だから、半年もあれば染められるだろう。それに、教育を任されている極夜が付きっ切りで側にいるしな。」と音波が答えた。
「えっ!?そうなの!?最初から一人なんだと思ってた。」
「いやいや、教育は人間界でやり方をすべて教えて終了になる。」
「そっかぁ。ねぇ、極夜聞いてた?極夜!」
縁に呼ばれるまで考えにふけっていた極夜は何も聞いてはいなかった。
「なんだって?」極夜が言った。
「だから、人間界で僕にやり方を教えてくれるのは極夜なんだって!」
「はっ?そんなの音波がやれよ。」極夜は音波を見ながら言った。
「教育を命令されてるのは極夜だろ。本当は私が縁に教えていることは極夜がやらなくてはならないのに。部屋の中では私が教えてやるが、外ではお前が教えていなきゃおかしいだろ。」
「俺はやんねぇぞ。」極夜が言った。
「ダメだ。」
音波は絶対に譲る気はなかった。縁の側で教えるということは、極夜は好きに動けない。魔羅の命令を破らせないためにも縁の教育を名目にするつもりだった。
極夜と音波のやり取りを見ていた縁は自分のせいで言い合いになっていると思いどちらにも声を掛けることができずおろおろしていた。
「縁が気にすることではないよ。悪いのは極夜だ。まぁ、縁が人間界に行くまではまだ時間があるからな。それまでにはわかったと言わせるさ。」
縁の様子に気づいた音波は微笑みかけながら縁に言った。




