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トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル SEASON2~ はためく夏の狭間から  作者: 花田秀彦
第1話

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6/16

第1話ー⑥

 反射の少ない遮熱フィルムで施工された窓から、大阪市内の半永久的に躍動し続ける人間の流れを見下ろした社内キャフェテリア。

 真夏の荒れ狂う熱を遮った、空調と換気が行き届いた空間で、斎部はジャスミンの花が浮かぶティーポットを手に、カップに注いでいた。


 香りに溢れるカップを口に寄せ、カウンターに置いたノートパソコンの画面をスクロールさせ「ほぉー。」と感心したように眉を上げる。


 そこには縄手と久米のふたりが、肩がぶつかりそうな距離のまま、グラウンドを歩いている様子が映し出されていた。


「おいおい…こんなに話題になっとんねんから、お互い接近禁止とかになるやろ…」

「なんでわかってながらここをくっ付ける?」

「ワザと、としか思えんなぁ・・・・誰や?」


 指先をパッドに滑らせながら、画面を食い入るようにヒントを探すが、腕を組んでしまう姿勢に追い込まれてしまう。


「うーーーーん。」と唸り、椅子にもたれかかった斎部の背後から

「先輩も好きですねーーーーぇ」

 眼鏡を輝かせた小槻が顔を覗かせた。


 ギョッと慌てる斎部は腕を解き、トップカバーを勢いよく閉じた。

「お前と一緒にするんじゃない!」

 事情を探られたくない気まずさに、斎部は言葉を残し素早く立ちあがり背を向けた。


 初めて見せる、髪をなびかせ逃亡するかのように立ち去る後ろ姿を、小槻は微笑ましく見送りながら、「腐女子仲間ができちゃった!」とガッツポーズを小さく繰り返していた。



ーーーーーーーーーーーーー



 久米香織は、職場である【かしはら万葉ホール】の休憩所で、スマホの画面を驚愕の瞳で見つめていた。

 映し出された、連なる香月と縄手の仲睦まじい画像や動画の数々は、香織を底なしの不安と完全なる拒否感を増幅させていた。


「私がこの子を救わないと。誰も助けてくれない。私の子どもは、私が守る。」

 震える指先でスマホの画面を何度かフリックした後、覚悟を決めるように間を置き、タップした。



ーーーーーーーーーーーーー



 本日のカリキュラムの終わりを告げるチャイムがなり、それぞれの教室の扉が一斉に開いて、今日一番のざわめきが起こる。


 帰宅の途に就く生徒たちの波の中、少し早く終礼を終えた木之本が、久米を廊下で待っていた。


 近鉄八木駅前商店街にある、昭和で時が止まったメッキだらけのケバい喫茶店に、香月の母親から呼び出されたあの日は、『香月の側で、いつまでも力になってあげてほしい』という相談に、ただ頷くしかなかった。


 自分の軽はずみな言動が、一番大切にしたいはずの香月の命を、危険に晒す引き金となってしまったことへの、懺悔の気持ちが止まらなかったのだった。


 その後も香月の母親からの連絡は度々あり、食事や映画の招待、さらには旅行への誘いまでが届いていた。

 正直、悔しいけど、香月が縄手先生と一緒にいる時にだけにしか見せない、笑顔や空気感は大切にしてあげたいと思っていた。


 間違いなく、今でも香月のことは大好きで、可能であるなら体温を感じていたい願いはある。

 だけど、手中にできないからといって、そのもの自体を壊してしまおうとは、気持ちが全く動かなかった。

 香月の頬をひっぱたいた後に起きた、あの事故の時にそれを痛感していた。


 だから香月の母親が望む、縄手先生から自分に気持ちを振り向かせる筋書きに同調することはできなかった。


 好きな人には幸せになってもらいたい。いつまでも笑顔でいて欲しい。見つめていられるのならこの距離でいい。

 香月が望む未来へ、私の力が少しでも役に立てるなら・・・・・。



 木之本は野球部のマネージャーになったことで、久米が感じる、興奮・屈辱・歓喜を共にできる一番近い場所にいるんだという自覚から、祈るような思いでいた。



 手を軽く上げ「よぉ!」と挨拶をしながら、久米は終礼の終わった教室から姿を見せた。

「いよいよ明日、試合やね!」

 力を込めた視線を送った木之本に

「うん!やるで!」

 大きく頷き、右手でガッツポーズを作る。

 歩き始めた久米の背中で揺れるバッグに、二度と二人のマスコットは重なることはないが、以前のように素直な笑顔を向けてくれる喜びで、木之本は微笑み横に並んだ。


「野球、辞めなくてよかったね。」

 意地悪い目線に、苦笑いを返す久米。

「ホンマに。」

「北越智くんに感謝やね。」

「・・・・う、うん・・・・。せやな。」

 ベースボールキャップを外し、頭を掻く。



【新沢千塚古墳群公園】で北越智を乗せた車を見送ってから、あいつを見る目が全く変わってしまった。


 過激すぎる場面を目の当たりにしていても、自分と同じゲイなのか、という確信を持てないままでいる。

 だけど、自分の知らないことを沢山経験し、知っているはずだという直感は強固にあった。

 

 そして、あの自信。

 年下でありながら、野球にしても恋愛にしても、自分よりも遥か格上の存在。


「やっぱり、生意気やで。」

 ポロリ出た久米の言葉に木之本がクスクス笑う。


 何よりもイラついたのは、朝練の時に部室で着替える北越智の体を直視してしまい『その体であの後、一体何をしたんや』と色々妄想し、不覚にも下半身が反応してしまっていた自分にだった。




 我先に下校する生徒の波に押されるように昇降口を出て、グラウンドに向かう。

 校舎の一歩先は、別世界のように激しく真夏のステージを回転させる。

 周囲の森から響く蝉の歓喜の叫びは大気を揺るがし、鼓膜を奮い立たし、頂点を越えても、存在感を示し続ける太陽から降り注ぐ日差しは、視界を真っ直ぐに未来に向けさせた。


 大好きな夏なのに、暑さに愚痴をこぼしながら歩き始めた二人の先には、遠くに立ちはだかる入道雲を背景に、すでに忙しく動いているマネージャーの山本の姿があった。


 同時に正門から、真っ白な新品の野球ユニフォームに身を包んだ縄手が姿を見せた。


「山本さん手伝ってくるから、私、先行くね。」

 木之本は視界に入った状況に、チラッと久米に笑顔で振り向き走り出した。

「あ・・・・。」

 返す言葉も間に合わないまま、縄手がこちらに軽く手を上げる姿に久米の頬が緩んだ。

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