第18話 セシーという仲間
【カイル達】
カイル、レリル、ロイの三人は歩きながら、これからのことを話していた。
カイルとレリルの二人は余裕そうだ。
こんなに歩いても息が切れる様子すら見せない。
二人は昔のことをずっと話していてどこか懐かしそうに話すのを見たロイは、頭にある疑問に思ったことを聞くために口を開く。
「なぁ……セシーって何者なんだ?」
「…………」
「それは……」
返ってきたのは沈黙と気まずい間。
彼女には話せない何かでもあるというのか。
「……悪い。二人の傷を抉るつもりはなかった」
即座に謝ったロイ。
死んだ彼らは大切な仲間だ、あまりにも配慮が足らなかったと頭を下げる。
「あぁいや謝るな。今の“間”はあいつをどう言葉で表せていいか分からなかったんだ」
カイルは頬をポリポリと掻きながら、苦い顔をしてそう呟いた。
セシーという人間を表すには、“見た目のクールビューティーさ”言葉では到底表せない。
カイルもレリルも彼女の“被害”に遭っていた。
────────
【五年前】
魔王を倒す冒険者として旅を始めたのは丁度五年前。
セシーという人間はパーティーの僧侶を担う重要ポジション。
……全員大切なポジションなのだが。
「ヴァル。スープ」
セシーが彼にそれを渡す。
「センキュ……って、おい……具がねぇぞ」
パーティーの一員、戦士ヴァルがそう返すも彼女は真顔のままカイルに視線を向ける。
ミラやヴァルもカイルの方を見ると……カイルのスープにほとんどの具が入っていた。
「新しい仲間に加わったカイルへの……歓迎会?」
「だからといっても俺への具材ゼロはおかしくない!?」
何度もヴァルは自身のスープとカイルのスープに視線を行き来する。
腹が立つことに、ミラのスープとセシーのスープにはちゃんと具材が入っているのだ。
ヴァルは勿論ゼロ。
汁のみ。
何故に?
「いただいてまふ」
「……ふっふっふ。たーんと食うのだ」
「その気持ちを俺に分けてくれ!!」
ヴァルの言葉にセシーは完全無視。
料理担当のセシーに逆らうのは、飯が変になるのと同義だ。
【いつかの日】
「……おい」
セシーはカイルの頭をいつも通りの真顔でいじくる。
もはや抵抗するのも面倒くさい。
勝手に髪を触るセシーに、ため息を吐きながら放置。
彼の髪は短くいじりがいがあるとは思えないのだが。
それでも彼女はどこか楽しそうだ。
「♪〜」
「お前まさか……!」
「三つ編み完成〜」
「なんなんだよお前……」
本当に変なヤツだった。
いつも通りの真顔で楽しそうにするセシー。
“いたずらっ子”と表すのはシンプルだが……それだけではない気がする。
「もっと妹に……こうしていたかったから」
「……喧嘩別れなんだって?」
「うん。本当にしょーもない喧嘩で……そこから私は何も言わずに村から出て行っちゃった」
彼女から悲しさと後悔を感じたのは初めてだ。声色からそれを感じたわけだが、正直言ってかなり驚いた。
「……なら、ちゃっちゃっと魔王を倒さないとな」
セシーはもし旅が終わったら会いに行こうと誓い、カイルへのイタズラを続けるのだった。
「いやイタズラはやめろ」
────────
【現在】
「って感じだな」
と言っても、それだけで彼女がどういう人間かはハッキリと説明できない。
クールな表情をしながら、しょーもないイタズラに身を投じるのが“セシー”という女だ。
「……つかカイルサン。一ついいか?」
「あ?」
「アンタ勇者パーティに加入したの一番最後かよ!!」
「? そうだけど?」
そうだけどじゃない!
とロイが叫ぶ。
彼が知っている勇者の伝説は……
「俺が知ってるのは冒険譚みたいに勇者が仲間を集めて、そこから切磋琢磨をし! ようやく魔王を倒す!
……みたいな物語を想像していたんだ」
カイルにまつわる伝説みたいなものの大半は嘘。
大体は事実じゃなかったり、真逆だったりと酷く歪曲されたものばかり。
めちゃくちゃ最後に加入していた。
「お話もいいが、そろそろ着くぞ」
レリルが彼らにそう促す。
「……?」
随分と寂れた村だ。
前にカイルが勝手に住み込みしていた、あの綺麗な村とは大違い。
そもそも人の有無さえもわからない。
カイルとレリルはその様子に黙りつつ、村に入った。
そのまま躊躇うことなく、一つの家の扉をノックする。
「……はい!」
女の声。
恐らく……
女はガチャっと扉を開けると、カイルとレリルを見て驚いた表情を浮かべた。
「カイルさんと……レリルさん?」
「よっ。シアンちゃん」
────────
【だいたい三十分後】
セシーの妹。
シアン。
カイルは何故ここに来たのかを簡潔に説明した。
それを聞いた彼女は、「はぁ……」としか答えなかったが。
「…………」
本来部外者であるロイは黙ってシアンを見つめる。
シアンは中々の美人だ。
セシーという人は知らないが、彼女は美人だ。
カロナはどちらかと言えば“お姉さん”という感じがしたが、こっちは“同級生”という感じだ。
自信のなさげな顔。
明るい灰色の髪がそうさせているのかいないのか。
(コイツが天才? あんま大した気配を感じねぇけど)
……みたいなことをロイが考えているわけではなかったが。もう少し女に興味を持った方がいいだろう。
ロイは彼女の魔力と気配が全く感じないことを疑問に持った。
強大な意志でそれを隠しているのか、もしくはただ弱いだけか、それとも────
「……お話はわかりました。それで、その“ケジメ”をつけるって……どういうことなんですか?」
カイルなりのケジメ……
それは────
「お前の中にいる“もう一人”をなんとかしようと思ってな」
顎に手をつけてそう語るカイル。
シアンは二重人格。
もう一つの人格は、加減を知らない暴れ馬だ。
前にレリルが個人的に尋ねたときに、シアンの人格を乗っ取り襲撃。
その後は彼が倒したが、建物や自然の被害が尋常じゃなかった。
人格を消し去る方法は二つ。
「一つは“人格の封印”だ、正直これが一番楽だし何より苦痛がない」
「……二つ目は?」
オドオドした表情でシアンはそう訊く。
カイルの様子からあまり良くない方法であることはわかった。
「二つは人格を“物理”で消すこと。
……要するに、普通に攻撃して殺す行為だ」
カイルやレリル、そしてロイの力があればそれは可能だ。可能ではあるのだが。
「前者のメリットは先程も言った通り、双方にとって“簡単”……デメリットは自分や他人によってその“枷”を解いてしまう可能性がある」
大雑把に言うと“封印”だが、有り体に言えば心の奥底に“隠す”と言った方が近い。
……隠すということは“見つけられる”ということ。
シアン自身が人格を望んだり、それを深く理解しようとすると、封印など無意味。
余程の深い出来事がない限りは大丈夫だと思われるのだが……
「少なくとも、そうなるリスクはあるだろうな」
前者のリスクについては隠した方がいいと思ったが、封印という行為事態、不安が残るものだろう。
その不安が綻びとなる。
「後者のメリットは人格の“完全消滅”。
二度とお前の夢には出てこないし、意識を乗っ取られることもない。デメリットはお前への激しい苦痛だ」
カイルもレリルも、“人格”と戦う際はダメージよりも気絶を優先させてきた。
ハイパワーを出させる前よりも速く。
だからこそ、住民に対する被害は防げているとも言えるが……
殺すと気絶の行為は大きく違う。
一撃で仕留めるのは難しいだろうし……
「………………」
う〜んと唸り声を上げながら、シアンは悩んでいる様子だった。
「確実に何かしらのイレギュラーは起きる。
流石に俺もレリルも、あいつを一瞬で殺しきるのは難しい。
「勿論。今すぐには言わないからゆっくりと決めてくれ」
そうしてカイル達は彼女の家から出て行く。
《痛みこそあるが、一生の解放か。
苦痛こそないが、再発の可能性アリの方法か》
ゆっくりとでいいから考えて欲しいのだ。
「村長に村の空家借りた。そこで寝るぞ」
「………………」
「カイル?」
「……難しい」
「……だな」
レリルは彼を労るように肩をポンポンと叩くのであった。
────────────
【夜:シアン】
村の誰もが深い眠りについた時、村の近くにある小さな山に登るととてもいい景色が見れる。
それを知っているのはシアンのみ。
「……どうしよう」
レリルさんが倒してくれたおかげで、私の中にいる“あの人”は静まったが……
夢に出てイタズラを仕掛けることもなくなったし、誰かに怪我を負わすこともなくなった。
「私は……どうすればいいのかな……?」
涙が止まらない。
痛いのは当然嫌だ。
それでも……誰かに怪我を負わすのは……もっと嫌だ。
「あれ? どうした?」
「!?」
男の声。
急いで後ろを向くと、そこには見覚えのある男が。
「カイルサンが教えてくれたんだ。ここの景色はとても綺麗……ってな」
「えと……」
名前が浮かばない。
そもそも自己紹介したっけ?
「俺はロイ。天才魔法使いだ」
「……シアン……です」
この二人。
果たしてどう話し、彼女にどういう選択を取らせるのか────?
〜人物紹介〜
レリル・エンド
評価
(五段階)
パワー 4
スピード 4
テクニック 4
魔力操作 4
魔力総量 4




