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呪われた島 2

ヨイショトリオが好きです。


 倒れたゼンザイを見たリーンは、頭に血がのぼってダメーダヤを突き飛ばした。

 アイラは、慌てて腰のポーチから解毒ポーションを取り出した。

 それをゼンザイに飲ませる。


「ゼンザイ様に何をするか!!」

「ゼンザイ様! しっかり飲み込んでください! しっかりして!」


 壁まで飛ばされたダメーダヤは、泡を吹いて気絶した。

 リーンは、見た目よりも力が強いのだ。

 大騒ぎになった。

 ダメーダヤ夫人は夫が気絶したのを見て、甲高い声で悲鳴をあげる。

 ルピナスも気分が悪くなり、苦しみ出した。

 ヨイショトリオは、慌てふためいて部屋の中をオロオロと走り回り、トーヨーは面白そうにニヤニヤしている。


 リーンは、泣きながらゼンザイを抱きあげて部屋へと歩き出す。

 アイラは、ルピナスにも解毒ポーションを飲ませる。彼女に肩を貸し、リーンの後を追う。

 メリーはダメーダヤに癒しの奇跡を行い、リーン達を罵声した。


「なんて無礼なんでしょう! 信じられませんわ! 客人のくせに!」

「信じられないのは、おまえ達だ……!」


 リーンはメリーを睨みつける。青い瞳から涙があふれている。怒りを必死で押さえつけていた。

 怒鳴ってやりたい! でも今はゼンザイ様の治療が先だ…!

 メリーは、リーンの迫力にぞっとした。ブツブツとつぶやく。


「な、なによ…! 私は聖女なのよ! なんであんな子に気圧されるのよ。おかしいでしょ。毒なんて盛ってないわ。失礼なのはあの子達じゃありませんか……」

「……毒ですよ! 猫や犬にニンニクは危険です。獣人でも体に良くありません。知らなかったんですか。聖女のくせに」


 アイラが氷のような声で低く言った。

 そして彼女は、トーヨーを睨みつける。

(こいつは、それを知っててルピナスさんに食べるように追い込んだのかもしれない)


 トーヨーは、面白そうに笑っている。大袈裟にため息をついて、立ち上がる。


「これじゃあ夕食会はお開きだね。残念だよ。面白い見せ物だったんだがね。俺は先に休むとしよう」




 アイラ達は、部屋のベッドにゼンザイとルピナスを寝かせた。

 リーンは2人の手をとり、心配そうに見つめている。

 リーンは静かに癒しの力をゼンザイ達に注いでいた。

 彼女の頭の毛がピコピコと動いている。

 アイラはそれが気になった。


「リーン……。ずっと髪が動いてるんだけど、何か気になるの?」

「うん……。この島に来てからずっと、うまく言えないんだけどチクチクしてイライラするんだ。何かあるよ、この島……。それが何か分からない」

「やっぱり何かあるんだね。この島」


 外では潮騒の音とともに、雨粒が降り注ぐ音がしてきた。嵐になりそうだった。





 

 メリーは、部屋で必死でダメーダヤを看病している。

 この部屋だけは、メリーが隅々まで手を入れている。居心地のいい部屋だ。

 しかし、どんなに癒しの奇跡を施しても、回復は芳しくなかった。

 彼は何度も嘔吐し、トイレへ駆け込む。

 ヨイショトリオも体調が悪いようだった。

 メリーは悩み抜いた。


 なんなのよ! ……こんなはずじゃなかった。喪女だった私が、こんなに美しい女性に転生したのよ。夢中になった乙女ゲームにそっくりだったわ。セレブにしか似合わない緑のドレスも着こなしているわ。学園でゲーム通りのセリフを言えば、王子様も私を愛してくれたわ! 婚約もざまあも上手くいったわ。ハッピーエンドのはずだった。


 メリーの思考は迷走を始めてしまう。


 きっと、今のこの苦難はゲームの第二部に入ったということね。私達でラスボスを倒して、王宮に返り咲くのよ!

 ラスボスは誰かしら。客人達が怪しいですわ。失礼な方達ですもの。毒を盛ったのは、彼らじゃないかしら。

 ああ。雨が降ってきたわね。嵐になるわ。嵐が去るまで船が来ないわ。困ったわ……。


 かごめかごめの童歌が、部屋に飾られているのをメリーは見上げる。

 

 意味があるのかしら。

 この島はパニエ。籠という意味がある。

 嵐で島から出られない。まるで私達は籠の中の鳥のようね。

 そうだ、あのケット・シーは鳥の料理と亀の料理を食べて倒れたのだ。

 つるとかめがすべった、ってこのこと!?

 後ろの正面だあれは、殺人犯がいるってことかしら……誰!?

 

 メリーはパニックになった。




 夜遅くに、リーン達の部屋のドアを叩く音がする。

 アイラが慎重にドアを開けると、ヨイショトリオ達だった。

 彼らの顔色は悪かった。


「あの……ゼンザイ様やルピナス様の具合はどうですか? それからこれを……何も夕食に召し上がってなかったので」

「……ありがとうございます。先程意識が戻りました。迎えの船が来たら、私達は戻ろうと思います」

「そうですか。お大事にしてください。残念ですが、嵐になったので、迎えの船はしばらく来られません。こういう時のための保存食はあります。ご安心ください」

「ありがとうございます……」


 ヨイショトリオは、ミルクと果物の夜食を渡すと去っていく。

 アイラが部屋へ戻ると、ルピナスがリーンの手を握りしめている。

 熱っぽい瞳で、リーンに訴える。


「リーン様。早くこの島から出てください。この島は呪われています……」

「目が覚めて良かった。ルピナスさん! それから「様」は変だよ。ゆっくり休んでくださいね」

「なんとお優しい……」


 アイラはため息をついた。

 ルピナスの手をリーンから引きはがす。


「リーンを知っている獣人の戦士ね。モリア伯爵城の騎士様かな。あの時は、鎧で姿が分からなかったからね。ジェームズ伯爵様は、お元気ですか?」

「えっ!? あのっ。私はそんなんじゃ……」

「ん? ルピナスさんは、あの時の騎士様でしたか」

「獣人は、戦いで勝った者に敬意を抱くそうだよ。私達を知っていたわけだ。何故ずっとリーンの方を見ていた理由が分かったよ」


 リーンはポカーンとした顔をする。

 見られていることに全く気づかなかったのだ。そして思った。

 私もお仕事の役に立ちたい。


 リーンはルピナスの手を握り、瞳を見つめてお願いした。

 ルピナスは、赤面して胸がときめいた。生唾をごくりと飲み込んだ。


「お願いします。この島について知っていることを教えてください」

「あ、あの、本当は話してはいけないんですが、リーン様達は私を助けてくださいました。それに今は緊急事態です。きっと主様も許してくださると思います……」


 アイラは思った。

 ジェームズ・モリア伯爵は、許してくれるような人とは思えない。

 リーンには、「たらし」の才能もあると判明した。

 そこらが気になるが、ここは黙って情報を引き出すことにしよう。


「実は、この島に古代エルフの遺跡があるのです。大昔に大いなる災いをこの島に封じ込めたそうです。閉じ込めた意味をこめて「籠の島」と呼ばれました。エルフやケット・シーの一族が島を守っていたのですが、この島の森がなくなってしまい、エルフやケット・シーが住めなくなってしまったのです」

「森の外で生きられるエルフや獣人は、よほど強い個体でないと生き残れないそうですからね」

「そうだったんだー…。大変だったね」


 リーンは、ルピナスの手を優しく撫でる。

 ルピナスは、感動して涙ぐむ。

 アイラは、リーンが詐欺師を目指さなくてよかったと心底思った。


「それでですね。大いなる災いは感知できない瘴気を放っているんです。ですから、常に魔力で結界を張り続けないと体が弱ってしまうんです。魔力の少ない人間だと死ぬこともあります。だからこの島でグルメ大会なんて、絶対駄目なんですよ。こっちが親切に忠告してるのに。あの方達ときたら……」

「辛かったねー…。頑張ってたんだね」

「そうなんです。だから、リーン様達には早く島を離れてほしいんです」

「心配してくれてたんだね。ありがとうね」

「はい……!」


 アイラは、アンジェリカに渡された腕輪を見る。念のために渡されたものだ。

 これが私達を守ってくれていたんだ。アンジェリカ様の優しさが身に染みる。

 島で亡くなった研究員達は、感知できない瘴気にやられてしまったのだろう。

 原因を突き止められずに、犯人を探しながら……。


 アイラは気になったことをルピナスに聞く。


「モリア伯爵はこの島に来ているの?」

「いいえ。主様達はお忙しいのです。他にも古代遺跡や守るべき森がありますから。巡回しておられます」

「なるほど。それからこの部屋に飾られている『かごめかごめ』の歌は、この島に封印された大いなる災いを意味してるの?」

「はい。古代エルフ語で遺跡にその歌が刻み込まれているはずです」

「メリーの癒しの奇跡も、常に行ってるわけじゃない。さっき見たヨイショトリオ達も顔色が悪かった。嵐がおさまって迎えの船が来たら、ダメーダヤ達にもこの島を離れるように言ってみるよ。聞いてもらえるか、分からないけどね……」

「人の話を全く聞かない人達ですからニャ。うう。酷い目にあった……」


 ゼンザイは、座っているリーンの膝上に座る。撫でろと仕草で示す。

 リーンが優しく撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らした。

 ルピナスが羨ましそうに、リーンにくっついてきた。リーンは嬉しそうだ。


「モフモフ最高です! 幸せ……!」

「今晩は、皆で仲良く寝られそうで良かったよ」

 

 アイラ達は、一つのベッドでぎゅうぎゅうに固まって眠った。

 ほっこりと暖かくて、誰もお化けの夢は見なかった。





 翌朝、朝食を知らせるファンファーレは鳴らなかった。

 アイラ達は、ダメーダヤ達の様子を見るために階下へ降りた。

 トーヨーの部屋にも声をかけてみたが、誰もいないようだった。

 廊下で目を血走らせたメリーとぶつかる。

 メリーは、ヒステリックに叫びだした。

 

「人殺し! おまえ達が毒を盛ったんだわ! ヨーク様達も倒れたのよ。どうしてあなた達が元気なのよ!」

「はあっ!?」

「言いがかりですニャ!」

「出て行け! このラスボスめ!!」


 メリーは、燭台や皿を投げつけてきた。これでは話し合いはできない。

 メリーが攻撃してくるので、アイラ達は荷物をまとめて出ていくしかなかった。

 外は嵐だ。

 彼らを追い出して、メリーは満足した。

 ほっとすると同時に気分が悪くなって、足元がふらつく。吐き気が止まらない。

 メリーは不安になった。


(どうして? ラスボスは追いだしたはずよ。何か間違ってるのかしら)









ネコや犬には、ニンニクは駄目です。

ダメーダヤの真似は、絶対にしてはいけません。

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