第1話ー③
なんとか参加できた練習の後に、反省文の提出と押し付けられた雑用で、日はとっぷりとくれてしまっていた。
久米は「疲れたーぁ」大きく溜息を吐きながら、遅い下校時間に校門を一人くぐり、坂道をトボトボと下っていた。
野球人生の終わりに、まさかのプレゼントを神様が送ってくれたことで、練習に力が入りすぎてしまった。
明日から大好きな人と同じグラウンドに立てる喜びに、胸のドキドキが止まらなかった。
確かに、終わりのミーティングで縄手先生の監督就任を伝えたが、喜んでいるのは自分一人で、木之本や山本を含むほとんど全員が不安そうな顔で、目配せをしていたのは否めない。
「監督を育てるって・・・どうやったら・・・」
「信頼関係よなぁー・・・そこわ」
試合までほんの数日しかない状況で、なにができるのか考えながら、つま先に体重を乗せ丘陵地の丘腹に差し掛かった。
???
「あれ?クソ生意気な北越智ちゃうか。」
ふと夕暮れ霞む【新沢千塚古墳群公園】駐車場に入り行く人影を、何げなく顔を向けた先に見つけた。
「何しとんやあいつ。」
歩調を落とさず通り過ぎようと足を進める。
突然、静寂を破るように、独特のエンジン音を響かせ、逆側の入り口から一台の車が滑り込んできた。
空きスペースだらけの駐車場にエンジンを切り停められたそのスポーツカーから、がっちりした体型の男性が姿を見せる。
近寄る北越智。
次の瞬間、久米は目を疑った。足が止まる。
北越智がためらいもなく、その男性に抱きつき、お互いを見つめ合いながら何かを話し、そのまま顔を近づけた。
久米は夕闇迫る公園で、男同士で抱き合いキスをする光景を目の当たりにしてしまった。
「えッ。えええええ??えーーーぇ⁉」
一瞬だった、すぐに離れた二人は休憩所近くの自販機へ、仲良さそうに言葉を交わしながら足を向ける。
思わず久米は、見つからないように近くの茂みに身を隠してしまった。
その先を見てみたい好奇心に、心臓が騒ぎ出す。
何度も北越智の相手が男性であることを確認する。
大学生だろうか、アメフトでもやってそうな体格に見えた。
それぞれのドリンクを手にした二人は車に乗り込む。
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夕闇迫る公園の街灯が、緩やかに駐車場を浮かび上がらせる。
寄って集る虫を手で払いのけながら、久米はいつまで経ってもエンジンのかからない車に、目を凝らしていた。
唾を飲み込む音が大きく鼓膜に響く。
双眼鏡がバックに入ってないか確認しようと、脳裏をよぎるが都合よく入っているわけがなく。
動きがない状況に、興味深々が足を動かした。
影が伸びないように暗がりを選びながら、北越智が乗り込んだ車のシートが見える木陰に回り込む。
幸運にも公園の芝生が足音を消してくれた。
・・・・・・・・・・
蠢く影が視界に入る。
ゴクリと喉を鳴らし唾を飲み込み、息を殺す。
「ガチかよ・・・・。」
街灯の僅かな光に時折映し出される姿は、お互いの顔を寄せ合い、激しくキスを繰り返し、二人の手のひらを互いのシャツの中で這いずり回らせ、体を貪り合っている姿だった。
至近距離で繰り広げられる愛撫の官能ショーに、久米は固まったままいつの間にか呼吸が荒くなり、自らの性器に血液の奔流をおこしていた。
痛いくらいに張り上げた股間に自然に手が伸びる。
もっと車の中を覗きたい高ぶりで、久米の顔は徐々に前へ出ていた。
不意に唇を離した北越智の頭が、隣に寄り添う男性の下半身であろう部分へ消えた。
男性は俯き視線を落とし、体を揺する。
「あッ・・やべぇー。」
若干予想はしていたが、半開きになった口元から驚きの声が漏れる。
性行為経験が一切ない久米にとって、その光景は興奮の絶頂を教えるだけではなく、強い憧れと、自分の未熟さを体に突き刺し、躍動する右手と興奮は、理性では制御できなくなっていた。
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大阪環状線のレール音が響く、高架下にあるフレンチレストランの壁際の席に縄手は座り、ビールグラスに口を付けていた。
店のドアが開き、高く澄んだチャイムが響く。
「いらっしゃいませ。」の声と共に、斎部がヒールを鳴らしながら縄手が座る席に近づいた。
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