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私は、親友の逆ハーフラグをへし折ろうと思います。  作者: 義已暁
木瀬叶歌が暗躍する体育祭前夜。
23/23

僕の先輩は専属です。

 お待たせしました。体育祭編、田中君視点です。


 では、どぞ。

 初めまして、皆様。僕の名前は田中一誠(たなかいっせい)

 生徒会の庶務を務めさせて頂いています。ちなみに一年二組に在籍しています。


 僕の仕事は、主に生徒会で使う資料の作成、各委員会への資料の配布等ですね。今井戸先輩がコピーした資料を僕と木瀬先輩がホッチキスで仮留めして、今、各教室に配っている所です。……本当はコピーも僕の仕事なんですけど、大概今井戸先輩が金子副会長に命令されているので、大変楽で良いです。

「おい、田中」

「先輩女子とは思えない口の悪さですね」

 僕と一緒になって教室回りをしてくれている木瀬先輩は、生徒会の『雑用係』である。

「うるさいわっ!! 女子に対してこの仕打ち!? 8:2とか舐めてんの?」

 先輩がご立腹なのも無理は無い。今資料の山を持っているのは殆ど先輩で、僕は委員会役員用の冊子を数十冊抱えているだけですからね。

「重いなら、教卓に置けば良いじゃないですか。あ、済みませんお話の途中でしたね。次の委員会会議は水曜の放課後です」

 僕は不満そうな木瀬先輩を無視して、三年二組の風紀委員長に冊子を手渡した。

「成程、了解した」

「ほら、先輩行きますよ」

 さっさと、次の教室に行かなければ仕事が進みません。まだ、二年と一年の教室を回らなければならないんですから。休み時間もそう長くはないですしね。

「コラ待ってって!」

「早く済ませば、ソレも早く減りますよ?」

「分かってるけど、納得がいかないのっ」

 先輩は、この学校で少々有名な方だ。特待生と言うのもある。邪険に扱ってはいるが、僕は先輩に感謝しているのである。


 何故なら、僕が生徒会に入れたのは先輩のおかげだからです。


 庶務というのは本来生徒会がする仕事の殆どを補佐する、謂わば『雑用係』の様なもので。全ての役職に関わる事から次期生徒会長候補として周りに見られる。

 僕はこの学校に首席で入学して直ぐに、金子会長から庶務への推薦を受けた。けれども、僕はそれを固辞した。


 僕が持病持ちだからだ。


 身体が弱い僕には、普段の体育の授業はおろか、生徒会の激務をこなす体力も無い。そんな僕を助ける為に、補助として付けられたのが、既に生徒会の『雑用係』だった木瀬先輩だ。



『君が田中君? 私が荷物持ちしたら反省文減らしてくれるって先生が言ってたの、本当?』

 今年の入学式の日の放課後、生徒会室に呼ばれた僕の前で、紅茶を飲みながらお菓子を貪っていたのが、――――後に、僕にとってかけがえのない存在となる木瀬叶歌先輩との出会い。

 そんな感動的な出会いの裏側で、木瀬先輩は去年の間に溜まった今井戸先輩作の領収書を片手に学園長の前で小一時間正座させられていたらしいのですが、良い話が台無しになる気がするのでこの際それは気にしないで置きましょう。



「あー重い。田中君、ここは荷台を購入する事も視野に入れてはどうだね?」

 隣を歩く木瀬先輩がドヤ顔で提案したのを、乾いた笑みで一蹴する。

「先輩、それ今井戸先輩の前で言えます?」

「言えない」

 真顔になって断言する先輩に、僕は思わず噴き出した。

 予算を握る会計の今井戸先輩とはホトホト反りが合わないのはいつもの事。ちょっと金子会長に言えば通るだろうに、それをしないのは……。

「ふっ、じゃあ、大人しく荷物持ちしてて下さい」

「あ~い」

 口を尖らせて返事をした先輩に、僕は笑みを深くした。

 三年一組の教室の中を覗けば、『雑用係』の先輩である豊永監理が寝こけていた。あの人は、大体寝ている気がする。先輩の前で迂闊過ぎやしないですか?

 そんな僕の危惧通り、先輩は嬉々として豊永監理の元に駆け寄った。

「あ、貴礼先輩じゃん。おーい」

 そう言うなり木瀬先輩は豊永監理の膝の上に資料をドサッと乗せた。

「んがっ?! な、なんだっ、て……叶歌ぁぁぁっ!!」

「ホラ、無駄な筋肉の出番ですよ! セ・ン・パ・イ」

 バチコーンとウインクを決めた先輩に、豊永監理はわなわなと肩を震わせた。

「誰が筋肉だ!! つうか、膝に乗せんなっ。俺、病み上がり。お前、死ななそう、コレどう見てもお前の仕事だろーがっ」

 資料を机の上に避難させた豊永監理は声を荒げて抗議した。それに、先輩は軽蔑したような表情を向けた。

「私、か弱い女子で単位足りてる。先輩、良い年した留年生で、単位ヤバイ。……どう見ても、先輩の仕事じゃないですか? それとも今年も留年する気ですか」

 前言撤回。先輩は、別に僕の雑用を進んでしている訳ではないようです。むっとして、僕は先輩の腕を強く引いた。

「先輩、遊んでないで運ぶの手伝って下さい。豊永監理は体育祭の種目練習が明日の放課後からずっとあるんですから、今日くらい寝かせといてあげましょうよ」

 僕の言葉に顔を青褪めさせたのは、豊永監理の方で。彼は恐る恐る僕を仰ぎ見た。

「た、田中。俺、これくらいなら運んでやるぞ?」

「いえ、結構。監理には櫓競技の先生の代役をやって貰わなくてはならないので。あ、今の内にお手洗いは済ませておいた方が良いですよ?」

 にっこりと笑って別れる。僕に無言で付いて教室を出た木瀬先輩は、廊下から豊永監理が項垂れてるのを見て『どんまい……』と小さく呟いた。


 もう少しだけ、先輩を独占してもいいでしょう? 会長や副会長はいつでも好き勝手しているんですから。役員になって初めての大仕事を、少しでも長く先輩と居たかったなんて、誰にも言う心算無いですけどね?



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