第6話 トレーニングと突入
「トレーニング!!?」
嫌そうに呟くロイ。
「魔法使いにそんなのいらないだろ!!」とでも言いたげだ。
「いいか? お前は知らないだろうが魔法使いは身体強化というお膳立ては出来ないからな。純粋なフィジカルが必要だ」
戦士みたいな圧倒的な力は天地がひっくり返っても得られないが、それでも鍛える意味は十二分ある。
「もしかして……私も?」
自分を指差し不安そうに呟くカロナ。
彼女は美人で、見た目だけを見れば本当に戦えるようには見えない。
だが……
「令嬢だろうが女だろうが関係ない!! 剣士として戦う以上は筋トレ不可避だ」
「ですよね……」
分身と戦う可能性だってある。
ワンラウンドケーオーは避けたい。
せめて戦えるようにしなければ。
「理論は説明“しながら”やってやる。じゃあ着いてこい」
「……嘘だろ?」
「冗談ですよね?」
そんな訳ないだろう。
身体能力なしに、魔力のトレーニングなど勿体無い。
そうして王都を出た三人は全力で平原を駆け抜けた。
カイルは一応手を抜いて六割くらいのスピードで走る。
(でも結構速いぞ? いくら衰えてもそこそこ全力で────おぉ)
関心したように心の中で呟く。
かなりしんどそうだが、ちゃんとついてきてくれた。
「ハァッ!! なんで!! こんなに!! 走らなきゃいけないんだ!?」
「フィジカルを鍛えるって……そんな……大事なんですか!?」
ロイはともかくカロナは身体強化で誤魔化せる。
確かにそうなのだが。
走りながらカイルは答える。
「魔力による身体強化は倍率の変わらない掛け算だ!! 総量が増えようとこれは変わらん!! だから必要なのは魔力という重ねがけより肉体という土台なんだよ!」
カイルは今まで大量の魔法使いを見てきたが、戦士の身体強化抜きで腕相撲をして勝つ人間を何人も見てきた。
脳筋だからという訳ではなく、ただ単に必要なこと。
そうして走りながら、適当な森へと入った。
────────
【一日目】
一週間。
この長いようで短い期間でこの二人を鍛える。
まずは体力作り。
幸い二人は若くて活動的な人間なので体力は一般と比べたら多い方だ。
ランニングとか持久力などのトレーニングは不要だろう。本来こういうのは継続が求められる。
1週間でどうこうできる問題ではなかった。
「つまり、後は鍛えるのみ!」
筋トレに励むロイとカロナ。
「……カイルさん」
筋トレしながらカロナは怪訝な表情でカイルに“ある謎”を訊いた。
「そもそも一週間で筋トレしても効果なんて……出ないんじゃ?」
筋肉痛やその他の怪我などをしたら、療養期間に時間を取られるのでは?
というカロナの問いは尤も。
それに対する対抗策は既に確立している。
「んなもん、僧侶サマに治して貰えればいいだろ?
ぶっ壊れるギリギリまでやって、治してもらえれば筋肉痛による修復・増幅期間を完全にすっとばせる」
「「………………」」
人の心がないのか。
逆にあるからこそなのか。
きっとこの鍛錬は……地獄のものとなるだろう。
「じゃ、早速追い込め。開始!!」
【二日目】
ただ単に鍛え続ける。
カロナもロイもカイルも。
やれることはそう多くない。
戦闘を想定して鍛錬するのだ。
「カイルサン!! なんとかして魔力総量を増やす方法ないのかよ!!」
休憩中にロイが叫んだ。
「ない」
カイルは即答した。
本当にこればかりは才能の世界だ。
「さっきも言ったけど、これは身長みたいなもので突然伸びたりする可能性があるが……期待は出来ないな」
魔力総量は確実に努力でどうこうできるものではない。
仮に努力でなんとかなるのなら、世界の平均総量は高いだろう。
「ロイ。お前の魔力総量は平均よりかなり高い。しかも……流石に戦士並ではないが足も速いし、肺活量もあるんだな」
意外そうにカイルは呟いた。
冒険者としてのフィジカルはちゃんとある。
「おうよ! カイルサンに会うまでは一人で冒険してたからな!(魔物には殆ど負けたのは黙っておこう)」
【四日目】
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
カロナはしんど過ぎて呼吸することで精一杯だった。
僧侶様の回復魔法は偉大だ。
しんどすぎる筋肉痛を一瞬で治せるのだから。
「カロナ。そう言えば俺忘れてたんだけど……お前姫さまだったな……」
「あはは……今更ですね」
ヴィルべ家のご令嬢。
そんな彼女を王国の許可なく連れ出して筋トレさせている摩訶不思議な光景。
カロナは城に蔓延る悪を倒したいからこそ、カイルと共に鍛えている。
しかし状況だけ見れば、本当に────
「怒られる? これ俺」
“元”勇者がセンスのある人間を見つけて鍛えましたといえば逃げられるだろうか……
打算的な考えが頭の中を掻き乱す。
その乱雑さにどんどん頭が痛くなっていくようにも感じた。
「兄には言ってあるのでこの一週間くらいは……多分。“私はおてんば娘だから”大丈夫です」
「…………?」
「よし、もう一セット頑張りますね!」
【五日目】
継承戦は明日。
最後の鍛錬。
……と言っても、何かが変わるわけじゃない。
流石にこの一週間で体の軽さや、持久力などは“少し”着いてきたわけだが……
流石に地獄を見た。
走って鍛えて走って鍛えて走って鍛えての連続。
休憩が長めなのが幸いした。
そんな時間に、川原でロイとカロナは休憩中。
「ロイ君。あなたはカイルさんとどれくらい旅をしてきたの?」
「この鍛錬を合わせてまだ一週間しかやってねぇ」
そもそも鍛錬を旅と呼んでいいのか。
まずそこがはっきりしてないが。
「あの人を超える宣言したんだって? カイルさんから聞いたよ」
クスクスと笑うカロナにどこかムキになって「うるせぇ」と返すロイ。
相手がご令嬢と言えど遠慮しない。
元よりそんな性格のロイだが、この一週間でカロナとの仲は深まったらしい。
「カイルサンは純粋な身体強化と魔力コントロールであそこまで強いんだ。中々の距離を感じるぜ」
「“魔力の多さ=強さ”だからね。カイルさんみたいな変態は世界中探してもいないと思うよ」
川の水をどこかぼ〜っと見つめるカロナに違和感を覚えたロイ。
「おい。なんか大丈夫か?」
愚直で真っ直ぐなロイでも、ある程度の察しの良さと賢さがある。
イチ魔法使いとしての知恵は経験を重ねていくことにどんどん成長していく。
「……びっくりしちゃった」
「あ?」
「キミって女の子の感情に気づけるんだ〜って」
訳が分からない。
そう言いたそうなロイの表情に、カロナは再びクスクスと笑う。
「キミはさ……嘘をついた時────いやなんでもない」
「……そうか」
これ以上は聞き出せないだろう。
どう言うことだと訊くのは簡単だ。
それでもその言葉から得られるものは、本心……そのものではないと、なんとなく思ったロイは口を閉ざした。
「カイルさんの強さの秘訣って、なんなんだろう?
あの人が言うには、剣士としての腕は私の方が上とか訳の分からないこと言うし」
気まずい雰囲気になる前にカロナは口を開いた。
「身体強化を隅々にやれるお前は隙が少ないし確かにそうだろうな。俺とお前は平均より魔力量が多いからカイルさんよりかは出来ることが多いし」
元勇者カイルに追いつく為には、壁を痛感し、そこから冷静に鍛えていかなくてはならない。
普段うるさいロイも、そこは静かに分析していた。
「理屈は多分こうだ。
あの人の魔力総量を十とする。普通の人間はそれを“全身に一ずつ分ける”……まぁつまり、満遍なく強化すると言うことだな」
カロナはどちらかと言えばこのタイプ。
ただしロイは……
「カイルサンは、攻撃する箇所・防御する箇所……そこだけに十を割り振る。それ以外はゼロだ。ほぼ生身」
「……だろうね」
「勇者カイルについてまとめた本は、必ず書いてある文章があるんだ」
その文は今のカイルの戦術を知ると、「そりゃそうだろう」となる一文。
「『勇者カイルは魔物との死闘を制した』
……でしょ?」
「あぁ」
魔力の全てを攻撃と防御の“一部分”に集中させるなんてイカレたことをしてるんだ。
いくらカイルと言えど、読みは外れる。
「必要以上にダメージはくらうだろうな。でも攻撃はピカイチ」
カイルが今の考えになっているのは、大方そういう経験があったからだろう。
そうして四・五年前に人類の天井を“叩いた”人物の一人として君臨したのだから。
「俺は魔法使いだから、全身の身体強化はできねぇけど、カロナ、お前ならできるんじゃないか?」
「私は堅実な闘いが好きなの」
「あそう」
そんなやりとりが終わり、川の流れを見つめ続けた二人。
そろそろ鍛錬に戻らなくては。
「ロイ」
「あぁ? てか君付けやめたのか?」
「私は……この国をヴィザに渡したくない」
国王候補の一人。
ヴィザ。
下衆な笑みを浮かべて、欲望のまま生きる男がこの国を引っ張っていけるとは到底思えない。
確実に何かをしてくるはずだ。
「だから手伝ってくれて……ありがとう」
「良いんだよ。感謝ならカイルさんに言ってくれ」
ロイにとっては、守りたい人であると同時に強くなる為の経験の一つ。
「……相手どうくるかは分からないが、この国を乗っ取るなんてことさせねぇさ!」
────────
【???】
槍の男、細身の女、長身の男は翌日の作戦を整理していた。
「どの道、依頼人以外を殺すんだろ? シンプルじゃん」
リーダーである槍の男は面倒くさそうに呟く。
「ザルク! もう少し真剣になって」
女の言葉に長身の男が強く頷く。
「普通に国の兵士や貴族が集まるんだ。油断しない方がいい」
「おめーは能力でどの道動けねェだろ」
「それはそうだが……」
槍の男・ザルクはこの中で一番強いのに、一番楽観的。勇者を殺せばそれで終わりだと思ってる。
「リゼル……お前だって翌日に何が起きるか楽しみなんだろ?」
「それは……! 否定しないけど」
戦うのが大好きな二人。
この槍男と細女は昔から何も変わらない。
「一応聞くが、勇者とは誰がやる?」
ザルクがそう聞くと、リゼルと長身の男がザルクをじっと見つめる。
「だよな」




