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Slaughter  作者: はく
17/26

Psycho Case4:鎌鼬

ジャァァァァン


「うぉぉぉぉぉ!」

「キャァァァァ!」


響くギター音と歓声。

スピーカーから流れる歌。


『悲壮 狂気 狂騒 狂乱… 僕らは汚れた世界に生まれた…』


「酷い歌詞だな…」


ライブで盛り上がる人々の中、ゼファーとゼオはフードを深く被り、最後列にいた。


「ふぅーーー!いえーーい!のりのりだぜーーー!!」


ゼオは何故か両手を上げカクカクしたダンスをしている。


「テンション上がってるところごめん、何してんの」

「いいよなぁ!自分だけが不幸みたいなクソみてーな歌詞!ヴィジュアル系って吐き気がして最高に気持ちわりぃぜ!」

「ヴィジュアル系好きな人敵に回してるよ、今の発言」

「俺らの敵になったら死ぬだけよーん!」

「とりあえずほら!あれ!」

「あーー!あれだろー鎌鼬!」


歓声を浴びる先には、長身でゴシックな服を身に纏い、歌い狂っている男がいた。

顔は前髪で目が見えない、唯一わかるのは口紅で赤くなった唇。


『DEAD! DEAD! DEAD!』


DEADという箇所で観客皆が、ヘッドバンキングを始める。


「おーー!狂ってんねーー!よく聞いてなかったけどこれラブソングだよな?」

「それじゃ違う意味でカナも震えちゃうよ」

「とりあえず最前列行こうぜ」

「そうだね」


2人は人を掻き分け、最後列に移動を始める。


「おいおいおいコラチビ共」


列にいた男が絡んでくる。

顔がピアスだらけだ。


「前に行くとか考えてんじゃねぇぞ?あ?」

「うるせぇよキチガイ、なんだ?顔のこの輪っか引いたらギミックでも出んの?ぴろぴろぴーー」


ゼオは口に空いたピアスを指でちろちろと揺らすと男は顔をピクピクさせ、今にも怒り出しそうな感じになった。


「調子に乗ったガキだなぁ…」


男がゼオの首を片手で絞める。


「ちょっと!ここライブ会場だぞ!暴力はんたーい!お前退場」


ゼオも男の首を絞めにかかった。


「がっ…がっ…ゲボァ…」


男がゼオの手をバンバン叩く。

しかしそんな力など、Darknessに比べたら比に値しない。


グッヂィィィ ブシッ ブシィィィィィ


男の首を喉仏ごと引き裂くと、大量の血が天に飛ぶ。


「うぉぉぉぉ!」

「ヒュゥゥ!」


血飛沫をライブの演出だと思った観客はより一層盛り上がる。


「なにこれ最高にきもちーー!!ハマっちゃいそう!」

「はいはい、嬉しそうでなにより」


2人は再び、人を掻き分けて行った。


『僕らを支配する…この世界…死 殺戮 虐殺 虐殺 虐殺 虐殺 Slaughter…Slaughter…』


「ん?」


歌詞にSlaughterという言葉が出てきた。

2人は顔を見やる。


「偶然か?」

「さぁ…入っててもおかしくは無いけど…」


2人が居るのは既に最前列、目の前には、ボーカルの鎌鼬の脚がある。


『Slaughter DIE! Slaughter DIE! Slaughter DIE!』


「DIE! DIE! DIE! DIE! DIE!」


2人が振り返ると観客全員操られたように叫んでいる。

目は泳ぎ、口から涎を垂らし、撒き散らせながら一心不乱に叫んでいる。


「ゼオ…」


「まぁじ?俺らに向けてのラブソング?なんかこう、下半身がキュンとしちゃう」


2人が再び前を向く。


『DIE…』


2人の目の前にしゃがみ込み、2人に中指を立て、左右に裂けた舌を出しながらマイクを持ち見下してる鎌鼬の姿があった。


ダァァァン


ゼオがステージを蹴り、ステージ台をぶち破る。

そのせいで、脚がズタズタに裂けるがDarknessで元に戻す。


「下半身にくる理由がわかったわ、キモくて蹴り殺したかったんだ」


後ろに飛んでかわした鎌鼬はマイクを構える。


『Slaughter…』


そうスピーカーから聞こえ、鎌鼬が観客に向かってジャンプし、観客に紛れる。


「あぁ!くそっ!」

「ゼオ!ステージに上がろう!」

「ああ!」


2人はステージに登る。


ボォォォン


足元が盛大に崩れるが寸ででステージに上がる。


「っぶねー!」

「間一髪ってとこだな」


2人は観客を見る。


「DIE!」

「DIE!」


「うっわなんだこいつら」

「何がいいのか…さっぱりわからない」

「ほらゼファー、お得意のあれ歌えよ、黒のなんちゃらみたいなやつ」

「嫌だよ、そう言う曲じゃない」


ブシィィィィィ


「!」


大勢いる観客の後ろの方で血飛沫が上がる。


ブシィィィィィ

ブシィィィィィ


そして違う場所からも2つ。


「俺はここにいるぞってか…ナメやがって…」


パラララララララ


ゼオは銃を出現させると最後に血飛沫が上がった場所めがけて連射する。

無論、観客に当たり、倒れ、そこだけ観客がいない状態だ。


ブシィィィィィ


今度は目の前で血飛沫が上がる。

ゼオは連射させたまま、そこに向けて撃ちまくる。


パラララララララ カチッ


「ちっ…弾切れか」


2人は観客席を確認する。


「DIE!」

「DIE!」


周りで人が死んでいるにも関わらず、観客は叫び狂う。


「こいつら…」

「ブレインコントロール…」

「くそ…撃った場所にいねぇ…」


『ねぇ僕を見てよ、ここにいるよ』


突然スピーカーから声が聞こえる。

後ろを振り向くとそこには鎌鼬がいた。


バッ


ゼオが黒煙ブレードで切りかかる。


タンッ


鎌鼬はそれを側宙でかわし、2人の上を飛び、観客席に紛れこんだ。


「あー!もう!うっぜーー!!」


ブシッ

ドタンッ


ゼオが叫んだ直後だった。


「はっ?」


ゼオの横には首が無いゼファーが倒れていた。

頭はそばに転がっている。


「ゼファー!」


駆けつけるが、切り口は完治していて、ダークネスが機能していない。

すかさずゼオが黒煙ブレードでゼファーの首の断面を斬る。

すると再び斬れた断面から黒煙が伸び、ゼファーの首を引き寄せた。


「あー…うっわー変な感覚…焦ったぁ…」

「まじヒヤッとしたぞ」

「とりあえずゼオ、どいて」

「ああすまん」


馬乗りにしていたゼオを退かせ、起き上がる。


「どうやら攻撃自体には水晶は使われてないな…Darknessの機能を停止させて、作動不可にさせてるだけか」

「だなぁ」

「多分、ゼオならめちゃくちゃイラつく相手になるよ、これ」

「この、クソ気持ちわりぃ歌詞を聞いてからずっとイラついてるよ!」

「そうか、それはご愁傷様で」


ゼファーは高周波ブレードを出現させる。


「まずは攻撃法の把握だな」


2人はステージから飛んだ。

観客はまだ叫び狂っている。


「くっそ!どこにいやががるこの!もやし野郎!!!」


ゼオが叫ぶ。

するとライトがステージを照らす。


『歌い狂え喧騒の唄を…』


ステージの中央には先ほど観客席に飛んだ鎌鼬がいる。


「いつからマジシャンになりやがった!!あーー!くそっ!」


ビュォォォ


ゼオがステージに向かって飛ぶ。

そして高周波ブレードを構え斬りかかった。


チッ シュピュ


「!?」


今何かに当たり斬った感覚はしたはずだ…

なぜ無傷なんだ…!?


高周波ブレードを返し再び斬る。


ギィィィィ ピィィン


「!?」


何かがある!

鎌鼬の前に見えない何かが…


『僕は狂ったサイコパス…野良猫は爪を立てて裂く』


鎌鼬が爪を立てた手を軽くゼオの目の前に振る。


ニチャ ブシィィィィィ


客席にいたゼファーはゼオが4つにスライスされるのを見た。


「ゼオ!」


ビュォォォ


ゼファーがステージに向かって飛ぶ。

だが鎌鼬も前に飛び上がり、飛んでる最中のゼファーに突っ込む。


「なっ…!」


鎌鼬はすれ違いざま、ゼファーに再び爪を立てた手を軽く振る。

しかしさっきのゼオを見ていたゼファーはとっさに見えない何かを避ける。


ヒュザッ

ダンッ


ステージに着地したゼファーは自分の左腕が無い事に気が付き断面を高周波ブレードで切り、元に戻す。


「くそ…なにをしたんだ…」


ゼファーは銃を出現させる。


パラララララララ


撃った先はゼオ。

スライスされて4つになった身体の断面をいちいち斬るのは面倒だったため、銃で身体ごと砕く。

肉片と化したゼオの塊から黒煙が上がり、徐々に身体が再生された。


「あぁぁぁぁ!も~うぜぇぇぇぇ!」

「大丈夫?」

「あぁーくそ!おかげで斬れた正体がわかったぜ…」

「本当か!?」

「ああ…透明ななにかあるのかと思ったが透明でもなんでもねぇライトに照らされた奴でわかった…」


バッ


次は観客席にライトが照らされる。

観客席の中央に鎌鼬がいた。


ヒュ


鎌鼬が再び手を振る。


その動きを見たゼオが高周波ブレードを縦に垂直に構え、横に振った。


「!?」


その動きに鎌鼬が反応した。


高周波ブレードはいきなりゼオの手から離れ、何かに引っ張られるように鎌鼬の元に渡った。


「…どういうことなんだ…?」

「間近で見てわかったぜ…こいつ…めちゃくちゃ細い糸か何かを使ってやがる…」

「糸!?」


そうか、だからゼオは鎌鼬の動きに合わせて高周波ブレードを振って巻き付けたのか。


「もう歌は終わり!アンコールはねぇ!」


パラララララララ


ゼオがスピーカーを撃つとスピーカーからバチバチと火花が散り音楽が止まる。


「おら言ってみろや!全部わかったんだよ!」

「…」


鎌鼬はライトが照らされたまま、下を向いている。


「…より細く…見えにくい…頑丈で断れにくい…」


口を開けたかと思えば何かわけのわからない事を言い出した。


「アラミド繊維とチタニウムを焼結させた…宇宙飛行士の命綱、防弾服に使われている1ミリメートル1000分4…4ミクロにして張力200キログラム…ブレードガールの合金なんて比ではないだろう…」

「うわびっくらこいた、そんなに饒舌なんて思わねぇ」

「この繊維が…よく見えたものだ…」

「今褒められた?ファンサだファンサ!」

「だが…唄はまだ終わっていない…」


バッ

ピヒュゥ


鎌鼬が腕を突き出した。

糸を飛ばしたのだろう。

2人はかがみ込み避ける。


チッ


ステージ端にあるパイプに絡みついた音がした。


バッ

ピヒュゥ


鎌鼬はまたもや腕を突き出し、今度は反対側のパイプに糸を絡みつける。


ビュン


その糸を使い、鎌鼬は宙を高く飛ぶ。


パラララララララ


ゼオが鎌鼬を追って銃を撃つが、当たらず、弾切れとなった。


「なんだよ!次は蜘蛛男か!」


ピヒュゥ

ヒュン

ヒュン


鎌鼬は蜘蛛の巣のように次々と糸を張り巡らせた。

無論 それに当たった観客は血飛沫を上げ倒れたり、身体を糸で貫かれ、己の体重でそのまま身体が裂けた者が多数いる。


「ちょっちょっちょっまじかよ」

「ゼオ、マズいぞ…このままじゃ2人とも…」


そう、Darknessで死にはしないが、Darknessは作動しない。

2人とも同時に斬られたら助ける者がいなくなる。

生け捕りと言う形で俺たちは終わる。

まあ形的には死んではいるか。


「動けないんじゃヤバいが、俺たちには高周波ブレードがある…」

「高周波を発生させて戦うって?」

「違う…高周波で糸の繊維は切れるかわからないから、その糸に絡まっている物を斬るんだ」

「もぉ、ゼファーってホント頭良いよな、たまにその頭に頬ずりしたくなっちゃう」

「はいはい、とりあえず最初に絡ませたパイプ2つは切らないでおいてくれ」


2人は高周波ブレードにDarknessを送り込む。

ここでやられれば死んでしまう。

素早くだ。


ビュッ カッ


2人は高周波を発生させた高周波ブレードで絡みついてるスピーカー、柱、ドアノブなどを斬る。


ビビビヒュヒュヒュ


土台を切られ、行き場を失った糸は物凄い勢いで鎌鼬の元へと飛ぶ。


「伏せろ!」


2人は鎌鼬の数メートル前にいたため、大きく大量の糸が移動し、ゼファー、ゼオ、そして鎌鼬の方に一直線で飛んでくる。

足元の方は糸が無かったため間一髪避けた2人は髪の毛がほんの少し切れて舞っただけ。

しかし、糸の軸になっている鎌鼬は屈もうが、飛ぼうが、糸は鎌鼬の元へ戻ろうと一直線に突き進む。


ビュ シャァン

カァァンカラカラ


糸の先に付き、重石と化した切った物と

鎌鼬の後ろにあったマイクが細切れになり、落ちる音が響く。


2人は伏せた状態からゆっくりと鎌鼬の方を見る。


鎌鼬は両腕を上げ、固まったまま動かない。

そのまま2人は鎌鼬を睨む。

顔に冷や汗がツーっと通る感触だけしか感じられない。

そしてゼオが口を尖らせ フッー と息を吐いた。


ドチャドチャドチャ


鎌鼬の両腕は細切れになり地面に落ちた。


『ス…ロータ…ダァ』


ドチャグチャグチャグチャニチャァ


どこから鳴ったかわからないスピーカーから発せられた声と共に、鎌鼬の身体は細切れのサイコロ状になり崩れた。



「ふ、ふぅぅー…」

「終わった…」


2人とも詰まった息を吐き出し体制を崩し、その場に転がる。


「ふー…正直一番焦ったかもしんねー」

「ああ…水晶持ってない理由がわかったよ…」

「てかさ…」

「ん?」


2人か顔を合わせる。


「情報聞けてねぇ…」

「…」


バッ

ササササササササッ


2人はいきなり身体を起こし、肉片と化した鎌鼬の元に赤ん坊もびっくりするくらい高速のハイハイで近寄る。


「これじゃあ…なんか持ってたとしても…」

「おーい!実は生きてたりしてないかー!」

「こんなんなって生きてるの俺とゼオくらいでしょ」

「あぁーくそ!なんだよ!」


ゼオはどこかの肉片を拾い壁に投げる。


「あ、ポケットみっけ」

「なんか入ってねぇ?」

「マッチだけ……ん?」


ゼファーが手に取ったマッチを見て何か反応した。


「中身…薬…?」

「こいつも薬中かぁ?で?どこのマッチ?」

「えっと…カジノ…?かな?英語?よく解らない」

「はんっこういう時に街を知り尽くした全知全能の俺がいんだよ、貸してみ」


ピッ


ゼオがマッチをぶんどる。


「ほらこれはあれだ、その、良いマッチだ、この部分これなんて書いてあんの?」

「知らないよ…」


壁に張り付いた肉片がびちゃっと落ちた音だけが聞こえる静かなライブハウス。

その中で四つん這いの少年2人が虚しくマッチを見つめていた。

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