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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
第二章 空中都市編
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第24話 邪魔。お互いに。

森の近く。

“シアン”によって荒れ果てたこの森だが、村付近は未だ健在。


雄々しい木々が多い中、二人はこの森の中で剣を交えようとしていた。


(……雷(いかづち)を食らってもほとんど無傷か)


大半を魔力で防御されたのだろう。

まだ本調子ではないとはいえ、ここまで防御されると少しショックだ。


(ここ最近まで剣なんて握ってこなかったしな……当然だな)


ドルクは自(・)分(・)が(・)作(・)っ(・)た(・)剣を眺めながらそう考える。


どうやってこの勇者を倒すか。

部下からの報告によると、カイルは他の剣士と比べて剣術は大して強くない。

それでも勇者時代、彼は人類の天井を叩いていた。


細部(ディティール)が衰えた今でも、奴は強い。

ドルクは剣を強く握り、これからに備える。

ジェナンの指示によりここ最近は準備期間だった。

漸く戦(や)れる。


「俺達が魔王を倒そうとしていた時、お前はどこにいた?」


「知らないのか……まぁ知らんか。

オレは空中都市を狙ってたからな、ここよりも北東にある魔王城に急いで戻れるほどオレは速くないぞ」


頬を触りながらそう返すと、ドルクは今にも戦いたそうな顔でカイルを見る。

ドルクにとってもカイルにとっても異なる種族と戦うのは久々だ。

カイルは息を吐き、防御の構えを────とらずに接近、殺意を一切隠さない。


「来い!!」

“元”勇者の実力をしっかりと魅せてもらいたい。

ドルクの間合いに入った瞬間、奴は感覚で反撃。


真横に剣を振るうも、カイルは奴よりも頭一個上まで跳んで躱す。

そのまま真下に剣を振り下ろすも、奴の防御が間に合った。


耳をつんざくような金属音が森に響いた。

(重いな……!)


(こいつ力強……っ!)

ドルクもカイルも、どちらも互いのパワーについて驚きを隠せない様子だ。

なんとかカイルを弾き、距離を置こうとするも……


(さぁどう来────ッ……!!)

奴の目線の先にあったのは……“カイルの剣”

ここでドルクは痛感した、彼は剣士じゃない。

あくまでも……一人の戦士であると。


(剣……投げてきやがった!!!)


急いで剣を振り上げて、カイルの剣を上に弾く。

その対応に追われていた時にはもうカイルの姿がなかった。


……森の中から足音。


「!!」

木々を華麗に伝って、小さな木を掴んで支柱とし、全身をぐるりと一回転して加速。

そのままカイルは一瞬でドルクの間合いに入った。


防御したかったが……動かない。

弾いた時に伝わる手の感覚が想像よりも遥かに重かった。


「…………チッ」

少し手が痺れてしまった。

カイルはそうして奴の腹を蹴り飛ばし、森の方へ。

飛ばされたドルクは姿勢を変えて剣を突き刺して勢いを弱める。


森の中。

ここがどういう構造かを把握しているカイルの方が有利だろう。


(……捉えてやる)


森中を駆け巡る音が聞こえる。

速い。

これが勇者のスピード。

人類の中じゃ最速に近いと言われた男の。


バキッ。

左後ろから枝を踏む音。

そこから強い魔力検知。


(ここか!!)


反射でそこに剣を振るうも、そこにあったのは適当に投げられた“木の棒”だった。

魔力を込めて→投げて→移動。

至って単純。


背後にはカイル。

待っていたとでも言いたげだ。


二撃目で既に勝負を決めるつもりだったのか。

この一瞬がスローモーションに見えた。

刃先がどんどん迫ってくる。


「…………ヒハッ」

顔をカイルの方に向け、ドルクは腕と剣に雷を纏う。

カイルの剣が奴の首に迫った時、雷を放出して真後ろに剣を振り、カイルの首に迫った。


両者の殺意が、互いの首を斬るために迫る。


「…………!」


「……………………ッ」

僅かに、刃の目標到達スピードがドルクの方が速かった。


このままムキになって戦い続ければ……死ぬ。

ギリギリで刃先を躱して、距離を取った。


「!!」

カイルの肩から血が吹き出る。

完璧に避けるのは無理だったか。


「避けたな……流石だ────!?」

ドルクの首からも血が吹き出た。

互いが互いに、完璧ではなかったというわけだ。


(……あの一瞬であそこまで反応するとはな)

反応速度はもしかしたら魔王軍随一かもしれない。

背後+場所がはっきり特定できないという状況で、的確にカイルの首元に反撃する腕とセンス。


そう簡単にはいかないか。

(こいつ“も”全力じゃない。もう一息遊びたいものだが……)


もうやめよう。

あまり“女王”に勘づかれたくはない。

別れの挨拶をしておこう。


「逃げるのか?」


「まぁな」

するとドルクが剣を高々に掲げ、雷を剣に全て集中させる。


あの剣の仕組みはわからないが、奴の魔法を受け止められるほどの強度。

そして何より魔法を蓄えられる謎の技術。


(────何かくる……!)


「『反雷(はんらい)』」


ドルクは去り際に雷を三百六十度に放ち、森ごと切断。砂煙が辺りを覆い、それを隠れ蓑にしてドルクは撤退した。


木などがパキパキと音を鳴らして折れる音が聞こえる。あの野郎好き勝手やりやがって。

自然がどんどんなくなっていくぞ。


(……流石に……今のままじゃ勝ちきるのは難しいな)


……あの雷攻撃を直撃で受けたら、かなりマズイ状況になっていただろう。

魔族の魔法とは相変わらず強いものだ。


レリル達がこない。

あっちでも何かあったのだろうか。


遠くへ吹き飛ばされてしまったが、合流し────

「ゴフッ!!」


倒れた巨木がカイルを潰す。

……まずはこれを退かすところから始めよう。


────────

【レリル】


「さて、ドルクと共に俺達を襲撃した理由は?」


「……ッ」

レリルは奴の部下を数人殺し、残った一人の目にナイフを向けていた。


(すげぇ……俺が反応するよりも速く、この狭い室内で一気に三人殺した……!)


ロイが驚きに包まれてる中、レリルは未だに尋問を続けていた。


ドルクは一人ではなく、何人かの部下を連れてきたらしい。酒屋に飲み会感覚で来られると調子が狂う。


「派手にやってくれたな」

雷に吹き飛ばされたカイルを追いたいところだが、こいつに聞きたいことがある。


奴のせいで壁に派手な穴が開いた。

「で、どうなんだ? さっさとしないと死ぬぞ」


淡々とそう呟くも、部下の魔族にはあまり響いていないようだ。

怯えるどころか不敵な笑みを浮かべた。


「…………アンタがな!」


「!!」

背後から気配。

巨大な穴からの殺意。


「レリルサン!!」

ロイからの援護は間に合わない。

すぐさまレリルはナイフを大鎌に変えて、武器を背後に回す。


剣と大鎌がぶつかり合いながら、男の笑い声が聞こえる。


「ヒハッ……!」


「……ッ……カイルを殺したのか?」

できる限りの動揺を隠しながら、レリルは小さく呟く。


殺された?

カイルが?


「いいや? 部下を回収しに来ただけだ」

変に真面目なのか、それとも嘘をつく理由がないのか、淡々と返した。


そのままレリルを蹴り飛ばし、地面に置かれた一人の部下を回収して、ドルクはどこかに消えた。

他の部下を殺されていると言うのに、随分と余裕そうな奴だ。


「……チッ!」


背後からの奇襲とは言えど、ロイの声がなければ反応できなかっただろう。

流石に人格との戦いで、疲労が抜けてなかったらしい。


「シアン、ロイ、村の人たちが無事か調べてくれ。

俺はカイルの所に行ってくる」


そうしてレリルは壁の穴から出ていこうとする前に、かなり遠くに吹き飛ばされたな……と愚痴を零しながら、レリルは建物を伝って移動していった。


高速で走れば一瞬で森の方へ着く。

そこにいたのは、なんとか巨木を退かして疲れ気味のカイルの姿が。


「カイル! 無事か?」


「問題なし。しっかしドルクとはなぁ……あんとき無理にでも殺しておくべきだったかな」


面倒くさいとカイルは付け足し答える。

「全くだ」


ジェナンが新たな魔王になった以上、そこに忠誠を誓ったのかそもそも別の意図があるのか────今考えても仕方がないことだが……

少なくとも、厄介なやつが生きていた。


二人はため息を吐きつつ、これから起きるかもしれないことに、嫌な予感を感じずにはいられなかった。


────────

【三日後】


“シアン”とドルク。

二人の強敵を(なんとか)退けたカイル達。

三日で漸く休憩できた気がする。


「村の人たちは全員無事でした」

シアンの一言に安心した様子のレリル。

あくまでも狙いはカイルだったか。


「ここは暫く俺の部下にこっそり見張らせる。お前らがここを出てもそう簡単には襲撃されないだろう」


ギルド……いや、レリルには感謝しかない。

そもそも新生魔王軍が誕生したと言うのに、何も対応しないのは可笑しな話だが。


「狙いが俺である以上、さっさとこの村から出るのが最善だろう。

クソほど憂鬱だが女王……空中都市オレブに行こう」


カイルは本当に嫌そうだ。

うなり声を何度もあげて、今にも駄々の一つでもこねそうな感じだ。


こんなカイルは初めて見る。

シアンは新鮮そうな、そしてロイは少しだけ引いている。


「じゃ、今日中に皆準備だ。レリルは?」


「ここに来たのはシアンとセシー関係。

つまり私情だ、流石にこれ以上は仕事が溜まる」


残念ながらレリルはここまで。

後はカイルとロイとシアンとの旅になる。


「あ、そうだ。シアン……“あいつ”……出せるか?」


「……あ。それは……えっと…………」


「人格だ。少し“お話”したいからな」


シアンの中にいるアンは、『ダメダメ!! イヤイヤイヤッ!!』とシアンの頭の中で叫ぶ。

……カイルと仲直りする意味も込めて、ここは無理やり出しておこう。


『あ! ちょっと! 勝手に変わんないでよ!!』


シアンの雰囲気が変わった。

ややこしいが、あっちの“シアン”だ。


『……………………』

カイルの目を見てプルプルと小刻みに震えている。

目は口よりも物を言うとは本当だ。

その目には恐怖恐怖恐怖、恐怖しかない。


「えっと……“シアン”?」


『…………アン』


「ん?」


『私の名前は……アンだから』

シアンが決めたのか。

彼女の名前から“シ”を抜いたのか?

……まぁひとまずそれは置いておいて。


「……じゃ、“アン”に聞きたいことがあるんだが────」


『……質問に答えなかったら殺す?』


「殺さねぇよ!!」


アンとカイルの関係修復は、どうやらまだ先の話らしい。そしてカイルの頼みたいこととは────?













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