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靴紐
朝、出社するために玄関へ向かう。
気分が重い。
靴を履き、靴紐がほどけていることに気づいた。
しゃがんで結び直そうと靴紐に触れ、ふと、昔を思い出す。
まだ幼かった頃、靴紐がうまく結べなくて泣いたこと。
母が、あっという間に結んでくれたこと。
「はい、これで大丈夫」
笑顔でそう言ってくれたことを。
そんな母は、もういない。
けれども今は自分で結べる。
輪をつくり、くぐらせ、きゅっと引く。
結んだあとは、きちんと長さも整える。
「はい、これで大丈夫」
今度は、自分で言う。
憂鬱だった気分が、ほんの少しだけ軽くなった。
「いってきます」




