第20話 暴走大砲
────なら……一時の痛みで我慢できるなら、それがベストです。
彼女は俺たちを信じてくれた。
なら今はただそれに応えるのみ。
“私”を殺してくれと言うのなら……
返す言葉はただ一つ。
「引き受けた」
カイルは“シアン”を眺めて、攻撃の態勢を取る。
残念ながら人格を乗っ取られてしまったが、彼女は人格を殺してほしいと言ったのだ、なら────
正面でしっかりと殺してやる。
『う〜ん! やっぱりあなたの目は最高よ……!』
本当にシアンとは思えない。
恍惚とした表情でカイルを見るとその妖艶な態度を一切変えずに、彼女は突然空を飛んだ。
「…………クソッ」
人格の“弱体化”を促す半封印を行いたかったが……カイルとロイの話から、これから何をするかを察したのだろう。
急いで人格の掌握を成功させたのか。
これから行うのは“本気”の殺し合い。
“シアン”の全力を受けることになるのだ。
『あの子も可哀想……シアンなんかを気に掛けたせいで回避が遅くなって────死んだ』
「……!」
頭から血を流し、一ミリも動かない。
受け身を失敗したのか……
そしてロイは僧侶じゃない。
回復魔法を使えないせいで、一度気絶すればそこまでだ。
『どう? 悔しい? あなたの“生きろ”っていう教えも無意味になっちゃったしね。
……出来の悪い生徒なんか忘れて、私とず〜〜〜っと遊びましょう?』
「……もういい」
これ以上話しても無駄。
元より人格の人間性なんて期待しても、返ってくるのは非情な態度だけ。
正面切って弔ってやる。
“シアン”はそんなカイルの様子をただ笑って見下ろし、彼に向かって……唱える。
異能力発動の気配。
『大砲』
キュインキュインとチャージ音が森中に響きながら────
「!!」
とんでもない速度の光線がカイルに向かって爆音を鳴らしながら突撃。
これが彼女の異能力か。
圧倒的かつ高出力の破壊光線。
「……チッ」
怒りで反応が遅れた。
回避がギリギリになって……腕が少し焼けた。
こいつを放っておくと森が綺麗になくなる。
さて……
(かなり吹っ飛ばされちまったな……気配は大した動いていない以上、近づけさせない気か?)
あの光線に攻撃されるのはまずい。
主に真正面で受けるのは。
「!」
奥からガキンという金属同士がぶつかり合う音が。
……レリルが代わりに戦ってくれている。
早く合流しよう。
考えをまとめたカイルは、森を駆け出す。
木々を華麗に躱しながら速度を落とさずに、“シアン”の方へと向かう。
「……ッ!」
レリルの大鎌を“素手”で鮮やかに弾く“シアン”。
硬い。
身体強化が極限まで至っているのだろう。
『勇者カイルの次に……あなたも好きよ。ギルド職員レリル』
「……光栄だな」
そうして大鎌を双剣に変えて、息を吐く。
一秒ごとに命が削れるような感覚。
久しぶりなこの感覚にレリルはどこか高揚していた。
「ッ!」
『おっと』
二つの剣による斬撃を“シアン”は両手で受け止める。
結構本気で斬ろうとしているのに、全く斬れない。
『大砲〜』
「!!(しまッ────!!)」
剣を受け止めながら、光線を放とうとするのだが……
“シアン”の背後に人影。
「……フッ」
空中で彼女を蹴り下げようとしているカイルの姿が映った。
すぐさまレリルは双剣を液体金属に戻して、次はロープ状なものにする。
ロープで体を拘束。
『あっ』
「落ちろ!」
“シアン”はどこか余裕そうだ。
避けるつもりがないのなら、お言葉に甘えて蹴らせてもらう。
カイルはそのまま“シアン”を真下に振り下ろし、地面に叩きつけた。
……砂煙が“シアン”が落ちた所を覆う。
これで終わり────にはならないか。
「避けろ!」
砂煙から光線が無作為に放たれる。
まだ空中にいる以上、細かい回避はできない。
連続で細かい光線がカイルとレリルを襲い空中で二人に直撃。
空を羽ばたいている鳥を撃ち抜いたように、地上へと落ちた。
『ふふふ……!』
恍惚とした表情を消さずに、“シアン”はどこまでも楽しそうだ。
圧倒的な力を持っているからか……それとも────?
「ッ……グッ……! たくっ……もっと加減して欲しいものだぜ」
カイルは痛がりながら立つ。
隣を見ると……レリルは先に立ち上がっていて、ネクタイを緩めて上着を脱いでいた。
両袖を捲り上げ、ため息を何度も吐く。
舌打ちも混じりながら。
武器を一つの剣に変えて。
レリルの異能力は『改造』
その能力を持ったからこそ、液体金属という“武器”に至ったのだろう。
彼の剣には鞘も鍔もない。
ただ持ち手と刃のみ。
反りのある刃はどちらかと言えば刀に形状が近かった。
「カイル」
「あ?」
「今からテンポを上げよう。ついてこれるか?」
「……まさか俺に言ってんのか」
カイルは驚いた表情を見せる。
余裕な笑みを浮かべながらレリルは彼を見ると、ゆっくりと息を吐く。
「ついてこい。勇者」
「“元”な!!」
二人は爆発させるように加速すると、カイルが先制して“シアン”に近づいた。
『!』
カイルは一瞬で背後を取る。
そのまま蹴りとばそうとするも、屈まれて躱された。
反射神経も良いのか。
背後の防御に気を取られた“シアン”に剣で突く。
キン!と音を鳴らして、防がれた。
身体強化が頭の先からつま先までしっかり行き届いてるのか、この女は。
「チッ……!」
かなり速くかつ強く突いたのいうのに……上手くはいかないものだ。
二人は懲りることなく、“シアン”を挟むように連撃を叩き込む。
『(攻撃のテンポが変わっ────)ギャッ!!?』
防御の隙をついてレリルが“シアン”を蹴り飛ばした。
木々を倒しながら吹き飛んだ彼女を追う。
「!!」
「……ッ!?」
二人の間から光線が通り過ぎた。
少し遅れて、木々の奥から大量の光線。
不味い。
だが……
あくまでも物量を意識した攻撃。
攻撃を絶え間なく出すことに意識するがあまり一撃一撃の出力が甘い。
出力が甘いということは威力もスピードはお粗末。
これくらいの光線の速度ならおおよそ見切れる。
ギリギリで光線同士の隙間を潜りながら進む二人。
腕や脇腹などに掠ってしまうが気にしない。
敢えての正面突破だ。
『!!(正面突破────……恐らくこのまま囲みながら私を倒すつもりなのだろうが……ただ!!)』
“シアン”は拳に魔力を強く込める。
カイルとレリルの二人は同時に攻撃を仕掛けようとするも……
「「!!」」
たった一つの拳で受け止められた。
『吹き飛べぇ!!』
鍔迫り合いのような力と力の押し合いから、一気に“シアン”は二人を吹き飛ばした。
肉体的所有権を持っているのはシアンだが、戦闘・魔力関係を所有しているのは“シアン”だ。
“シアン”は彼女が残してしまった才能の一つ。
本来あったはずの才能と力の権化である。
(絶大な魔力量とそれを引き出すキレ。……どちらも半端じゃないな、俺の剣でも対応するので精一杯だ)
「(あれ程の魔力無作為放出……しかもまだ余裕そうな表情だし、底がまだ見えない)レリル! さっきは吹き飛ばすことに重点を置いていたから助かったが、あいつの拳を真正面から受けるなよ」
カイルの言葉に頷くレリル。
至ってシンプルな能力だからこそ、使いこなされた時はとても厄介となるのものだ。
『私の“好き”を死んでも裏切らない……っ〜!!
最高よあなた達』
まだ余裕か。
彼女の能力は『大砲』
“魔力を体外に出す”という極めてシンプルなこの攻撃は、(“シアン”の魔力操作ありきだが)魔力がある限り威力の減少はない。
光線のようになっているのはあくまでも、“シアン”の卓越した魔力操作の賜物であり、彼女ではなければこうはならなかっただろう。
『大砲!!』
極太の光線が二人を襲い、左右に避ける。
森を隠れ蓑にしながら高速で走る、挟み撃ちを継続する為に。
限界がくるまで戦い続ける。
死ぬまで速度を継続しろ。
そうして森を駆けていた時、カイルの背後から何かが“急速に迫ってくる”気配。
「ッ!?(光線!? 何故背後から────!?)」
────少し遅れて、木々の奥から大量の光線。
「チッ!!(あの時のか!!)」
急いで背後を向いて光線を防御。
出した光線のコントロールも可能なのか。
「!? カイ────!」
『他の心配をしている暇があるの? レリルさん』
(しまっ────)
レリルは“シアン”の拳と自身の体の間に剣を気合いで入れ込み、直撃を避けたが────
その魔力による“反発”は想定以上。
森を抜けた更に奥へと吹き飛ばされてしまった。
「…………ッ」
『さぁ────後はあなただけかしら? 勇者カイル!!!』
戦況はいつ変わるか分からない。
それはカイル達に言えることだが…………
そんな中、森の中で意識を失っても、体を動かす男がいる。
「…………」
“魔法使い”の男はこのまま戦いを終わらすことが気に食わないようだ。
“彼”が……戦況を変える。
〜人物紹介〜
“シアン”(人格)
評価(五段階)
パワー 3
スピード 3
テクニック 3
魔力総量 5
魔力操作 5




