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トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル SEASON2~ はためく夏の狭間から  作者: 花田秀彦
前編 第4話

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第4話ー①

「ごめんなさい・・・」

「ごめんなさい・・・」


 なぜ、その言葉ばかりが溢れてくるのか。

 なぜ、こんなにも泣けてくるのか。

 なぜ、自分は今ここに立っているのか。


 自転車から降りた曲川勾太は、夕闇に沈む路地に立っていた。

 葛城山をかすめる南風が、虫たちの声を運び、灯篭の灯が静かに揺らしている。


 まるでこの世とあの世の境界線に佇んでいるようだった。


 閉ざされた嗛間神社【ほほまじんじゃ】の前で、ただただ曲川は意味もわからず込み上げる悔しさと、時間の無情さに涙をこぼしていた。


 ―――そっと木の扉に手を当ててみる。


 何かを期待していたわけではないけど、何か答えてくれるんじゃないかと胸の奥で理解不能な感情がそうさせた。


 うな垂れた曲川は、そんな自分に大きく息を吐きながら涙を拭った。



「・・・曲川先輩。」

 その時突然、近くで声がした。


 慌てて扉から手を離した曲川は、声の方にふり向いた。


 そこにはこちらを悲しそうに見つめる北越智峯丸と宇治頼径の姿があった。



「え?あ・・・きたおっちゃん・・・」

 涙で声が震える曲川が、平静を装うように手をズボンで払い、石段を下りた。


「いや・・あの、別に、ここ何なんやろな思て、ちょっと覗いとっただけや・・・」

「ほら。なんか肝試しには丁度良さそうな場所やんか。」

 まだ乾かない涙の跡がバレないように、距離を開けたまま言葉を繋ぐ。


「ホンマにここ、なんかおんな。めっちゃ霊的なモンかんじるわ。」

「ガチヤバそうやから、早よ退散しよー。」

 何も言わずこちらを見つめる北越智にお道化るように、曲川は大袈裟なジェスチャーを繰り返す。


「となりのお兄さんも、ここは来ん方がええですよ。」

「・・・・って、どちらさん?」

 宇治に手を差し出した曲川に、北越智が一歩近づいた。

 普段とまったく違う気配の北越智に、ビクついた曲川は反射的に体を反らした。


「先輩。少し話あります。」

「時間、いいですか?」

 初めて見せる北越智の視線に曲川はただ頷くしかなかった。



 ―――――――――――――



 一定の距離に立つ街灯の光のカーテンをくぐりながら、久米香月はひとりで坂道を下っていた。


 街灯を過ぎる度に足元をクルクル回るひとつの影は、久米を心細くさせていた。


 学校に戻りミーティングを終えた後、今日の勝利を祝いながら、縄手先生と一緒に帰ろうと思っていた。けど、届いたLINEには『生徒会から緊急の要件があり』の返信だった。


 残念な気持ちに小さく溜息をつきながら、それでも久米は

「いや、縄手先生が顧問になってすぐに勝てたから。先生は勝利の女神??女神ちゃうなぁ。神様やな。」

 頬を緩ませ、ひとりごとをつぶやきトボトボと歩いていた。


 突然、背後からヘッドライトが闇を裂く。


 昨日のこともあり、久米は慌てて身を翻した。

「まさか、昨日のおっさんか???」

 近づく車に厳戒態勢をとったまま、凝視する。


 その車はゆっくりと近づき、久米を追い抜いて行った。


 過ぎる赤いテールランプに安堵のため息がでる。

「ホンマ、びっくりするで・・。」

 つぶやき、再び歩き出した久米のその先で、車のテールランプは真っ赤に染まり、停まった。


 正にギョッとした久米の歩き出そうとした足が止まる。


 その車は道路脇でハザードを出した。

 そしてひらくドアの音が、久米の鼓膜を突き破った。


「やばっ!」

 身を翻し学校へ戻ろうとした久米だが、体が固まり動かない。


 金縛りにあったような状態に

『え??なんで??』

 冷汗が一気に体を濡らす。


 街灯に照らし出された人の影が、ゆっくりと近づいてくる。


『なんでや・・・・体が・・動かん・・・』

 助けを呼ぼうにも声が出せない。


 久米の動揺に満ち溢れた中、その人は恐怖におののく久米の前に立った。


「申し訳ない。驚かせてしまったね。」

 紳士的なその人は昨夜の人と全く違う人物だった。


 逃げることも抵抗することもできず、顔をこわばらせる久米に

「先ほど、学校の方で君の話をさせてもらっていてね。」

「偶然、その帰りに君を見かけたから、挨拶をと思っていんだけど、こんな夜道じゃ、ビックリするよね。」

 そう言いながら胸ポケットから名刺を取り出した。


「私、葛城大学で考古学や民俗学を研究している賀茂小角【かも おずぬ】というものです。」

 目の前に差し出された名刺に視線だけが動く。


「私たちは、君には少し興味がありましてね。ぜひ、我々の大学に来ていただきたく思っております。」

「その話を、先ほど進路担当の先生とお話させていただいておりましたよ。」

 口が半開きのまま浅い呼吸を繰り返す久米に、その紳士は少し頭を下げる。


「ぜひ、保護者の方ともご相談してください。」

「大学生活もお好きな野球も続けられる支援もありますよ。」

 そう言った紳士は、怯える表情のまま動けない久米の手に名刺を差し込んだ。


「初対面がこんな形になってしまい、申し訳なかった。」

「あまり不審に思われるといけないから、また後日学校の先生を交えながら詳しくお伝えします。」

「では、失礼します。」

 その紳士は一礼して、背を向けた。


 あまりにも唐突すぎて、理解が追いつかない久米は動けないまま、その背中を見送っていた。


「君が見つける光は、我々に未来を教えてくれるかもしれません。」

 不意に振り返った紳士はそう言い、笑顔を久米に向けた後車に乗り込んだ。


 テールランプが赤く光り、ハザードが消えた車は走り出した。


 見送る車が右へカーブを曲がった瞬間、一気に固まっていた体の力が抜けた。


「・・・・え?・・・・なんや??どーゆうことや・・・」

 金縛りが解けたような久米は、不思議顔で自分の体を確認するように触り、肩や腰を大きく動かしてみる。

 特に変わったところはなさそうだ。


 静けさが戻り、再び虫の声が響く街灯だけの明かりになった道路で、手に持たされた名刺に久米は顔を向けた。


「・・・なんで俺のこと、わかったんや。」

「そんなに顔バレしてるんか・・・SNS怖っ・・・」

 名刺を裏返しながら、ため息が漏れる。


 次第にのぞかせる安心感に冷静さを取り戻せた久米は

「葛城大学・・・・・国立やんか・・・・」

 自分の偏差値では到底合格できない大学名に驚きが隠せなかった。

 それと同時に、家を出てひとりで暮らしたい思いに道筋ができた気持ちになり、

 縄手先生との未来もぼんやりと描き出していた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズとして連載しています。


★感想・評価・ブックマークをいただけると、とても励みになります。


また、本作の世界観をもとにしたAIドラマやイメージソングも制作しています。

ご興味のある方は、タイトル名や作者名で検索してみてください。


それでは、次回もお楽しみいただければ幸いです。

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