第7話 苛烈
今回長め
【ヴィルべ城】
こうしてカロナの招待により、正々堂々城に入ったカイルとロイ。
カイルは大量の兵士達に見られながらも、辺りを見渡す。ここらに分身がいたら即戦闘する。
ヴィザという男があの封印を解けると思えないが……とても厄介な相手だ。
「カイルサン。継承式はいつだっけ?」
「十二時……後二時間だ」
「それまでになんかやると思うか?」
「本当に今は何の情報もないんだ。臨機応変だ」
どこかカイルは不安げに呟いた。
もし分身がいれば……そんな考えが何度も回る。
────────
【城内:1F】
ヴィルべ城は四階建て。
上も横も広いこの城は、普通に迷子になる。
しかもこの城には地図がない。
どうやったら最上階の継承式専用の部屋にいけるのかさえも分からない。
「案内がなかったら詰んでたな」
「……だな」
嫌な予感がこうも長続きすると、どんどん不安になっていく。
そんなことがありつつ、今も分身の気配は感じない。
「あいつは気配を隠すのが下手くそだ。まぁ……
隠すっつー知能がないんだがな」
理性と知能がない。
これが唯一の分かりやすい欠点かもしれない。
────────
【2F】
「到着しました。ではこれで」
案内人がペコリと頭を下げ、大きい扉を開けた。
そこはとても広い社交場。
継承式は後一時間。
この広い部屋で食事などなんなのをやる。
「食わないとかあるか?」
「いいもん食っとけ」
ロイとカイルは小声でそう話すと、(出来る限り)礼儀良く食事をしていた。
お貴族様の視線は少し痛いが、ここにルールはない。
そして守る義理もないのだ。
「勇者カイル様、何か一言お願いします」
「ボクハカイルジャナイヨ」
「あぁいえいえそう言うの結構なので」
最悪な事に貴族達の視線がカイルのみに集まってしまった。
「お願いします」と言われ、ため息を吐きながらもカイルは声を張り上げる。
「俺は偶然ここに来たに過ぎないし、今回の継承戦はどちらにも“加わらない”これは絶対だ!」
約束は守る。
繰り返し頭に反芻させるのだ。今回の目的は分身だと。
「カイルサンこれ美味いぞ」
「何!!?」
「お行儀良くやれてねぇじゃねぇか!」
【一時間後:4F】
継承式を行う部屋……通称“神部屋”
知能指数を極限にまで下げたこの名前は、選ばれた人間しか入れない。
問題なのは────
(何故ここにヴィザがいない?)
もうすぐで始まると言うのに奴がいないのだ。
継承権を持つヴィルべ家長男の近くには、護衛の兵士より深く集中しているカロナの姿が。
────継承室は魔法使いが何度も魔法を使っているから魔力が部屋に満ちているんです。だから変にうろちょろしないでよ。
カロナはじとっとした目をロイに向ける。
────なんで俺限定なんだよ!!!
(“カロナの言う通り”か)
これからやるべきは至って
「!?」
ダン!という大きな音を鳴らして扉を開けたのは、まさかのヴィザ。
剣を持っていて、身体強化が隅々まで至っているのを感じるにこいつは剣士か。
「はっはっはー!!!!」
下衆な笑みを浮かべて、真っ直ぐカロナの兄の方へ走る。
(馬鹿が────)
カイルとロイは止めようとした時────
謎の結界が二人の足元に映った。
なんだこれは?
そう考えるよりも先に二人はどこかへ消えてしまった。
「(邪魔な勇者はこれで消えた!! 後は────)お前だけだー!!」
猪突猛進。
しかしそれを許さないのは……
「なっ!」
ヴィザの剣を弾き飛ばし、カロナは奴を睨む。
隣にいるカイルの頼もしさも、ロイのサポートもない。
この状況でただ狼狽なく集中する。
「軽いね」
「……まぁいい。私にも“準備”がある」
そう語った時、ヴィザの足元にも謎の結界が。
「待て!!」とカロナが叫んでも、奴は気にせずどこかへ消えてしまった。
(一体……この場所で何が────)
カロナに蔓延る“嫌な予感”が、彼女の心に張り付いて離れることはなかった。
───────
【2F:ロイ】
「んだこれ!?」
変な広い部屋に……飛ばされた?
相変わらずこの城のお貴族様は何を趣味にしているのか分からん。
こんな広い癖に何もない部屋を作る意味がどこにあるのだろうか。
「……そんな事を考えている暇は────ねぇな」
ギャラリーの上にいるのは……女の戦士。
ロイの探知がこの部屋全体に行き届き、確実にそれを目に映した。
どうやらあの謎の結界は、敵の下へと強制的に転移させるもの。
それにしても……
「厄介な奴がいるなぁ」
「ふふっ。そう?」
女は上からロイを見下ろし、どこか観察するような目を向けていた。
この女は強い。
本当に。
「見逃してくれ。俺はアンタと戦う義理はない」
「私にはあるの。残念ダケド」
不敵な笑みを浮かべて女は更に語る。
「私の名前はリゼル。君の名前は?」
「ロイ。天才魔法使いだ……!」
開戦のゴングが鳴った。
相手はどうやら戦士のようだ。
「女だろうと手加減しな────」
リゼルの足が目と鼻の先に迫った。
戦士って……皆そうなのか。
クソ速い。
「あぁぁっっぶねぇ!!!」
ロイはギリギリで屈むことでなんとか躱した。
ギャラリーから一階への攻撃は遠かったはずなのに……
しかもその威力。
地面に小さなクレーターみたいなのが出来ていた。
「……悪くねぇ」
「私は体格が良くないからね」
「あ?」
「能力に頼って、強者でいるんだ」
するとリゼルはポケットから謎の袋を取り出す。
その袋からは魔力を感じる。あまり大きくはないが……
「『秘包』」
異能力発動の気配。
これがリゼルの異能力────!
小さな袋から取り出したのは……禍々しい剣。
(……んだこれ? ただの鉄剣……なわけないよな)
あの女。
剣なんか振れるタイプには思えないが……
「ふんっ!」
真っ直ぐ剣を飛ばした。
やはり振り回すより、飛ばした方がいいのか。
「火魔法!」
火球を三発飛ばす。
その威力はカロナの執事・ソプーとの戦いで習得済みである。
申し分ない威力。
剣ごと燃やしつく────
(霧散した!?)
火が辺りに散らばって消えてしまった。
「……ッツ!!」
完全に油断した。
なんとか刺さるのは回避できたものの……
肩を深く斬られてしまった。
「クッソ……!」
痛い。
なんだよあの剣しっかりとしたものじゃねぇか。
そんな考えが浮かびながらも、たった一つの恐怖がロイを襲う。
《これが殺し合いなのだと》
“人に”命を狙われる経験を、まさか短い期間で二度も経験するとは。
(痛い……痛い痛い痛い!! ……でも落ち着け!!
焦った瞬間から死ぬ!)
「ふ〜む。(意外と冷静だな、魔法使いが魔法を間接的とはいえど封じられたというのに)」
ロイは息を吐いた。
不安と恐怖を共に吐き出し、リゼルを睨む。
「いいの? 本当に死んじゃうけど」
「いいんだよ」
幸い剣はロイの方へある。
奴に拾われて、再び剣のキャッチボールと化したらジリ貧だ。
「………………」
リゼルはロイに対してある考えが浮かぶ。
それは意外にも彼に対する賞賛に近かった。
(最初の蹴りも、先程の一撃も、あの子は特に何かをしたわけでもないのに躱した。剣による一撃は不意打ちもあったのにそれさえも……)
余程鍛えたと見えるが……
躱すという技術にはシンプルだがそれなりに工夫がいる。
身体強化ができない以上、魔法使いに必要なのは人間本来のポテンシャル。
「何をそんなに考えてるんだ? 今度は俺の番だ!!」
「!!」
火魔法を速射させ、リゼルを剣に近づけさせない。
ドドドドと爆音を鳴らしながら発する火球は、かなりの速射性を誇るのだ。
「よっと!!」
一瞬で二階のギャラリーへと進み、彼女の一歩後ろをロイは魔法を追従する形に。
そうして端に追い込んだ時、リゼルはロイの真上へ飛んだ。
(それを待ってたぜ!)
一際大きい火球を空中で無防備な状態になったリゼルへと放った。
入る……! ロイの思いと同時に、リゼルは指を鳴らす。
「何!?」
指を鳴らした瞬間、あの特別な剣がリゼルの手に渡ったのだ。
リゼルの能力『秘包』
小さな袋は異次元となっており、制約こそあるが上限はない。
実際小さな袋に到底見合わない剣をそこに収納していた。
更に、一度だけだが命令をすれば手元に戻すことが出来る。
「クッ!」
真下に振り下ろされた剣を寸前で真横に躱し、そこからリゼルに連撃を叩き込まれる。
「本当に躱すのが上手いね」
「どうも!!(剣術のパワーがあったら即死だったなぁ! クソ!)」
ただそんな回避も長くは続かない。
ロイの肩や腕、足から血が吹き出る。
「もう……終わり!?」
剣は顔にどんどん近づく。
これを躱すか防がなかったら即死だろう。
(だったら……!)
「!!(カウンター!? 魔法で!?)」
いつもより更に大きい火魔法をカウンターとして叩き込む。
悪手だ。
少なくともリゼルはそう思った。
予想通り、火は再び霧散。
……ただ、ロイが狙ったのはそこではない。
「……霧散させてみろよ。風魔法!」
両手で互いに逆回転の風魔法を使い、四方八方に散らばった火を拾い、リゼルを囲んだ。
(!! まさか────)
「うらぁぁぁ!!」
その炎を巧みに操り、炎がリゼルを覆った。
「今の一瞬であそこまで……!?」
「霧散したって所からピントきたんだ。これが……俺という天才だー!!」




