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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
第一章 始まり編
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第2話 オトロエ


────かかってこい!! 勇者!! 魔王と戦いたいなら、この俺を倒してから行け!!!


そうやって襲ってきた未熟者はもういないと言うわけか。


確かに今、

息子ジェナンには、全くと言っていいほどに隙がない。


「わざわざここに来たのは復讐の為か? 魔王……父を倒した男への」


「違うさ」

あっけからかんと返す。

言葉通り、節々に憎しみや怒りなどは全く感じない。


「再び俺がこの世界を混沌に沈める」


「…………」


「父がそこから新たな秩序を生み出そうとしたように」


世界征服。

その為には、“納得”か“服従”が求められる。


魔王が求めたのは後者だった。

「それを俺が黙って見過ごすとでも?」


ジェナンを睨む。

勇者だろうがなんだろうが、コイツは止めなくてはならないのだ。


「お、俺も戦うぜ!!」

足が震えても怯まずにロイは叫ぶ。

どう見てもコイツは荷が重い。


「それは心強い。だが……お前では少し荷が勝つ。ここは俺に任せてくれ」


「……!! でもっ!」


「おじいさん達を守ってくれ。俺の恩人なんだ」

勇者であることを黙って、暖かく迎えてくれた人達。

彼らを守るためにはロイの手が必要だ。


「ッ……任せろ!!」

納得できたわけではないだろうが、理解してくれたらしい。


ロイは村の方へと走っていった。


これで広い場所での一対一。

四年の月日。


あの時殺してからいつ目覚め、鍛錬してきたのか。

そもそも殺しそこねていたのか。


奴に対する情報が全くと言っていいほど分からない。

(こいつのスピードは異様だ。できる限り間合いに気をつけて────)


ドシュッという音が鳴る。

右腕に激しい痛みと、“感覚”が消えた。


速い。

四年前のあの時より遥かに。


今の手刀で右腕が持ってかれた。

「これで終わりか?」


カイルの背後にいるジェナン。

互いに背中合わせの中、奴は腰を捻って拳による追撃。


「……さぁな!!」

真後ろに蹴り上げ、奴を遠くに飛ばした。

さっきの速度が本気でないとしたら、接近戦は不利。


防御に回るしかない。

「…………残念だな」


「そりゃ悪かった」

久方ぶりの死闘。

厄介な敵がまた増えた。


「昔のお前ならこれくらいカウンターしてた」


腕に強烈な痛み。

こんな痛みも久しぶりだ。


(さぁどうする? 回復魔法(ヒール)を使って、切断された腕を接着したいんだが……)

それをコイツが許してくれる訳もない。

四年前もスピードが厄介な奴だったが、正直言って強くはなかった。


────勇者……お前が父を倒す存在か。


────あぁ。俺たち人間をお前達が殺すと言うのなら、それは止めなくてはならない。


そうして覚悟を決めて剣を振り殺した────はずなのだが。


「ッ!!」


一瞬でカイルの目の前に到達して踵落とし。

寸前でかわす。


腕を斬られたからか、本来戦いで叩き起こされるであろう“脳”の活性。

日常では絶対使わない細胞達が叩き起こされた。


(村はロイが守ってる。もう一人欲しい状況でも……一人でやるしかない!!)

改めて仲間のありがたみを感じる。

厄介な敵と相対した時のコンビネーションは必要だ。


「もう終わりに……しよう!!!」

基礎がしっかりしているからこそ、この拳を止めるのは厄介。

厄介だからこそ────


「……ダラッ!!」


「!?」

真っ直ぐな突き。

カイルはそれを寸前でかわして掴む。


それを支点にして、地面から足を離して自身を跳ね上げる。

体が一瞬だけ宙に浮いた。


(こいつまさか────!)

反撃の隙を与えずに下半身をぐいんっと曲げてジェナンを蹴り飛ばした。


「厄介だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、工夫すんだよ」


────────────

【ロイ】


「ッ……!! クソッ!!」

情けない、情けない、情けない、情けない。

悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。


なんで逃げているんだ?

(俺は……足手纏いだから)


涙がとんでもないレベルで出てくる。

鼻水も止まらない。


憧れの勇者に頼られて、一瞬嬉しかった……が。

でも“魔王の息子”が襲撃してきた際に、戦力として数えられていなかったのも……分かった。


村を守るのも大事な仕事。

……村に魔物などの魔力気配がなかったとしても。


あの息子は多分正々堂々な奴。

卑怯な手は使わないだろう。


────絶対に追いついてやる。待ってろよ!! カイルサン!!


ここで逃げて、どこで立ち向かう?


怖い。

でも────


「ここで逃げたら!! 俺(テメェ)に顔向けなんかできねぇ!!」


そうして足にグッと力を入れる。

やってやる。


「俺が……並ぶ!!」


────────────

【カイルとジェナン】


なんとか奴から隙を作り出し、切断された腕をくっつけたカイル。


僧侶の治癒レベルではないにしろ、カイルだって適当な治癒はできる。


ドゴォン! ドゴォン! 

……と、拳と拳がぶつかり合う。


そうして────

「チッ!!(ペースアゲてきやがった!!)」


殴り合いの攻撃スピードが次第に増していく。


今は(攻撃だけなら)まだ[カイル=ジェナン]という均衡が取れているが……


奴のあのスピードがこの殴り合いにも使えるのなら状況は一気に[カイル<ジェナン]となる。


「……こんなに長く戦うのは四年ぶりだ」


「奇遇だな、俺もだ」


「お前の癖は少し分かった」


「あ!?」


「“コレ”だろう?」

少しだけジェナンが守りに入ったのを見逃さず、拳を奴の腹に向かって放つ。


硬いもの同士がぶつかった、重苦しい音が響いた時にカイルは気づいた。


(こいつ────!!)


「……ふっ」


(今ある魔力で耐えやがった!!!)

確かにカウンターを恐れて、魔力による身体強化を拳に集中させていたわけではなかった。


満遍なく纏って攻防一体にした“慎重さ”がここで裏目に出る。


「!!」

そうして腕を掴まれ、遠くに投げ飛ばされた。

体勢を上手く変えて受け身をとり、カイルは再び応戦体勢。


(俺の感覚が戻ってきたとは言え、コイツの魔法や“異能力”がどんなものか想像つかない!!)


(さっきのは中々効いたな……反射神経・瞬時の判断速度などの細部(ディティール)は衰えたが、純粋なパワーやスピードは四年前より良くなっている……)


あの時、奴は確か十八歳。

そこから四年も経てば、いくら戦闘経験が減っても肉体の鍛錬を続けていれば自然と伸びる。


この時二人は同じことを思っていた。

[この均衡をどう崩す!?]と。


思考や願望が交差する中、突如ジェナンは後ろに下がった。

奴は息を大きく吐いて一言────呟く。


「[禍刻(かこく)]」


(能力発動の気配────!!)

四年前、奴は異能力を持ってはいなかった。


異能力。

魔法使いでは持てない戦士だけの特権。


こっちは持ってないと言うのに。

彼は苦しそうな声をあげながら、魔力がみるみる増えていく。


体内から魔力が漏れていく様子から察するに、どうやら使い始めて間もないらしい。余裕もなさそうだ。


(どうやら……まだ能力を使うには俺はまだ弱いか……!)


「過度な力は身を滅ぼすぞ」


「フフ……“過度”ね……」

それがどうした?

とでも言いたげなジェナン。


互いが互いに厄介な敵。

四年前の雪辱と、四年前の取りこぼしをなくす為に。


「俺のスピードについてこれるか?」


「あ? んなモ────」

もう一段階。ジェナンのスピードが増した。

既にもう拳が目の前に……“ある”


「ッ……!! グッ……!!」

全ての魔力を腕に集中して、高速パンチを受ける。

あまりの威力に大爆発が起きたような爆音が響く。


その威力は、完璧な防御によって防ぎきったカイルを衝撃波で“大樹の奥に”吹き飛ばした。


(強い。このまま戦ったところで勝てないな)


「はぁ……はぁ……フフフ……流石は元勇者だ」

なんとか立ち上がり残った力を振り絞ってジェナンと殴り合う。

拳からどんどん血が溢れるだけで、状況は全く変わらない。


「ガァッ……!!」


膝をついて、カイルただ一つだけ悟った。

“ここまでか”……と。


ジェナンはそんな彼を見下ろし、疲労困憊な様子。

「ここまでだ。そして────さらば」


拳を振り上げトドメを刺そうとした時────

どこからか走ってくる音。


荒い息とどこか鬼気迫った表情から、カイルはそれが誰かわかった。

「[火魔法(フレア)!!!]」


火球を手から出し、かなりのスピードでジェナンに迫る。

素手であしらわれたが問題ない。


「逃げろロイ!!」

なんでここに?

戦うため? 助けるため?


どちらにしろ……

「今のお前でこいつは────ッ!!!」


ジェナンが「邪魔だ……」と呟き、“大樹の奥”へと走るロイを追いかける。

速い。


一瞬で目の前に追いつかれた。

「お前程度。本気を出さなくても充分だ」


「ハッ、そ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)ぜ(・)」」

ロイは不適な笑みを浮かべる。


奴の拳がロイの腹に迫り、ドゴォッと音を鳴らして彼の腹部に直撃。

更に大樹の奥へと吹き飛ばされたロイ。


(なぜ貫通できなかった? いくら手を抜いたといえど────そうかあいつは魔法使い。なら……)


────魔力が体を芯(・)に(・)固(・)ま(・)っ(・)て(・)る(・)感じ……コイツは魔法使いか。


カイルが始めてロイを診た時、そう判断した。


魔法使いは戦士と比べて、身体強化ができない。

“芯に固まる”というのは、急所……つまり腹部辺りに魔力が集中する。


(アイツの手加減でお陰もあったが、それにしても俺以上の魔力総量が……ロイにはあるのか……!!)


森へと走るロイ。

「痛(い)っ……てぇ……!! でも……予想通り、ああいうタイプはプライドを優先すると思ったぜぇ……!!」


一発逆転の作戦。

そこにロイは含まれてはいなかった。


痛い痛い痛い。

それでも走る。


状況の打破は、勇者の仕事。

「俺はアンタがなんで“元”を強調してひたすらに過去の栄光を嫌うのか!! 全ッ然わかんねぇ!! でも、戦ってるアンタはやっぱり……勇者なんだよ」


「…………ロイ」


「そして勇者には────!! 剣(つるぎ)だろ!!」

そうしてロイは力一杯、カイルの所へ剣を放り投げた。

この錆びた剣が……栄光であり、“過去”そのもの。


剣を受け取ったカイル。

ボロボロな剣が、やけに様になっている。


「(ありがとうロイ。俺がこれからやるべきこと、そして……今やることが────)ハッキリしたぜ」


剣に魔力を込め、今だせる威力を出しきるのだ。


(そんな所で放ったところで、間合いの外だぞ? 届かない)


そんなジェナンの中、カイルは剣を振った。

振る前も振る最中も、どちらもそこにジェナンはいなかったというのに。


ピシッと音が鳴り、剣が折れた。

同時に────


奴の胸から血が吹き出た。

深く斬られたわけではなかったが、確かな一撃。

「なっ────!?」


遠距離斬撃。

ただの衝撃波だけで、ここまで圧倒されるとは。


もうお互い満身創痍。

ここは……


「………………撤退させてもらう」



「……………………」

カイルは黙って、森の奥へと消えていくジェナンを見届ける。

こちらに背後を向けているというのに、一切隙がない。


どのみち追いかける体力なんてなかったが。


「流石だ!! カイルさん!!」


「……………………」

ほんの少しだけ、昔の力が戻った気がした。


────────────────

【三日後】


怪我が酷かったカイルだったが、ロイが近くの街から僧侶を呼んでくれたお陰で後遺症も残らずに助かった。


おおよその怪我が治り、これからを語りだす。

「ロイ。もうわかってると思うが、どうやら四年前に何かがあったみたいだ」


「魔王の息子が生きてることか?」


「あぁ。取りこぼしたのなら、ケジメをつけなくちゃいけない」

今度は世界を代表した勇者ではなく、“元”勇者として。

四年前のブランクも深刻だが、それよりもジェナンがまた魔物と魔族の世界にされるのは困る。


「ついてくるか?」


「当然だぜカイルサン。強くなってやる!!」

勇者パーティーに憧れていただけの少年は、パーティーの一人として戦う。

夢と憧れを秘めて。


「準備しておけ。長い旅になる」


そうして“元”勇者カイルは、もう一度戦う。

そして“もう一度”旅に出る。












〜人物紹介〜


名前:カイル

評価(五段階)

パワー 4

スピード 5

テクニック 5

魔力総量 3

魔力操作 5


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