第17章 眠り
「・・く・、ね・・・て・・・・」
深い眠りの中、体を揺さぶられている気がした。なんか、耳障りな音がする。
「極夜!ねぇってば!ねぇ!!起きてよ!!!」
極夜が薄っすらと目を開けると、縁が一生懸命になって体を揺さぶっていた。
「ねぇ!起きて!!」
「うるさい、なんだ、なんだって?」
極夜は眠りから無理矢理起こされ、まだ寝ぼけていた。
「ねぇ、起きた?もう寝始めて2日たつよ!」
「ん~、2日?2日・・・か。」
しかし、この言葉で極夜は一気に目が覚め、飛び起きた。
「なんだって!?2日!?2日で俺を起こしたのか!?」
「うん。」
縁はまったく悪びれた様子もなく答えた。極夜はもうそれ以上何も言うことができず、自分の中の怒りをどこへ持っていけばいいかわからなかった。
縁から目線をはずすと、縁の後ろに音波が見えた。極夜が寝る前に音波のために出した台の上に座り、必死に笑いをこらえている。
「音波、お前、おい、ふざけんなよ。俺の眠りを邪魔しやがって!!」
音波はついに笑いをこらえきれなくなり、大声で笑い出した。
「いや、いや、起こしたのは私じゃない!縁だぞ!いやぁ、お前の顔・・・」とまで言うと、もう話すこともできず、ただただ笑い続けた。
音波に笑われ、さらに不機嫌になった極夜は縁のほうを向き怒鳴った。
「なんだってんだ!俺は9年ぶりの眠りだったんだぞ!わかってんのか!」
「そんなに怒んなくても、わかってるよ~。2か月くらいは寝続けるんでしょ?」
「・・・お前、わかってて俺を起こしたのか?」
極夜の目が徐々に吊り上った。
「だから、怒んないでってば!」
「それで?音波がいるにもかかわらず、なんで俺を起こした。」
もう、極夜の怒りは最高点に達していた。
「あのね、音波に教えてあげたの!極夜が小悪魔を数えきれない程操れるのはやっぱりすごいって!!」
縁は目を爛々とさせていた。
「いや、私はわざわざ起こさなくてもいいと言ったんだがな。縁がどうしても極夜に教えてあげたいって言うもんだから。」と笑いが収まりかけていた音波が言った。
縁の顔を見て極夜は力が抜けてしまった。まだ納得はいかなかったが黙って肘枕で台に横になった。
「いやぁ、笑ったなぁ。悪魔って笑うんだな。生まれて初めてだよ。」音波が言った。
「俺もそんな風に笑う悪魔を見るのは初めてだ。笑われるのもな。」極夜は不機嫌なまま言った。
「いや、でも小悪魔をそんなに操れるのはすごいことだ。私は何匹かな。試したことはないが、たぶん350匹くらいが限界だろうな。」
極夜はそんなにすごい事とは思っていなかったが、音波にも言われるとそうなのかと思った。
「あぁ、僕も早くいっぱい操れるようになりたいなぁ。」
「だけど、人間界に行く時は、自分の力の限界の数を連れて行けばいいという訳ではないんだ。小悪魔を操るにも闇が必要だからな。人を闇に染める力と人間界で過ごす期間の自分の体力、さらに小悪魔を操り続けるのに必要な力、それぞれの兼ね合いをみて連れて行く数を決めなければいけない。」音波が言った。
「そうなんだ。すごく難しそう。ねぇ、極夜は人間界に10匹しか連れて行かないって言ってたけど、体力を温存するためなの?」
「俺はそんなこと考えたこともない。ただ、10匹もいれば十分なだけだ。」
「極夜はそうだろうなぁ。」
「ふぅ~ん、そうなんだ。ねぇ、小悪魔って人間界で何に使うの?」
「極夜にはどこまで教えてもらった?」音波が聞いた。
「魔笛で操るってことは教えてもらったよ。僕も1匹操ったんだ。」
縁は嬉しそうに答えた。
「そうか。じゃあ、会話の時も魔笛を使うってことは聞いたか?」
「えっ、会話ができるの!?でも、小悪魔には口はなかったよ。」
「小悪魔は笛を持っている訳ではないんだ。仕組みはわからないが、魔笛のようなものが体に入っているんだろう。」
「そうなんだぁ!会話ができるんだぁ。」
縁が小悪魔と会話ができると聞いて嬉しそうだったのを見て、音波は付け加えた。
「縁、前にも言ったが小悪魔には意思や考えはない。会話をすると言っても命令されたことに答えるだけなんだ。」
「あっ、そういうことなんだ。なぁ~んだ。」
「人間界での小悪魔の使い方は色々あるが、やっぱり一番は人の闇を探す時だ。」
「人の闇を探すとき?」
「そうだ。闇を探す方法も色々ある。しかし、小悪魔を使うのが一番手っ取り早いんだ。人間界に行ったら、魔笛で人の闇を探して来いと命令するだけだ。そして、小悪魔がそれを見つけたら魔笛で知らせてくれる。ただし、片言だがな。もし今話した命令をすれば、見つけた。とだけ言うだろうな。」
「それは楽でいいね!」
「だろう?あまりにも難しい命令はすることはできないが、単純なことだったらすることができる。人の闇を探してこいっていうのにも、注文をつけて命令するのがほとんどだな。例えば、闇が少ない人間を探して来い、とか、心が半分染まってる人間とか、もう少しで染まりきる人間とかな。」
「なんでそんなに細かく命令するの?」
「それは細かく命令しないと、人間を見つけるたびに小悪魔が見つけたと言うからだ。心の闇が少しもない人間はこの世にはいないからな。あとは、悪魔の好みと状況によるな。縁が初めて小悪魔を使うときは、もう少しで染まりきる人間が一番いいだろう。力も少しは貰えるし、自分の闇の力の使い方を学べるしな。ほとんど染まっていない人間を時間をかけてゆっくりと染め上げたい悪魔も多いが、それには相当の力がいる。力のない悪魔がそういう人間を選んでも、染めきるより先に体力が尽きて、魔界に帰ることになるだろう。自分の力と体力を考えて獲物を選ぶ。そして何よりも人間界に行く大前提は、魔界に帰る前に1人でも多くの人間を染め上げて魔羅様のお力にすることだ。」
「そっか~。まずは何より自分の力が強くならないといけないんだね。ねぇ、極夜は小悪魔になんて命令するの?」
「俺は小悪魔は使わない。予備に連れて行くだけだ。」極夜はぶっきらぼうに答えた。
「なんで?命令したら楽に見つかるのに。」
「俺も最初の頃はもっと数を連れて行って、闇の少ない人間を探して来いって命令してた。だけど、数を持って行ったら持って行くだけ、小悪魔はすぐ見つけるだろ?でも、どんなに闇の少ない人間でもすぐ染めきっちまって、まったく何もおもしろくないんだ。どいつもこいつも張り合いなくてな。だから、暇つぶしもかねて、自分で探すんだ。」
「そっかぁ。なんか、力がありすぎるのも大変なんだね。僕は普通くらいの力でいいや。」
縁が笑いながら言ったので、極夜は驚いて聞いた。
「お前、力が欲しくないのか?」
「そりゃあ、欲しいけど、つまんな過ぎるのも大変だなぁって思って。極夜はつまんなくて人を殺しちゃうんでしょ?」
「馬鹿言うな!俺は俺の快楽を求めてるだけだ!人間を苦しめて苦しめて苦しめて、最後には狂わせる。もう二度と心を取り戻せなくなるまで狂わせてから殺すのが何よりどんなことより楽しいんだよ。あぁ~、早く人間界に行きてぇなぁ。」
そう言うと、極夜は目をギラつかせ始めた。
「そうなのかなぁ。僕にはまだわかんないなぁ。」縁は首をかしげた。
しかし、極夜が人を殺す快感を思い出し興奮して震えているのを音波は見逃さなかった。




