第27話 列車ではお静かに
ド派手
【ロイ:城】
「それで……カイルは来るの? ロイ?」
口を開けばカイルカイルうるさい!!
……と、叫びたくなるがそんなことを叫んだら投獄だ。
余計なことを話すお口はお口チャックだ。
本当に……余計なツッコミはなし。
黙れ、黙るんだ俺。
理想: カイルサンはアンタに手土産あるらしいぜ?震えて待ってな!!
現実は……
「なんか……あの……手土産……持ってくる……らしい……デス……ハイ……」
しどろもどろである。
そもそもお貴族サマともやり取りはカイルも極端に避けたがってたし、お手本も見たことない。
カイルなら許される失言も、ロイは多分許されない。
「よぉクソ女!!」なんて言った暁には、どこかは分からないが体の一部が泣き別れだろう。
そもそもカロナみたいなフランク貴族みたいならいい。こいつはガチの“王”だ。
「……そう。じゃあ私と一緒に待ちましょう? カイルって、約束“は”守る男だからね」
「…………ハイ」
嫌い合っているとは思えないくらいに、互いが互いのことを信用してるみたいだ。
それはそれとして、彼女の圧はとんでもない為に冷や汗が止まらない。
そんなに厚着はしていないのに、今すぐ全裸になりたいと思うほどに。
「……“手土産”……ね」
────────────
【カイル:街】
魔族のスパイである男は、ドルクの手土産としてカイルを襲撃した。
……したのだが。
(意識が飛びそうだ……なんでまだ気絶できねぇんだ……?)
彼の名前はバース。
魔王軍時代から、ドルクに仕えてきた所謂老兵の一人だ。
魔族は元の見た目が人間に近ければ近いほど若い。
しかしバース、彼の肌の色は真っ青で角は鋭い。
肌の色が濃ければ濃いほど、古株ということだ。
ドルクは人間の姿を気に入っているために、肌は人間に合わせているが。
他の魔族からすればこれは誇りだ。
(俺は────強い!! 強いはずなのに!!!)
バースのナイフがカイルの首に到達するよりも圧倒的に速く拳が到達する。
全身を彼の拳で連撃を叩き込まれるのだ。
「よっ!!」
足を真下に振り下ろし、バースの頭を地面に叩きつけた。
スパイ+魔族の古株+強い。
女王だってスパイ探しに手を焼いていただろう、情報の“塊”……こいつは手土産に丁度いい。
民衆も、奴の顔を見て魔族だと判断。
すぐさま避難してくれた。
仮にいても守り切って勝つが、いないならいない方がいい。
「逃げるか?」
レンガ街に囲まれたこの街の中で、カイルはバースをただ見下ろす。
このまま抵抗しないのなら、これ以上の暴力はしないと約束するのだが……
「!!」
「ッ……!」
突如奴の体から煙が。
特に何かの害がある煙じゃないことが分かれば充分。
これが奴の異能力か。
煙が晴れたからには、奴の姿はなかった。
プライドが高い奴なために、人を無差別に殺す奴ではないと思うが……
「……逃がすと思うか?」
────────
「はぁ……はぁ……」
気配を出来る限り消し、外に出てしまう魔力を出来る限り抑えた。
敢えて遠くに行かず、近くの喫茶店に入ることでカイルの索敵を撒く作戦だ。
精神を集中し、バースは顔を人間に戻す。
あの顔の時に肘打ちされた怪我があるが、問題ない。
「注文は?」
「コーヒーで」
そのまま窓際の座席に座る。
カイルはいない。
カイルの気配も感じない。
(逃げ切っ────)
「店員さーん。俺にも同じコーヒー下さい」
自分の前に座る男。
あり得ない、確認してないがこいつはカイルじゃない。
気配も魔力も感じなかったからだ。
そうだあり得ない。
(目の前にいるのは、俺に奢られようとしてくる変な奴で……!!)
そうやってゆっくりと目線を前に向ける。
現実をどんなに否定しても、目の前にいるのは────カイル。
“元”勇者カイルだ。
「!! うぉぉ!! こっちに来るな!!!」
ほとんど反射でナイフを真下に振り下ろす。
するとカイルは右手でフォークを取り出し、歯と歯の間にナイフを食い込ませた。
こんなフォークですら斬れない。
カイルの物体強化も尋常じゃないのか。
「“横”へ行こう」
「(まさか!?)お前待っ──」
そのままカイルはフォークを左手に持ち替え、バースを窓ガラスに激突させた。
ガシャン!!!という音が聞こえたのも束の間────!
未だナイフを離さない奴に向けて、そのままフォークを持ったまま、横薙ぎに移動して窓ガラスを割りながらバースを勢いよく引き摺る。
耳をつんざくようなガラスの破裂音が外や喫茶店中に響いた。
「ゴハッ……!」
ガラスを割り終わり、建物の柱に奴の頭がぶつかったのと同時に奴を奥へと蹴り、外へと吹き飛ばす。
魔族特有の強靭な肉体。
身体強化ができない魔法使いでも、(個人差はあれど)身体強化が出来る人間に勝ててしまうほどには強い。
それでも今、身体強化をフルに回して反撃をしようにも全てを“受け止められ”て攻撃を叩き込まれる現状。
……この事実が今もなお、カイルに殴られ続けているバースのカンに障るのだ。
「もう少し付き合ってくれ」
「クソ勇者がぁ……!!!」
魔族は硬い。
肉体も精神も。
とことん折る。
そうしないと手土産にはならなそうだし。
────────
【シアン:列車の中】
「ここが列車か~良い景色見れるかな?」
シアンはそんな、喧騒とは無縁な場所で列車から見える景色を別人格のアンと楽しんでいた。
アンが現れなくても頭の中で会話ができる。
《見て、海が見えるよ》
「あ、ホントだ綺麗ー!」
窓からの景色。
大橋の上を走る列車は、あの大きい城の後ろを走っていると、下にある山と海。
両方が見えるのだ。
(カイルさんには感謝だな……! こんな綺麗な景色が見えるなんて……)
《シアン! 見て見て! あれってもしかして私たちがいたや────えっ?》
突如黙り出すアン。
(アン?)
《シアン。このまま動かないでね》
どうしたの?
そう訊こうとした瞬間────
パリィンという音を鳴らして、列車の壁を破壊してカイルと魔族らしい男が乗り込んできた。
「きゃゃぁぁー!!!!?」
ここは大橋。
城と同じくらい高くて、人なんかがジャンプで到底辿り着ける場所じゃない。
他の観客も慌てて、唖然としている。
すると魔族の男はギロリとシアンを見た。
「あっ!!」
彼女が逃げるよりも速くシアンの首を掴んで、カイルに向ける。
「この女の命が惜しければ、俺を見逃せ!!」
ナイフに首を突きつけ、脅す。
バースのプライドに反することだが、今は任務最優先だ。
生存の先に誇りはあるが、死んだらそこまで。
そんな言い訳じみたことを考えつつ、カイルを精一杯睨みつける。
……が、カイルはされど心配していないみたいだ。
「アン!! すまないが頼む」
「?」
“アン”?
この女の名前か?
「こんな非力そうなガキが一体何に……なっ!?」
すると、掴んでいた女の髪色が灰色から黒に変わった。
シアンからアンに切り替わった証だ。
バースが何かする前に、アンは口を開く。
『“シアン”に触らないで』
自身の首を掴む腕を、アンは両腕でへし折ることで無理やり離させる。
痛みで彼女を離してしまった時にはもう、カイルは動いていた。
『後はよろしく』
カイルの拳がバースの顔に激突。
列車の壁をまた壊し、バースは城の近くまで吹き飛ばされた。
とてつもない浮遊感。
目前には……今まで殴られ続けてきたレンガ街が“小さく”映った。
吹き飛ばされた先は勢い的に、城に激突するだろう。
(問題ない。魔力を足と背中に集中すれば……!)
ガシッ。
足を掴まれた感覚。
何だ?
「一緒に行こうぜ?」
「ッ!!!?(カイル!? まさか列車から跳んできたのか!?)」
もうバースの声はカイルには聞こえない。
既にもう、彼の頭の中にあるのは────
「セーナ。“手土産”だ」
奴を真上に掲げ、城とカイル達がどんどん近くなってきた瞬間。
「あ〜らよっと!!」
カイルは“バースを”真下に振り下ろして、城の天井を破壊した。
流石に大きい天井を壊しただけじゃセーナには会えない。
小さな障害物は落下の勢いに任せて、バースをガリガリガリと削り、それさえも破壊した。
そうして……!
ドガァン!!と彼女達がいる部屋に突撃。
バースと共に爆音を鳴らして、荒着地。
地面に大きな穴が開き────
「素敵な手土産ね。カイル?」
「よぉ! セーナ?」
二人は漸く出会えた。




