第33話 運動
【レストラン】
女の子のシアンに合わせて、家族連れなどの人間が多いレストランに来た。
ずっと緊張している彼女をなんとかして和ませたいのだが……頬を赤らめてキョロキョロしているのを見て、何も出来ないと悟る。
残念ながら……食べ終わるまでこのままだ。
基本的に旅がほとんどなので、飲食店に行くことは少なかったし、カイルの趣味は節約なのであまり行けなかった。
メニューを見ながら、ロイは肉料理を探す。
シアンは何を食べたいのだろう。
そして会話のないこの状況を打破したいため、訊く。
「何食べたい? パスタとかか?」
「え!? いやその……」
「緊張しすぎだ。大丈夫か?」
あまり高級そうな感じはしない店にしたが、ロイも初めての飲食店はかなり緊張した。気持ちはわかる、分かるのだが。
ロイが見つめると逸らされるし、逆に逸らすと見つめられる。
そんなシアンの緊張をよそに、彼女の頭の中では別人格であるアンが『あれ食べたい!』や『シアン、これ注文しよ!!』と促してくるのだ。
だが、シアンの食べたいものはパスタやサラダで、アンの食べたいものは海鮮類である。どうしても相容れない。
「……シアン?」
「あ、これ食べたいです。“海鮮パスタ”? というもので」
ロイが「緊張しすぎだ」と言った後からシアンが口を開くまで、五分くらいかかった。彼も女王への謁見を経験したから気持ちが分かるのだ。
緊張し過ぎると、どんなに美味しく味の濃い食べ物でも無味無臭となる。
せっかくこんないい店に来れたんだ。
美味しく味わって欲しいのだが…………
注文を終え、今もなお緊張するシアンに諭すようにロイは語る。
「なぁシアン、そんなに緊張しないでくれ。
子供とか嬉しそうにご飯食べてるだろ? 経験として緊張状態ではどんな物でも美味しくなくなるからな」
「……! そうですね……! 落ち着きます」
シアンは落ち着くために深呼吸する。
人もたくさんいるし、目に映る先には小綺麗な店内。
慣れよう。
「お待たせ致しました。ハンバーグと……海鮮パスタです」
「来たぞ、食べようぜ」
「……はい!!」
────────────
【セーナとカイル】
明るく、優しい雰囲気に包まれているロイ達。
それとは真逆に、気品高い店に呼ばれたカイル。
こう言った店は本当に嫌いだ。
待ち時間ギリギリまでロイ達を見守っていたが、いい店に入ったと思う。
……出来ればそっちに行きたかった。
カイルはスーツ姿に着替え、セーナが貸切にした店へと入った。
もっとラフな感じで行きたかったが、店に罪はない。
ここは郷に従おう。
「女王様は奥のテーブルでお待ちしております」
「ありがとう」
そのまま気怠げにテーブルへと向かうと……いつもとは大きく違った赤いドレスで、退屈そうに待っていた。
「遅いじゃない」
「悪いな」
丁度同じタイミングでテーブルに料理が運ばれた。
彼女はカイルがあまり肉料理が好きじゃないことを知っている。基本は野菜メインだ。
セーナとカイルは互いを見つめ合うも、特に何か言葉を交わすことなく、料理を頂く。
(この人意外と綺麗に食べるな)なんてことを考えても口に出すことはないセーナ。
そうして食べ終わった二人。
シアンとロイのような空気と同じようで、全然違う気まずい空気が、店中にどよめいていた。
「お互い、もうちょっと素直になるか?」
カイルはそう呟く。
いい加減ロイとシアンの前で喧嘩するのは避けたい。
かっこいい大人を見せたいわけではないが、かっこ悪い姿は見せたくない。
「……主に不機嫌な対応をしているのはあなたじゃない?」
一理ある。
彼女のやり方が気に食わないというだけで。
拒絶するのは良くない、分かっているのだが……
「何度も言うように、私は国の為に尽くしてきた。
その為には必要な犠牲はあったの」
無論兵士はそれに賛同しているし、国の為に尽くす身としてはそれによって結果が出るなら喜んで命を差し出す者達だ。
「……だからと言って、結果を出す為に兵士の命を作戦の前提に組み込むのはやめろ!」
それによって結果を出している。
今までこの国が敗北していない理由なのだろう。
もし彼女が理想を愛する英雄的思考なら、この国はどこかで負けていたのかも。
お互いに、自分の考えを信じて賛同して欲しい気持ちがある。
ただそうなってしまったら、セーナもカイルも尊敬の念が消えてしまう。
そうなって欲しいが、なって欲しくない。
面倒で、矛盾した想いが(認めたくないが)ある。
「……少しだけ“ストレス発散”しない?
運動には丁度いいわ」
「運動? 一体何を────」
カイルが言い切る前に彼女のおみ足が彼の真横に迫った。そのままドゴォと音を鳴らし、ぶっ飛ばされる。
広い店で貸切。
まさか貸し切った理由がこれをするためか。
「……ッ」
なんとか受け身を取る。
大量の座席数なのに、カイルと彼女以外誰もいない。
ウェイターやシェフはどこに行ったのやら。
「世界に私たちだけが取り残されたみたいね?
とっても嬉しいわ」
「……ロマンチックじゃないのが残念だ」
カイルは店内を見渡す。
使える物がないかを調べたいのだが…………それよりもセーナの打撃の方が速い。
「ッ!!」
得意武器の槍ではなく純粋な体術。
セーナは足を真下に振り下ろし、カイルはそれをギリギリ腕で防ぐ。
彼女の身体強化の重みは、真正面で受けたカイルの真下にある床を壊した。
「……ッソがっ!」
なんとか腕で押し上げた瞬間、攻勢逆転をカイルは狙う。彼は一瞬でセーナの足を掴み適当に投げた。
投げられたセーナが壁を破壊。
辿り着いた先は────
「!!(キッチンか)」
そうして移動しようと思った時にはもうカイルがいた。
もう逃げられない。
互いを覆う壁から、一瞬で見える所へと行く。
その瞬間にはもうお互いの拳が交差していた。
防御攻撃防御攻撃。
あまりの速さに、腕同士がぶつかっているようにしか見えない。
彼女の拳がカイルの頬に、彼の拳もセーナの頬に掠る。ムキになったカイルは防御を捨てた攻撃を叩き込もうとするも────
「残念♪」
「ゲ」
しゃがまれて回避された挙句、また足で蹴り飛ばされた。カイルが飛ばされた先はシャンデリアの上に。
「(全く……って)おおっ!?」
一瞬で追いつかれ、シャンデリアを固定するためのロープをセーナの槍で切られてしまう。
姿勢が崩れて……このまま落ちる。
「なんか弱くなった? 迷いがあるわよ」
「…………ッ」
落ちる寸前に、そんなカイルを嗤う感じというより疑問と言った感じでそう言われた。
不思議と……腹が立たない。
……腹は立たないが!
「ん?」
セーナの姿勢がグイッと下に無理やり動く。
今の一瞬で足を掴まれたのか。
そのままカイルの足で彼女の足を固定。
落ちる勢いを利用して、丁度真下にあった机にセーナを叩きつけたのであった。
────────
【ちょっと休んで】
「弱くなった。か」
「痛った……まぁね。少しは衰えたんじゃない?」
このまま終わってしまうのは残念だが、カイルはあまり戦いたくない様子なので我慢しよう。
「むしろお前は、強くなったな……色々と」
五年前のことを思い出したカイルと、妖しく笑うセーナ。むしろ今も比べると……随分と丸くなったと思う。
【五年前】




