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トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル SEASON2~ はためく夏の狭間から  作者: 花田秀彦
後編 第5話

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第5話ー③

 戒外興文【かいげ おきふみ】はベッドに横たわりスマホを見ながら、一日を思い返していた。

 別に久米先輩が心配だった訳じゃない。

 美味しい料理を振る舞いたかった訳じゃない。

 むしろ自業自得でいい気味だと、ほくそ笑んだ自分がいたのも知っている。

 自由に生きる姿に、嫌悪感が沸き上がってしまう。


 だけど・・・・

 ―――「戒外くん、さすがやな!ホンマに今日はMVPやで。」

 試合終了後、ベンチに戻る途中で腰に触れた久米先輩の手の感触と、見せる笑顔。


 ―――「めっちゃ美味い!」と目を広げ、一気にとろろ飯を頬張る久米先輩の姿。


 それだけで、今までの苛立ちが許せてしまう。


 戒外はスマホを持つ手を力なくベッドに落とした。

 画面には先程までの和気あいあいとした食事の動画が映しだされていた。


「くっそ!・・・なんやねん・・」

 寝返りを打ち、スマホに背を向ける。

「俺は静かに生きたいんじゃ・・・」

 どこを見つめる訳でもない表情でつぶやいてみる。


 戒外は口に出した言葉に、しっくりこない居心地悪さを感じてしまった。


 不完全な気持ちを振り切るように、勢いよくうつぶせになり枕に顔を埋める。


「俺は間違ってない。」

 胸の奥で声を上げる。


「間違っているわけない!」

「俺は絶対正しい!」

「俺は完璧なはずや!」

 繰り返す叫びに、思いっきり声を上げたい衝動が動き出す。

「うおぉ・・・・・」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーん!!」

 突然一階から子どもの泣き声が響いた。

 更に姉貴の叫び声が続く。

 その声を遮るように父親の怒鳴り声が家を揺らした。


 戒外は枕から顔を上げ、現実に引き戻されるように立ち上がった。

「また喧嘩か・・・。」


 ドタドタと足音を鳴らし、一気に階段を駆け上がってくる音が鳴り、向かいの部屋のドアが力任せに閉まった。


 戒外は部屋のノブに手を置き聞き耳をたてていた。

 普段の喧嘩より激しさを感じる。

 再びドアが開き、階段をかけ下りる激しさに家が揺れ、子どもの泣き声と共に姉貴が家を飛び出す音が響いた。



「あんないい方せんでもよかったんちゃうん?」

 階段を音をたてずに降りてきた戒外の耳に両親の声が届く。

「せやけど、東京から帰って来てから、ろくに仕事もせんと、携帯ばっかり触っとるんはアカンやろ。」

「俺らかって、今苦しいんや。今月の支払いも正直キツイ。」

「あいつもわかっとんねんやったら、ちょっとでも働いて、家にいれてもらわなあかん。」

「なにがSNSの使い方が悪いんやって、偉そうに。」

 父の興奮が治まらない様子が、戒外には見なくてもわかっていた。


「それに興文もまだ高校生やで。野球も続けさしてやりたいし、高校は絶対に出してやらんとあかんやんけ。」

 缶ビールをテーブルに置く音が聞こえる。


「わたし、昼の仕事増やすわ。まだなんとか頑張れるし。」

「店はわたしらの夢やったしね。」

「家も店も、守らんとあかんわ。」

 母の言葉に父の大きなため息が聞こえてくる。


 自分の名前が出ていることに、戒外は胸が一気に押しつぶされる。


「自分から東京に行くゆーて、出ていったのに。ホンマあいつは何考えとんねん。」

「持って帰ってきたんは、顔も名前も全くわからんヤツの子どもやで。」

 激高する父の愚痴はエスカレートしていく。

「あいつのやりたかったことって、これか!美容学校も途中でやめやがって!」


「あんた、ちょっと鬼みたいな顔になってるわ。」

「明日もあるし、早よ寝よ。」

 父をなだめるように、母の声が低く聞こえた。


 大きな舌打ちと共に、椅子から立ち上がる音が響く。

 それを合図に戒外はゆっくり体を戻しながら、階段をのぼった。



 ―――――――――――――


 ―――同じ頃、

 久米香月はコーヒーで汚してしまった北越智のシャツを手に、洗濯機の前で固まっていた。

 蓋を開けたそこに、東京で置き忘れてきた見覚えのある衣類が脱水されたまま、洗濯槽の縁にへばりついていた。


 ―――――――――――――――



 開いた自動ドアの向こうから、ダークグレーのペリーコがすっとのぞく。

 チャコールグレーの直線的なスーツに身を包んだ斎部優耳【いんべ ゆさと】が、静かな気配とともに姿を現した。


 歩き出した瞬間、フロアにわずかな緊張が走った。

 背面式デスクの列を抜けるたび、照明が斎部のチャコールのスーツに柔らかな陰を刻む。


 ラウンジの奥、ガラス壁に囲まれた専用室。

 斎部は一瞬だけ歩みを止め、静かに指先でセンサーに触れると、扉が滑らかに開いた。


 扉が現世と境界を作るように閉じると、外のざわめきがすっと消えた。


 斎部はガラス越しに、見慣れた大阪の街並みに一度だけ視線を投げた後、そのまま迷いのない足取りでデスクへ向かった。


 椅子を音もなく引き、滑らかに腰を下ろす。

 厚めの封筒をデスクに置き、パソコンの天板を静かに持ち上げた。


 青白い画面が立ち上がると、その光が斎部の横顔を淡く照らし、室内に再び緊張が満ちていった。


 悩みを抱えたように、斎部は短く息を吐いた。

 同時にドアのロックが解除され「失礼します」と雲梯曽我【うなて そうが】が黒ファイルを手に姿を現した。


「早朝の件の調査資料です。」

 ファイルを受けとった斎部は「ありがとう」と言い、雲梯を退出させた。


 ドアが施錠されたことを確認した斎部はファイルを開けた。

 そして暫くページをめくったあと、大きく溜息をつきパタンと音をたててファイルを閉じた。


「ホンマにこの僕ちゃんは、どこまで入り込んでくるんや。」

 斎部は前髪をかき上げ、椅子の背もたれに全体重を預けるように天井を見上げた。

 その時、デスクの上でスマホが震えメッセージが届く。


「学校都合で、しばらく橿原の自分の部屋にいるから、さみしいけど。」

 と手に取る画面に表示される縄手からの連絡に

「でしょうね。」と呟き、

 斎部は「わかった。気を付けて。」と打ちかけ

「気を付けて」を消去し、「わかった。」とだけ送信した。



 ―――――――――――――――



 昼食を食べ終えた久米香月は、コーヒーを飲もうと体育館脇の自販機に向かっていた。


 朝飯も弁当も自分で作った。

 時間をかけたわりにはおいしくない。

 自分で作っただけに、文句ひとつ言えない歯痒さに、母親のありがたさを感じてしまう。


 校舎から一歩外へ出ると、真夏の熱気が一気に襲い掛かる。

 いくら日差しを避けていても、照り返しが強い自販機横のベンチには、人影はほとんどおらず、ドリンクを手に取った者たちは逃げるように校舎の中へ戻って行った。


 全てを焼き尽くす勢いの日差しに、少しでも日陰を探し歩く。


 缶コーヒーのボタンを押しながら、ふとベンチに目を移す。

 そこに何を飲むでもなく座る戒外興文の姿があった。

 もう一度スマホを自販機にかざす。


「よかったら飲む?」

 ゆっくり近付いた久米は、戒外の斜め後ろからヨーグルトドリンクを差し出した。


 ビクッとこちらを向いた戒外は、久米の姿に少し驚きながら

「あ、ありがとうございます。」

 と小さく頭を下げ受け取った。


「昨日の飯、めっちゃ美味かった!」

「ホンマ、ありがとう。」

 缶コーヒーのプルタブを上げながら、久米は満面の笑顔を見せ座った。


「いえ、そんなに料理が得意って訳やないんっすけど・・・」

 久米の笑顔を一瞥しながら、戒外はベンチから見えるグラウンドに視線を向けた。


「いや、ガチで美味かった!」

「また作ってよ。俺、料理下手やしさ。」

 口に含んだコーヒーを飲み込みながら、久米は戒外へ身を乗り出した。


「まあ、はい・・・。」

 ペットボトルのキャップを緩め、視線を変えずに頷き口を付けた。


 視界の隅に微かに映る、久米の姿。

 戒外はヨーグルトドリンクを飲みながら目だけを動かし、その位置を確認した。


 試合が終わり声をかけてもらってから、久米との距離をなぜか近くに感じてしまう。


「よっしゃ!」と喜ぶ久米のテンションに合わせたくない気持ちが膨らみ、戒外は目を閉じた。


 遠くの蝉しぐれが、南風をゆっくり運ぶ。

 夏空の鮮やかな青色の中、山脈越しに入道雲が立ち上っていた。


 さらに一口飲んだ戒外は

「それより、先輩、大丈夫なんですか?お母さん」

 久米の気持ちを折るように、顔を向けて呟いた。


 案の定、久米は俯き座りなおした。

「あ・・ちょっと疲れてたみたいや。すぐ回復するって医者もゆーてる・・」

 手のひらで挟んだ缶コーヒーをクルクル回す。

「まあ・・・俺がオカンの負担になるようなこと、しまくってしまったってのはある。」

「たぶん、原因は俺や・・・。」

 久米は力なく言いながら、グラウンドに視線を向け溜息をついた。


『そうや。あなたは色んな人のストレスの根源になってる。わかっとるんか。』

 そう心の奥の奥で言い放った戒外は、胸が苦しくなり久米と同じように溜息をついてしまった。


 山脈越しの入道雲は更に沸き上がり、遠くの空を黒く塗りつぶし始めていた。

 グラウンドを駆け抜けた風が雨の匂いを運び、髪を揺らす。


「てか、暑いっすわ。」

 戒外は気持ちを隠すように不意に立ち上がった。

「一雨来そうやけどな。」

 久米は姿勢を変えずに戒外を見上げた。


「そうですね・・・・ドリンクありがとうございました。」

 遠くの空へ視線を上げた戒外は久米に頭を下げ、校舎へ向かった。


 戒外の後姿が校舎に消えるまで、久米はただ黙って見送った。


 そして、

「・・・・・・なんか変や・・・」

 小さく呟き、久米はコーヒーを一気に飲み干し立ち上がった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズとして連載しています。


★感想・評価・ブックマークをいただけると、とても励みになります。


また、本作の世界観をもとにしたAIドラマ(YouTube【公式トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル】チャンネル)や、イメージソング(Spotify、Apple、YouTube、Amazon、iTunesなどアーティスト名【HIDEHIKO HANADA】)も配信しています。

ご興味のある方は、タイトル名や作者名で検索してみてください。


それでは、次回もお楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
小説最新話、ありがとうございます。香月の心を揺るがすキーパーソン?に、北越智くん・曲川くんに続いて、戒外くんまで出て来ましたか。あと最後に雲行きが変わりそうになるところて、それぞれの家族の心の雲行きま…
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