第23話 心機一転
まさかの毎日投稿開始
【朝:シアン】
夢から覚めたシアン。
二つ目の人格である“シアン”と、やっと分かり合えた気がする。
……まぁカイル達の脅しが本当に効いたのだろうが。
それでも彼女は自分を受け入れてくれた。
シアンの人生は漸く始まったとも言える。
『シアン……その……』
「“シアン”? どうしたの────って、なんかこっちもシアンであっちもシアンでややこしいなぁ……」
そうだ、名前を決めよう。
あまり複雑な名前にはしたくないし、カイルさんにも紹介しやすい名前がいい。
出来れば自分と近い名前も……
そうして暫く考えた結果、ある考えに辿り着いた。
「アン……アンってどう!?」
シアンから“シ”を取っただけなのだが、シアンはその名前で呼ぶことを妙に気に入ったらしい。
『う……うん……それでいいや……もう』
名前を貰って嬉しい気持ちと、アンという単語はどこから出てきたのか分からない気持ちとで二極化したが、一先ず置いておく。
一度決断すると踏み留まろうとしない。
彼女の人格として、ある程度シアンの性格については知っていた。
「それでどうしたの?」
『えっと……その……カイル……さんの所に行くのよね?』
やけに歯切れが悪い。
『……こっ……殺されないよね……?』
完全にトラウマになっている。
カイルの殺意を一身に受けると人はこうなるのか。
確かにあの時、シアンも彼のその一片を見た。
気をつけなくちゃいけないという責任感より、言葉・表情ともに恐怖が先に来るレベルで。
────もし人格が再び暴れ、無関係な人間に手を出し、殺した瞬間……問答無用で殺させてもらう。
今まではお前に責任問題は発生しなかったが……今度はそうはいかないからな。
あの時のカイルは……いや、あの目はとんでもなく恐ろしかった。
自身の責任を取るため、シアンに責任を取らせるために。彼はシアンとアンを殺す。
それでも彼とは話さなくてはならない。
助けて貰った身として。
────────
【カイル】
────カイルさんの部屋に行きます。レリルさんとロイさんも連れて、これからについて話したいです。
……と、シアンに言われて未だこない。
ロイは何もせずに待つのが退屈になり、水魔法のロープのような形にしてビヨンビヨンと回して遊んでいる。
「なんかあいつに厳しくないか?
責任の取り方には概ね同意だが、それでもシアン自身に確実な罪なんてないだろ?」
“生み出してしまった”という罪の意識は本人の中にあるかもしれないが、それでも生み出してしまっただけ。
そんな人格が魔力の殆どを奪い、暴走するなんて誰が予想出来るだろうか。
「………………」
レリルの言い分もわかる。
彼女だって守られてばかりじゃない。
現に今、人格と向き合おうとしているのだから。
でも……まぁ────
「……確かに少し大人気なかったかな〜」
主に「今まではお前に責任問題は発生しなかったが……今度はそうはいかないからな」は、いらなかったかもしれないなとカイルは思う。
自分の力を制御できず、そこに四苦八苦している人間の気持ちは同情こそできるが共感できない。
彼女にも責任があることを自覚させたくて言ったが……
「余計……か」
変に接し方をミスればあの世でセシーに怒られてしまうな。
そんな二人のやりとりが丁度終わった時に扉の奥からノック音が。
「……失礼します」
すると緊張した面持ちで、部屋に入ってきたシアン。
別に何かするつもりはないが……まぁ大方、“シアン”の方がなんかビビらすことを言ったのか。
そうしてシアンは覚悟が決まったのか、真っ直ぐな目で彼女は口を開いた。
「あの……! カイルさん、ロイさん……私を仲間の一員にしてくれますか!!」
最後にははっきりとそして迷いなく伝えたシアンは、その目にカイルをしっかりと捉えていた。
驚きを隠せないロイに、俯いて息を吐くカイル。
こういう時、セシーはなんて言うのだろうか。
ダメだ。
……か、
良いよ。
……か。
多分後者だろう。
どちらにせよ、ここの答えは慎重にならなくてはならない。
シアンはともかく、“シアン”は強い。
戦力としては申し分ないが……
「……覚悟は出来てるのか?」
カイルの仲間との関係を察したのか、代わりにレリルが訊いた。
それでもシアンは頷くのみ。
これ以上の言葉はいらないとでも言いたげだ。
「……どうしてそうしたいと思った?」
まるで面接だ。
そんなことを考えながらカイルはそう訊く。
「お姉ちゃんとの夢だったんです。
皆さんも知ってますよね? お姉ちゃんとは喧嘩別れだったこと……」
カイルを主とした勇者パーティが作られたのは五年前。
だが、カイルはあくまでも最後のメンバーで、昔からいたわけじゃない。
戦士ヴァル、魔法使いミラ、僧侶セシーという冒険者パーティが作られたのは六年前だった。
六年前……二人は喧嘩してしまったのだ。
────────
【六年前】
彼女はまだ十一歳。
まだセシーがパーティに加わっていなかった時。
「シアン。一緒に夢に叶えよう」
夢を叶えようとしたセシーは……シアンを誘った。
それでも……
「私は魔力が少ないんだって、お医者さんが言ってた」
冷めた口調でシアンは返す。
知らない人間は多いが、魔力とは簡単に言えば“精神を芯とした体力”に近い。
シアンの“芯”には大量の魔力が眠っていたわけだが────
彼女元来の性格と、セシーの才能を目の当たりにしてきた劣等感から、無意識のうちに才能を隠してしまった。
「関係ないよ」
優しく、そして毅然とした態度で返すセシー。
魔力があろうとなかろうと、多かろうと少なかろうと。
旅はできるし、歩けるし、走れる。
それだけでいいとセシーは思う。
必要以上に自信を失くす必要はないと。
「……なくないよ」
ただ……そんな優しさを受け取るには、今のシアンは劣等感に染まり過ぎた。
「天才僧侶様にはそう映るんだろうね」
そう言ってしまった。
たっぶりと籠った皮肉に、セシーは……
「違うよ……! 私はただ────」
「お姉ちゃん“は”天才だから」
シアンは被せるようにそう語る。
心のどこかでは何故自分はこんな酷いことを言っているのだろうと思ったが、もう止まらない。
「お姉ちゃんは色んな所に行けばいいよ!!
私は……この村に残るから!!」
姉は……セシーはシアンを本気で怒ったことは一度もない。単に怒れないだけかもしれないが、それでも人一倍優しさがあったと思う。
「……私は────お姉ちゃんのことなんか嫌いだから!!」
劣等感が爆発した。
心にない一言だった。
私には何が残っているのだろうか。
「……ッ」
セシーは悲しそうに、シアンに対して怒らずにただ黙って……出て行った。
────────
【二日後】
謝ろう。
そう思って二日経ってしまった。
ごめんなさい。
本当は大好きだよ。
世界一重いこの言葉達。
これを言えるのか……分からない。
そうしてセシーの部屋に行こうとした時────
「シアン」
背後から母に声をかけられた。
急いで振り向くと、そこには一枚の“手紙”が。
あまり勘が鋭い方ではないが、この勘は多分合ってる。
「出て……いっちゃった……の?」
「あなたが寝てる時にコッソリとね。お父さんも私も、あなたに声をかけるべきなんじゃない? と言ったんだけど……」
────……シアンにはシアンの人生がある。ずっと最近まで……シアンがそんな思いを抱いていることすら分からなかった私に、もう姉として振る舞う資格なんてないよ。
両親は二人が喧嘩をしていることは知っていたが……
セシーの様子を見て、何かを言うべきか分からなくなった。
親として、一人の大人として、綺麗なアドバイスはできなかった。
そんな手紙を、母は読まずにシアンに渡す。
綺麗な手紙だ。
本当に。
シアンはゆっくりと、それを開いた。
────
『シアンへ』
ごめんなさい。
私の存在が、あなたをずっと苦しめていたなんて全く分からなかった。
これ以上……私はこの村にいない方がいい。
一緒に冒険したかったけど、あなたを苦しませるのは本意じゃない。
ここでお別れ。
バイバイ、シアン。
ごめんね。
────
綺麗な封筒とは違い、手紙は解読がし辛いくらいには滲んでいた。
元より綺麗な字を書くセシーだが、そんな彼女の字は動揺か悲しみか、とても震えた字だった。
「…………お姉ちゃん」
姉を傷つける気はなかった。
劣等感という感じる必要のない感情に支配され、姉に────
──── ……私は────お姉ちゃんのことなんか嫌いだから!!
そう言ってしまった。
手紙を読んで、姉の字を見て、シアンは地面にへたり込む。
自分の呼吸がはっきりと聞こえる。
ごめんね。
謝るのはこっちの方なのに。
「ごめんなさい……お姉ちゃん……」
両親は……シアンを抱きしめることしかできなかったし、シアンは泣き続けることしかできなかった。
────────
【現在】
六年前に出て行ったセシーは、その後ヴァルとミラに拾われたし、そこから二年後に魔王を倒した一員として有名になった。
……シアンにとっては関係ない話だったが。
「だから……私はお姉ちゃんみたいに……旅をしてみたいんです」
セシー……悪いな。
俺が大人なら、ここは力づくでとめるべきなんだろう。
もしかしたら彼女の願いに反することになっても……
「いいぜ、ついてこい。ただし!! ハードな鍛錬はしてもらうぞ」
カイルの一言に、少し心配そうなレリルと仲間が増えたことに対して嬉しそうなロイ。これから大変になる。
今までで一番、彼女は輝いていた目をしていた。
「それで……人格の方はどうした?」
「カイルさんが怖くて出てきません」
そう言う彼女もカイルの“背後にある物”を見て、とても緊張したらしい。
ああこれ?とカイルはそれを取り出した。
「村の人に貰ったんだよこれ……」
綺麗な鉄剣。
現役時代に使っていたものよりも良さそうだ。
あまり剣は使いたくないが、捨てるのも忍びない。
改造してナイフにでもしようかと思っていた。
「さて、これからについてなんだが────」
「いい話だったな!!」
その話はまた今度。
カイルはそう言おうとした瞬間。
先の言葉が誰から発せられたのが分からなかった。
シアン?
明らかに違う。
レリル?
このタイミングで?
ロ────と考える必要はなさそうだ。
「……誰だお前?」
声を発するまで全く気づかなかった。
ロイとシアンはとてもびっくりした様子。
無理もない、レリルですら攻撃しようともしていない。
男は三人の間に立ち、剣を抜く。
そうして彼の目線はシアンへと……向いた。
「いっ────!!」
剣がシアンへと到達する前に、カイルが剣を抜いて彼女を守る。
こいつ左利きか。
剣と剣が押し合う鍔迫り合いになる中、男は一言────呟いた。
「久しぶりだな。“元”勇者カイル」
「……ドルク!?」
魔王軍幹部。
かつての魔王の右腕が────わざわざここに……!
「オレが……僧侶セシーを殺した」
それを聞いたロイは激昂。
攻撃を叩き込もうとするも……
「待てロイ。怒ったところでセシーは戻ってこない!」
カイルは淡々と語る。
しかしドルクの力は本物だ、押し出そうとしても一切押し出せない。
こっちは両手で弾こうとしているのに。
ギチギチと金属が掠れる音が部屋の中に響く。
男の背後からレリルは攻撃を叩き込もうとするも────
ドルクの剣から雷が漏れ出る。
「吹き飛べ……!」
「!! 全員下がれ!!」
急いでレリルはロイとシアンを連れて外へと出た。
ドルクから放たれた雷によってカイルは遠くに吹き飛ばれ、“シアン”と戦った森の近くへ。
将軍・ドルク。
かつてその名を聞いた頃には、カイル達は既に魔王を倒していた。
これほどの力の持ち主だとは。
「死んだのか? いや生きてるな」
「一番死んでほしい“魔族”が生きてたとは……な」
カイルは剣を構える。
剣を握るのは久々だ。
こいつにセシーは殺されたのか、長い月日は良くも悪くも……
……今その話はいい。
「さて、取り逃がした責任を────取らないとなぁ!!」
「よしよしよし!! 良いぞ〜さっさとやろうォ!!!!!!」




