第30話 “差”
今回短め
ロイはもう一度、ジェーグナーの手によって殺されてしまった人達の所を見る。
「……チッ」
────俺は守れない。
カイルが言っていたことが分かる気がする。
守りたい、守れると思った者達が死んでいくと、誰かを助けるという行為がどれくらい難しいかが分かる。
自分の手が届く範囲なんて本当に些細なものなのだと痛感してしまう。
(このまま戦った所でいずれシアンに当たる。
なら────!)
ロイは敵を前にして走る。
ここら辺りは人通りが多いが、先程の騒ぎである程度は避難してくれただろう。
(敵前逃亡。ですか。諦めたわけではないでしょうが……作戦ですかね?)
奴はそのままロイを追いかける。
────ならここで掴んでやるわ! 魔法使いの底って奴をよォ!!!!
(ハッタリじゃないと良いですが)
走る事、約二分。
宿からずっと東にあるのはレンガによる住宅街。
この街の人間は避難スピードが尋常じゃないとロイは思う。
元より危険がすぐ近くにある街はこういう対応も早いのか。そんなことを考えていた時、奴は現れた。
「来ましたよ。まんまとね」
……魔力総量によるゴリ押しも奴には効かない。
そもそも魔法を扱う技術、魔力精度がロイと比べて大きく差がある。
攻撃をどう通すか。
ロイは巨大な魔法を正確に制御するのは苦手だ。
そのため出力ではやや劣る。
一体どうすれ────
「来ないのですか? ではこちらから行かせていきますよ!!」
奴は水魔法を球体のように扱い、そのまま攻撃を叩き込む。
誰かが言った。
水魔法とは最も基礎的な魔法だと。
故に練度は……これに出る。
地面を抉りながら、ロイの所へ急接近。
飛び込むように横へ躱した瞬間、視線の端には魔法。
先程の意趣返しか。
槍のように尖った水魔法がロイの脇腹を貫こうとした時、ロイが片手で風魔法を展開。
「ッ!!」
軌道をずらして、脇腹の端を少し抉ったが、貫かれることなく通り過ぎていった。
痛い……致命傷は避けたとは言え、抉られたのは事実だ。そう簡単に血は止まってくれない。
「このまま死ぬおつもりですか?」
こいつを正面から崩せる気がしない。
全くと言って隙を感じないのだから。
(基礎の差……か)
水魔法の攻撃方法は大きく分けて二択。
尖らせて“抉る”か、大きくして“潰す”かの二択。
無論その他の攻撃方法があるが、一般的なものはこれらに絞られる。
火をわざわざ操るよりも、最も近いイメージがあるのは水だ。故に、魔法使いの基礎というものは水に出がち。ロイはそのことを知らない。
「フンッ」
すると奴は自分の上に大量の水球を浮かべる。
鮮やかに、指揮棒でも振るうように、ロイへと接近する。
「いっ!!」
“体が重い”、“頭も痛い”
だが避ける。
チャンスが来るまで。
水球はロイの付近で軽く爆発するが、やはり爆発させるとなると威力は小さい。
なら────と、ロイは適当な家へと入る。
“今は時間を稼ぐのだ”、何がなんでも。
「……?」
ロイが家に入ってから攻撃が来ない。
逃げたか?
正直もう、戦いもつまらなくなってきた。
さっさと終わらせたいのだが……
そんなことを考えていた時、屋根を壊しながら空へと駆け上がる何かが目に映った。
「おぉ!!(あれは……火の矢!!)」
そのまま一つの巨大な火の矢は四方八方に分裂。
ジェーグナーの真上辺りに大量の矢が。
真上をただ見つめ、どう返すか考えていた時。
(いや待て、彼が今までやってきたのはフェイクや誘導! つまり────)
家の窓からパリンという音。
そこから攻撃が────と視線を前に変えても……いない。
「長身って不便だよな」
「!」
「“下”が見えなくて」
ロイは“ナイフ”を持って急接近。
相手は魔族で種族の“差”がある。
そして今までのロイは真っ向勝負に負けて弱気気味。
更にそれを証明するかのように、街まで“逃げた”。
「だらぁぁ!!」
完全に無防備となった奴に、ナイフを突き立てる。
……が。
キン!!
と音が鳴った。
刺さらない。
身体強化ができないとはいえ、ここまで差があるのか!
「『風魔法』」
ロイを微風で吹き飛ばし、真上の火の矢流星群に全身を水で覆うことで、火消し。
量を優先したそれは一つ一つの威力はそこまで。
魔法使いとして、一人間としても……負けた。
「もういいでしょう」
地面に立ち尽くすロイを奴は見下ろしながらそう呟く。
水の防壁を解除して。
「退屈凌ぎではありますが、そこまでです。質優先の攻撃を諦めて量を増やしそれさえもフェイクでのナイフ攻撃……私が人間ならダメージを与えられていたと言うのに」
心が折れたのか。
ロイは激しく息を切らし、受け身を間違えたのか鼻から血を流していた。
「アナタなりの工夫はしたということで、終わりです」
尖らせた水魔法をロイの頭に近づける。
「ん? アナタそんなに疲れて────」
すると後ろから音。奴が振り向いた瞬間、ドッという音を鳴らして、“何か”が奴の肩を抉った。
「なっ!!!?(これは……!!?)」
火の矢!!?
馬鹿な、あの有象無象の集まりな矢じゃ私の体を抉ることなんてできな────
(まさか……!)
────片手に風魔法を纏い、反射で強力な火の矢を弾いた。やはり威力が高い、風魔法でも分散しきれずに多少火傷してしまった。
「クッソ……狙いがズレた……!」
そう悔しそうに語るロイ。
魔法の遠距離コントロール。
それは基本的に深い集中と、苦痛だ。
(あの時私が弾いた火の矢を、消失させないよう常にコントロールし続けて、流星群とナイフを攻略させたことで手の内を曝け出したと錯覚させ……一撃を叩き込む……)
とてつもない魔力消費。
遠く離れた魔法を、戦いの最中に知覚し続けるのは至難の技だ。
肩から大量の出血。
まさかここまで。
「だが……まだまだ……俺の本領はまだ……」
立ち上がってくる。
今の一撃は良かった。
……一撃“は”。
「……氷魔法」
ジェーグナーの手が凍った。
ロイでは見た事のない魔法。
そうだ、勇者メンバー・ミラがこう言っていたとカイルから聞いた。
────誰もが知らない新しい魔法を編み出す人が現れる。
あの人は天才だ。
きっと一からそれを生み出したのだろう。
こいつもか!!
「なっ……!」
ロイの体がみるみる凍っていく。
何もできない魔法を放とうとしても、何も撃てない。
「魔法というのは、魔力を体外に出して→別な物質に変化→そこから攻撃なのです。手や体をミリ差なく凍らせば……人は魔法を放てない」
魔力を限界まで放出しようとしても何もできない。
諦めずに抵抗を続けるも、体が凍って動くことも……
すると奴は大きい鉄の棒を持って来た。
「氷を砕くには……硬いものが一番ですね。
さようなら天才。私の肩を持っていったのは賞賛ですが……大胆さが有りませんでしたね」
「…………!!」
死ぬ。
そのまま体が氷ごと砕かれて……死ぬのか。
(クソッ……すまないカイルサン……俺は……何も────!)
どんどん近づいてくる鉄の棒────が止まった。
「……俺の仲間に良くまぁ手を出してくれたな」
鉄の棒をピタッと止められ、ジェーグナーのさえも動きが止まる。
そうして背後からの強烈な殺意。
「勇者カイ……ごおっ!!!?」
カイルの拳は奴の顔にクリーンヒット。
そのまま目の前の家へと吹き飛ばされたのであった。
ロイの体を蝕む氷を片手で軽く破壊し、ロイだけを取り出した。
「カイル……サン……」
「休んでろ」
砂煙が引いていく。
吹き飛ばされた先に見えたのは、鼻から血を流して呻き声を上げる奴の姿が。
「くくく……ディアルは殺したのですか?」
「もう来るぞ」
「えっ?」
そう言った瞬間、急速に炎の女……ディアルがジェーグナーの隣へと吹き飛んできた。
彼女は意識こそあるが、体から漏れ出る炎はどこか弱々しさを映し出していて……
「女王“も”舐めちゃだめだろ」
「…………撤退ですね」
淡々とそう呟く。
近くからはゆっくりと此方へと歩いてくる女王の気配。
「待て……アタシはまだやれ────」
「今回は我々の敗北です。認めましょうでは」
奴はそんなディアルを無視して掴み、どこかへと消えてしまった。
……なんかのアイテムだろうか、随分と念入りに準備されている。
「ロイ。反省は後だ、今は休むぞ」
「彼らとはいずれ戦う。あなた達も用心しておいてね」
セーナは二人に目を向けながら、軽く微笑む。
「能力使わなかったのか。やるな」
「当然」
カイルはロイを抱えながら、女王は持っていた槍を仕舞い、各々が反対の方向へと進むのであった。




