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死んでも盗み続ける俺たち  作者: 名無之権兵衛


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第9話

 俺と文人は顔を見合わせた。


 なにも言わずに店の反対側へ走り出す。


 反対側には二人の男が立っていた。




 電気屋の店主と————寺坂毅。




 寺坂は右手にパイプを持ち肩を上下させている。彼の前にはぐったりと倒れる増倉さんが。


 電気屋の手にある消防斧の刃先からは血が滴っていた。


 彼の前には首と胴が離れたちほさんが————


 俺は悲鳴をあげながら拳を前に出した。


 生まれて初めての正拳突きは中年男性の顔面にヒットし、男は斧を手放した。


 勢いそのまま馬乗りになる。抵抗できないように両手首を地面に押さえつける。


 後ろで気配がする。


 ————寺坂だ。


 どこかの家の雨どいを壊してきたのか、縦どいほどの太さのパイプを今にも振り下ろそうとしている。


(まずい!)


 そのとき、彼の首に誰かの腕が巻かれた。


 寺坂は苦しそうにうめく。


 増倉さんだ。頭から血を流しながらも、パーカー越しでもわかるくらい腕をパンパンにさせて寺坂の首を締め上げている。


「文人………はしれ!」増倉さんの搾り上げるような声。


 文人はなにも言わずに走り出すと、店の裏口へと消えていった。


 やった!


 と思ったの束の間。


 下にいた電気屋が俺の手を振り解く。


 拳が鼻面に当たる。


 続けざまに顎、頬、瞼。慣れない痛みに脳がグツグツと煮え出す。


 ——負けるものか!


 再び両手首を掴む。男はすごい力で押し返してくる。全体重をかけると、ぐぐぐっと押し下げていく。


 いける……いけるぞ!


 予定通りではないけど、制圧できている。あとは文人が鍵を開けてくれれば————


「ここだ! オレはここにいるぞ!」


 寺坂の声が暗黒に響く。


 わずかにさし込む街灯に照らされた彼の顔は真っ赤で、鼻から血が垂れている。それでも唾を飛ばし、あらん限りの声を上げる。


「ここだ! ここにいるぞ!」


 今すぐ彼の口を塞ぎたい。けど、少しでも手を緩めれば首根っこを掴まれそうだ。相手がどんな顔をしてるかは暗くてわからないけど、フーッフーッと殺意むき出しの吐息だけは殴られてジンジンと痛む鼻っ面で感じることができる。


 サイレンと赤色灯が近づいてきた。店の前でブレーキ音が数回。薄暗かった路地に車のヘッドライトが差し込んで、一気に昼間になる。


 ドアが開いて閉まる音がして、数人の足音がこちらに向かってくる。


 勝利を確信したように寺坂が笑い声を上げた。前照灯に浮かび上がる彼の影は、さながら少女から美貌を奪った悪魔のようだった。


 3人の警察官が現れる。彼らは俺たちのことを見るとなにも言わずに腰のホルスターに手を伸ばし、リボルバー式拳銃を取り出す。


 ————くそッ


 パァンと乾いた音がして右頬をなにかがかする。


 奇跡だ。当たらなかった!


 でも、神は2度も微笑まない。


 3回の発砲音————右胸と肩と左脇腹に穴が開く。


 意識が遠くなる。倒れそうになる。


 …………いや、まだだ!


 倒れるようにして店主を押さえつけようとする。


 溢れ出す血がパーカーから滲み出て、店主のタンクトップに赤黒い斑点をつける。胃が収縮して血痰が口を満たす。


 体の末端から感覚がなくなっていく。まるでゴルゴーンによって石化されてしまったみたいに。


 もう、抵抗できる力は残っていない。


 下敷きになっていた男は俺を地面に放り投げた。頭が地面と激突するが、もはや痛みは感じない。


 かろうじて呼吸することしかできない。


 静止した視界には、立ち上がった男が斧を拾う姿。


 そのまま目の前まで来て——————




   * * *




「テメェ、なにしたかわかってんのか!?」


 増倉さんの激昂と何かを壁に叩きつける音で目が覚めた。まるで授業中に居眠りしていたところを先生に指摘された時みたいに勢いよく起き上がる。


 上体を起こすと、増倉さんが寺坂の胸ぐらを掴んで壁に押し付けていた。


「なにしたかって?」寺坂は得意げな笑みを浮かべていた。

「邪魔してやったんだよ。どうせみんな死ぬんだ! 死ぬってのに女とヤらせてもくれねェ。だったら、少しでも早くこのくだらねぇゲームを終わらせてやるよ!」


「ふざけやがって……」


 増倉さんは拳を固く握りしめる。


「オレを殺すか? いいぜ、()れよ。だがな、夜になればオレは蘇る。何度だって邪魔してやるよ! 何度でもなぁ!」


 唾を飲み込んだ。そんなことされたら……


 ふと、シャツの袖を誰かが引っ張った。文人が背中に隠れる形で座っている。心なしか、肩が震えていた。


 その後ろにちほさん。シンクのところに骨川が突っ立っていた。顔は蒼白で、目をそらしている。


 増倉さんが静寂を破った。


「そんなに死にてぇなら望み通り殺してやるよ。————だがな、楽に死ねると思うなよ」


 増倉さんが寺坂の胸ぐらを掴んでいる方の腕——右腕の袖をまくった。


 全員がギョッとした。

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