第1話ー⑦
「先生、ユニフォームめっちゃ似合いますね。やばいっス!」
「似合うか?着られてる感満載やで。」
縄手はトレーニングシューズの紐を結びながら、笑顔で近づいてくる久米を見上げる。
「ガチ、かっこいいっす。」
ニヤつく久米に立ち上がり
「ありがとう!久米主将!明日、試合頑張ろうや!」
拳を握る。
「もちろんっすよ!勝ちます!」
縄手の白い眩しさに更に目を細め、久米もガッツポーズを見せる。
「せや!昨日、借りた野球部ノート、ありがとう。かなり参考になった気がする。まだわからん部分はあるけど。時期によっての練習内容とか、選手の特徴とか。ホンマに細かく書いてあるな。感心したで。」
二人で肩を並べてグラウンドに向かう。
「あれ、俺も書いてる部分もあるんっすけど。ほとんど山本さんが書いてくれたんですよね。」
「へえー」
驚くように目を開く縄手。
「今日も、対戦相手となるチームのデーターを集めてくれていたみたいで、後でそのノートもらいます。」
「彼女すごいねぇー。」
「はい。俺もビックリです。スコアシート、やけにスラスラ書けるなぁって思ってたんですけど・・・」
「ホンマにええマネージャーやで。」
「俺より詳しいかも知れないっすよ。」
久米の言葉に縄手は、バックネット近くで練習の用意をしている山本に目を移し、頷いた。
すべての部員が、目の前で起きていることに、驚愕を隠せていなかった。
試合前日ということもあり、軽いシートノックで体を慣らそうと、それぞれの守備位置につきボール回しをした後、バッターボックスを振り向いた時にそれは起こった。
全員の視線の先にいたノッカーは、縄手ではなくマネージャーの山本の姿だった。
傍にはボールの山に手をかける木之本。
驚く暇もなく
「はい!サード行きます!」
山本の張る声と共に、ゴロが久米の前に迫り来るが、あまりの衝撃に体が遅れる。
「はい!そこ!しっかり!」
木之本がニヤリと笑う。
「はい!もう一回!」
ギリギリのラインを狙った、本番さながらの打球。
「え!ガチで??」
なんとかキャッチした球をファーストへ流れるように送球する。
信じられないと、久米は首を横に振るも、拳をグローブに勢いよく当て気合を入れて、臨戦態勢に入る。
「おっしゃーーーーー―!」
山本の上手さに興奮した誰かが叫んだ。
「おい!こい!」
それに釣られ久米の声を張った。
・
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結局汗だくになってしまった驚愕のシートノックが終わり、水分補給をしっかり取った後、クールダウンを兼ねて、縄手はオリンピック候補生時代に教わった試合前によく行ったワールドグレイテストストレッチを伝えていた。
息を整え見上げた夏空は、まだ有頂天に勢いよく遥かに広がる青さをたたえ続けていた。
久米は斜め前でストレッチを教える縄手の横顔を見ながら、初めて一緒にグラウンドを走り、二人息せき切ったまま寝転び見上げた空を思い出していた。
二人の汗の跡が、仲良く手を繋ぎ、いつまでも一緒に空を見上げているようだったことも。
「じゃあ、明日の打順とスターティングメンバーを発表します。」
縄手の瞳に映る選手十五名とマネージャーの二名。
三年の葛本は自宅謹慎中で不参加。二年と一年もそれぞれ一名ずつ参加出来ない選手がいる。
ゆっくり全員の顔を覚えるように見つめ発表した。
―――――――――――
一番 三年 土橋【つちはし】レフト
二番 一年 北越智【きたおち】ライト
三番 三年 久米【くめ】サード
四番 二年 十市【といち】センター
五番 三年 曲川【まがりかわ】ピッチャー
六番 二年 戒外【かいげ】キャッチャー
七番 二年 八木【やぎ】ショート
八番 二年 鳥屋【とりや】ファースト
九番 二年 大垣【大垣】セカンド
―――――――――――
「スターティングメンバーは以上!」
「ただし、全員控え選手となるので、いつでも交代できるように心がけておいてください。」
久米から渡されたノートに書かれていたことを、活舌良く気合が伝わりように大声で伝えるが、これでいいのか不安になり視線を久米に一瞬向ける。
小さく頷く久米。
全員が納得するように、お互いの目を見ながら、静かに頷き合っている。
「あと、曲川と北越智をスタメンに入れたから、もうピッチャーの控えが居ない。それに、キャッチャーも葛本がまだ参加できないから戒外、ひとりや。」
「他のポジションの選手にも言えることやけど、ルール上、ほとんど交代は可能やけど、十分に体には気を付けて、思いっきり試合を乗り切ってほしい。」
全員と目を合わせながら縄手は言葉に思いを乗せる。
「最後に主将!一言。」
縄手は久米に前に出て来るように手で招く。
その光景を茶化す者はいない。
部員を前に、縄手と久米が並び立っている光景に木之本は微笑んだ。
駆け足で立ち帽子を取る。
「今年は合同チームでなく、大和まほろば高校野球部として、試合に参加できます。」
「ずっと頑張ってきてくれているみんなのおかげです。ここから新しい歴史が始まると感じています。明日は全員で勝利を取りに行きましょう!」
「みんなの力を下さい!」
「お願いします!」
頭を深く下げた。
「やるぞーーーーぉ!」誰かが叫ぶ。
続くように雄叫びが一斉に上がる。
「うぉーーー!」
「おおっしゃーーーー!」
「下剋上じゃーーぁ!!」
「野球部は血の気の多い奴多いなあ」と、縄手は笑いながら、ハイタッチを繰り返す選手たちを眺めていた。
蝉の大歓声をバックに、
大和まほろば高校野球部の
青春【BOYS】が
青夏【HEROES】に
変わる瞬間だった。
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