↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
第二章 空中都市編
27/34

第25話 まぶしいこと・きたないこと

シアンから別人格であるアンに。

カイルはそんなアンに聞きたいことがあるらしいが、あまりにも彼女がビビり過ぎて話が進まない。


怖い、殺される、怖い、殺される、怖い。

二つの感情が繰り返してアンの頭の中に響く。

つい最近まで殺されかけたのだ、仕方ないのだが……

流石に少しくらいは心を開いて欲しい。


「で、だ」


『…………』


「お前、シアンに魔力を返せるか?」

あまり二人に何があったかは分からないが、変に暴れないところを見るにある程度は和解できたのだろう。


もう魔力を奪う必要なんてない。

『……元からそのつもりよ。六割くらいは返すわ』


「そうか。ならいいや」


『帰っていい? 殺さない?』


「殺さないよ? もっと信じて?」

もう少し彼女とは信頼関係を築きたいものだ。

こればっかりは、時間を掛けるしかない。


昔のような傲岸不遜を体で表す感じはしないが……少なくとも恐怖が漏れ出ていた。


「あれ? 戻った」


「まぁ後で色々説明するから、今は休みながら旅に向けた準備をしろよ」


アンも含めれば四人旅となる。

暴れる可能性なんて考えたくないが、もし暴れるのなら、簡単に殺せるくらいには強くならないといけない。


そして……ドルクも殺さなきゃならない。

奴はあまり無関係な人間を殺さないが、巻き込むことは躊躇しないのだ。


放置するのはまずい。

本当に。

そうしてシアンは部屋を出た。

色々疲れた様子だ。


「なぁカイルサン。シアンのことなんだが」

ロイはずっと疑問に思っていたことをカイルに訊く。


────身体強化はしてねぇよ。それでも……彼女は戦士の才能があるからな。とんでもない出力なんだ。


彼はずっとこのことが頭の中に残っていた。

人格────アンならカイルを傷つけるほどの出力が出せる。


だが、シアンの全力でカイルにダメージを与えられるのか……という疑問だ。


「あれがシアンの才能だ」

あの時セシーを守れなかった件で、彼女に全力で殴られたが、後数発多く殴られたら意識が飛ぶところだった。


彼女の能力である『大砲(カノーネ)』も、アンだけではなくシアンの能力でもある。

それを拳に纏うことでとんでもない出力を誇るのだ。


「だからこそ、シアンもアンも丁寧に教えていかなくちゃいけないんだ」


彼女達が死なないように、死なせないように。

教育者としての責任を果たすだけだ。


────────

【二日後:昼】

空中都市へ向かう為に準備を重ねた三人は、村の人とレリルに迎えられながら、カイル達は村を出ようとしていた。


久々にこんな大勢な人に見送られた気がする。

勇者時代から思っていたが、少し気恥ずかしい。

そんなことを思いながら村を出た。


荒れ廃れた森を横目で眺めながら、三人は無駄足なく進む。

彼らはあまり旅に対して寄り道などはしない。

淡々と進むから。


「……凄い」

それでもシアンは楽しそうだ。

足取りよく、軽快に一歩を進む。


彼女の表情からは、未知の世界に一歩を踏み出すことがただただ楽しいらしい。

無限に歩ける。

無限に走れる。


……そして。

(体が……ずっと軽い……!)


一日前に、アンから魔力を少しだけ返してもらった時に軽い身体強化の方法を教えてもらった。

魔力があるだけでこんなにも動きやすさが変わるとは。


驚きを隠せない。

「カイルさん! ロイさん!」


「?」

「お? どうした?」

突如大声を名を呼ばれた為に少しビクッとして振り向く。彼らの目に映ったのは、元気に笑うシアンの姿。


「私……楽しく走れます!!」


楽しそう。

いや、楽しいのだ。

息切れもせず、大して疲れもせずに走れることに。


「……ははっ」

カイルは目元に溜まった物を拭うために片手で目を覆う。


(セシー……お前が死んでも守りたかった景色がここに詰まってるぞ、お前の夢……俺が代わりに見届ける)


セシーにもカイルにもできなかった、自分と向き合うと言う行為を、彼女は長い時間をかけてやりきったのだ。


もしセシーが生きていたら、この景色だけでも見せてやりたい。

旅の時にたくさん見たあのクールな顔も、ぐちゃぐちゃに泣き崩れることだろう。


「……良かったな。カイルサン」

彼の思いを察したのか、優しく背中を叩くロイ。


「二人とも、どうしたんですか?」

そんな二人の想いなど露知らずのシアン。

本当に……楽しい旅になりそうだ。


────────

【数分後】


「本当は」


「えっ?」

突如カイルが口を開いた。


「セシーはお前と仲直りしたかったんだ」


「……謝るのは私なのに」

それでもセシーは謝りたかった。

何も気づけなかったから。


だが謝れなかったのは、殺されたからという理由だけではない。その理由はどこまでも……


「理由はギルドに関わったからだ」

彼女の僧侶として優秀な所を徹底的に利用したとでも言うのだろう。

セシーは冒険者や職員の為に、常に前線を張り続けていた。


……とは言え、冒険者達に罪はない。

彼女が必要なら、それに応えるのみ。

実際に、彼女に救われた人間は多いのだから。


セシーは優秀だ。

いつでも謝れることはできたと思っていたのだが……


「俺がギルドを嫌うのはそういう所だ。

奴らが殺したわけじゃないが、間接的に殺害に貢献している」


誰が悪いじゃない。

“組織”が悪い。


「…………」


「お前はこれから優秀な人間になる」


「え!? あっ……ひゃい!?」

いきなり褒められてびっくりするシアン。

ロイが彼女の耳元で、


「この人たまにこうやって褒めるから気をつけろ。

いちいち照れてたらやってやんなくなるぞ」


……と呟いた。

「は……はい……?」


至って真面目な話をしているのだが……と少し不満に思うカイルの顔を見て、顔を真面目に変える二人。


「あまりギルドに自分を売ったり有名とかになろうなんて死んでも思うなよ」


残念ながら、ヴァル・セシー・ミラ死亡後もギルドのやり方は変わってない。

優秀な人間にずっと任せきりにするゴミ体制だ。

任せるのは悪くないが、現役時代の彼女のスケジュールは朝から晩まで誰かを助けていた。


“勇者の弟子”なんて情報を知られた瞬間、ロイもシアンも限界まで利用しようとするだろう。


「……この約束は守ってほしい」


「当然だ!! ……つ〜かカイルさんが俺の冒険者証をぶっ壊したから、もう俺は冒険者じゃねぇんだけど」


そもそもシアンは持ってない。

ギルドの奴らのほとんどは彼らのことなど知らないだろう。


「さて、その冒険者証について本題だ」


そう壊したのだ。

壊したからこそ、悪いことがあるわけで…………


「本来ならその冒険者証で空中都市(オレブ)に簡単に入れるのだが……残念ながら俺の分もロイの分もないし、そしてシアンはそもそも持ってない」


「……と、言うことは────つまり……」

シアンが横目でロイを見る。


「……詰みじゃね!?」

ロイの叫びに、カイルは苦い顔で頷いた。

目的は女王への謁見だが、証がない以上そもそも国にすら入れない。

ここをどうするべきか……


意気揚々と心の中で“楽しい旅になりそうだ”なんて思ったが、楽しいタイム終了だ。もはやカイルが女王に会いたくなくて、意図的にやったのではないかと思ったロイ。


「ま、方法はある。自分のミスは自分で挽回しないとな」

するとカイルは適当な三枚の冒険者証を二人に見せた。

ここから先は、違法ギリギリを攻めるのみだ。


「違法の時間だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。