第1話
ダイヤルを回していく。
1、2、3、4…………
全神経を耳に集める。聴診器から漏れ出てくるわずかな異音も聞き逃すまいと集中する。
あたりは薄暗い。明かりは口で咥えている懐中電灯しかない。
ライトが照らすのは目の前の金庫だけ。かれこれ30分、ダイヤルを回し続けている。
いや、1時間か、それとも5分……?
ダメだ。完全に狂ってる。
いや、狂ってなきゃ、こんなことできっこない。
人の家に忍び込んで泥棒なんて————
部屋の明かりがついた。
思わず目をつむる。
ハッと胸が締めつけられる。修学旅行で就寝時間中に喋っていたところを、先生に見つかったときのような気まずさに心が支配される。
まさに、入ってきたのは同級生ではなく先生。
鼓動が早くなる。額から脂汗が浮き出す。
そのとき、
カチリと音がして金庫が開いた。——やった。俺は8桁の暗証番号——10億分の1を引き当てたんだ。
心拍数が上がる————心臓が飛び出そうだ。苦節二日、ついに達成された目標と、敵に見つかったという絶望的な現状。正と負の感情が入り混じって、心臓を上へ上へと突き上げていく。
どうする? 戦う?
このまま何もしなくても結果は変わらない。
だったら、少しでも可能性のある方へ————
立ちあがろうとする。しゃがんでいたから足が痺れて思うように動かない。
それでも拳を握りしめて、何をするか決めてないけど顔を上げようとして————
首に激痛が走った。
あまりの強烈な痛みに視界が回転しながら落下していく。
何をされた!? 首に手を伸ばそうとするが、手が動いている感覚がない。
視界は転回しながらどんどん落下していく。
ついには床に衝突してコロコロ転がった。ナガシマスパーランドの白鯨よりもタチが悪い。吐き気をもよおすが、数時間前に食べた菓子パンが出てくる気配はない。
バタンと視界の隅で何かが倒れた。
それは黒のスウェットに身を包んだ俺の体だった。
あぁ……そういうことか……。
薄れゆく意識の中で眼球を上に動かす。それが自然のことわりであるかのように。
かつて俺だった肉体のそばには、血のしたたる斧を持った男。
そいつを焼き付けるように眼球が停止する。
そのまま視界が暗くなって————




