第2話ー⑤
北越智峯丸を乗せたバイクは、一町東交差点を左に曲がる。
曾我川と平行に走り始めた宇治頼径に
「あっちや!」
対岸を指さした。
右折して橋を渡り、右手に閑散とした住宅が並ぶ脇道を進む。
小高い丘を過ぎ、小さな橋を越えた交差点の一時停止でバイクを止めた宇治は、
「この奥やな。」
北越智に振り返った。
フルフェイスヘルメットのバイザーを上げた北越智は、ステップに立ち上がり、前方に目を凝らした。
「行こか!」
用水路を左に、ゆっくり進む。
バイクのエンジン音だけが、存在感を際立たせ、住宅が密集する地区に侵入した。
外灯に照らされたT字路。
カーブミラーの付いた電信柱の元、バイクのヘッドライトに浮かび上がったのは、横たわった自転車だった。
近づきエンジンを切った宇治の背中に手を置き、北越智は飛び降りた。
ヘルメットを外し、注意深く転がる自転車と辺りを見渡す。
用水路を左右に覗き込む。
虫の声もなく、静まり返った空間に、県道から届く地響きに似たトラックのうなりが反射する。
宇治はスタンドを出し、ゆっくりT字路の西側に顔を向けた。
「おらん。もうどっか行きよった。」
両手を上げつぶやき近づく北越智に、細く伸びる路地の先を目で合図した。
お互い鋭く視線を合わせ、頷いた二人は奥へ歩き出した。
由々しき生温かな風が漂う路地は、ひっそりと沈み、人々の生活の営みは感じられるものの、深海にいるような孤独で満ちていた。
数十メートルほど進んだ宇治は、隠されるように高いブロック塀で囲まれ、視界が遮られて中がうかがい知れない境界線で立ち止まった。
ふたりはゆっくりとそちらに顔を向ける。
そこには、夜陰に沈む石灯篭を両端に、小さな瓦屋根の固く閉じられた木製の門がひっそりとたたずんでいた。
「ここや・・・。」
宇治が声を殺してつぶやいた。
観音開きの扉を封印するように、突支棒が差し込まれている。
「なんでいきなり・・・封印が解けたんや・・・・。」
扉の奥を見つめ、北越智はつぶやいた。
「・・・・いや封印は解けてない、ここの祭神じゃないけど・・。」
宇治の瞳の形が変わり、僅かに金色に発光する。
「そうゆうことかぁ・・・」
「なんかわかったん?」
「実はこの方の・・・」
静かに頷き、黒く戻った瞳で北越智に向き直った。
「・・・・子どもの【手研耳命】(たぎしみみのみこと)のほうやな・・・。」
「母親はまだこの場所に眠ってる。健気なお方やで、ホンマに。」
宇治頼径は大きく息を吐く。
「じゃあ一柱だけ解けたってこと?・・・・」
北越智峯丸の言葉に頷く。
「ホンマに封印とかやなくて、成仏させてあげて、転生させてあげやな。」
「だから、いっつもこんなややこしいことになるんやんか・・・・。」
腕を組んで北越智も大きく溜息をつく。
「昔の人は、なんでもかんでもすぐ封印したがるからなぁ。」
「どうする?」
と宇治に視線を向けた。
「うーん。」と唸り考えるも
「しばらくは誰かの体に入ったままやろなぁー。見つけにくいで・・・。」
「悪さはせんやろうけど。」
困ったようにこめかみをポリポリ掻く宇治。
「誰に入ったかは、わかる。」
「あの自転車、野球部の曲川先輩のやったし、先輩の姿がないってことは、中に入っとるんちゃうか。」
北越智はT字路の街灯に浮かび上がる自転車に視線を移した。
「え?そうなん!」
驚いた眼で宇治もそちらを見る。
「峯くんとこの学校、ホンマになんかあるんちゃうか?集まり過ぎやで。」
「他に誰かおるん?」
北越智は少し驚いた顔になる。
「俺らもそうやけど、なんとなくやけど・・・そんな気配するで。」
「はぁーーーっ」と組んだ腕を解き、またため息をついた宇治は、
「まあ、峯くんがそばにおったら、なんとかできるでしょー。」
北越智の両肩をもんだ。
「ええええっ!めんどくさいーー。」
白目で顔を向ける。
「とはいえ、油断はでけへんけど・・・」
「俺もできる限り近くにおるで。」
宇治はそのまま北越智を抱きしめようとした。
瞬間、閉ざされた扉の向こう側を、唸り声のような突風が叩く。
「うわ!」
驚き、ふたりは後ずさりをする。
・・・・・・・・・・
「・・いちゃいちゃすんな、って。怒られた。」
「こわっ!」
罰悪そうな表情で、ふたりは神社に手を合わせた。
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・
「行こか。前みたいに邪神が放たれたんかと思って、めっちゃ焦ったわぁ。」
「よっしゃ!気分切り替えて、明日は試合や!」
北越智は歩き出しながら、大きく欠伸をして腕を天に伸ばす。
「じゃあ、家まで送るわぁ」
「え、よっちゃん今日は泊まってや。」
「え?ご両親おるやん。」
「親、両方とも発掘調査で出雲行っとる。」
「へーぇ。また出雲とは色々繋がるなあ。わかった。」
「よっしゃ決定や!風呂入って、飯食って、エッチして、寝よ!」
「オッケイ!。で、この自転車どうすんねん。」
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「・・・・どーしよ。」
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