5話 仕事仲間
あれ以来ダンジョンへ行くこともなく、意気込んで冒険者になったはいいが、いまだ冒険者カードは通帳代わりにしか役に立っていない。
いわゆるペーパードライバー的なあれだ。
そして今日は初仕事で、木の伐採を教えてもらうことになっている。しかもわざわざカイルが迎えに来てくれるらしい。まあ、まだこの地を知らないのだから仕方ないんだけど。
荷馬車の音が聞こえる、私は斧を手にさっそく表に出た。
「おはようございます、カイル」
「おはようクレナイ。じゃあ現場に向かうぞ」
私はカイルの横に座り、奥さんの作ってくれた朝ごはんをいただきながら、ちょっとしたピクニック気分でカイルと現場へ向かう。
着いた先は木々が鬱蒼と茂る森だ。先に到着していたケイスとロイが、手を振って迎えてくれた。
さっそく作業開始と、斧と縄を持って森の中へと進んだ。森の中は薄暗い、なんとなくあのマンモと出会した時のことを思い出す。
おっと、気落ちしている場合じゃない。しかし斧はともかく、縄は何に使うのだろう。
「ねえカイル、この縄は何に使うんだ?」
「ああ、木を倒すときに必要なんだよ、まあ見てな。ケイス、始めてくれ!」
カイルの指示にケイスが手を上げ作業を始める。ロイが木に登り、上のほうに縄を結び付けると、下でケイスが斧を振い木を削る。
そして皆んなで縄を引っ張っはり木を倒す。この光景はデレビで見たことあるけど、今の私には面倒な作業でしかない。怪力の私がいうと角が立つかもしれないけど、それでもここはやはり、惚けた能天気野郎で皆んなを楽にしてあげたい。
「あのさ、どうして一気に切らないんだ?」
「切るって、木をってことか? そりゃお前、一気に切れたら苦労しない……お前まさか!」
「うん、私なら一気に木を切り倒せると思うよ。それに、薪割りで斧には慣れてるからね」
「ハァァァァ……クレナイならあり得る話か……」
そばで聞いていたケイスとロイの表情が険しくなる。当然の成り行きだ。
「おいクレナイ、薪割りと伐採を一緒にすんなよ」
「ごめんなさい。でもケイス、やってみる価値はあると思うんだ。試しにやらせてもらえないかな?」
私がそういうと、ロイがここぞとばかりにケイスを煽る。
「兄貴、試しにやらせてみましょうよ」
「そうだな、クレナイの怪力を見せてもらおうか」
隣りでカイルは黙って見守る——
ということで、私は持ってきた斧を構え木の下に立つ。皆んなは少し離れたところで待機。
私は斧を構える、そしてケイスが合図を出す。
「よし、始めろ」
合図と共に斧を振るうと、木は根元から切り離され、メリメリと音を立てて木は地面に倒れた。
皆んなはポカンと口を開けて放心状態。まあそういう反応になるよね。
「ガハハハ! こりゃ早く作業が終わりそうだ」
「……オレらの立場が……」
「……ス、スゲェェ……」
何を隠そう、私は裏の森で経験済みなのだ。だって薪は生活必需品ですもの。
それから私はカイルの指示で、伐採する木を切り倒すことに集中。ケイスとロイは木を集める作業に必死だ。ある程度の作業が終わると、カイルは昼休憩にするといって一先ず作業はストップ。
見ればケイスとロイは肩で息をしてもうフラフラだ。無理させちゃったかな……。
休憩中、食事をしながらケイスとカイルが会話する。私はちょっと離れたところから耳をダンボに聴き耳を立てる。
「なあ、お頭……普通は木の伐採に2、3日はかかるんだぜ、それがどうよ、ほんの数時間って……」
「まあまあ、クレナイに関しちゃ天職ってやつなんだろう、あまり気にするな」
「天職か……クソッ……!」
「なあケイスよ、クレナイも望んでスキルを得たわけじゃない、そのスキルで幸せにもなれば不幸にもなるとしたら、そう手放しで喜んでもおられんだろ。天は二物を与えず、楽もあれば苦もあるってことだ」
「あ、家を追い出されたってあれか……」
「皆んなそれなりに抱えてるものがあるのさ」
なんだろう、聴き耳を立てた私が罪悪感を覚える。良かれと思ってやったことが、ケイスやロイのプライドを傷つけてしまった。
怪力かあ、使い所を考えないと、凹むなあ……。
そこへ地響きと豪音が轟いた。見回せば近くの山で煙が上がっている。
疲れて眠っていたロイが慌てて飛び起きた。
「な、何ごとっすかお頭!」
「まずいな、あそこはドムが作業している採石場だ。おい皆んな! 行くぞ!」
「うっす!」
ドムってあのカイルの幼馴染で素敵なおじ様——
こうしちゃいられないと、私も皆んなの後を追い荷馬車に乗る。
山道を走って着いてみると、砂埃りと火薬の匂いで辺りは騒然としている。
この世界に火薬なんてあるのかと思ったが、そこは異世界、なんでもアリなんだろう。
ところでドムは? ケガ人は?
「大丈夫だよクレナイ、奴ならピンピンしてる。ちょっと火薬の量を間違えたらしいや」
「あ、カイル、そ、そうなの? 皆んなも無事?」
そこへ土だらけの顔のドムがやって来た。
「いや〜悪いな、騒がしてしまって、仲間も俺も無事だ。ちょっと良い岩石を見つけたんだが、硬いしデカいし重いしで、仕方なく火薬を使ったら、若い奴が量を間違えてな、このざまさ」
なるほど……怖っ!
「まあ、お前の監督不行届だな。それで、あの岩石をどうやって運ぶつもりだ?」
カイルが指差すほう見ると、なんと、デカい岩が黒々と聳え立つ。
これって重機じゃないと無理なやつでしょ、ショベルカーとかクレーンとか。
「それなんだよ、もう少し砕けると思ったんだが」
ん? 砕く、殴る——何とかなるんじゃね? と私の怪力スキルが脳みそを揺らす——
「あのう、私なら砕くことは可能かと……」
「おお、そうだよ、クレナイならできるかも!」
「おいカイル、いくらなんでもそれは……」
カイルはこれでもかってくらいのドヤ顔でドムを睨む。
「んー、そこまでいうなら……お願いできるか?」
「はい、やってみます」
特に何も言ってないけど……カイルのドヤ顔の説得力って凄い。
とにかく、これは頼まれたことだから怪力使っても問題ないということで。
手袋をはめ直し、岩石の前に立つ——
「よーし、一点集中! おりゃー!」
はい、見事に砕けましたとさ。まあ、わかってたことだけどね、やれやれ。
「こ、こりゃ凄い! 火薬なんて比じゃない! なあクレナイ、俺のところでも働かないか?」
ドムの急なお誘いに私は戸惑う。ダブルワークか、深夜のコンビニアルバイトと思えばやれなくもない。
「ドムさん、悪いがクレナイはオレらの大切な仲間なんでね、そう簡単に貸し出しはできませんよ」
背後からケイスの突然の仲間告知、嬉しいというか何というか、これ以上ない褒め言葉だ。
私は思わずケイスの手をとって——
「ありがとうケイス! 私もケイスみたいな立派な樵になれるよう頑張る!」
「お、おう、これからもよろしくな……」
真っ赤な顔で照れるケイス、意外と素直でシャイなケイスに好感度はアップ。私も凹ではいられない。
その後、砕けた岩を回収しようにも、重量半端なく、なので結局は私がドムの荷馬車数台に全て運んだ。もうダブルワーク決定じゃんね。
ああ、だれか栄養ドリンク持ってこい——




