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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
第二章 空中都市編
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第32話 前“祭”

恐らくアンのように能力である『大砲(カノーネ)』は使えない。

あれには魔力を“放つ”感覚と制御する力が求められる。


だがシアンにもできることはある。

セシーが死んだと彼女に告げた時、カイルの顔をボロボロにするくらいの出力で彼を殴った。


その威力は格闘を主体とする者達と何ら差のないものだった。

他者を圧倒する攻撃力。

マグレでもたまたまでも、その一撃を出したということは、鍛えれば安定して放てるということだ。


「さて、応急処置や受け身はこんなもんでいいだろう」

ひたすらにカイルに投げられ飛ばされ、受け身を取る練習をしていたシアン。


これだけでもかなりしんどかったが、カイル曰くここからが本番らしい。


ロイさんは今頃どんな鍛錬をしているのだろうか。

女王に……

そんなことを考えても今は無意味だ。


多分。シアンも同じ目に遭うのだから。

「よし、じゃあ……打ち込んでこい」


打ち込んでこい?

まさかこのまま戦うというのか。

シアンの頭が真っ白になる。

まだ基礎の基礎しか教えてもらってないのに?


「大丈夫、反撃はしないさ」


「…………はい」

怖い。

今すぐアンに代わってほしい。

反撃しないと言われても、カイルの目は命を狙うそれだ。


互いに膠着状態が続いて約二十秒。

カイルは彼女の恐怖を見抜いたのか、敢えて……こう言った。


「もし俺が……セシー殺した……ドルクだとしたら?」


「…………!」

彼女の眼光が変わる。

地雷を勢いよく踏んづけてみたのだ。


シアンの中にある後悔や怒りが留まることなく溢れ出し……“爆発”した。


来る────!

そう思った頃にはもう、シアンの拳がカイルの目前に迫っていた。


(────速)

大きな衝撃がカイルの周りで起き、どんな爆薬でも鳴らせないような爆音が森中に響く。

衝撃波によって周りの木や地面は大破。

怒りに任せた一撃はアンのそれを凌駕していた。


それによって出来た砂煙が消え……

「あっ……!」

シアンは漸く正気を取り戻す。

カイルを怒りに身を任せて殴ってしまった。


嫌な言い訳が彼女の頭を支配する前に、探そうと思い、動こうとした時。


「!?(動かない……!?)」

拳を前に突き出したまま、体が一切動かない。

掴(・)ま(・)れ(・)て(・)る(・)?

まさか────


彼女の目の前。

丁度砂煙が綺麗に晴れると、そこにはシアンの拳を掴んだカイルの姿が。

彼の拳は血に染まっている。


「強すぎだろ」

やれやれと言った様子で呟くカイル。

彼の手を心配しようとした時、“彼女の拳”から激痛が。

「カイルさ……痛(い)ッ……ッ〜!!!!!」


血に染まっているのはカイルの拳じゃない。

シアンの拳だ。

魔力による身体強化がいまいち上手くいかなかったのだろう。


「“速く攻めること”と“殺す”ことに意識を向けすぎたな」


所詮怒りによる攻撃なんてそんなもんだ。

いまいち勢いに乗り切れないのが厄介なポイントなのだ。


まぁでも……

(上手く行かなくてこれほど……!)

無意識のうちに能力が発動したのか。

『大砲(カノーネ)』の出力“だけ”を引き出し、放つ。


拳に能力の何らかを纏い叩き込む、シアンの通常技。

ただ、身体強化が今も下手だ。

故にこの一撃を叩き込めば、体はボロボロになる。


「うぅ〜!!!」


「さっさと教会行こうか」

使いこなせるのなら、誰よりも強いパワーを誇るだろう。これからが楽しみだ。


────────────

【ロイ:城】


初心に帰れたロイ。

自身の魔力総量を信じて、女王に一泡吹かせてやる。


魔法の切り替え。

本来は簡単に切り替えられるものではないが、ロイは一瞬で切り替えられる。

それだけは肉体的ダメージが何故だか入らないのだ。


「ふっ!!」

大きな火球を一気に三つ飛ばす。

ロイは走りながら、一歩も動かないセーナの隙を作る。


槍による一振りで火球を全部弾いた時、ロイは十を超えた風魔法の矢を作り、上へと飛ばす。


セーナもロイも、視線が天井の方へと向いた。

風の矢は弧を描き、彼女の頭に上に迫る。


風の矢からあまり強い魔力を感じないし、このまま数十秒待ってもいいくらいには“遅い”。

そのまま直撃したところで……いや違う。


(────視線誘導!!)


そうして彼女がロイの方へと向いた時、風の形をした槍が目の前に。

即座に槍へ紫色の炎を纏い、槍を回すことで風の槍を“喰らった”。


「残念!」


「アンタがな」

そう笑うロイの鼻から血が吹き出る。

彼女が上を向くよりも速く、風の矢がセーナに直撃した。


ジェーグナー戦でも行った、魔法の遠距離知覚。

肉体・魔力的に対するダメージと消費は半端ないが、騙し討ちがやりやすくなる。


遠距離で魔力を込めて、速度を増やす。

制御技術があるなら魔力消費は極限まで減らせるが、魔力コントロールが苦手なロイはダメージを受けてしまう。


「…………!!」


少しだけ怪我したか?

防御が遅れただろうに……ほとんどはたき落としたのか?


「…………今のは油断したわ。(遠距離の魔力コントロールって本当に読めないわね。探知を怠った気はしてないんだけどね)」


ロイの鼻からドロドロと血が流れる。

魔法使いとは自由自在に魔法を変化させ、操るのが強みだ。


頭が痛い。

無理した代償か。

確かに風魔法でダメージは与えられた。それでもまだまだ足りない。


視界が霞む。

コントロールするならまだしも、更にそこから威力を増やしてみるという“アドリブ”をやった代償か。


「まだ……!」

倒れる寸前に、セーナがロイを抱える。

良く見ると、彼女の頬に矢が掠ったのだろう、少しだけ血が垂れていた。


「迷いがなくなったのなら。あなたはもうあいつに勝てる力を持っていると思うわ」


自身の“底”を知っているなら、それに関して調整できる。ロイは今まで、魔力総量が多いことは知っていたが“底”は知らなかった。

だからこそ変に制御してしまう。


「…………そう……かよ……」

ぶっ続けで戦い続けたし、何回も殴ったし、無茶もした。

いくらロイでも限界だろう。


「ゆっくり休むことね」


────────────

【夜:宿】


シアンもロイも同じ師匠の下で少なからず成長した。

魔族に勝てる……とは限らないが、少なくとも瞬殺されることはないだろう。


「ほれ」

カイルはロイとシアンの二人に金を渡した。


「セーナと話してくる。悪いがお前ら二人でなんか美味しいものでも食べてきてくれ」


雑に自分の財布を渡すと、ロイ達は驚いた顔でカイルを見る。

大量に金貨が入っていたからだ。

これくらいあればどのお店でも充分食べられるくらいにはある。


……というか足り過ぎるくらいに。

「じゃ」


そのまま宿からそそくさと出て行ったカイル。

ぽかんとする二人。

「女王様と……仲……悪いんだよね?」


「……そう言ってたけど」

あの二人を見ていて、そんなに仲の悪さを感じない。

むしろカイルの方から拒絶している感じだ。


それを聞きたい頃には彼は夜の闇に消えていた。

……後で聞こう。ひとまず今は────


「何か食いに行こうぜ?」

シアンの方を見ると、彼女はどこかモジモジしている。変な空気になってきた。


「は……はい!!」

そのまま二人も夜の街に入る。

夜でも(夜と言っても八時くらいだけど)街灯のお陰でこの街は賑やかだ。


本当ならもう少しガッツリした物が食べたいが、シアンは女の子だ。

ここは……


「シアン、何食べたい?」

訊いてみよう。

こういう時、何故かロイはバッドコミュニケーションをしない。


「え!? いやあのその…………」


「どうした? 何か赤いぞ」

それとさっきからずっとモジモジしている。

照れているのか?


「あの……私……同年代の男の子と出かけるの初めてで……」


村の人間は年下の子か、年上の老人しかいなかった。

残念ながら同年代の友達はいなかったのだ。

ロイはあまり気にしない。


「あぁそう……」

なんか気まずくなってきた。

シアンはぶつぶつ何かを呟いている。

多分、別人格のアンと話しているのだろう。


ずっと頬が赤い。

そんな空気を打ち破るコミュケーション能力は持っていない。

いつもの数倍首を動かし、店を探す。


すると、子供連れの親がレストランに入っていくのが見えた。


「あ! あれ行こうぜあれ!!」


「え────うぇぇ!!?」

むさ苦しい店でも、失礼ながら高級感もない。

丁度いい店があるじゃないか。

シアンの腕を引っ張りながら、ロイはその店に入ったのだった。




毎日投稿と宣言して、できないと悲しい気持ちになるので不定期投稿となります(最低でも二日に一回は出すつもり)。



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