第31話 求めるは師
「ん……」
目を覚ました瞬間、ロイの視界に映ったのはカイルとシアンだった。
そうか、負けたのか。
あの魔族に。
他に方法がたくさんあったはずだ。
真っ向勝負に負けてからは、相手の意をつくことばかりに意識が言って────
「(……ま、反省会は今じゃないか)何日経った……?」
「お前が眠ってからは大体三日だ。原因は奴に凍らされたことよりも、どちらかと言えば魔法の酷使だな」
「……こくし?」
遠距離で魔法をコントロールしていたことだろうか?
確かにアレは魔力消費だけじゃなく、頭も死ぬほど痛かった。
「魔力を知覚するのは基本“頭”よ。それをコントロールするのも頭の中にある神経が基本だからね」
すると扉を開いて入ってきたのは……女王であるセーナだった。
シアンが一気に緊張した面持ちになり、カイルが嫌そうな顔をセーナに向ける。
そう言えば気絶する前に彼女がいたような……
セーナは妖艶な笑みをロイへと向けながら、彼に衝撃的なことを聞く。
「ロイ? こんな“不出来な先生”よりも私の所で鍛えてみない?」
不出来な先生と呼ばれ少しムッとしたが、ロイはジェーグナーに負けたことを思い出した。
全身を氷漬けにされると魔法使いは手も足もでないとは。
「……なんでロイを?」
警戒した様子でカイルは彼女にそう訊いた。
(女王に文句を言うのは怖いので)黙ってシアンも頷く。
仲間を知らないところに託すというのだ。何か考えがあるのだと疑ってしまう。
いくら彼女が「悪いようにはしないわ」と言ったところで。
「……カイルサン……行かせてくれないか?」
「彼もそう言ってるけど?」
「お前は黙ってろ」
カイルは彼女の言葉を覆うように語ると、彼はロイの目をじっと見る。
……本音を言えば彼女を心の底から信頼していないわけではない。
間違いなく女王達の所に置けば強くなる……と思うのだが。
重要なのは何を学ぶか。
成長と言っても、必要なのは奴に勝つ成長だろう。
「あなたの期待は裏切らないわ」
カイルの肩をゆっくり撫でながら、セーナはカイルの首近くで呟く。
ロイの考え、女王の自信。
“どちらも”信用してみるべきか。
「強くなって帰ってこい。シアンは俺の下で鍛える」
魔法使いのロイは確かに教えられるものは少ない。
彼の才能により成長スピードを少し頼りすぎていたようだ。
シアンはカイルと同じ身体強化が出来るタイプ。
アンと共に戦士の戦いを教える。
そしてセーナ達、国の人間はロイに魔法使いの戦いを教える。
方針は決まった。
後はロイの怪我が治り次第、鍛錬開始。
────────────
【四日後:城内】
ロイは再び城へと向かう。
正直、女王との城でのやり取りはトラウマに近いが強くなるためだ、やるしかない。
城の奥へと案内人に案内されると、ロイの目に見えたのは……とても広い稽古場だった。
「……スゲェ」
この街にきてからずっと同じことを呟いてる気がする。というか規模がおかしいんだよこの街。
城内は埃一つなく綺麗だし、彼女の威厳と潔癖さを表しているのだろう。
……そう言えば彼女を暗殺しようだとか、失脚させようとしたいというマイナスな言葉は聞かない。
もしかしたら、思ったより人気があるのかもしれない。
「ようやく辿り着いたの?」
すると稽古場にあるもう一つの扉から、セーナは入ってきた。
いつもの綺麗な衣装ではなく、戦闘用の華やかさと動きやすさに注視した服を着ていたセーナは、その赤眼にロイを捉える。
「……槍!」
随分とシンプルな槍だ。
変な装飾もなく、刃先がただ煌めいていた。
あの刃先に斬られたら即死するだろう。
……そう言えば療養中カイルが言っていた。
────あいつの強さは今の俺と同じくらいだ。そして決して真正面から受けるなよ。
“同じくらい”。
本当にカイルという人は人をビビらせるのが上手い。
現に今、ロイのプレッシャーは半端じゃないほどにかかっている。
「ごめんなさいね。私、手加減苦手なの。
徹底的にやってあげるからかかってきなさい」
辺りはちゃんとレンガで作られているから、何使っても問題はない。
徹底的に戦うまでだ。
「…………クソッ」
隙がない。
ピンとした姿勢のなんと無駄のないことか。
“無駄のなさ”だけならカイルより上かもしれない。
すぐさまロイは得意魔法である火魔法の弓を作る。
アン戦で、火魔法をわざわざ弓の形にすることで跳ばすイメージがしやすいことを知った。
「ッ!!」
勢いある火の矢がセーナに迫るも、彼女は槍で軽く弾いた。
「あなたね……魔力量があるのにどうして変に制御するの?」
相手は魔法使いだから魔法で返してくれるし、当たったら効く。
だが今の相手は身体強化できる人間だ。
パワーや肉体強度は一般人とは比にならない。
「……魔力を制御しないと勝てないからだ」
「……なるほどね」
魔力総量ではジェーグナーに勝ってたはずだ、それなのに火魔法の押し合いで負けたのは、コントロールの差だ。
残念ながら魔力だけでは勝てない。
それが魔法なのだから。
「魔法使いなんて誰でも、自信のある魔法の一つや二つくらいは持っているものよ。
もう少し初心に戻ってみたら?」
「ぐぬぬ…………!!」
というか女王も魔法使いじゃないのに、どうして俺を教えられると思っているんだ?
「出力を上げるために制御が必要じゃないのか?」
「制御制御なんて、馬鹿の一つ覚えみたいに言わないことね。それを“誤魔化す”のも技術のうちなのに」
苦手な分野に向き合うのは尊いことだとセーナは思う。だが、必要以上に向き合うのは違うだろう。
今のロイに必要なのは、使える“手”の取捨選択だ。
────────────
【カイルとシアン: 都市外】
流石に城の中には稽古場は一つしかない。
安定した場所が欲しいなら、空中都市から地上に降りるしかないのだ。
アンの鍛錬は……暫くいい。
元から一人の戦士として完成されてるし、殺し合いの経験不足とは言えど馬鹿じゃないから、あっけなくやられることはないだろう。
「カイルさん! 何から教えてくれるんですか!」
やる気がみなぎっているシアン。
そう言えばフィジカル系の“トレーニング”しかやらせてこなかった為に、こう言った“戦い”の類を教えるのは初めてだ。
「応急処置だ」
「えっ?」
「後受け身」
カイルが教えるのは基本コレだ。
殺す技術よりも、殺されない技術。
シアンやロイが思う強さとはかけ離れたものだが、“ずっと戦う”強さと、“いつでも逃げれる”強さは早めに覚えて損はない。
彼の教育は、死んでほしくないという思いが詰まっているのだ。
「じゃあやって行くぞ」
────────────
【ロイ:城内】
「だっ!?」
もう何度、セーナの槍によって吹き飛ばされているのだろう。
魔法を放つ→弾かれて→近づかれて→ぶっ飛ばされる。
一生このループだ。
初心に帰ると言ったって……どこまで戻ればいいか分からない!
(初心……どうするのが正解なんだ……!?
俺がなんで最強の魔法使いになりたかったんだ!?)
…………
………………そんなもの決まっている。
────俺が……並ぶ!!
俺にとって最強の人間はカイルサンだけ。
並びたい、もっと強くなってみたい。
これだけが原動力。
バッタバッタと剣や凄い魔法で敵を薙ぎ倒していく、あの憧れ達に追いつくためだ。
「そんなの……クソ程シンプルだったぜ。
火魔法ァ!!!!」
ロイはそのまま大きな“火炎”がセーナの所へ発射。
奴に向けた火炎放射よりも、更に速く……“濃い”
「おっ」
彼女の槍とロイの火炎がぶつかる。
「グッ……ッ……!!!」
自分が思ってるよりも、彼の魔力総量は多い。
常に消費する感覚にビビって、逃げ腰になっていたんだ。
(魔力をどんどん消費しろ!! この女をこのまま燃やし尽くし────……なんだ?)
視界の端。彼女が……動いた。
槍から、彼女の全身を────“紫色”の炎が覆う。
そのままロイの炎ごと喰らいつくしてしまった。
「(なんだあ────)ごっ!」
気がついた瞬間、彼女の槍がロイの背後に迫り……そのままコンと強く叩いた。
「いいわね。ちょっと本気出しちゃった♪」




