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復讐の女神は微笑む ~婚約破棄された公爵令嬢の父の遺言で事件の再調査を始めました~  作者: てんきどう


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ダメーダヤ元王子、王になる (後編)

よろしくお願いします。



 リーン達は、王妃と宰相へ報告をした後、魔塔で暮らしていた。

 魔塔主の好意である。

 王家や冒険者ギルドからの要請があっても、魔塔は丁重に断り、情報収集を続けていたのだ。

 アイラ達も、秘密裏にアンジェリカ達と連絡を取る。




 王が退位して、ダメーダヤが即位することが決まった。

 国の上層部だけで決定されて、国民への発表もなかったのだ。


 ある日、ダメーダヤがラファエルへの見舞いで、レイテスト公爵家を訪れると先触れがあった。

 それを聞いたリーン達は、アンジェリカ達を心配した。

 アイラ達も、自分達ができる行動を模索し続けている。




 ある晴れた日の午後、ダメーダヤが1人でレイテスト公爵家を訪ねてきた。

 王家の馬車から降りて、護衛もつけず案内されるままに公爵家に入った。

 応接間には、豪華なお茶会の用意がされている。

 車椅子に乗ったラファエルとアンジェリカが、ダメーダヤを出迎えた。

 挨拶もそこそこに、ダメーダヤが話し出した。


「アンジェリカ。話があるんだ。セト王がお前を気にいっているんだが、知っている……………!?」


 急にヒュッとダメーダヤは喉が締まって、声が出なくなった。

 体が冷えて震えてくる。

 この感覚は知っている。

 明日死刑と宣告された時と同じだった。


(恐怖!? この俺様が!? ここにセト王はいないのに何故!?)


 ダメーダヤがアンジェリカの後ろを見ると、小柄な女騎士がいた。

 冴え冴えと冷たい目で、ダメーダヤを睨んでいる。

 見覚えはあるが誰だか思い出せない。だから、身分のある者ではないのだろう。

 だが、彼女を見ると体が恐怖でいっぱいになった。


 小柄な女騎士は、リーンである。

 ダメーダヤは覚えていなくても、ダメーダヤの体はリーンを怒らせると怖いと覚えていた。

 実は、アイラも杖を隠し持って侍女として控えている。

 屋敷の者達も、扉の影に隠れて待機している。

 彼は話題を変えた。


「そういえば昔はさ、3人でよく遊んでいたよな。アンジェリカは昔から怒って注意ばかりしてきてな。酷い時は、一週間も俺を追いかけ回して注意したよな」

「あれは、ダメーダヤ様が病気で寝込まれているラファエル様の寝所に、巨大な蛇の抜け殻を放り込んだからです」

「俺の宝物を見舞いにやったのだと言ったろう。あれだけ大きな蛇の抜け殻は滅多にないんだぞ!」

「時と場所をお考えくださいと、いつも言っています」

「まあまあ、アンジェリカは優しいんですよ」


 ラファエルとアンジェリカは、見つめあって微笑んだ。

 ダメーダヤは、2人の仲睦まじい様子を見て懐かしくなった。

 幼い頃から、この2人は仲が良かった。

 思えば、あの頃から2人は互いを大切に思っていたのだろう。


「俺にはいつも鬼の形相だったがな。ああ、でも……」

「でも?」


 ダメーダヤは思い出していた。

 どんなに怒っていても、アンジェリカは目を逸らしたり、上から目線の考えはなかった。


(ラファエルもアンジェリカも言ってくれればよかったのに……。いや、言えなかったのか……)


 エジ国で奴隷になった時に、上司の奴隷頭に逆らえば鞭打たれた。

 飯を抜かれることもあった。反抗すれば処刑されそうになった。

 侮るような目で見られ、侮蔑されても我慢するしかなかった。

 地位や権力とは、そういう力がある。

 ダメーダヤは、焦燥感で胸がかきむしられそうな想いになる。


(俺は……今まで何を見ていたんだろう)


 ラファエルが自分から離れたのは、アンジェリカと婚約した時からだ。

 それまでは、2人を子分にして王宮を走り回っていたものである。

 婚約後、アンジェリカは遠くを歩くラファエルを見つめていることが多かった。

 気づけば、いくらでも思い当たることが出てきた。


「……いや。何でもない。2人とも元気でな。もう行くよ」

「兄上……。兄上もお元気で」

「ああ。見送りは結構だ」


 ダメーダヤは、レイテスト公爵家を後にした。

 去り際に、小柄な女騎士に声をかける。


「アンジェリカ達が大切なんだな」

「当たり前です」

「当たり前か……。大切にされることは、当たり前じゃないんだよ。小さな騎士よ」


 ダメーダヤは、生まれて初めて寂しそうに笑った。

 リーンは、キョトンとした顔をする。意外だったのだ。

 そのまま深く考えこんだまま、ダメーダヤは去っていった。

 アンジェリカとラファエルは、見つめあう。


「兄上は、君にその身をセト王に捧げろと命令しなかったね」

「ほっとしました。命令されれば、ダメーダヤ様を捕らえて、王位継承権第3位の私が即位する予定でしたもの」

「今回は大丈夫だっただけかもしれない。油断はできない。それでも……兄上はどうするおつもりなんだろうね」

「予測もできません。あの方は、昔からそうでしたもの」

「そうだね」


 アンジェリカとラファエルは、苦笑した。

 ダメーダヤのために用意されたお茶会の菓子は、手付かずだった。

 アンジェリカは侍女に指示を出して、屋敷で働く者達で分けあうように伝える。

 屋敷の者達は大喜びした。

 こういう細やかな心配りが、この国では大切なことだとされている。

 ダメーダヤはそれが全く出来ない人で、アンジェリカが全てフォローしていた。


「兄上は珍しくお茶にも口をつけなかったね」

「警戒されることを覚えたのかしら。毒など入れてませんのに」

「昔は、文句を言いながらお腹いっぱい食べてたよね」

「文句ばかりでしたわ。動けなくなるまで食べるくせに」


 アンジェリカは、ラファエルの隣に座って、彼の肩に頭をのせる。

 ラファエルは、そんなアンジェリカを優しく抱きしめた。


「怖いわ。これからどうなるのかしら……」

「守るよ。この身にかえても」

「あなたが傷つくのも怖いわ」

「それじゃあ、絶対に死なないようにするよ」

「約束よ」

「ああ」






 後日、厳かで静まりかえった小さな戴冠式が、王宮で行われた。

 拍手は起こらなかった。

 セト王の傀儡が、この国のトップに立ったのだ。

 この国はエジ国に搾取され、やがて属国になるだろう。

 北方の雪山の中にいるよりも冷たい空気が漂っている。

 元王妃とメリーとヨイショトリオ達だけが、笑顔でダメーダヤを祝福した。


 ダメーダヤは、王になった。

 パレードも国民への挨拶も祝砲も行われなかった。







 王宮を見下ろす山の上から、ジェームズ•モリア達がその様子を伺っていた。


「大変なことになりましたね。ラファエルが王になると思っていたから、水面化で活動していたのに。謀反も考えなくてはいけません」

「全くその通りです。ジェームズ様! 強くない者が王になるなど、獣人族ではありえません!」

「エルフでも、知恵のない者が王になるなどありえません!」

「全くその通りです。これだから、異世界の知識にかぶれた者達は駄目なんですよ」


 ジェームズ達が、物騒なことを話しあっている。

 ふと、獣人のルピナスが異を唱えた。


「リーン様は異世界転生者ですが、何か他の者達と違うと思います」

「確かに……。何がどうとは言えないのですが……」


 ルピナスとエルフのエゼルは、不思議がっている。

 リーンのもつ力が謎なのだ。無茶苦茶すぎる。怪力だし、死者を甦らせる癒しの力を持ち、巨大化して暴れ、いろんな魔獣に懐かれている。

 ジェームズは考えこんだ。

 そして断言した。


「あれは……珍獣です!! どこの世界に、あんなに食べて、大怪獣と遊んで、雪崩を起こして、魔獣に懐かれる人間がいるんですか」

「確かに……!」

「さすがです! 主様」


 リーンは珍獣認定されてしまった。

 人間ですらないらしい。

 リーンがこの場にいたら、不満そうな顔をすることだろう。






 戴冠式の後、王宮で小さな宴が開かれた。

 セト王が、にこやかに挨拶をしにきた。


 エジ国の王殺しの身代わりは、誰でもよかった。

 たまたまダメーダヤ達がいたのだ。

 彼は、メリーの話す物語と現実との区別がつかない人だった。

 それを利用した。

 話をでっちあげて簡単な仕事をまかせ、事件の現場近くへ行かせた。

 酒をおごり、おだてれば、面白いように動いてくれた。

 メリーもヨイショトリオも、ダメーダヤのやることに疑問を抱かない。

 身代わりにするには、うってつけだったのだ。



 ダメーダヤは、ずっとふさぎ込んでいた。

 彼は冤罪をかけられ断罪されたアンジェリカが、どんなに嫌な思いをしたかを初めて理解した。

 胸の中が重くなってもやもやする。

 アンジェリカに何かを言いたいが、それが何か分からない。

 そして、彼が彼女に会う機会も、もうないだろうと分かっていた。



 セト王が挨拶に来た時、彼は決めていたことを実行することにした。

 ダメーダヤとセト王は、しっかりと手を握りしめて握手を交わす。

 ダメーダヤは、セト王に親しげに話しかけた。


「セト王よ。おまえは俺によく似ているよ。だから分かるんだ。おまえはきっとアンジェリカに嫌われる。そして軽蔑されてフラレてしまうよ。情けないな」

「何を言っているんだ?」


 セト王は、怒りで顔が真っ赤になった。

 ダメーダヤは、握った手に力をこめて離さない。


「あいつはな、曲がったことが嫌いなんだ。いつも一生懸命で心優しい。俺は彼女に嫌われているんだ。おまえもそうなるさ。この下半身無節操ゲス野郎!!」

「貴様ぁー!!」


 ダメーダヤは、笑顔で手を離さない。

 側で見ているものには、歓談しているように見えた。

 侮辱されて頭に血がのぼったセト王は、もう片方の手で儀礼用の短剣を抜いてダメーダヤを切りつけた。

 パーティー会場に、切り裂くような悲鳴が上がる。


「痛いなあ……! こんなに痛いとは思わなかった……。でもこれで正当防衛だよな……」

「離せ! 前言撤回しろ!」


 セト王の手を握りしめたまま、ダメーダヤは隠し持っていた短剣を抜いた。

 そして、セト王の急所を深々と突き刺した。



「俺は弱いから、おまえを倒すのは相討ちしか思いつかなかった……」

「離せ! 誰か俺に治療を……!」

「無駄さ。狩りに使う毒草を塗ってある。死んだ者は、大聖女でも治せないさ……」

「このクズが……!」


 セト王は、残った力を振り絞ってダメーダヤを魔力で吹き飛ばした。

 ダメーダヤの体は窓を突き破り、ボロボロになって中庭まで吹き飛ばされた。

 メリー達が悲鳴を上げて、ダメーダヤを追いかける。

 元王妃はショックで気絶してしまった。


 セト王は、自国の癒し手を呼びよせようとして驚いた。

 地下の迷宮に放り込んだはずの前王の王子が、目の前に立っていたのだ。


「叔父上! ここまでです!」

「どうして、お前が……!? 」

「この国の魔塔主様達が救出してくれたのです。地下の迷宮にいる私は、幻影です」

「な……っ!? 迷宮には凶暴な魔獣ミノタウロスがいたはずだ。どうやって……」

「ミノタウロスは、なんだか可愛い女の子に助けられたとか言ってまして、救出に来た子に懐いてましてね。この国をさまよっていた時に、傷を癒されて一緒にお菓子を食べて仲良くなったらしいです」

「そんなふざけた女が、この国にいるわけないだろう……が……がはっ…………」


 そして、セト王はそのまま息絶えたのだった。





「ダメーダヤ様!!」

「しっかりしてください!」

「ああ、いや!! どうして傷を癒せないの!?」


 セト王の短剣には、とても強力な呪いがこめられていた。

 メリーには、その呪いを浄化してダメーダヤを癒す力はなかった。

 ダメーダヤは、メリー達の悲鳴が遠くに聞こえた。


(すまない。メリー。俺様の愛した女よ。だが、あいつにアンジェリカをくれてやる気にはなれなかった。アンジェリカとラファエルは、俺様の子分だからな。……アンジェリカ、すまなかった……)


 ダメーダヤは、いろいろな体験をして分かったのだ。

 死んだ魚のような目をして褒め称える貴族達。

 自分を見ることなく、ため息ばかりの父親。

 何の刺激も与えず、真綿にくるんで閉じ込めようとする母親。

 アンジェリカと婚約してから、離れてしまった弟。

 唯一、アンジェリカだけが自分を真っ直ぐ見つめて、話しかけて教えてくれていたのだ。

 今でも彼女のことは嫌いだ。

 誰だって、軽蔑して注意ばかりしてくる相手を、好きになんてなれないだろう。

 もしもう一度やり直せるなら、あの北国の村でメリー達と過ごしていたかった。


(ラファエルと幸せにな……)




「いやー! ダメーダヤ様! 目を開けてください! 貴方が王でなくてもいいの! お願い! 目を開けてください…………」

「ダメーダヤ様…………。かっこつけすぎですよ…………」

「う……お願い……誰か……神様、お願いいたします。ダメーダヤ様を助けて…………」


 メリーは冷たくなっていくダメーダヤの体を抱き締めた。

 彼女の悲鳴のような叫びが、響き渡った。

 ヨイショトリオはすすり泣き、涙があふれて止まらなかった。


 パーティー会場では、エジ国のホルス王子と近衛兵達が、セト王の派閥を捕らえていた。

 あまりのスキャンダルに、パーティー会場では阿鼻叫喚の大騒ぎになっている。

 前王妃は気絶し、前王は体調を崩して運ばれていった。


 そこへ、凛とした咲き誇る黒薔薇のようなアンジェリカと車椅子に座ったラファエル殿下が現れた。

 彼らのもつ雰囲気に圧倒されて、パーティー会場はしんと静まりかえった。

 そして思わず、アンジェリカ達に皆が頭を下げる。

 騎士団長が慌てて駆けつけて、彼らに今あった事件について説明を始めた。

 アンジェリカ達は、的確に指示を出して対処していく。


 アンジェリカ達は、魔塔主達と連携して動いていたのだ。

 魔法と最新式の道具でパーティ会場の様子を知っており、騒ぎを鎮めるために動いた。

 エジ国の前王の息子ホルスは、ラファエルと握手をした。

 お互いに友好であると、皆に示したのだ。

 会場にいる皆が、次の王になる者を認め跪いた。


 


 王宮の庭からは、メリー達の泣き声がずっと聞こえてきた。

 庭へ、アイラとリーンとゼンザイが向かう。

 アンジェリカに、ダメーダヤ達を助けてほしいと頼まれたのだ。

 ラファエルは、アンジェリカにささやいた。


「いいのかい? 秘蔵の子達なんだろう?」

「私、借りは返す主義なんです」


 アンジェリカは、咲き誇る大輪の薔薇のように微笑んだ。



 ダメーダヤとメリー達がいる中庭に、アイラ達が現れた。

 ヨイショトリオは、彼女達の存在に気づいた。


「あ……。リーンちゃん。今はちょっとね……」

「アイラさん。何かいい魔法ありませんか……」

「ないことはない」

「本当ですか!?」

「ただね、闇魔法だからね。消えかけてる寿命を伸ばすには対価が必要になる」

「はい! 何でもします! ダメーダヤ様が助かるなら何でもいたします!」

「俺達も何でもします! ダメーダヤ様を助けてください!」


 アイラは言う。


「あなた達の寿命を削って、彼にうつす魔法だよ。長くは生きられないよ。それでもいいの?」

「かまいません! 早くうつしてください! 彼の命が消える前に!」

「俺達の分もお願いします!」


 メリー達は即答した。

 迷いはなかった。


「分かった。目をつぶって」

「「はい!!」」


 アイラは、彼らの素直さに呆れていた。

 優しいリーンは、すぐに助けようとする。

 しかし、死にかけている者を蘇らせるのは、リーン自身の命を削っている行為なのだ。

 メリー達がためらうようなら、呪いだけ消して去ろうと考えていた。


(まあ、本気でダメーダヤを助けたいんだろうね)


 アイラはリーンを見て頷く。

 リーンは、胸をはって前に出た。

 彼女は大人ぶりたい年頃である。

 大人とは、嫌いな人を助ける時に、もったいぶってこう言うものである。

 彼女はジェームズの真似をして、こう言った。


「一度だけですよ!」


 どこかでジェームズが、クシャミをしていた。






 後世の歴史家によると、ダメーダヤ王は王位についてすぐに殺害された『幻の王』といわれている。

 同時期に、「フライハイト」という作家名の冒険小説家が大人気になった。

 彼は、妻と仲間と一緒に北の山奥の村で作家活動をしていた。

 冒険小説の著者紹介には、そう書かれている。


 







(終わり)










読んでいただき、本当にありがとうございます。


ダメーダヤは、強烈なパワーのある人です。

ダメーダヤのキャラが強すぎて、作者も振り回されました(笑)。当初はもう少しミステリー寄りになる予定だったのですが、気づけば彼の物語になっていました。

彼は自由に動き回り、物語を書き始めた頃、彼がこうなるとは夢にも思いませんでした。

彼らは、北の村で自由な妄想力を活かして、作家として生きていきます。自由という意味を込めて、メリーが「フライハイト」という名を彼に送ったのです。




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