第2話ー②
・久米香月くめ かずき【17・男】・・・・大和まほろば高校3年2組・野球部主将
・縄手章畝なわて あきや【30・男】・・・久米香月のクラス副担任
・斎部優耳いんべ ゆさと【40・女】・・縄手章畝の婚約者
・木之本沢奈きのもと さわな【17・女】・久米香月の彼女
・葛本定茂くずもと さだしげ【17・男】・久米香月の幼馴染で野球部
・山本水癒やまもと みゆ【16・女】・野球部マネージャー
・戒外興文かいげ おきふみ【16・男】野球部2年生
・曲川勾太まがりかわ こうた【18・男】野球部3年生
・久米香織くめ かおり【47・女】・・・・久米香月の母
・葛本義乃くずもと よしの【48・女】・・葛本定茂の母
・小槻スガルおうづく すがる【31・女】・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・雲梯曽我うなて そうが【25・男】・・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・北越智峯丸きたおち みねまる【15・男】・・・・・・・野球部1年生
・宇治頼径うじ よりみち【24・男】・・・・・・・・・・北越智のパートナー
・新口忠にのくち ただし【49・男】・・・・・・・・・・久米香月の父親
・ディアナ・カヴァース【年齢不詳・DQ】・・・・・・・・新口忠のパートナー
居残り組に、明日の【さとやくスタジアム】での集合場所と時間を再度伝え、大会前日の練習は解散となった。
木之本は山本と打合せをしたいからと、先に二人で下校していってしまった。
夏の日の入りは、群青色の絵の具を水に流したような空が広がり、水底から一等星の瞬きが揺れる。心地いい南風が肌を撫で、カナカナと鳴く蜩の声を運んでくる。
久米香月は正面玄関の壁にもたれながら、LINEでメッセージを送っていた。
スマホに表示されている天気予報は明日も快晴。
予報気温も二十八度と、それなりに夏日の嫌味さを想像してしまう。
少し疲れたと息を吐き、誰もいなくなった夜の校舎を照らす外灯に目を向けた。
スマホの画面にメッセージの受信を知らせるコールが鳴った。
ネットで話題になってから、SNSにメッセージが頻繁に届くようになっていた。
応援メッセージや鼓舞するメッセージなど嬉しいものもあるが、人格を否定するメッセージや、卑猥な誘い、金銭に絡む話や破廉恥極まりない画像を含めた不快なものまで大量に届くようになってしまった。
なんとなく周りに合わせて作成したSNSは削除できないまま、今では鍵付きのアカウントとなっている。名前も変えて、プロフィール写真も顔がわからないようにしてある。
それでも、届くメッセージにうんざりしていた。
『秘密厳守で画像交換しましょう。』の文字と共に、いきり立った陰部だけが写った画像が送りつけられていた。
「でた。」久米は大きく溜息をつき、ブロックボタンをタップした。
「一方的に送って来て、なにが秘密厳守やねん。」
つぶやく横顔に、
「久米、お疲れ!」
職員用の下駄箱から靴を取り出しながら、スマホを手にした縄手が声をかけた。
救われたように微笑んだ眼差しで、久米は振り返った。
「先生、一緒に帰ろう。」
―――――――――――――
虫たちの歌が、うるさいくらいに共鳴する【新沢千塚古墳群公園】の駐車場で北越智峯丸は宇治頼径からヘルメットを受け取った。
「ええなぁー今日はバイクや。」
ワクワクした視線で見つめる。
「夜風切って走るってのも、ええやろ。」
「こんなん、持ってたんや。鉄の馬やな。」
北越智はスポーツタイプのバイクのシートに手を当てる。
「移動しやすいし、最近買った。」
「ホンマ、金持ちやなー。」
平然と言い放つ姿に、宇治は眉を広げる。
「俺やなくて、家が持っとるんや。」
「はいはい。昔っから金持ち具合は変わらんよなー。」
「そんなん、ええやん。千年ぶりに巡り合えたし、ここで楽しもや!」
「間違いない!次はどうなるかわからんしな。前も、その前も、俺はひとりでずっとボロボロやったし。」
北越智はお道化て切腹の身振りをし、苦しむ真似をした。
そんな姿に宇治は手を叩き笑いながら、
「明日の試合、応援に行くで!」
「とりあえず何か飲もうか」と自販機を指さした。
「野球っておもろいなぁ。ホンマにはまるわぁー。馬に乗ってする打毬もおもろかったけど、これはこれでエエもんや。」
ゆっくりと自販機に歩き出した北越智の背中を、宇治がそっと抱きしめる。
「久しぶりに、峯くんが舞台で舞ってる姿見たいわぁー。」
「前とは舞台の種類がちゃうけどな。」
「でも、明日は投げへんと思うで。三年生に花持たせてあげたいし。でも、勝つけど。」
抱きしめられたまま北越智は、振り返り宇治に唇を重ねた。
「そういや、前、久米くん見てたな。」
宇治はいたずらっぽく笑う。
「お!よっちゃんも気付いてたんや。」
「思いっきり見とったなぁ。」
「今もどっかで見てたり。」
北越智は笑いながら、誰もいない駐車場の真ん中で振り返り、両腕で宇治の頭を包み込み、さらに舌を絡ませた。
「あれぐらいで、丁度ええ刺激になってんちゃうか。」
唇を離した北越智は肩に顔を寄せ、Tシャツの匂いを嗅いだ。
「ホンマかいな。久米くん止まらんようになっとったで。」
笑いをこらえるように、口元を歪ませる宇治に苦笑いをして
「グチグチ、ウジウジしてやんと、早よパンパンとやったらええのに。」
北越智は鼻をならした。
――――――――――――
縄手と久米は、街灯が薄暗く照らし出す丘陵の住宅地を下っていた。
「はぁー。なんもわからんまま、明日や。」
頭をポリポリ掻きながら、縄手はため息をつく。
暗がりで足元を見ながら歩いていた久米は、そんな縄手に顔を上げ、
「大丈夫ですって、山本さんのアシストあるんで本当に心配ないですよ。これ、ガチで勝てますよ。明日。」
大きく頷く。
「そーいや分析ノートに、対戦相手のこと、めっちゃ書いてあったな。」
「ホンマに、すごいっす。あのノックもエグかったですからね。」
歩きながら一歩前でスイングをして見せる。
「久米選手、ホームラン!」
縄手の掛け声に、歯を見せながら笑顔で振り向く。
「・・・もし。」
言いかけて言葉を止めた久米に
「もし?」
縄手は眉を下げる。
「もし、俺が・・明日ホームラン打って、んで、勝ったら・・・・」
「うん。」
・・・・・・・・・・
「キスしていいですか?」
「え?」
「もうすぐ、俺、誕生日やし。プレゼント欲しいっす。前のご褒美もまだですし。」
「・・・・あ、いや・・・まだ、教師と生徒の関係やしなぁ・・・」
縄手を正面に見ながら、後ろ向きで歩く久米は、一か八かで言ってみたものの、やはり言葉でお互いの立場におけるルールを示されると胸に刺さった。
それでも、不思議なくらい縄手に対して、欲するものを言いやすくなっている自分に気が付いていた。
「ケチやなぁー。」
不貞腐れるように目を逸らした久米に
「誕生日、いつやねん?」
縄手は苦笑いをする。
「来週っすよ。」
「なるほど。来週かぁ。」
「来週で、十八っすよ。合法的にエッチできますよ。」
いたずらっ子っぽく、久米はまた笑って見せる。
「お前なぁー。いっつもそんなんばっかり考えてるんか。」
あきれ顔で『正直、それは想像できないんや』と続く言葉を飲み込み、笑い返した。
「若いっすもん。それしかないっすよ。」
「まあ、確かに俺もそうやったわぁ。」
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久米が縄手の横に並ぶ。
坂の途中、木々の隙間から街の明かりが見え隠れする。
住宅地脇の林から高い音階で響く蜩と、近くの田んぼで騒ぐ蛙の声の洪水の中、蒸し暑い大気が、時折そよぐ南風に揺れる。
日本の夏という言葉がしっくりくる時の流れに身と任せるように、
久米はそっと縄手の右手に左手を重ねた。
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