呪われた島 1
連載始めました。
リーンやアイラ達が、頭の中で元気に動きまわるのです。
物語にお付き合いいただけると幸いです。
「グリード・レイテスト公爵閣下。この島に手を出してはいけません。誰も入ってはいけません。どうかお願いします! ああ……、私達はもう駄目です。一体誰が、こんな残酷なことを……」
ゴウゴウと遠くから潮騒が聞こえる。
この島の最後の生き残りが、今、書きかけの手紙を前に息を引き取った。
ある島へ調査に行った調査員達と使用人が、全員亡くなってしまった。
数後日、島へ補給に来た船員達に発見される。
レイテスト公爵は、丹念に調査をしたが何も見つからなかった。
それから、この島は「呪われた島」と呼ばれるようになったのだ。
調査員の最後の手紙は、もう一枚あった。
そこには、こう書かれている。
かごめかごめ
かごのなかのとりは
いついつでやる
よあけのばんに
つるとかめとすべった
うしろのしょうめんだあれ
★★★★★
私はリーン・カーネーション。
冒険者見習いです。
ここは、レイテスト公爵家の応接間。
今の公爵様のアンジェリカ様とアイラおばさんが、話し合っています。
前公爵様からの新たな遺言書が出てきたそうです。
そして、アンジェリカ様は私達にお茶の用意をしてくれました。
目の前のおしゃれなケーキスタンドには、ホールケーキが丸ごとのっています。
隣にあるものは、カップケーキやマカロンがカラフルに盛り付けられています。
サンドイッチや温料理やデザートが、あふれんばかりに乗っているものもあります。
信じられないほど豪華で美味しそうな光景です。眼福です。
そして私は今、食べていいと言われる前に食べてしまったことを、何て言おうか必死に悩んでいます。
「これが、前公爵様からの遺言書ですか……」
「はい。私宛の書類の中に入っていたものなのです。アイラ様に調査をしていただきたいと書かれていたのです」
「『呪われた島』といわれるパニエ島の調査ですか。そしてこっちが当時の調査書ですね。拝見します」
「『かごめかごめ』は異世界の童謡だそうです。それが書かれた意味はまだ分かっていません」
「かごめかごめ……?」
アンジェリカ様とアイラおばさんは、紅茶に口もつけずに真剣に話しあっています。
どう見ても、食べていい雰囲気ではありません。
うう……どうしよう。
ケーキスタンドのぽっかり空いた部分が申し訳ない……。
「調査に行ってもいいですが、今さら何か出るとは思えませんが……」
「何が問題かと申しますと……、この島で、元第1王子のダメーダヤ様とメリー様が、町おこしの為にグルメ大会を開催されようとなさっているのです」
「無人島でしたよね? 町なんてあったんですか?」
「ダメーダヤ様とメリー様、側近でいらしたヨーク様、イアン様、ショーン様達の5人で町と名乗られています。公爵家にも、町おこしの為の寄付金を募る手紙が届きました」
「ああ。元王子とクリスマスツリーとヨイショトリオですか。追放された場所が、この島だったわけですね」
アンジェリカ様は、一瞬笑いをこらえたような仕草をされました。
彼女は、ダメーダヤ様の元婚約者でした。大変ご苦労されたそうです。
お気の毒に……。
「誰も入ってはいけないとされる島で、グルメ大会の開催はよくないですね」
「ですから、亡き父からの調査依頼だけではなく、私からもお願いしたいのです。よければ、彼女の護衛という形で、あの島の様子を見てきていただけますか」
アンジェリカ様が、真珠のような手を叩かれると、扉が開きました。
そこには、大きな犬くらいの猫が二本足で立っていました。
全身黒くて、首のところだけ白い毛です。
なんて可愛いらしいのでしょう! モフモフしたいです!
猫さんは、二本足で歩いてアンジェリカ様の横に立ちました。
「彼女はケット•シー族です。亡くなった調査員達を島まで運んだ船員でした。彼女の祖先はあの島に住んでいたそうです」
「ケット•シー族のゼンザイです。よろしくお願いいたします」
「ケット•シー族ですか! こちらこそよろしくお願いします」
「なんておいしそ……ゴホゴホ。素敵なお名前……」
私は、思わず声が出てしまいました。
アイラおばさんやアンジェリカ様やケット•シー様が、こっちを見ました。
そして、ほがらかに笑い出しました。
「この依頼をお引受けします。細かい打ち合わせはまた後でしましょう。リーン、待たせたね」
「そうでしたね。話が長くなってしまいました。お茶も熱いものに取り替えさせましょう。ゆっくり召し上がっていただけると嬉しいわ。料理人が腕によりをかけて作りました」
「まあ! 素敵な名前って言ってもらえて嬉しいニャン」
やっと食べていいようです! 嬉しいです!
マシュマロ実験というものがあります。
お菓子を我慢できたらもう一個もらえると言われて、我慢出来るかどうかを試すものです。
我慢出来た子は、人生を成功しやすいそうです。
約束を守れば報酬がもらえると、子どもがそう信じられる環境を親がしていたかの実験ともいわれます。
私は、ちょっぴり食べただけで我慢出来ました。
だから、私の人生は半分失敗して半分成功するのでしょう。
お茶会は、感動するほど美味しくて、お腹いっぱいになって最高でした!!
公爵家からバニエ島へ向かう時に、アンジェリカ様は最新式の防御魔法の腕輪を渡してくれました。
調査員達が亡くなった原因が分からないので、用心のためだそうです。
アンジェリカ様は、お優しいです!
「死んでまで、人をこき使うかね。グリード公爵……」
「心配ごと? アイラおばさん」
「トラブルの予感しかしなくてね。私達の仕事は護衛と調査。亡くなった調査員達は遺跡を研究していたそうだよ。ところがね。後から調べたら、遺跡なんて見つからなかった。そして、ダメーダヤ達はトラブルメーカーで有名なんだよ。
……ああでも、この依頼断ったらアンジェリカ様が困るだろうなあ。いい子なんだよね。リーンのことを妹みたいに可愛いがってくれてるしね」
「そうなんだ! 嬉しい!」
「ふつうは、冒険者にあんな豪華なお茶会を用意したりしないよ」
「えへへー」
リーンは照れてしまって、モジモジしてしている。
アイラはそんなリーンを見て微笑んだ。
(まあいざとなったら、島ごと……。呪われた島の伝説が1つ増えても問題ないだろう。リーンとゼンザイ様を優先させて、逃げることも考えよう。幸いなことに、ダメーダヤ達は今平民だし……王室も騒がない)
ちょっぴり黒い思考になるアイラだった。
私ことアイラ・カーネーションは、冒険者に復帰した。
姪のリーンは、冒険者見習いで一緒に行動している。
依頼を受けて、ケット・シー族のゼンザイ様と一緒に船で島に渡る。
船便は、食糧などを運ぶために一日一度だけ往復するそうだ。小さな船だった。
私達の他に、獣人族の女戦士と遥か東の方から来たという男性が同乗している。
お互いに自己紹介しあった。
「ケット・シー族のゼンザイと申します。それから連れのアイラ殿とリーン殿です。私の護衛をしてくれています。グルメ大会の寄付金募集の説明会に参加するために来ました」
「私は獣人族のルピナスだ。よろしく」
「東方から旅をしてきたトーヨーだ。よろしく頼むよ」
「アイラです。よろしくお願いします」
「リーンです。よろしくお願いします!」
ルピナスは、銀狼の獣人でツインテールのが可愛いらしい真面目そうな女性だ。
「私は、あの島でグルメ大会があると聞いた。私は、それを中止させるために島へ行くんだ。あの島は呪われているから」
トーヨーは、爽やかに笑うが油断のならない雰囲気の男だ。黒髪黒目で背が高く筋肉質だ。刀を腰に差している。
「俺はね。あの島に興味があるんだ。呪われてるなんて最高だね! あの島に行くのが楽しくてたまらない。グルメ大会とやらは、ついでだね」
リーンは、ゼンザイを膝にのせて、柔らかな毛を優しく撫でている。
ゼンザイは、ゴロゴロと喉を鳴らして幸せそうだ。
ルピナスは、それを羨ましそうに見ている。
トーヨーは、ニヤニヤと笑いながら島を見つめている。
島に到着すると、船は帰っていった。
無口な船頭だった。
別れ際に「嵐になりそうです。お気をつけて」と忠告してくれた。
小さな島には、中央の小高い丘に大きな建物がひとつあるだけだ。
森もなく見晴らしがいい。
ヨーク、イアン、ショーンという青年達が、船着場で出迎えてくれる。
彼らが、他の貴族達から「ヨイショトリオ」と呼ばれている人達だ。
ヨーク、イアン、ショーンの3人は、トランペットを取り出す。
そして高らかにファンファーレを吹いた。リズムをつけて歌い踊り出す。
「ようこそ〜偉大なるダメーダヤ様の島へ〜♪」
「我々は歓迎いたします〜♫」
「聖女メリー様の祝福あれ〜♬」
アイラ達は、ドン引きした。
歓迎の気持ちは伝わってくるのだが、突っ込みどころが多すぎて思考が停止したのだ。
ヨイショトリオは、陽気に歌い踊りながら邸までの道のりを案内してくれる。
ゼンザイは人見知りをして、リーンの後ろにくっついている。
リーンは、頭の毛が一房ピコピコ動き続け、落ち着かない様子だった。
邸に到着すると部屋へ通された。埃っぽい部屋だった。
「ダメーダヤご夫妻は、夕食の時に皆様にご挨拶されます! それまではお部屋でおくつろぎを!」
それぞれ個室が与えられた。
ゼンザイ達は、一室に集まって話し合いをする。
「どうですかニャ? 何か分かったことはありますか?」
「まず、彼らはお金に困っているようです。着ているものが擦り切れていました。新しい服を買えないのでしょう。この邸を手入れする使用人も雇えないようです。部屋の隅が埃だらけだ。メリーはともかく、ダメーダヤもヨイショトリオも使用人のやる仕事なんて知りもしないでしょう。困っているのが伺えます」
「この部屋だけでもお掃除しようよ。それで、この部屋を3人で使えばいいと思うの」
「いいですニャン」
「そうだね。ふつうは使用人の仕事をゲストがしてはいけないんだけど、緊急事態だ。掃除道具を探そう」
アイラ達は、こっそりと邸の地下から掃除道具を探して、部屋の掃除を始める。
窓を開けて埃を掃いて、机などを拭いていく。浴室も洗う。
ベッドの布団も窓に干して、陽に当てて風を通す。
リーンは、壁にかけられている額に、ふと目が止まった。
「アイラおばさん。『かごめかごめ』の歌が書かれているよ」
「ここにも「かごめかごめ」か……。異世界の童謡だったよね。研究員が残した手紙にあったものだ」
「この邸は、研究員のためにグリード様が建築されたニャン。この部屋は研究員の部屋だったから、研究員が残したんだと思うニャ」
ゼンザイが丁寧に説明をしてくれた。
それを聞いてリーンは、まっ青になる。
「それって、ここは『事故物件』というものでは……!!」
「怖いの? それなら今夜は一緒に寝ようか。それなら怖くないよね」
「うん! ありがとう! お、お化けが出て、アイラおばさんをいじめたら、私が戦う!」
「私も仲間に入れてニャ! 暖かそうニャー」
怖がるリーンの肩を、アイラは優しく抱きしめた。
ゼンザイも抱きついてきて、3人で笑いあった。
時計が夕食の時刻を示すと、ファンファーレが邸中に鳴り響く。
ヨイショトリオのコーラスが聞こえてきた。
「ダメーダヤ様の手料理〜♪」
「頭を垂れて粛々と召し上がれ〜♫」
「メリー様のデザートもありますよ〜♬」
そして、邸中に異臭が漂ってきた。
「アイラおばさん! 凄い匂いがするよ!」
「ゼンザイ様、夕食を休んでもいいでしょうか。これは酷い……!」
「……!!!!!」
リーン達が、無言のゼンザイを見ると恐怖で口をパクパクさせ、硬直していた。
フレーメン反応である。
「ゴホゴホッ。し、しかし、ダメーダヤご夫妻にお会いしなければ、アンジェリカ様がお困りになります! 彼らがしている事を調べなければいけません……うう、匂いで気分が……強い香りは苦手ニャ……」
「分かりました! 私達も行きます! でも、無理して食べないでくださいね! あくまで様子見です!」
「こんなに楽しみじゃない食事会は初めて……」
アイラ達は、ハンカチを鼻と口に当てて食堂へ向かった。
食堂には、ルピナスとトーヨーが席についていた。彼らも顔をしかめている。
ヨイショトリオが、うやうやしく料理を運んできた。
ダメーダヤが作ったニンニクたっぷりのサラダに、ワイルドガーリックのパスタにガーリックチキン。すっぽんのニンニク料理。
デザートは、教会で作られて販売されるクッキーやマドレーヌ、アップルパイやシフォンケーキだ。元聖女のメリーが作ったものだろう。
それが、試食用に小さく切られて皿に盛られていた。
リーンは混乱した。
「……これが夕食……? 試食会……?」
「食べないで。後で非常用に持ってきたのを食べよう」
アイラは、そっとリーンの耳元でささやく。
ダメーダヤ夫妻が、ファンファーレとともに現れた。
ダメーダヤは、背が高く歯をキラリと輝かせて笑うクセのある男性だった。
メリーは宝石ではなく、貝を使ったキラキラと輝くアクセサリーを全身につけている。以前身につけていた宝石は、売ってしまったようだ。
ダメーダヤは胸を張り、ホストとして挨拶をする。
「さあ! ありがたく高貴なる俺様の手料理を味わいたまえ! そして歓喜に泣きむせぶがいい! 光栄に思いたまえ! これらはグルメ大会で出す料理を、特別にお前達に提供するのだ!」
「なんてカッコいいのでしょう! ダメーダヤ様!」
「「「ダメーダヤ様! 万歳!!」」」
アイラ達は、血の気が引いた。
船着場の時よりも、ドン引きする事があるなんて。思いつきもしなかった。
ルピナスが、怒りに震えて立ち上がり怒鳴った。
「茶番はもう結構だ! 今すぐふざけたイベントを中止するんだ! この島は呪われているんだぞ! 人間が出入りしていい場所じゃない!」
「まあまあ! 聖女である私を差し置いて何を申しますやら! 私が毎日この島を浄化してダメーダヤ様達に癒しの奇跡を行っておりますのよ! 呪いなんて消えておりますわ」
「癒しの奇跡だと!? そんなものは……」
ルピナスは、リーン達を見ると黙り込んだ。
アイラはそれに何か引っかかりを感じる。
(ルピナスは、私達を気にしすぎている。なんだろう? 獣人の戦士に知り合いはいなかったはず…)
次にトーヨーが立ち上がり、両手を大きく広げて話し出す。
ヨイショトリオも、場を盛り上げようと賑やかに歌い演奏している。
「いいじゃないか! 癒しの奇跡! 素晴らしい! 俺はこっちのことはよく知らないが、良いことなんだろうな。あいにく腹の調子が悪くてね。この高貴なる食事はいただけないのさ。ルピナスさんも、一口でもいいから食べてみろよ。料理人に失礼だよ!」
「そうですよ〜♪」
「ダメーダヤ様のお料理は天下一品なのです〜♫」
「召し上がれば、体が喜び驚き汗が出るのです〜♬」
(いやそれ、食べたらヤバイ症状出てるんじゃ!?)
アイラは、冷や汗をかいて心の中で呟く。
ルピナスはヨイショトリオに囲まれて、仕方なくチキンを試食してむせていた。
その後はヨイショトリオの演奏だけが流れ、皆静まりかえった。
苛立ったダメーダヤが、チキンとすっぽんの皿を掴む。
借りてきた猫のようにおとなしく座っているゼンザイの横に、ツカツカとやってきた。
アイラ達が止める隙もなく、ダメーダヤがゼンザイの口にそれを突っ込んだ。
「さあ! 味わえ! 幸福に酔いしれるがいい!」
ゼンザイは、えづき吐いて、苦しみながら叫んだ。
「毒ニャー! 毒を盛られたニャー!」
ゼンザイは苦しみに震えながら、ゆっくりと倒れ動かなくなってしまった。
呪われた島での物語です。




