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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
間章 空中都市へ向けて
23/34

第21話 心を引き出す

「…………ふぅ」


レリルは遠くへ飛ばされ、ロイは気絶。

“シアン”の襲撃タイミングについては百点満点・素晴らしいと言うしかない。


思うに、ロイがシアンに対して魔力や気配を感じなかったのは別人格である“シアン”が魔力の全てを奪い去っていたからか。


“シアン”がやったように、無理やり体の主導権を奪ってくれるのを期待するのは────できないな。


(今まで“シアン”が見せた技は大きく分けて四つ

①自爆(本人が無傷の)

②極太光線

③物量攻撃

④光線のコントロール攻撃

……全く嫌になるな)


ただアレには何か代償あるのか②はあまり使ってこない。


代償……?

“アレ”に関しては肉体的な制約は感じない。

いや、一つ思い当たるのがある。


────キュインキュインとチャージ音が森中に響きながら。


これだ。

極太光線を放つ際はチャージが求められていた。

本当に二秒辺りのチャージだが……隙ではある。


一対一。

なんとか極太光線を誘発させたい。


(なんとかするしかないな! シアンの為にも……勝つしかない!!)


宙に浮かび、ただひたすらに余裕な表情でこちらを見下ろす“シアン”。

どうやって浮いているんだ?

……今考えても仕方ないか。


『!!』


真正面から“シアン”に向かって突進。

悪手だと思わせて誘発させる。


『いいね。このまま……死んで? 勇者カイル』


そのまま片手で大きな魔力球を作り出した。

キュインキュインというチャージ音。


『大砲(カノーネ)!!!』

発射する瞬間、辺りの音が消えた。

これは死ぬ直前のスローモーションか、それとも全身が避けろと叫んでいるのか。


(…………来る!!)


魔力の塊がこちらに急接近。

地面を抉り、森を一瞬で“溶かして”しまった。

……破壊光線はカイルが躱すよりも速く到達。


“シアン”から見ると、ただ突っ込んできただけ。

自身の魔力で消失したように見えたが……


(どうしてあの人は私と戦ってきたのだろう?

レリルも……あのロイという男も)


いつもの“喧嘩”には感じない。

それよりもどこか────


『!?』

木。

目と鼻の先に迫ってきた。


『ッ!!』

素手でなんとか弾く。

あの木を飛ばしたのは……


真っ白なシャツ……その背中は“殴り飛ばされた”ために真っ赤に染まっていた。


「フッ」

痛みによるものか、脂汗を垂らしながらも不適な笑みを浮かべているレリル。


吹き飛ばした時の武器は剣。

ただ今彼が持っているのは斧に近いものだった。


(どこまで武器を持っているの? というか……なんでまだ────)


「上を飛ぶものは、上(・)を(・)見(・)な(・)い(・)。自分よりも更に上がいると知らないから」


上(・)か(・)ら(・)男の声。

その声はこの戦いでとても聞き覚えがあった。


『なっ……!?(勇者!? そうか! あの時カイルはギリギリで上に跳躍した!? どうやって!?)』


考えがまとまるよりも先に、カイルは足を真上に振り上げていた。

“シアン”が防御に入るよりも速く、足を真下に振り下げることで“シアン”を叩き落とす。


地面を大きく破壊。

小さなクレーターのような形が出来上がるほどに。


『ッ……なん……で……っ!!』


「よぉ“シアン”」

レリルでもカイルでもない男の声。

“シアン”はその声を知らないが、シアンは知っている。


『ロイ……? 生きて……?』


「随分と変わったな」

ロイは火魔法を手から出しながら、“シアン”を見下ろす。


(……ようやくわかった。あの時私よりも上にいたのはこいつの協力があったからか?)



────

【少し前】


レリルが吹き飛ばされた辺り、彼女の縦横無尽な光線攻撃を躱して隠れた時。


カイルは背後から肩を叩かれた。

「……ロイ!!」


「へへへ……まだくたばっちゃいないぜ」

ある程度の応急処置をしたのだろう。

頭からの出血は大分マシになっていた。


死にそうなら逃げろ。

彼に強く言い聞かせ、そして戻ってきたのだ。

まだ戦えるという証。


「よし! お前がいるなら話が変わる!」

ロイの背中をバシバシ叩きながらカイルは作戦を説明する。

“シアン”を殺す方法だ。


「殺す方法は本当は二択あるんだ」


「二択?」


“シアン”に聞かれたくない為にシアンには黙ってあったが、殺す手段は二つある。


一つは封印術を利用して、“内部”に入り込み仕留める方法。


内部とは心の中。

精神世界だ。


二つは……今やろうとしている方法。

物理的に殺すことだ。


「シアンの心臓を突いて殺す。これに関してはレリルが適任かな」


本来なら前者で安全にやるつもりだった(それでも精神世界を破壊して殺してしまうリスクがあるが)。

今となれば必要ないことだ。


“シアン”の拳は重く、強い。


カイル達とシアン、双方にとってリスクの少ない“殺し方”だったのだが……

タラレバを語ったところで仕方がない。


「…………それはシアンに悪影響は?」


「心臓を治すというのは、ギルドの優秀な僧侶からすれば大した問題じゃあない。問題なのはそこからシアンが意識を取り戻すか否かだ」


それについてはもうシアンを信じるしかない。

心肺蘇生や人工呼吸についてはこちらも出来ることをやるが。


殺すのは本当に手間がかかる上にリスクもデカい、死なせてしまうから。


「ここからシアンちゃんが意識を取り戻す確率は……ゼロに近い。ならもう後者の択で行くしかないんだ」


少し話が逸れたが、今度こそロイに作戦を説明する。

「いいか……」


……暫くして。

「……そんなことしたら俺は戦えなくなるけどいいのか?」


「走(・)れ(・)る(・)な(・)ら(・)充分だ」


カイルはそのまま、こちらを上空から探す“シアン”に目を向けた。

自分が殺されるなんて“一ミリも”知らなさそうな顔に吠え面をかかせてやる。


少なくともロイはそう思っていそうだ。


「…………ふぅ」


────

【今に至る】


“シアン”は空から“堕ちた”

カイルに叩き落とされ、地面に落ちている。


彼女はずっと全てを見下ろしていたのに、今はロイに見下ろされ……


『…………ッ』


「さて、どうする?」

また負ける。

また気(・)絶(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)る(・)。


これ以上、屈辱を受けるのは嫌だ。

まだやれる。


『私の能力は……! 生きる為にあるの! まだ負けない!』


“シアン”は突如立ち上がり、拳をロイに向けて振るうが寸前で回避。

どの道、カイルが考えた作戦のために少ない魔力を残さなければならない。


最初の“シアン”の自爆攻撃を水魔法で反射的に防御したため、ロイの膨大な魔力でさえも残り少ない。


もし防御に膨大な魔力を割かなかったらロイの体はバラバラになっていただろう。


『……大砲(カノーネ)!!』


「ッ!! 火魔法(フレア)」


魔力の塊と、魔力を変化させたもののぶつかり合い。

両者ともに魔力コントロールの才能は並外れているが……


「!!」

押し合いに敗れ、光線で吹き飛ばされた。

魔力量やその操作は無論、“シアン”が勝っている。

……ただロイの敗因はそれだけじゃない。


純粋な魔力を飛ばす異能力『大砲(カノーネ)』と、魔力を“別の質量”に変化させる魔法では質が違う。


火や水、風に変えるという行為を挟んでいる以上、どうしても単純火力で負ける。


「ガッ……!」

本当なら拮抗して勝ちたい。

だが今の状態でこいつに勝ち目がないのも分かる。


『もうわかったでしょ? あなたなんかじゃ私には勝てない』

ロイの魔力は残(・)り(・)少(・)し(・)。

撃てて一・二発。


「いい加減……観念するんだな」

死角からカイルとレリル。

拳と剣の二つ。


レリルは寸前で大鎌に『改造』して真横に振るう。


ガキン!!


えらく反った刃を防ぐのは困難────

そう思っていたのだが。


「チッ!!(魔力を体外から取り出して、それ(魔力)だけで防ぎやがった!)」


刃先の先端が彼女の首に迫った時、片手はそれに合わせて魔力を出し、それだけで防いだ。

“シアン”の異能力だからこそできる技……


『そろそろ私の勝ちでも良いんじゃない!?』


「!!?」

カイルの拳を掴み、そのまま山奥まで吹き飛ばす。


もう何度目か。

森がめちゃくちゃだ。


「グッ!!」

レリルを蹴り飛ばし、今度こそ邪魔者がいなくなった。


“シアン”は真上に飛ぶと、丁度カイルが吹き飛ばした位置に停止。

それを待っていたのか、カイルは岩などを伝って“シアン”より更に上へ跳んだ。


ほぼ真上。

極太光線を使いたいところだが、流石に魔力不足。

半分……いや、それ以上は使い切った。


(もう邪魔者(ロイ)はいない!! もう全力で撃てる程力は残ってないケド、後は物量で押し倒す!)


最初の極太光線は、恐らくロイが風魔法で吹き飛ばしたのだろう。


ただロイは倒した。

あのボロボロな体じゃ、この距離の支援は不可能。


『終わりよ……大砲(カノーネ)ー!!!』


大量の光線を両手で分裂させるように出した瞬間────!


カイルと“シアン”の間に“炎の矢”が通り過ぎた。

その矢は巨大かつ強靭で、光線を全て打ち消すに至る。


『!?(なんで────)』

「その答えはたった一つだ」


レリル!?

どうしてここ(上空)に!?


“シアン”は目を下に向けると……

そこには今にも倒れそうなロイが。


────

【作戦会議時】


「いいか? 必ず“シアン”はあそこの山に俺を吹き飛ばす」


「なんでわかんだよ?」


「俺が前に“シアン”を気絶させた場所だからだ」

勝ちたがりの奴のことだ。

どうせそこで因縁を晴らそうとしてくるだろう。

……こちらに殺意に呼応して。


「“二発”でいい。

あいつの光線を吹き飛ばす一撃と、レリルを吹き飛ばす魔法だけでいい」


レリルなら何をするかわかってくれるだろう。

繋(・)げ(・)役(・)なのは申し訳ないが。


「……そんなことをしたら俺は戦えなくなるけどいいのか?」


「走れるなら充分だ」


────

【現在】


ロイに残った魔力の半分を、威力ではなく当たることに意識を向けてしまった“シアン”の光線に。


残りの半分で風魔法を爆発させるようにレリルを吹き飛ばした。


「魔力量じゃ勝てなくても、魔力のコントロールなら俺は負けないぜ!! シアン!!」


そんな叫びが空中まで聞こえるようだった。

「終わりだ」


『うるさい!!』


片手で光線を出し、レリルを遠ざける。

吹き飛ばす威力も……もうないのか。


(でも! 後は勇者カイルに意識を向ければ────待って、あのレリルが何をせずに飛ばされた?)


傷こそつけられなくても、必ず攻撃を入れてきたレリルが?


(そうだ、あの時の変形もそう。

特別な武器とは思ってはいなかった、もしかしたら何かしらの変形は異能力によるものだと)


それは正しかった。

ただ……つい先(さっき)、奴は何をした?


「あいつが言っただろ? もう終わりだ」

カイルが魔力を拳に集中させる。

迎え撃つように腕全体に魔力を込めると……


ガシッ!!


……と、金属が“シアン”を拘束した。


────すぐさまレリルは双剣を液体金属に戻して、次はロープ状なものにする。


あの時よりも遥かに硬い。

レリルは武器を剣から元に戻して、液体金属を忍び込ませた。


そうしてカイルが近づいた時、能力を発動。

金属の硬い“錠”へと改造され“シアン”を確保。


流れはどこまでもシンプルで……

「俺の仲間を傷つけたんだ、そんな奴は……“オシオキ”だ」


『……ッ!! 待って!! やめ────!!』


静止を無視してカイルは拳を振り下ろし、“シアン”ごと地面に激突。


その一撃は……彼女をノックダウンさせ、勝利を掴むにはあまりにも充分で……


「……きゅ〜」

そんなことを言って、もう抵抗どころか意識すら朦朧としていた。


「ったく、硬い奴だなホント……さて“殺す”ぞ。

準備を整えろ」












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