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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
間章 空中都市へ向けて
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第22話 乞うのは命。


“シアン”を倒したカイル達。

そのまま“シアン”の処刑も終わらせる。

自然は能力によって荒され、彼女自身の肉体にダメージが入っている以上、別の方法はない。


レリルは液体金属を回収して、武器を大鎌に変える。


「呼んできたぜ!」

ロイが村に待機してもらっていたギルドお抱えの僧侶を連れてきた。


僧侶に治療して貰ったのだろう。

頭の傷が(だいたい)治っていた。


「トドメは任せろ」


心臓を一突き。

その後回復魔法で即治療。

後は心肺蘇生などでシアンの意識を戻す。


残念だがもうこの方法しかない。

「……!」


大鎌を振り下ろそうとした瞬間……


『ん……』

人格ではなくシアンの方の可能性がある為、彼女の胸に刃が刺さる寸前に、大鎌を寸止め。

様子を見る。


『あれ……なんで意識がまだ私に────って、なによこれ……!!?』


縄で木に括り付けられ、能力で抜け出そうにも抜け出せない。

何度『大砲(カノーネ)』を放とうとしても、手から全く魔力が出てこないのだ。


「それは“呼吸の縄”と呼ばれる、ギルドでも選び抜かれた人間しか所持を認められない。

名前で察せる範囲だが、こいつは呼吸をするように魔力を奪うからその名前だ」


唯一の代償は、強度は普通の縄なので大きく対抗されれば、破られるのだ……


魔力さえ奪えればシアンも“シアン”も同じ事。

“非力な女の子”へと成り下がる。


『…………! はぁ……はぁっ……はあっ!』


カイル達がこれから何をするのか。

何を“されるのか”、理解したくなさそうだが理解したようだ。


精一杯、彼らを睨む“シアン”。

ただ……カイルとレリルの目はどこまでも冷たかった。


ロイは見かねて適当な方向をただ見つめていた。

決して“シアン”は見ないという意思すら感じる。


「もうわかっただろ? 今から俺はお前を殺す」

はっきりとレリルはそう告げた。

大鎌を再び振り上げ、“シアン”の怯えを気にせずに。


もう彼女には反逆の意思も、戦いで回っていた頭も一切機能せず、その目は絶望に染まっている。


ただ、カイル達と逃げずに戦ってこうなったのだ。

いくらでもあった逃げるチャンスを掴まずに。

腹を括ってもらいたい。


ただ……彼女から出た言葉は衝撃的なものだった。



『待っ……まって……殺さないで…………!』


“シアン”はそう零すと、二人は大きく目を開いて顔を合わせる。


「何? お前俺たちがなんでここまでしたかを知らないのか?」


カイルの言葉に“シアン”は何度も大きく頷いた。

『シアンから人格を奪うのに精一杯で、あなた達が何をするかなんて何も知らなかった……!!』


……嘘には見えない。

残念ながら。


つまり彼女は今までのように、負けたら“気絶”させられる戦いに身を投じていたのか。

シアンの覚悟やカイル達の作戦は何一つ知らないと。


『あなた達にしたことは謝るから……あやまりますからぁ……! お願い……殺さないで…………!!』


大粒の涙をたくさん垂らしながら泣く。

“シアン”は縄を千切ろうとするも、ただの小娘にはあの縄はほどけない。


先程の高飛車な態度はどこへ行ったのやら。

彼女は何度も頭を下げ、必死に命を奪われないように抵抗している。


「…………レリル」


「カイル……分かってるさ……」


こうも命乞いをされると調子が狂う。

彼女の性格から考えて最後まで嫌味を言って、こちらの神経を逆撫でするだけ逆撫でして終わるかと思っていたが……


元より彼女にとってはあの戦いは“次がある”ものだったのだろう。

何度カイル達に気絶させられても、いつかは勝ってやることを夢見て────


『……私が生(・)ま(・)れ(・)た(・)のは三年前……シアンの姉であるセシーが死んだ時……

そうしたらシアンは何度自分にこう語ったかは数えきれない!』


────どうして私は生きているのだろう。


────どうして自分から仲直りしなかったのだろう。


────どうして私は死なないのだろう。


希死念慮にも近い感情が、シアンにはずっと残っていた。


実際に“そう言うこと”は理性が働き何もしていない。

……やっぱり怖いから。


「……だからお前が生まれたと」

死ぬべきと思っても、年頃の彼女にだってやりたいことはある。

これから得るであろう人並みの……女の子としての幸せをそう簡単には手放せなかった。


『私は死にたくない……! シアンと心中なんてヤだ……もっと生きたいのぉ!!』


ヒステリックにそう叫ぶ。

シアンの奥底に隠したであろう、死にたくないという感情が今────“シアン”を通じてハッキリと写っている。


『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ごめんなさい……もう二度と暴れないし、シアンの人格も勝手に奪わない……だから殺さないでぐだざい……!』


「…………残念だ」


レリルが覚悟を決めたように、大鎌を彼女の心臓に狙いを定めた。


『助けて……勇者カイル……!』


最後の説得と言いたいのか、彼女は今もなお気まずそうな顔を浮かべるカイルに狙いを変える。


彼はそうやって人を助けることを知っているから。

……そう呼ばれて……助けてきたから。


しかし、カイルから返ってきたのはどこまでも冷たい一言で────


「…………悪いな」

淡々と、そう呟かれた。


『……!!』


あぁ、鎌が……刃先がどんどんと迫ってくる。


嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ。


『やめてぇ!!!』


「然らばだ」

そうして刃先が彼女の胸に迫った時。

一同は驚きに包まれた。


「“待って”!!!」


「……! レリル!!!」



────────


レリルの大鎌が“シアン”の心臓を貫こうとした時、間に割って入り、貫かれたのは彼女の心臓ではなくカイルの腕となった。


自身の筋肉で刃を止めたのだ。

「カイルサン!!」


カイルの腕から血がダラダラと垂れる。

そうしたのは、決して情によって動かされたからではない。


「……どういうことだ? シアン」


人格の切り替え。

今は“シアン”ではなく……本当の人格のシアンであった。


「待って……ぐぅっ……下さい……!」


今まで“シアン”に浴びせられた痛みが一気に襲ってきたのだろう。

カイルやレリルの本気を何度も受けた体は、いくら魔力でしっかり防御されてもダメージは入る。


“シアン”の涙を、そのままシアンが引き継ぐ形となった。


「この子は……悪い子なだけなんです……!

私のせいで……生まれて……私がしっかりしてなかったから……!」


「………………」


違う。


そもそもセシーを救えなかった俺に落ち度がある。

人に期待されるのは疲れたとか、今の名声には価値などないなどの理由で勇者を辞めたのは……俺だ。


一緒にいたら……きっと救えた、それを手放したのも俺だ。


そんな否定文が喉まで上ってきても……口から出ることはなかった。


「……実際、彼女は人を殺してはいないし傷つけてもない。あくまでも建物や自然を破壊しただけ」


断罪するほどの罪を、彼女は持ち合わせてはいない。

それでも、彼女と共に歩むのは負担だろう。


「もう……逃げません……だから……彼女を……“シアン”を殺さないでくれませんか!!」


我儘なのは分かってる。

自分で殺してくれと頼んで、彼らをこんなにボロボロにさせて、まだお願いをする。


厚かましいことこの上ない。

それでも今の彼女には頭を下げることしかできなかった。


「………………」

レリルはカイルに表情を向ける。

“一番近い関係者のお前が決めろ”とでも言いたげだ。


「……あ〜!! わかったわかった!!! 一旦“シアン”を殺すのは見送る!!」


「!!」

パァッとシアンの表情が明るくなった。

先程の痛みを忘れたように。


「ただ」


「……?」


「もし人格が再び暴れ、無関係な人間に手を出し、殺した瞬間……問答無用で殺させてもらう。

今まではお前に責任問題は発生しなかったが……今度はそうはいかないからな」


「ッ……はいっ!!」


カイルは今まで一番低い声でシアンにそう語った。

人格を殺さなかったカイルにも責任は発生するかもしれない。


責任を取るため、そして筋を通すために。

厳しさを込めて……そう語った。


「さて、傷を治してもらって……色々落ち着こうか」



────────

【夢】


僧侶によってだいたいの傷を治してくれたが、未だ痛む、そんな痛みから解放される時がある。


シアンは夢を見た。

ただ、これは夢であり夢じゃない。

……夢特有の浮遊感を感じない“夢”


ここは自分の家だ。

精神世界とでも言うのだろうか。


「でも、好都合だね」

椅子に座り、向かいにはずっと涙目の“シアン”が座っていた。


昔そこにはセシーが座っていたが、今は彼女が。

『……どうして?』


「えっ?」


『どうして私を助けてくれたの?』

カイルとレリルによる、長年を戦いに捧げてきた者達の殺意を一身に受けた“シアン”はずっと震えている。


そこには今まであった、自信も尊厳も何もない。

不思議と……怖くない。


「私の責任だから。もう逃げないために」


“シアン”が欲しい言葉をかけない。

……決して同情なんかじゃないから。


『……悪いことしないから……殺さないで……!』

余程トラウマになったようだ。

ちゃんとした対話にはならないだろう。


「約束してくれる?」

立ち上がり、“シアン”と目を合わせるために屈む。

自分のはずなのに、どこか小さい子供と話している感じだ。


『する……するからぁ……お願い……殺さないで……!』


彼女も自分も“共犯”関係。

色んなものを壊してしまった。


だからこそ私は赦す。

ギュッと彼女を抱きしめる。


『ごめんなさい……ごめんなさいぃ……』


「うん、うん。大丈夫だよ」

涙が止まらない“シアン”は、シアンの胸で大粒の涙を流した。


大丈夫。

まだやり直せる。


彼女たちはも(・)う(・)一(・)度(・)、生きることにしたのだった。






間章:空中都市に向けて 完


次章:空中都市編


向けてとは書いてありますが、セシーとシアンに向けた話になりましたね。


今度こそ空中都市の話になります。

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