第8話
目を開けると白色灯の強い光が眼球を焼いた。直射で入ってくるまばゆい光に再び瞼を閉じる。
頭が痛い。
中学の頃、おじさんの誘いに乗ってビールを一杯飲んだあとと似たような感じがする。 よろめきながら立ち上がった。目が光に慣れてきて瞼を開くといつもの面々がいた。
増倉さん、ちほさん、文人、骨川、そして————
「随分とお楽しみだったみてぇじゃねえか」
寺坂毅が鋭い目つきで睨んでいた。
ざわっと心の中で久しく抱いていなかった感情が湧き上がる。中学生の頃、キネマ旬報を教室で読んでいたとき、後ろの方から
『あいつ、なんか雑誌持ってきてるぜ。キモッ』と言われた。そのときの感情。
怒り。
「どっかの誰かさんのせいでこうなったんだろ」
「テメェ、なにが言いテェ」
寺坂が迫ってくる。眉間に皺を寄せ、拳は握りしめられている。
「そこまでにしよう」増倉さんが寺坂の肩に手をかける。
「ちほさん、さっきはすみませんでした。こいつも反省してますし、若気のいたりってことで許してください」
増倉さんが頭を下げる。ちほさんも「大丈夫ですから」と大人な対応をみせた。
その間、寺坂はずっとこちらを睨みつけていた。俺も負けじと睨み返す。目を逸らしたら負けな気がした。
「よし、いくぞ」
増倉さんを先頭に出口の前に立つ。彼が壁面にある赤いボタンを押すとビープ音がして扉が開いた。
外は真っ暗な広葉樹の雑木林だった。傾斜が急な斜面に立っており、出口から目視できる位置に舗装された道路がある。道路は片方がトンネル、もう片方が住宅街につながっていた。
トンネルには「立ち入り禁止」という立て看板があり、電灯もついておらず、暗闇の先を窺い知ることはできない。〝掲示板〟には「この先に進んでもなにもなく、1日を無駄にするだけ」と書かれていた。
反対の住宅街に俺たちが目指す電気屋がある。この道路——メインストリートをまっすぐ行った突き当たり。それまでに6の民家と2つの店舗を通る。
「おい寺坂、骨川。こっちだぞ」増倉さんがいう。
トレーラを出てすぐに寺坂と骨川はメインストリートに出ることなく、獣道を歩き出した。
「おい、二人とも!」
小声で呼びかけるが、無視してずんずん先に進んでしまう。
「どうしますか?」尋ねると、
「いったん、そっとしておこう。二人とも気まずいんだと思う」
増倉さんは眉をひそめた。
俺たちは黙ってメインストリートを進んだ。道路の双方には木造の家屋が立ち並んでいる。真っ暗な家もあれば、明かりがついている家もあり、そういう家からはテレビの音が聞こえてくる。「8時だよ全員集合」のドリフターズの歌や「水曜日のダウンタウン」の松本人志の笑い声。それらがワントーン下がって不気味に漏れ出てくる。
歩くこと5分。「Panosonic」の看板がかかった平屋が見えた。郊外にあるコンビニくらいの大きさで、ガラス張りの店内には掃除機やエアコン、テレビが並んでいる。
その中に、ひときわ怪しいブルーの光を放つ筐体があった。高さは膝丈くらい。幅は20センチもないだろうか。側方にある一番大きな面はガラス製になっていて、マザーボードやグラフィックボードが不気味な青色の光に照らされていた。
一眼見てわかる。
あれが、目標のゲーミングPCだ。
店内からはちょうど一人の男性が出てきたところだった。中肉中背で白のタンクトップに赤の半ズボン、広島カープのロゴがあしらわれた帽子をかぶっている。
そして右手に消防斧。昨日の感覚——一瞬の激痛ののちに回転する視界、ごとりと地面に衝突する感覚——が蘇る。
増倉さんが黙って男を指さす。そして俺、文人、ちほさんの順に見た。あいつが電気屋の店主だと目で伝えている。
俺たちは黙って頷いた。
このあと男は建物の裏口に回り、そこの鍵も閉める。その前に注意を引いて、店主が裏口から離れてる隙に侵入→金庫の解錠→PCの窃盗を行わなければならない。
理論値では一人でもできるらしいが、実質不可能に近い。二人でやるのが基本だ。これを今夜は確実に執り行うために六人……いや、四人で行う。
店主は入り口の施錠が終わると右回りで店の裏門に回った。増倉さんとちほさんが彼の後をつけるように右へ、俺と文人が左に回った。本当は右組に寺坂や骨川もいるはずだったが、いないのなら仕方ない。
建物の側方から顔を出す。店主はちょうど裏口の前に立って施錠しようとしてるところだった。
ここで増倉さん側から石を投げたり壁を叩くなどして店主の気を引く算段————
のはずだった。
反対側から聞こえてきたのは、
鈍い音と増倉さんのうめき声。
店主がすぐさま大股で歩いていく。右手に斧を持って。
彼が見えなくなったところで
なにかが切れる音と、液体が噴き出す音が聞こえた。




