第4話 魔力
「頼みたいことは俺の分身の監視だ」
「……だと思った」
レリルは簡潔に呟く。
ワインをちびちび飲む彼は、酔っ払った様子を感じられない。
ただ口寂しいから飲んでいるのかなんなのか。
それさえも分からない。
カイルはロイと共にジュースを頼み、レリルの隣に座った。
正直ギルドの人間に頼み込めば、この街に用はない。
災害みたいな奴を簡単に倒せる奴が現れるまで。
もし封印が破られた時────
「何人も死ぬ。魔王討伐に向けられた“殺意”が、なんの罪のない人間に向けられる可能性がある」
カイルはいつもよりもコップを強く握る。
簡単に倒せる敵ならどれほど楽だっただろうか。
「…………分かってるよ」
無関係な人間が死ぬ。
その重さはレリルだって分かってる。
「頼まれてくれるか?」
「つかもうやってる」
「え? あぁそうなんだ」
先程の真面目ムードはどこへ行ったのか、カイルはどこか適当に返す。
「じゃ俺はもう行く。次の街で仕事があるんだ────いや、これは言っておこう」
「本来これは機密なんだがな」と付け足し、レリルは二人の分も金を払ってくれた。
「何故か最近、分身の辺りを調べてる“この都市”の人間がいる。もしかしたら────」
「………………」
それだけを言い残し、レリルはどこかへ行ってしまった。
どうやらこの街からまだ離れることができないらしい。
もし分身を利用するのなら────
「そんな奴……倒さなきゃな」
まさかこんな序盤の旅から、ケジメをつける為に戦うとは。これから面倒になりそうだ。
────────────
適当に宿を探して、そこでこれからの作戦会議をしていたカイルとロイ。
本当なら王都……城に乗り込んで事情を聞きたいが、勇者時代のコネなんていうのはほとんどない。
「あ〜あ! 貴族の知り合いがいればな〜!」
「呑気だな」
「しゃーねーだろ。ロイ……お前もなんかコネないの?」
「ねぇーよ!! 駆け出しだぞ俺!!」
カイルの理想は、政治に巻き込まれずに分身を利用しようとする輩を特定。
(利用される前に)即時に倒す。
これが理想。
「…………ん? なんかポケットに入ってる」
ロイの尻ポケットに入っていたのは、まさかの手紙。
とても綺麗な時でこう書いてあった。
《夜。城から北東にある森で待つ》
罠だ。
“罠でしかない”。
送ってきた人間が誰かは知らないし、いつの間に送ってきたのだろうか。
「(全然気づかなかった……つ〜か、本当にいつだよ!?)……どうする?」
「…………行ってみるか」
暫く考えた上で、そう判断した。
悪者ならそこで終わり、何かしらの協力なら相手次第。
どちらに転んでも悪くない。
「だな!! このままじゃ何も動かねぇし」
カイルの言葉にロイも頷き、夜に備えて……寝た。
そうして数時間後。
【夜】
手紙通りに北東の森へ進む二人。
真っ暗な森。
全く明かりなどないこの場所で、いつ襲われるかもわからない。
「…………」
ロイもどこか集中している様子。
「………………」
それはカイルも同じ。
罠だとして、逆に考えたら“ここで勝つ方法”があるという事。
ここで“元”勇者に勝つ可能性。
「………………!!」
木の端から何かが光った。
少し遅れて、殺意が上から漏れ出た。
ロイもそれに気づき、手から火魔法を放つ準備をする。
殺意。
十人十色な“ソレ”は、隠し方や出し方でだいたいの力量が分かるのだ。
「こいよ」
木の端からガサっと音が鳴り、敵の“刃物”が月の光で漸く確認できた。
しかも二刀流。
長剣と短剣。
「おっ!!」
カイルは寸前で回避。
接近戦が必要な以上、こんな暗闇でもここまで近づけば見える。
そうして目を凝らして、よく見ると────
仮面をかけた銀髪の“女”がこちらを見ていた。
「ソプー!!」
突如女がそう叫ぶ。
そうして辺りを警戒したカイルだったが、彼女の狙いはそこじゃない。
「了解です。お嬢様」
「!!(俺か!!)」
年老いた男が、ロイを森の奥へと蹴り飛ばし分断。
嵌められたのか、狙いがあるのか────
「あなたの相手は私よ」
「何が狙いだ?」
「私に勝てれば教えてあげる」
純粋な剣術メイン。
間違いなく強い。
(魔力が隅々までに至っている……こいつは剣士としてかなりの強さだな)
取り回しの良い短剣と、威力重視の長剣。
それを無駄なく振り回すせいで、本当に隙がない。
「……チッ」
カイルの肩から血が吹き出る。
間合いをしくじってしまった。
「このままじゃ……私の勝ちよ!!」
軽く跳び上がり、そのまま真下に剣を振り下げようとするも────
カイルは近くにあった枝木を広い、二つの剣を真正面から受けた。
「!?」
「剣術と威力は申し分ないが────魔力操作は俺の方が上かな」
勇者パーティの中でもスピードと魔力操作には一番だという自負。
主に後者は誰にも負けない自信がある。
「たがたが木の棒でッ……!!」
「一流はなんでも武器にするんだよ」
二つの剣を弾き、一本の枝で女との攻防が一瞬で逆転した。
たった一本の枝が鉄剣のような音を響かせ、連撃を叩き込む。
「ッ……!! 一体どうして……!!?」
「結局魔力って、物に“隙間”なく高密度で込められればなんでも武器になるんだよ」
そうして木の棒のまま、女を制圧してしまった。
剣を吹き飛ばして彼女の首に棒を向ける。
「目的は?」
出来る限りドスの効いた声で。
「……勝ったら私の手伝いをして欲しかったの」
「そもそもお前が俺に勝てるなら、手伝う必要ないのでは?」
「それは私が見極めるの」
“彼女”は仮面を外し、綺麗な銀髪とその色と反対な金色の目が暗闇に輝いた。
端正な顔立ちにとても嫌な予感がカイルの全身を伝う。
「私はカロナ。カロナ・ヴィルべ」
ヴィルべ家。
“元”国王であるデブル・ヴィルべの娘。
完全にお貴族様だ。
「“元”勇者のあなたにしか頼めないものがあるの」
「……要件は簡潔に────!?」
そんな事を言おうとした時、森の奥から爆発が。
こんな状況で誰がなんて考える必要はない。
間違いなくロイだ。
「しまった! ソプーに戦いの中止を伝えないと!」
カイルとカロナの二人は森の奥へ走る。
そんなに遠くない所ではあるが────
────────
【ロイ】
「ッ……ハァ……ハァッ……!」
強い。
息も荒い中、ロイの中には様々な考えが浮かぶ。
(なんだこのオッサン……というかジイさん。見た目は俺よりガリガリなのに強ぇ!)
(魔力総量は彼の方が圧倒的に上か。まだ十六辺りの歳でここまでの魔力。まさしく天賦……か)
執事ソプーの思考にはロイへの惜しみない賞賛と警戒が含まれていた。
「火魔法と雷魔法は火事の元。水と風でお相手しましょう」
と言っても、魔法をコロコロ変えれば肉体にダメージが入る。
先程あの執事は水魔法を使っていた、つまり水を中心に扱うだろう。
「良いぜ! かかってこいよ。天才の底力を見せてやる(ジイさんが他の魔法に使うという選択肢に考えを割く必要はないな、魔法をコロコロ切り替えられるのが俺の強み!)」
「自信家なのは素晴らしい事です。(とは言え、私も粘られたら魔力差で負ける。あまりチンタラはしてられんな)」
互いに深く息を吐き、集中し直す。
「では」
先出しで水魔法を三発連続で出したソプー。
「水魔法!!」
大きい水球を一発だけ出すロイ。
圧倒的な威力で相殺だけではなく、勝てる。
……が。
「何!?」
あんな小さい水球三発が、魔力をたくさん込めたロイの一撃と相殺した。
相殺したことにより、砂煙が森を覆うと。
砂煙からソプーが突進。
その手にあるのは────
「フンッ!!」
「がッ……!!」
腹に水魔法を押し当て破裂させる。
爆発により、近くの木に衝突した。
「いってぇ……!(なんだこの違和感……なんであの爺さんは俺の腹を……魔法使いで唯一身体強化できる場所を……?)」
そんな事を考えてきた時。
遠くの場所から、女の声が。
「ソプー!!! 戦いは終わりよ!!」
隣にはカイルがいた。
今叫んでいる女がボコボコにされている以上、買ったのはカイルだろう。
「ロイ!! 無茶すんな────」
「わりぃカイルサン!!!」「手出しは無用ですお嬢様!!」
ロイとソプーの二人は、同時に戦いをやめさせようとするカイルとカロナの一言を遮り、叫んだ。
まだ決着は着いていない。
これからだというのに中断は勿体無いのだから。
「ソプー! これは命れ────?」
カイルは彼女の肩を掴んで止める。
「まぁ、見てろ」
ロイの目がいい感じだ。
あの執事は格上、ジェナン程の実力を持っている訳ではない為にいい刺激になるだろう。
(どうしてあの小規模な水魔法で俺が負けた? …………魔力精度って奴か。魔法をロスなく放てれば勝てるんじゃないか!?)
とはいえ、どうやるか。
ロスを失くすなんて、簡単に行くものじゃない。
────魔力は第二の体力だ。使い方を誤れば戦いで死に近づくぞ。だが、上手く使えれば戦いは一気に有利になるぞ。
「!!」
王都ヴィルべに行く最中、カイルはロイに惜しみなくアドバイスしてくれた。
大体頭に入れていた気がしたが、やっぱり戦いとなると頭に抜けるものだ。
────集中力だ。腹に駆け巡る魔力の一つ一つを意識するんだ。
「ははっ! やってやるよ! 天才ロイの大躍進! 良く見ておけ!!」
〜人物紹介〜
名前:ロイ・アカデウム
評価(五段階)
パワー 2
スピード 3〜4
テクニック 4
魔力総量 5
魔力操作 4




