第2話
俺は目を覚ました。
叫び声を上げながら体を起こす。
あたりは明るく、プレハブ小屋の窓からは自然光が入ってきている。小屋の床にはマットが敷き詰められていて、俺はその一つで眠っていた。
「あっ、起きた」
声のする方を向くと、一人の女性がシンクの前に立っていた。
茶髪のショートヘアに一際目を引く大きな胸、それを強調する引き締まった腰。体のラインがはっきりとわかるピチピチの白シャツ(胸にはユミクロのロゴがあしらわれている)、ホットパンツからは白い足が伸びている。
「おはよう、夏目くん」
「おはようございます、ちほさん」
「昨日は惜しかったみたいじゃん」
「そうでもないですよ」
立ち上がる。小屋の中を移動する。
部屋には二つの扉があった。引き戸には、それぞれ「外」と「内」と書かれた看板がかけられている。
俺は「内」と書かれた扉を開ける。
扉の先には、トタンの塀に囲まれた世界が出迎えてくれた。
球場の半分もない広さの敷地にはコンテナトレーラーが口を開けて中央に鎮座している。
プレハブ小屋の隣にはゴミ出しに使われるようなアルミ製の箱。そこには、これまでの「成果物」——ロープやスズランテープ、3インチのモニタースピーカーから19インチの小型テレビまで乱雑に積み上げられている。
箱とは反対の方には施錠機能付きロッカーとダイヤル式の金庫——俺がさっきまで取り組んでいたものと同型の金庫が設置されていた。
そして、小屋から出て目の前に見えるトタン壁には巨大な電光掲示板。
ステージ:2
目標金額:100万円
現在の獲得金額:44万円
期限まであと:2日
次のミッションまであと:11時間44分32秒
電光掲示板の下には赤褐色のインクで凄惨な言葉が綴られていた。
『助けて』
『死にたくない』
『もうイヤだ!』
けど、そんな言葉を塗りつぶしてしまうくらい大きな青い文字で書かれた
『あきらめるな!』
「よ、起きたか」
電光掲示板の前に一人の男がいた。
スラリとした長身で黒の長袖パーカーに灰色のチノパンを履いている。薄いサングラスをかけていて、レンズの奥から覗くつぶら瞳と涙ぼくろが目をひいた。
「すみません、増倉さん」俺は軽く頭を下げた。
「いや、俺のほうこそスマン。一瞬油断したところをやられちまった……」
掲示板を見上げる。「現在の獲得金額」に注目する。
「昨日より増えてますね。誰か成功したんですか?」
「あぁ」増倉さんがいう。
「文人が大量のゲームソフトと高級ヘッドホンを持ってきてくれたらしい」
トタン壁の隅で鍵開けの練習をしている少年がいた。鍵付きロッカーを二つのピッキングツールで開けようとしている。
黒を基調としたミズノのジャージに包まれた彼は、こちらに気づくとニッと笑みを浮かべた。
「感謝するがいい、夏目よ!」
声変わり前の甲高い声を出してえっへんと胸を張る。その仕草がまだ彼が子供であることを物語っていた。
「鍵開けできるようになったんだ」
「そうとも。僕の華麗なピッキングスキルをそこで見ているがいい!」
そう言って彼は再び施錠された練習用のロッカーに向かうが、10秒も経たずにピッキングツールは壊れてしまった。細長い針金はパキッと綺麗に真ん中で折れていた。
「あっれ〜」首を傾げる文人を見て、俺も増倉さんも笑い声を上げた。
「笑うなよ〜! ちゃんと昨日はできたんだぞ〜!」
手を挙げて抗議しているところに、ちほさんがやってきた。
「どうしたの? なんか楽しそうじゃん」
「文人が鍵開けを披露する、と言って失敗したんです」俺は言った。
「『僕の華麗なピッキングスキルを見てるがいい』って言ってな」増倉さんが文人の声真似をした。
「へえ〜。私にも見せてよ!」
ちほさんのリクエストに文人は眉をひそめると、
「うん、今は調子がよくないから、また今度ね」と、はぐらかした。
「ちなみに、わたしも取ってきたんだ〜」
ちほさんがヤードの隅に設置されたアルミ製のカゴを指差した。スピーカーや小型テレビが入っている箱の蓋には「納品ボックス」と書かれている。
「一番上のアロマディフューザー、わたしのなの」
積み上がった「成果物」の頂点には白くて細長い円筒形の機械が置かれていた。
「すごいじゃないですか」
「でも、そのあと絵画を盗もうとしたら警察に見つかっちゃって」
ちほさんは肩をすくめた。
「そういえば、寺坂くんと骨川くんは?」
「あっちにいるよ」




