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6話 問答無用の連行


 昨日はケイスやロイに仲間として認められて良かったと思う反面、爆破とかダブルワーク的な出来事で少々チキンハートは心労気味である。


 それと、王都にある雑貨屋の店主と顔見知りになり、私が冒険者で怪力の持ち主と知って、王都の巡回パトロールをお願いされてしまった。

 ただ定期的な見廻りなので、ボランティアみたいなもの。そして今がその帰り道。

 ちょうど石鹸が無くなりそうなので、雑貨屋に寄っていこうと思う。

 

 そうそう、石鹸といえば洗濯用の洗剤代わり、いまだに2枚をローテーションで履く生活を送っている。でも生乾きは回避されたので良しとしよう。

 男性用のパンツは予備ということで……。


 王都の商店街で唯一、夜遅くまで開いている雑貨屋に入った。


「こんばんは。なあダグ、いつもの石鹸ある?」

「やあ、いらっしゃい。あるよ、パトロールの帰りか? ご苦労さん。そうだ、挽(ひ)き豆珈琲が手に入ったぞ、買ってくだろ?」

「うん、ありがと。それとミルクもね」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 私がポケットから小銭を出していると、いかにもこれからやらかします、といった2人組の男が入ってきた。ひとりは見張り役なのか、入り口で待機する。

 にじり寄る男が徐(おもむろ)にナイフを翳(かざ)す。


「おい! 有り金ぜんぶ出せ!」


 そこへダグが戻ってきて、カウンターの内側に入ると、状況を把握したのか、私の顔を見てニヤリと笑った。察した私も相槌(あいづち)を打つ。


「なあクレナイ、今日は売り上げゼロでさあ……」

「そうなの? じゃあ私の小銭をあげようか?」


 私達の掛け合いに男は眉を吊り上げ怒りを露(あら)わにする。


「このデカブツが! オレ様を馬鹿にすんのか!」

「あれ? 足りない? なあダグ、デカブツって言われたんだけど、お帰りいただいてもいい?」


 ダグは呆れた顔で溜め息混じりに言う。


「ハァ、あのなあ、ナイフ出してる時点で客じゃないんだよ、いいから追い出してくれ」

「あっそう。ごめんねぇ君達、店主がああ言ってるからさあ、あ、それとも大人しく帰る?」


 男は煽(あお)られたことに憤慨(ふんがい)して、ナイフを突き出し襲い掛かってきた。


「この野郎! 思い知らせてやる!」


 私はナイフを持つ腕を瞬時に掴(つか)み、入り口で待機する男を目掛けて投げ飛ばした。

 見事命中。ふたりは重なり合うように転がり、路上の壁に激突して昏倒(こんとう)した。


 ダグは何事も無かったかのように、品物を紙袋に入れ、今回はサービスと言って袋ごと渡してくれた。私は機嫌良く、路上で昏倒している男達を他所目(よそめ)に、家路へと急いだ。


 

 翌日――


 今日は休日。一日のんびりしようと思う。


「ハァ、旅したいなあ……」


 そういえば、マンモが出て以来、この森の奥へは行ったことことがない。

 ということで、パンと水を布袋に入れて、克服がてら冒険感覚で出かけることにした。


 鬱蒼(うっそう)と茂る木々の間を通り、獣道(けものみち)と思しき山道をしばらく歩いた。

 するとポツポツと雨が落ちてきた。次第に雨足が強くなり、ゴロゴロと雷も鳴り始める。

 どこかに雨宿りできる場所はないかと山道を下ると、山の斜面(しゃめん)に小さな洞穴(ほらあな)を見つけた。

 急ぎ足で洞穴(ほらあな)に駆け込む。奥行きはあるが高さがないので、入り口付近で屈(かが)みながら雨を凌(しの)ぐ。

 

 ふと頭をよぎった洞穴(ほらあな)という危険空間。恐る恐る奥を覗(のぞ)くと、いらっしゃいました、小さな獣(けもの)。

 ジッと蹲(うずくま)り襲う気配はない。よく見ると、白い毛に覆われた小狐(こぎつね)だ。しかもかなり痩せ細っている。

 私は持ってきたパンを小さくちぎって差し出してみた。小狐はこちらの様子を伺(うかが)いながらパンの匂いを嗅(か)ぐ。そしてひとつ、またひとつと食べ始めた。

 ちょっと和(なご)む。雨も小降りになったので、残りのパンを置いて私は洞穴から立ち去った。


 滑る足元に気を付けながら、何とか無事に小屋へ着いた。せっかくの冒険が台無しだ。

 と、ちょっとばかり異世界生活に余裕が出てきて、こよなく愛する旅行を懐かしむ。

 何か旅行雑誌の代わりになる本でもないかと、街へ行ってみることにした。


 しはらく歩いて王都に着いた。相変わらず買物客で賑(にぎ)わっている。街の人達とも親しくなり、露店や行商人の人々からも声を掛けられるまでになった。


「なんだクレナイじゃないか、今日は休みかい?」

「うん、そうなんだよ。またよろしくね」

「こっちこそ、クレナイのおかげで安心して商売ができるってもんだ。また巡回頼むな」

「相変わらず商売人は口が上手いなあ。じゃあね」

「おう、またな!」


 通りを歩きながら店の人達と挨拶を交わして、少し早い昼食(ちゅうしょく)を取ることにした。

 私の行き付けのお店は、街で評判のアイドル的美少女が営む飲食店だ。さっそく赴(おもむ)いて店のドアを開ける。


「いらっしゃいませ〜! あら、クレちゃん!」

「こんにちはライラ。お昼のランチってもう食べられるかな?」


 私をクレちゃんと呼ぶこの女性が店主。そして怒涛(どとう)のごとく駆け寄っては首に手を回し、耳元でヒソヒソと呟くのがもう定番になっている。


『クレちゃん、ちょっと痩せた? ちゃんと食べてる? こき使われてない?』

『ああ、いや、大丈夫だよ……』

『そう、またイベントのときはよろしくね!』

 

 私を気遣ってくれるライラは、なにを隠そうカイルの娘さんだ。よほどイベント獲得賞品が気に入ったのか、いまだにイベントの話を持ち出す。

 

 どうやらイベントは不定期らしく、品物が集まり次第なんだとか。

 王宮も裕福とまでは言えないらしい、理由はこの国の王子が行方をくらませているからだそうだ。

 隣国との関係もまだ保たれているが先はわからないと言う、王国特有の政略結婚というやつだ。


 それよりも、ライラには私が女であるこがバレている。もちろんバラした犯人はカイル。

 賞品の下着が少ないと問い詰められて仕方なく白状したとか。正体を秘密する条件として店の常連客になることと言われたが、そんなことで良いならと二つ返事で承諾(しょうだく)した。

 ライラは面白がって色々と世話を焼きたがる、姉さんみたいな存在になっている。


『いま私が胸(・)に栄養のある物を作るわね! 今日は休みよね? ゆっくりお話ししましょ!』


 そう言ってライラは目を爛々(らんらん)と輝かせ厨房(ちゅうぼう)へと消えて行った。私はライラのような爆乳とは違うからこそ男装ができるわけで……いったい何を食わされるのやら。


 そんな不安を抱えながらテーブル席に着くと、店の外が騒がしいのに気づいた。

 すると、勢いよく店のドアが開いて、ぞろぞろと男達が入ってきた。兵士だろうか、私の両脇に立ちはだかると、いきなり腕を掴まれ立たされた。

 私は突然のことにその手を振り払おうとしたとき、後ろから見覚えのある男が顔を出した。


「よう。昨日は随分と手荒に扱ってくれたなぁ、今度はお前が痛い目に合う番だ。まあ、俺は紳士なんで手荒な真似はしないがな。その代わり、暗〜い牢屋で暮らしてもらう。憲兵(けんぺい)の諸君、連れて行きたまえ。では行こうかデカブツ野郎、ワッハッハ!」


 こいつは確か、ダグの店を襲ってきた強盗だ。投げ飛ばされた仕返しだろうか——

 私は意見を述べる暇もなく、問答無用で馬車に乗せられ連行されてしまった。

 

 私はどうなるのか——


 

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