第19話 シアンという人間
章を書くのを忘れたので、やっておきました。
《間章 空中都市へ向けて》
と、なります。
【夜:シアン】
シアンは人格の“封印”か“殺害”かをずっと悩んでいた。
どっちが正しい選択なのかも……どちらが間違っているのかも。
そんな中、彼女は自分しか知らない秘密の場所で考えを整理していた時……
ロイが現れた。
「悩んでんのか?」
「……え?」
驚くほどの話でもないか。
彼はカイルと共に話を聞いていたのだから。
だから彼女の心の底に気づいたのだろう。
話を聞いてくれるのだろうか?
それともカイルが同年代そうなシアンと話せとでも言われてきたのだろうか。
「俺なら最高の第三の案があるぜ!!
……と言いたいけど無理だ」
そんなロイは本当に申し訳なさそうに答えた。
彼女から見ればそれは本当に見える。
何かをしようとしてくれるのは分かるのだが……
「……ありがとうございます。でもこれは私がやるべきことなので」
「わりぃな……」
「謝る必要はないですよ。むしろ私の為に考えてくれてありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるシアン。
なんとかしようと考えるロイだが、上手くいかずに唸っていた。
「えっと……ロイさん……は、カイルさんの弟子なんですよね?」
「おうよ! そうだぜ」
「勇者カイルに色んなことを教えてもらったんですよね?」
「……? そうだけど」
シアンが何を言いたいかが分からない。
教えてほしいのか、それとも他のことを知りたいのか。
「勇気ある者から教わって、一番奮い立ったのはなんですか? 私も……勇気が欲しいので」
「…………」
そうシアンが訊いた時、ロイは思い当たるものがたくさんあるのか、数分考え出した。
「あ!」
決まったらしい。
その目には懐かしむようなものも含まれてきた気がする。
「初めてあの人から、戦いに関することを教わった時だ」
────────
【ヴィルベ平原】
初めてカイルとロイが一対一での鍛錬をする際、戦いに関する心構えを問われた。
その時のカイルの表情は未だ鮮明に覚えている。
「ロイ。これからお前を鍛えるわけだが……その前に、お前には絶対約束してほしいものがあるんだ」
「約束?」
あまりの真剣な表情にロイも息を呑んだ。
こんな綺麗な草原に似合わない空気に、思わず緊張して目を合わせてしまう。
「何が何でも死ぬな。致命傷だろうと腹を貫かれようと」
「腹を貫かれたら死ぬぞ」
ロイは真顔でそう返す。
いくらカイルだろうと貫かれたら死ぬだろう。
「それでも……死ぬな」
「無茶ぶり!?」
「そうだ」
そうだじゃない。
本当に無茶なものは無茶だ。
「俺は守れない」
そんなことを言ったカイルの表情は本当に悲しそうだった。
誰よりも強いのに、守る土俵すら立たせてくれなかった三年前の仲間の死亡事件。
きっと……その時カイルは悟ったのだろう。
自分では全部を守れないと。
だからこそロイを強くするのだ。
自分がいなくても生きていけるように。
「……おうよ! 死んでも死なねぇぜ!」
「そうだ!! 死んでも死ぬなよ!!」
────────
【現在】
「あの人に死ぬなって言われてから、俺が絶対死なないように応急処置や受け身の取り方を教わったんだ」
「……意外です。武勇伝とか語る人間じゃないのは知ってましたけど……それでも最初に教えるのがそれなんて……」
それでもその会話に何か勇気が奮い立つ何かがあるというのか。
奮い立つと言うよりどこか悲しい話にしか感じない。
シアンはどうしてと訊いた。
「死ななければずっと戦えるし、勝てるだろ?
それに────あの人の思いを感じたからからな」
「…………そうですか」
カイルがロイを死なせたくないと思うのなら、ロイはそれにガムシャラに応えるのみだ。
どんな敵と戦ってもやり遂げる。
生き残るということを。
「正直言って、俺はお前の気持ちに“同情”はできるが“共感”はできねぇ。だから俺から言うことはただ一つ!」
「一つ?」
「死ぬなよ」
淡々と、そして真剣にロイは語った。
その強い眼差しはシアンの目をしっかりと捉えていて……
「……!」
「何が起きても、どっちを選んでも……俺から言えることはそんなモンだ。じゃあな、おやすみ」
ロイは軽く手を振って、村へと帰った。
「………………お姉ちゃん」
こう言う時、姉ならどうするだろうか。
覚悟を決めて、人格との永遠の別れをささっと誓える人間なのだろうか。
シアンはただ景色を見つめ、ゆっくりと……だが確実に迫る期限へのしっかりとした回答を考えるのだった。
────────
【三日後:朝】
カイルとレリルはこれからどうするべきかを常に話していた。
“封印”と“殺害”以外の手がないのかを常に。
もしかしたら苦痛なく、解放する手段が……
「カイルさん、レリルさん」
すると奥からシアンが走ってきた。
彼女の目には迷いがないようにも見える。
「……決まったのか?」
レリルの言葉に彼女は頷く。
「何度も聞くんですけど、封印は解かれる可能性もあるんですよね?」
「あぁ」
「なら……一時の痛みで我慢できるなら、それがベストです」
彼女には説明したが、殺すという行為のデメリットは苦痛以外にもう一つあるのだ。
……そのまま加減を間違えて肉体ごと殺してしまう可能性が。
そうなれば人格どころの騒ぎではない、普通に命がなくなる。
「そうか。なら“半封印”を施しにいこう」
“半封印”とは読んで字の如く。
人格を心の奥に閉じ込める力こそないが、人格そのものの力を半減できる。
シアンの「どうやってやるんですか?」
という問いには答えられない。
いつどこで人格が聞いているかも分からないからだ。
「じゃあ出発だな!」
「……はい!」
少し遅れてロイも合流。
シアンとロイ……どうやら二人には距離を縮める機会があったらしい。
良く話しているし、シアンも楽しそうだ。
────
【数分後】
こうして森を歩く四人。
封印を施す為には自然の力が必須なために、川(もしくは滝など)や、山やなどの自然に囲まれた場所が必要なのだ。
封印の方法はシアンには教えていない。
……こう言った『封印術』はミラから教えてもらったが、カイルは魔力量不足でほとんど扱えない。
今回はレリルの力を主として行う。
シアンは自然をただ見つめるのみ。
ロイですら話しかける隙がないようだ。
人格に入れ替わり、肉体の主導権を得た瞬間に耐え難い苦痛が訪れる……
本人からすればたまったものじゃないだろう。
「シアン、安心しろ。村にはギルドの優秀な僧侶達に集まってもらった。俺たちからくらった傷はすぐ治るし、痛みも一瞬だ」
「……はい」
レリルの励ましはあまり効果はないようだ。
僧侶云々の話は本当だが……
死ぬのは怖い。
それはカイルもロイも一緒。
だからこそ信用してほしい。
……
もう少しだ。
そうレリルが呟いた瞬間、シアンが突如俯きだした。
後ろからシアンのことを心配していたロイやカイル達が心配そうに駆け寄ると────
────彼女の髪が灰色から真っ黒に変わった。
そして彼女から溢れる魔力。
圧倒的存在感!
全てが……今まで見てきた人格の見た目と合致していた。
「!!」
「ッ……!」
「!!?」
三人はシアンを囲むように同時攻撃。
カイルは彼女の腹部を蹴りで、
レリルは液体金属をナイフに『改造』して首を。
ロイはほとんど反射神経での反撃。
火魔法で彼女の背後を狙うも────
「アァ……アァッ゛!!!」
森のど真ん中で爆発が起きる。
あまりにも突然なことに頭が回転していない。
「……ッ(目覚めてしまったか……!)」
レリルがナイフを大鎌に変えると、彼はカイルの方を見た。
「(しかし────なんでこのタイミングで!?
あの一瞬で主導権を奪われたのか!?)ロイ! 無事か!」
爆発によって生まれた砂煙が消え、そこからカイルが見たものは状況が最悪になっていたことを告げる。
ロイは先程の爆発で吹き飛ばされ頭を木に殴打。
頭から血を流し気絶していた。
だが死んではいない。
「…………どうやってシアンを」
『今更……そんなことを気にするべきなのかしら?
勇者カイル?』
“シアン”は妖艶な声を出してカイルを見る。
シアンの声。
髪色こそ変わったがシアンの体。
その圧倒的存在感だけ────違う。
────なら……一時の痛みで我慢できるなら、それがベストです。
彼女は俺たちを信じてくれた。
なら今はただそれに応えるのみ。
“私”を殺してくれと言うのなら……
返す言葉はただ一つ。
「引き受けた」
投稿時間はだいたいこれくらいにします。
(もしかしたら第二章行ったら毎日投稿に戻るかも?)




