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死んでも盗み続ける俺たち  作者: 名無之権兵衛


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13/15

第13話

 俺は大きく深呼吸すると、金庫に向き直った。


 11、12、13、14…………

 21、22、23、24…………


 悲鳴が聞こえて思わず手を止める。


 視界の隅で文人が倒れるのが見える。左足が切断されていて、患部からはとめどなく血が流れ出ている。切断面を庇いながらうめく彼の表情は辛そうだ。


 店主が文人に向かって一歩、また一歩と近づいてくる。


 助けに行くべきか?


 けど、俺がこの金庫を破らないとみんな死んでしまう。


 刻一刻と迫るタイムリミット。


 ダイヤルを動かす手、カチカチと無意識に音を聞き分ける耳。


 男が少年の前に立ったとき————




 ゴンと鈍い音がして、店主の頭部から血がほとばしった。




 大男は床に倒れ込む。


 彼の背後にいたのは————

 金属ハンマーを持った骨川ラファウだった。


 左僧帽筋を半分ほど切断された彼は、血と肉でピンクに染まった鎖骨が垣間見える状態でヒューッ、ヒューッとか細い呼吸を繰り返していた。


 ラファウは倒れ込むように店主に馬乗りになると、ハンマーを頭部めがけて振り下ろす。ハンマーヘッドが店主の頭部に命中し、電気ショックを受けたみたいに体がビクンと震える。


「金庫に集中しろ、夏目ぇ!」


 血痰を吐きながら骨川が声を上げる。


「僕はこんなところで終わりたくない! 高校を卒業して、大学では彼女いっぱい作ってセックスしまくって、キリストクソ野郎なんかに縛られない自由な大学生活を送るんだ! だから……早く!!」


 彼は再びハンマーを振り下ろした。何度も、何度も。


 目頭が熱くなる。


 鼓動が高鳴る。全身に熱い血が駆け巡る。


 俺は一度、大きく目を瞑ると、ダイヤルに向き直った。


 35、36、37、38、39————


 ガチャンと音がして金庫の扉がゆっくりと開いた。


 中には複数の札束とビジネスホテルで使うようなカードキーが入っていた。


 ついに……これで!


 生き残ることができる。


 帰還への短い希望をつなげることができる!


「やった……、やったよ、骨川!」


 カードを取り上げ、ラファウの方を向く。

 骨川は店主の頭部にハンマーを振り下ろした状態で静止していた。


「おい……、おい……」


 声をかけるも、反応はない。

 沈黙した背中だけがそこにある。


 左肩にできた深い切り傷からはピンク色の肩甲骨が剥き出しになっている。そこから血が絶えず流れ出ていた。黒のパーカーを濡らし、床に血溜まりを作っていた。


 俺は唾を飲み込むことしかできなかった。

 ——そのとき、彼の細い体が持ち上がった。


 それは彼の意思というよりも、()()()()()()()によるものだった。


 骨川ラファウが倒れる。


 同時に、電気屋の店主がゆっくりと起き上がった。


 頭部が左半分欠けていて、灰色の脳みそが血液と一緒に顔の上を流れていた。まるで「頂上決戦」最終局面のエドワード・ニューゲートみたいだった。


 白ひげは、ここから黒ひげ一味を圧倒した。いまの彼にも同じくらいの気迫を感じる。


 しかし、今の「世界最強の男」は敵側だ。


 文人の方を見る。左足の切断面からの出血はひどく、小柄な彼の体を包んでしまうほどに血が流れ出ている。目はうつろで生きてるのかどうかさえわからない。


 ————俺が、やるしかない!




 金庫からカードキーを取り出す。

           勢いよく駆け出す!




 事務所と店舗を繋ぐドアの横に設置された端末にセキュリティキーをかざす。ビープ音がして扉が開く。


 走り出す。


 店舗の一番最前列にテレビや洗濯機と一緒に設置された高性能コンピュータに向かう。


 直方体の筐体は各辺にLEDライトが設置されていて、青い光をベースに白色のライトが見るものを惹きつけるように動いている。側面はガラス張りになっていて中でマザーボードやGPUが同じ配色のイルミネーションをしている。


 まずは電源コードを引き抜く。


 途端に、先ほどまで怪しく光っていたイルミネーションは終わりを告げた。


 あとはこれを持って帰れば————




   ————背中に激痛が走った。




 なにかが刺さった感触がする。痛みが持続的にジンジンと続く。


 手を背中に回すと、そこにあるべきはずのない固い棒状のものに触れた。


 ——あぁ、クソ。


 棒をつかみ、体から離す。


 一瞬、意識が飛びそうなほどの痛みが背中を這いずり回る。まさに真っ暗闇の視界で稲光が走ったような感覚だ。


 棒を手放すとカランと音がして転がる斧が視界に入った。

 慎重に呼吸を確かめる。幸い、傷はそこまで深くないようだ。


 振り返ると、事務所の入り口から血まみれの店主がバイオハザード7のジャック・ベイカーよろしく足を引きずりながら近づいてきていた。


 予想だにしていなかった。

 よもや、あの状態から斧を投擲できるだけの力が残っていたなんて。


 ——痛い。


 血が背中を伝っていくのがわかる。


 本当なら座り込みたい。お互いここまでよく頑張ったよ、と彼と手を取り合いたい。まぁ、あっちは頭をかち割ってくるだろうけど。


 ——そうだ。このままでは死んでしまう。


 諦めちゃダメだ。



 諦めちゃ————


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