第3話
増倉さんが指さしたのはコンテナトレーラの中だった。エリアの中央に陣取るコンテナの中には、背丈の半分ほどの大きさのコルクボードが壁にかけられていて、ボードを埋めるように取り付けられた地図の上に、「ここには誰がいる」「ここのものは済」といった付箋が貼られていた。
床にはまだ「納品ボックス」に入れていない腕時計やキーホルダー、粘着テープなどの小物が散乱している。
その床に二人の青年が座っていた。
寺坂毅。鼻が丸くて大柄で、髪をスポーツ刈りにしている彼は、黒パーカーのチャックを全部あけ、あぐらをかいている。仏頂面で頬杖をつき、見るからに不機嫌そうだ。
骨川ラファウは痩せ型で、青い瞳に高い鼻、金髪を七三に分けていた。ワイシャツを第一ボタン以外すべてとめて体育座りしている。表情は沈んでいるものの、不機嫌というよりは不満を持っていると表現した方が正しい。
「あの様子じゃダメだったみたいだな」増倉さんがいう。
「仕方ないさ。〝前〟と比べて住民の警戒度が明らかに高くなってるんだもん。あいつらも早くわかってほしんだけどな〜」
文人がこちらにやってきた。この子は俺よりも3つ歳が離れてるはずなのに大人びたことをいう。
「ひとまず飯を食おう」増倉さんが言った。
「そのあとに作戦会議だ」
* * *
「改めて現状整理から行う」
昼飯を食べ終えると、俺たちはトタン壁の一角に集まった。そこには〝先人たち〟が残した〝攻略情報〟でびっしりと埋め尽くされている。「攻略掲示板」と俺たちは呼んでいる。
掲示板の前に立つのは増倉さんだ。チームの中で最年長の彼が自然と指揮をとっている。
「俺たちは11日前にこの施設に拉致された。寝て起きたらここにいたり、視界が急に真っ暗になったりと拐われ方は様々だが、『ここがどこなのか』いまだはっきりしない。掲示板には『NASAの新技術の実験』とか『ゲームの世界に転生した』とか考察されているが、はっきりしたことは————」
「なあ、そこから振り返らないといけねえのか?」
一番後ろであぐらをかく寺坂が気だるそうに言った。吉祥寺の高校に通っているというが、学校と揉め事を起こしたことがあるらしい。本人は詳しく話したがらないが、いわゆる不良というやつだ。
「少しでも攻略の糸口を掴むためだ。認識を合わせておくのも大事なことだぞ、寺坂」
増倉さんの言葉に寺坂は舌打ちすると黙り込んだ。
「理由はどうあれ、俺たちは毎晩0時になるとあのトレーラーに乗せられてどこかへ連れて行かれる。そして、そこで盗んだものを合計して、あらかじめ設定されたノルマを達成したら次のステージになる。そして俺たちはいま、2つ目の南千住町にいる」
増倉さんが指し示した場所には全部で5つのステージが書かれている。一番下に軽井沢村と書かれており、一番上は府中特別軍事研究所とあった。
「それを書いた〝先人たち〟ってのも変な話だよね」
文人が口を開いた。都内の中学校に通っていたが今は行っていない(本人は「能動的不登校」と言っていた)。幼い頃に両親が蒸発し、今は祖父と二人暮らしなのだという。
「本当にぼくたちより前にいた人たちなのかな? こんなわかりやすい情報を残してたら〝運営〟に消されそうな気もするけど」
「たしかにそうね……」ちほさんも同調する。
「それについてはなんとも言えないな」増倉さんは眉をひそめた。
「少なくとも、ここに書かれている内容がこれまで全て本当だったから信じるしかない」
「もしかすると、あえて残して楽しんでるのかも……」
思わず呟くと、全員がこっちを見た。
ちほさんも少し驚いた顔で見ている。
「いえ、なんでもないです」
俺はとっさに顔を逸らして、ヤード内で拾ってきた二つの金具をいじり始めた。一つは鍵穴みたいな穴が開いていて、もう一つは湾曲した体が特徴的だ。この二つを知恵の輪の逆バージョンみたいに嵌めようとしてみる。
「話を戻そう」増倉さんが言った。
「この〝掲示板〟によると、俺たちがいる南千住町には全部で10の建物がある。どれも一軒家で、住宅が7つと店舗が3つ。この中から俺たちは1週間以内に合計100万の金品を盗まないといけない。ノルマを達成しないと、本当に殺されてしまう」
俺は唇を歪めた。手元の逆知恵の輪は、あと少しで鍵穴に入るところで滑ってしまう。
「5日経った現時点で集められた金額は44万。はっきり言って、あまりいい進捗とは言えない」
後ろから舌打ちが聞こえる。きっと寺坂だ。
「〝掲示板〟に書かれた攻略情報は二つ。一つは7つある住宅の品を全て盗み出すこと。そしてもう一つが——ここだ」
増倉さんは、南千住町の地図の一番端にある「電気屋」を指でトントンと叩いた。
「ここにある高性能PCを盗めば70万近い大金を手に入れることができる」
「それが本当ならね」
骨川ラファウがダミ声を上げた。




