第28話 女王とカイル
「素敵な手土産ね。カイル?」
「よぉ! セーナ?」
魔族の古株・バースを倒し、彼女の権威を象徴する城を堂々と破壊して参上。
「カイルサン!!」
ド派手だな!とかの感想よりも先に、女王との気まずい待ち時間がなくなったことに驚きを隠せないロイ。
正直言ってとても嬉しい。
「待たせたな、ロイ。さて……会いにきたぜ」
カイルは不敵な笑みを彼女に向ける。
してやったりと言いたげな顔だが、女王であるセーナは大して動揺してない様子。
むしろ想定内とでも言いたげだ。
「悪いな。こいつ体も意思も固くてな……少し派手にやらせてもらった」
国民の皆々には指一本触れさせていない。
建物や列車での被害は尋常じゃなかったが。
仕方ないのだ。
こいつが変に強いのが悪い。
「良かった。これから貴方に話したいことがあったんだけど……今この場で話すのは良くないわね。
誰がどこで聞いているかも分からないし」
するとセーナは指先から紫色の炎を出した。
それを小さな球体にすると椅子から立ち上がり、彼女はその球体をカイルの所へと投げた。
その球体はふよふよと浮きながら、カイルの所へと近づく。そのままカイルの胸に入ると……
「!?」
彼女が考えて“いた”ことが、カイルの頭に流れ込んできた。その内容は衝撃的なもので、落ち着くまで時間がかかった。
頭がクラクラする程の魔族に対する“憎悪”と“殺意”に、カイルは少しばかりの頭痛に襲われる。
あの余裕そうな笑みからは想像がつかないだろう。
“四年前”からそう。
彼女が王になってから、ずっと……彼女の憎悪は消えることなかったのだ。
「…………何がしたいかは分かった。
何をして欲しいのかも」
だが、四年前に彼女はこんな技は持ってなかった。
火に“記憶と感情を込めて伝える”という、能力の応用か。まぁでも……
「俺の頭の中をお前の思考で染めようとするのはやめろ」
本を読むように一ページずつ情報が入ってくるのではなく、その全てを無理やり頭にねじ込んでくる感じがとにかく不快だ。
「それであなたが私の“モノ”になってくれたら話が早かったのだけど」
この女本心だ。
カイルの後ろから見ていたロイはそう思った。
歪んだ愛とかそういうのじゃない、本気でカイルが都合の良い操り道具になればいいと思っているのだ。
「ふざけんな」
呆れてカイルは返した。
そうしてロイと共に部屋を出ようとする前に、ぼそっと一言だけ呟く。
「……お前のやりたいことは合理的だ。だからこそ残念だ」
そうしてカイルはロイと共に部屋を出た。
最後に女王とカイルは視線を交わしたが、それ以上何も起きることはなかった。
────────────
城の外に出て、宿に向かうためにトボトボ歩いていた二人。どこか重い空気に包まれる中、先に口を開いたのはロイだった。
「なぁカイルサン……女王って何者なんだよ……!?
それにさっきの“思考云々”も気になることだらけなんだけど!?」
気まずい空気に耐えられなくなり、ロイの中にある“黙っていようメーター”なるものが粉砕され、気になったことを次々と訊いてしまう。
一文字や二文字で表せる人間じゃないことは分かる。
それでも知りたいのだ。
カイルはいつもの柔和な感じに戻り、「あー」とどう返そうか考えていたが……
「ここじゃ話せないから、宿でシアンと一緒に話すよ。まだ考えもまとめてないしな」
「……わ〜ったよ」
信頼し合っていると言うにはあまりにも、意図と策略が絡み合っている。
カイルもカイルであまり彼女に強く出てない。
投獄を恐れているとか、そうのではないのだろうが……
【宿】
城から宿までの短いようで長い時間を終え、漸く宿に到着すると、観光とトレーニングを終えたシアンが一足先に部屋で待っていた。
どうやら列車を降りた後、宿の周りをグルグルと走っていたらしい。
生まれたての子鹿のようにプルプル震えて、歩く姿がおぼつかないシアンだった。
風呂と食事を済ませ、カイルの部屋で……女王とカイルの話を訊くのだ。
やっと訊けるとロイは身構える。
辺りに誰もいないことを確認し、今まで勿体ぶって話さなかったカイルがその重い口を開いた。
「単刀直入に。あいつがやろうとしているのは────少し離れた所にある、新生魔王軍幹部の城に先制攻撃。つまり戦争だ」
その言葉はどこまでも重く。
どこでも苦しかった。
カイルは経験者だが、ロイとシアンは名前しか聞いたことがない、戦争という単語。
恨み嫉みがあるとはいえ、女王が何故そこまで殲滅に固執するのはわからないが、少なくともカイルが参加しようとしまいとやるだろう。
「……女王と、そしてここの中枢を担う兵士達とはある程度の面識がある。あまり死んでほしくはないんだが……」
ドルクは強い。
少し手合わせして分かるほどに。
ジェナンが生まれるよりもずっと前からドルクは魔王軍の将軍としていた。
何十年前からずっと。
そしてそれらにずっと慕えてきた奴らも、兵士達からすれば一筋縄ではいかないだろう。
「カイルサンはどうしたいんだ?」
ロイの一言にカイルはずっと悩んでいる。
正直……参加してもいいと思っている。
セシーの仇討ちではあるのだから。
「だが……お前らの身の安全が最優先だ。俺が戦争に参加すれば間違いなくお前らも駆り出される。人の死と魔族の殺害というのは……堪えるもんだからな」
セーナ……そしてカイル達勇者パーティもそれを知っている。
魔族……これもちゃんとした人殺しだ。
種族が違うだけで。
「お前らはどうしたい? セーナにはもう一度会いにいくつもりだが」
これはロイよりも、どちらかと言えばシアンに聞きたい。
ドルクがセシーを殺した。
おそらく嘘ではないだろう。
奴の火力なら、セシーの回復を上回れる。
「……お姉ちゃんを……殺した人……」
シアンの表情が曇る。
もし、自分が強くなれればドルクを倒せるのだろうか。
……きっと、無理なのだろう。
カイルやロイしか……きっとできないこと。
「その人を倒せば……お姉ちゃんの仇をとれるんですよね?」
「……まぁな」
「なら……私が……私“達”が道を切り開いて……ドルクの所にカイルさんを送れば……カイルさんは……ドルクを倒してくれますか!?」
悔しい。
今までずっと逃げ続けてきたツケなのだろうか。
シアンは弱い。
弱い人間に……“ドルクと戦って仇を討つ”という選択を取らせてはくれない。
だが、ドルクじゃなくて戦うという選択肢はある。
「俺も協力するぜ! カイルサン!!
勇者だろうかなんだろうが、人助けは当然だろ!!」
高らかに宣言するロイ。
カイルは二人の様子を見て、決心がついたようだ。
「……フッ。強いなぁお前ら!!」
二人の頭を軽く叩きながらそう語る。
「お前らを“見習って”……俺も向き合うとしようかね。じゃあ明日、もう一度女王に会ってくる」
そのまま三人は解散。
各々が眠りについたのだった。
────────────
【ドルク城】
セーナの城とは大きく違うこの城は、どこかおどろおどろしく、不気味だ。
そんな中、ドルクは副幹部達を集めて作戦会議していた。
「スパイがやられた?
……チッ、誰だ?」
風呂に入りながらの作戦会議。
ドルクは肩まで浸かり、魔族特有の肌の濃さを存分に見せてつけていた。
「恐らくバースかと」
重そうなコートを着て、片手に本を持った男が丁寧に返す。
副幹部は四人。
本を持った男の隣に、それぞれ膝をついて頭を下げていた。
「……まァなんとなく分かってた事だが……上手くいかねぇモンだな」
ぽりぽりと頭を掻きながら、女王のこれからやカイルの動向を気にするドルクに……
本を持った男の隣にいる腕や足が燃えている女が、口を開いた。
「ドルクサマ、一つお伺いしたいことが」
「あ?」
「その腕の傷は……?」
副幹部全員がドルクの右腕に視線を向ける。
酷い火傷に近いその腕は、彼の努力の勲章でもある。
ドルクは軽く笑うと「その話はいい」と話を戻す。
「……女王の警戒心の高さは尋常じゃない。出国はなんとかなっても、情報の収集に関しては簡単に隙を見せてはくれない」
バースだって魔族の中では諜報に長けている方だ。
今まで城付近の雑務を片付けて、いずれ近くに出世を狙えるタイミングがあったというのに……
カイルを見て功名心に駆り立てられ、あっけなく負けた。
「今まで俺たちとオレブはある程度の休戦を掲げてきたが、もう少し“大胆”にいこう」
するとドルクは風呂から立ち上がり、
彼らに命を下す。
「ジェーグナー。お前行けるか?」
「なんなりと」
本を持った男が、深々とドルクに頭を下げた。
ドルクの大胆な“策”が……迫る。
人間とのルールなど破った方が面白い。
さっさと次へ進むのみだ。




