第26話 突入と謁見
十万字イェイ
「違法の時間だ」
カイルが取り出したのは、三人分の“偽造冒険者証”
冒険者証に書かれてある名前は適当な奴の名前を使用している。
完璧な工作。
恐らく誰も気づかないだろう。
「レリルに作ってもらった」
「即興で?」
「な訳ないだろ!! 結構前に作って貰ったわ」
いくらレリルでも悪いことをするには、ある程度の身を守るための工作と、門番にバレないための工作が求められる。
そんなものを当日に頼んだら、ゲンコツと彼の大鎌による一撃をもらうだろう。
大変なものはある程度前から頼む、親しき仲にも礼儀ありだ。
「これで検問は問題なしだ、さっさと行こう」
そのまま歩くこと数十分。
山を越えたり洞窟を越えたりした。
シアンはヘトヘトだが、トレーニングを込めて休憩なしで進んだ。
彼の場馴れは凄い。
異能力を持たないカイルが唯一持つスキルかもしれない。
そうして最後の洞窟を抜けると、外に出たはずなのに自分達が影にまだ覆われていることに気づいた。
「…………マジかよ」
ロイが真上を見ると、遥か高みにある“岩の塊”が見えた。あれが空中都市か。
とにかくどデカい。
何故浮いているかは未だ不明。
分かることは、これがとんでもなく硬いということ。
カイルや女王が本気で殴ってもヒビ一つできなかった。
何かしらに利用できるものだが、利用できない。
完全に放置だ。
「さて、近くに検問あるから行くぞ〜」
前に行ったことがあるから、やはりカイルは特に驚きもせずに進むだけ。心底嫌そうな顔をするのみ。
女王と会うというだけそこまで嫌なのか。
理由を説明されたが、未だにそう思う。
────
【少し前】
「な〜女王ってどんな人間なんだ?」
ロイはふと気になったので聞いた。
別にカイルとの仲が悪いだけで、最悪というわけではなさそうだが……
「……俺とは分かり合えないだけで、別に悪い奴じゃない。国という大勢を救うためなら犠牲を払える女」
「仲直りできないんですか?」
シアンの一言に「無理無理」とカイルは首を振るう。
彼女を“許容”するということは、カイルの信念を曲げるということ。
無論、逆も然りだ。
……だからこそ分かり合えない。
「とは言え、魔王軍の奴らが攻めてきた時は共闘したさ。もう子供じゃないから流石に戦場までケンカを持ち出すことはしないさ」
腐れ縁というには淡々としているが、淡々としているというにはあまりにも嫌い合っている。
絶妙な関係を一言二言で説明するのは難しい。
カイルもそれ以上に何も言わなかったし、ロイ達も何も訊かなかった。
そのまま、空と地上を繋ぐ検問へと向かう。
機械で上へ上がるのだ。
それに入るためには、やはり身分証が必要なわけで……
────
【検問】
冒険者・ギルドの人・商人。
様々な身分を持つ人たちが、オレブに行くためにはここを通らなければならない。
「お次の」
検問の人がカイル達を見る。
そうして三人は何食わぬ顔で冒険者証を渡す。
「…………!!」
唯一シアンだけ顔に出そうだが、ロイとカイルの淡々さで怪しまれることはないだろう。
「え〜っと、トビー様とアオーヌー様、そしてマサヒさん」
レリルよ。
ネーミングセンスをどこへやったのだ。
適当すぎる。
この街に前にも来たが、検問を担当する人間が変わっているのが幸いして問題なさそうだ。それに担当者はとにかく若い。
仮に四・五年前ならまだ子供だと思うくらいに。
ラッキーだ。
「では、良い旅を」
そのまま都市へと向かうための機械に乗る。
上へ上へとどんどん昇っていく。
機械産業がやけに発達しているのがこの街。
……できれば乗りたくはなかったが。
「はぁ……」
「今日で何回目のため息だよアンタ……」
やれやれとロイが呟くもカイルのため息は消えない。
女王の顔がチラつく度にため息が出る。
ただ女王に、“魔王軍が復活した、もしかしたら何かあるかも”と伝えるだけなのだが……
取り敢えずやるしかない。
そうしてだいたい十分後、空中都市に着いた。
「相変わらず派手だな」
面倒くさそうにカイルは辺りを見渡す。
そんな彼と正反対に、わくわくした様子で辺りを見るロイとシアン。
ここは広い。
国の周りを“列車”が常に走っている。
真ん中には城が鎮座し、女王の一言で今も国が回っている。
城の後ろには、巨大で高い橋の上で列車が走っているのだ。
あまりにも高いので怖がる人が続出しているらしいが。
「宿に行こう」
まず落ち着いて話をするために。
────────
【宿】
宿を確保。
この街は観光客なんてこないし、そもそも受け入れていない。
ここで生まれ育った人たちと冒険者と商人とギルドの人たちしか“基本”いないのだ。
「私列車に乗ってみたいです!」
シアンの言葉にカイルが静止する。
「待て待て、今はまず謁見が先だ」
「カイルサンが行くのか?」
「……ロイ」
真剣な表情でカイルはロイを見つめる。
その目にはどこか……期待の眼差しが含まれていた。
「……アンタまさか────」
「お前……行ってみない?」
衝撃だ。
どの道ロイに押し付ける気だったのなら、今までのため息や駄々はなんだと言うのか。
「嫌だわ!! なんでアンタが行かねぇんだ!」
「知ってるか? 大人って面倒くさいんだぞ?」
それは知っている。
カイルが話していないだけで、おそらく女王とも一悶着以上の何かがあったのだろう。
そんな関係だからこそ行くべきではないのか。
……とロイは言いたいのだが。
「……なんか理由あんのか?
“面倒くさい”が理由じゃねぇよな?」
「まぁな。レリルから聞いたんだが、この国は魔族の“スパイ”がいるらしい」
「スパイ? なんで?」
シアンがそう訊く。
先程の軽薄な空気とは一変し、どこか重い空気となった。
「それ程までにドルクの野郎は女王を警戒している。
あいつもドルク強さは今の俺と大体同じくらいだ。俺を警戒してあの女を警戒しない理由はない」
……何故こんなにもスパイがいるのには理由がある。
魔族は異能力関係なしに、人間に擬態できる。
それは側から見れば判断がつかないほどに。
強靭な肉体。
(平均的に)多い魔力。
それに知能。
三つ揃えばパーフェクトだ。
「安心しろロイ。俺は遅れてお前の所に行くだけだ。
ちゃんとあいつには会いにいくよ、手土産を持ってな」
「私はどうすれば……?」
「シアンはまだ戦う為のイロハを教えてないからな。
観光するなり、鍛えるなりの自由時間だ」
本当なら近くで見学させたいが、スパイ達にシアンの姿がバレるのはまずい。
ここまで慎重に来たのが台無しだ。
そんなシアンは少し不安そうにこちらを見つめる。
「大丈夫だ。何かあればアンが守ってくれる」
《そうよ。一緒に新しい物を見に行きましょ!》
シアンの頭の中で、アンの一言が響く。
……今知ったが、意識を奪わずに喋るとこうなるのか。
「それじゃ、トレーニングも兼ねて色々見てみますね!!」
これで明日の方針は決まった。
ロイは緊張した面持ちで、不安などを吐き出す為に息を吐く。
「別に変なことしなきゃ、殺されることも牢屋にぶちこまれることもないから安心しろ」とカイルが言っても、緊張するものはする。仕方がない。
(あ〜眠れねぇー!!!!)
自分の部屋にて、ロイは心の中で大きく叫んだのであった。
────────────
【ロイ:城門前】
「よし……行くぞ……行くぞ!!」
手汗がやばい。
ついさっきまでただのイチ冒険者が、この国のトップ達と面会?
これを大出世と呼ぶにはあまりにも、変わりすぎてしまっている。
────
【少し前】
「ここにはレリルの部下が駐在しててな、そいつに今回の謁見について準備してもらった」
「……誰?」
「アンとの戦いで会っただろ? 男僧侶様」
そう言われたロイは、シアンの村に入る前から今にかけて精一杯、今までに起こったことを思い出していた。
僧侶?
そんなん会ったっけ?
「……あ!」
そのまま記憶の奥の奥まで掘り起こし、漸く思い出した。
────ロイが村に待機してもらっていたギルドお抱えの僧侶を連れてきた。
あの人か。
名前どころか大して会話もしていない。
「ま、たまたま任務で地上に降りてきてくれたからな、タイムリーだったぜ」
そのままカイルは続ける。
「何はともあれその人が色々やってくれたから、お前は門番に“俺はロイ”と言えば解決だ」
────
【今に戻る】
一応服装を整えて、ある程度は綺麗にしてきた。
カイルはそこら辺雑なため、女の子のシアンがいて良かった。
ヴィルべ城と比べ物にならないくらいには派手で、大きい城だ。
「よし!!」
カイルさん。
出来る限り速くきてくれ。
そのまま使用人の人に案内されるまま、城内を歩く。
何階あるのだろうか。
「ロイ様をお連れいたしました!!!」
巨大な扉の前で使用人は叫ぶ。
そうして彼はゆっくりと扉を開いた。
「……!」
開かれた部屋の先にいたのは、たくさんの兵士と偉そうな幹部達が集まっていた。
そしてその奥にいるのが────
「………………」
女王:セーナ・レラ・オーウェン
長い白髪と真っ赤な目が何にも言い難い、圧を感じる。
笑みを絶やさず、ずっと余裕そう。
そして……
(なんつー魔力量だ!!)
彼女の体からは溢れるほどに魔力が漏れ出している。
見てて気分が悪くなるのに、兵士たちはなんともなさそうだ。
「…………ごめんなさいね。魔力を“ピンポイント”であなたにぶつけてみたらどう思うのかを知りたかったの」
クスクスと口元を隠して笑う。
その様子に美しさを感じる前に、ロイはセーナの“ピンポイント”発言が気になった。
そのセリフから考えるに、魔力精度も────卓越しているのだろう。
……本当に嫌になる。
「申し分ない。流石……カイルの弟子ね。それで……カイルはどこにいるの?」
「…………」
カイルさん。
こっちはなんとかするから……
さっさときてくれ。
────────────
【カイル:街】
そんなロイの想いは虚しく、カイルは一人で食べ歩きをしながら、街の人たちに堂々と姿を現していた。
この街でも四年前。
勇者として来たが、他の街と比べて民衆に一回も姿を現したことはない。
自己紹介をしても信じる人間はいないだろう。
……人間なら。
「おい。動くな」
低い声。
首筋に冷たいものが当たってる。
刃物だろうか。
「誰だ?」
「ドルク様の……良い手土産になるな」
そのままカイルを気絶させようとするも────
「ふごっ!?」
ドゴッ!と音を鳴らして、振り向くことなく敵の顔に肘打ち。
あまりの威力に少し遠くへ跳ばせた。
「悪いな。俺にもいるんだ手土産」
魔族の見極め方。
魔力や精神を乱せば擬態が消える。
魔王軍幹部は死にかけても、擬態が消えることはなかった。
「(……一本の角と青い肌。こいつ昔の……)お前はそこそこ強いな」
「……クソ偽装が……テメェ殺してやる!!!!」
怖い怖い。
カイル達は街の真ん中で、戦いが始まった。
────とは言え、魔王軍の奴らが攻めてきた時は共闘したさ。もう子供じゃないから流石に戦場までケンカを持ち出すことはしないさ。
(勇者時代はだいたい四年前だから、当時のカイルは十八歳。こっちの世界では十八歳は成人扱いだけど、そっちの世界での十八歳は子供では……?)




