第16話 墓参り
「……終わった」
分身を倒したカイル達。
誰一人欠けても今の結果にはならなかっただろう。
「…………あっ」
大量出血と疲れで、カロナはカイルにもたれた。
「おっと!」
本当に彼らは頑張った。
圧倒的格上に対して、弱音を吐かずに立ち向かい、そして善戦したのだ。
その成長は目を見張るものがある。
魔力により強化された剣の刃先を壊した……その功績は計り知れない。
「う……うぅ……」
瓦礫の中から呻き声。
男の声だがロイのものではない。
もしかしてログロが降りてきたのか……?
嫌な予感がカイルを襲うが────
「……ヴィザ!?」
カロナとロイの下から鮮やかに退散した彼が、カイルと分身の戦いによって出来た瓦礫に潰されていた。
「貴様ら……! 分身をどうやって……!」
「アレは人が作った物だ。どんなに強かろうと人が“壊せない”理由はない」
淡々とカイルは呟く。
どんなに人を超えた素晴らしいものを作っても、人がそれを超えられない理由はない。
「……情けねぇな。お前みたいな小悪党、殺しちまった方が世のためだが、それを許さない人間がいるんだな」
そう言い、カロナの方を見る。
彼女は瓦礫に埋もれているヴィザを見下ろしていた。
「カロナの仇……とは言いません。でも、アナタがやった罪の全てを告白し、一生を懸けて懺悔しろ」
「偽物風情────ガッ!」
カイルがヴィザの頭を踏み潰し、残ったごく僅かの魔力でカロナと自身を応急処置をする。
この城の改修は後でログロとカロナに……任せよう。
「……! カロナ、僧侶の人を呼んできてくれ」
「はい!」
分身のせいで城はめちゃくちゃだ。
(これ後で弁償を求められないよな……?)と不安になったが、まぁ大丈夫だろう。
そうしてカロナを教会に行かせ、ヴィザとカイルの二人きりになった時、彼は瓦礫の奥から現れた男を見る。
「よぉ」
軽い感じで瓦礫をどかしながら、ギルド職員・レリルが現れた。
「全く……分身が暴れてると報告を受けて、急いで戻ってきたが……まさかもう終わっていたとはな」
やれやれと言わんばかりにレリルは呟く。
残念ながら彼の出番なない。
彼は片手で液体金属を暇つぶしのように潰したりしながら、カイルと共にヴィザを覆う瓦礫をどかした。
「う……うわぁぁぁ!!」
どかした瞬間逃げた。
相変わらず往生際の悪いやつだ。
無様で生き汚い。
「殺すなよ」
「わかってるよ」
するとレリルは液体金属をロープのような形にし、ヴィザを確保。
そのまま弄ぶようにゆっくりと引き寄せ、後から遅れてきた兵士に国家反逆を企てた罪として後で裁かれるだろう。
ギルドが長年抱えていた分身の被害をなくせた、レリル達からすれば気持ちが軽くなったそうだ。
彼らの役にたったのは複雑だが、まぁいい。
「お前……いや、“お前ら”よく勝ったな」
「まぁな。自慢の仲間達さ」
一週間の高難易度トレーニングも無駄ではなかったということだ。
「もう休め。出し切っただろう?」
レリルがカイルの背中を軽く叩くと、
「そうするよ」
完全に出し切ったというのに、とぼとぼと歩けるのは流石と言っていいのかなんなのか。
カイルは近くにいるロイを回収して応急処置を済ませた。
後は教会の僧侶様に任せよう。
そうしてヴィザとその一味によって起こされたテロは終結。
カイル達によって犯人は捕えられた。
犠牲者は兵士・三十四名。
貴族とその関係者・二十一名。
それ以外は結界で遠くに飛ばされ全員無事。
ヴィザは一体どんな罪状が待っているのか……
────────
【教会】
「カイルサン〜俺らいつになったら動けるんだ〜?」
ロイとカロナの二人は分身によるダメージを多く受けていた。
主にロイは一時、危険だったがカイルによる応急処置と僧侶達の迅速な治療で命に別条はなかった。
身体強化ができないロイにとって、一つ一つのダメージが命に届く。
分身相手に致命傷を避け続けたのは……賞賛に値するものだろう。
「お前らは暫く休養だ〜」
腹を斬られたはずのカイルは二人より先に完治。
こういう所で化け物さを見せつけてくるのだ。
「なんか買ってくるわ」
カイルはどこかへ行った。
ロイとカロナの二人きりになってしまう。
「なんか腹へったな」
そんな男女二人きりの、少し緊張する場面でもロイは全く気にしない様子だ。
カロナはその様子に呆れつつ、応える。
「そうね。確かにお腹空いたかも」
「なー」
今も二人は斬られたところが痛い。
斬られた瞬間を思い出し、悔しそうに「ケッ」と呟くロイと、そんな彼を黙って眺めるカロナ。
「ねぇ……ロイ」
「……どうした?」
どこかしんみりとした口調に何かを察したロイは、茶化さず返す。
彼女は話すか話さないか悩んでいる様子だったが……少しして口を開いた。
「あなたは私をどうして信じてくれるの?」
“あなた達”ではなく“あなた”。
この空気感、適当に返すのは良くない。
……と直感したロイは────
「過去にアンタはとんでもない経験をして……そしてカロナに“なった”訳だが……まぁ“お前を信じるための理屈”なんてねぇよ。一緒に鍛えてきた“仲間”カロナを信用しただけだ」
「…………」
「お前の昔話を聞いて思ったけどオマエ、善意を疑いすぎだぜ。
疑わないのは考えものかもしれねーけど! せめて俺たちの……俺の善意くらい信じてくれ」
「……!」
カロナはどこか驚いたように目を見開くと、ロイは特に照れた様子なくカロナを見返した。
完全な決め台詞だが、ロイにとってはそうではないらしい。
彼女が欲しい言葉と、関係値を変えてしまう言葉を取捨選択しているようにも見えるが……ロイはそんなことを考えていないだろう。
「善意……?」
「そう!」
そのまま彼は毛布を被る。
照れ隠しなんかではなく、眠気が襲ってきたらしい。
「ねぇロイ、私ね……って、あれ?」
まさかのロイは寝た。
単純な彼だがこう言う場面では何故か鋭く感じる。
(…………ばか)
やっぱり彼は鈍い。
モヤモヤしたまま、カロナも寝た。
────────
【二週間後】
漸く二人も完治。
二週間という月日は、崩壊寸前の城を(だいたい)直すことができる。
ログロの「この国の為に戦ってくれてありがたいけど、もっとなんとかならなかったのだろうか?」という無言の圧はスルーした。
「ロイ、カロナ。ちょっと付き合え」
「どこに行くんだ?」
「お前も知ってる所だよ。いい……リハビリになるだろ」
そこは魔物も少ないし、のんびりとした“村”だ。
四年ほど彼はそこに住んでいた。
「よし、“走って”行くぞ」
カイルは最後のトレーニングと付け足す。
まだ怪我から癒えたばかりなのにという二人の思いも無視。
そうして王都ヴィルべから一気に走っていくのであった。
────
【村】
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「あぁ……はぁ……!!」
疲れ果てたカロナと、脇腹が痛いロイ。
そして余裕そうなカイル。
先に完治してトレーニングする時間があったカイルを、二人はムッとした表情で睨みつつ、彼についていく。
少し歩いた先には、老人達が住む村に着いた。
カイルは老人達に迎えられ、どこか安心した表情を見せる。
「カイルちゃん? どうしたの?」
「元勇者の旅は終わったのかい?」
老夫婦がそう訊く。
……が、彼の様子を見てそうでないと察したらしい。
それ以上は何も訊かなかった。
「こっちだ」と案内された先は、小さいながらも立派で綺麗な墓が。
どうやら老人達が毎日綺麗にしてくれたらしい。
どこか申し訳なさそうに、墓の前にカイルは座った。
「カイルサン。アンタに罪はないと思うぜ」
「“分かってる”……でも、ケジメはケジメだ」
ようやく分身を倒せたのだ。
勇者パーティーが遺してしまった、忘形見を破壊。
これ以上無関係な人間が殺されるのは看過できない。
「ミラ。五年経っちまったが……終わったぞ」
あの分身を作ってから、もう五年。
彼は墓の前で彼女に語りかける。
返事こそがないが、報告することに意味がある。
────
【四年前】
一年前。赤龍を倒すために分身を作ったミラ。
……作ってしまったというべきか。
だが、今に至るまで分身を破壊することなくそのまま封印を施そうとしていた。
ため息を吐きながらカイルはミラと共に、ヴィルべ山に置いていった分身を確認していた。
「なんで“コレ”を壊さなかった?」
淡々と呟くカイル。
「……私ね。ヴァルみたいにハキハキしてないし、セシーみたいに料理が上手な訳じゃない。カイル……あなたみたいにずっと真っ直ぐでもない」
「あはは……」
分身についた汚れを払いながら、ミラはとんでもない自虐をしてきた。
あまりにも自己肯定感のなさにカイルは苦笑することしかできない。
「お前の魔法があったから魔王達に勝てたんだ。そこを否定しないでほしい」
「あ……ごめん。言わせたみたいで。……で!
そんな私でも世界に何かを残せるか考えたの」
「……それが分身か」
カイル達が死に、そこからも世界が何者かによって危険に陥るかもしれない。
その時……分身が新しくでた勇者を助けてくれることを願って……
「そんな悲観する必要はない。俺……いや、俺たちはまだ何かできることだってあるはずだ」
「……うん!!」
そうして分身が世界に役立つことを願って────
────
【現在】
そんなミラの思い虚しく、分身は悪の手に堕ち、無関係な人間にその一撃が及んでしまった。
無理にでも破壊しておけば。
後悔に近い感情がカイルの胃をキリリと痛める。
全てがもう遅い。
「最近。ミラの両親と話して……あいつとの旅を思い出して……多分あいつは俺のことが好きだったんだろうな」
冒険してきた中でそんな素振りは感じなかった。
……いや、カイルじゃわからなかったのだろう。
あんなに仲間と話したのに、こんなにも話し足りない。
まだ互い伝えたいことがたくさんあったというのに。
「そしてハッキリ、“親友として大好きだった”と伝えるべきだった」
「…………」
「……カイルさん」
二人はその様子をただ見るめることしかできない。
哀愁漂うカイルの背中には、壮絶な過去があるのだろうしか表せなかった。
「………………」
暫く墓の前でただ黙ってぼーっとする。
そうしてカイルは立ち上がり、カロナとロイの二人を連れて……
「飯でも食いにいくぞ」
「え? もう良いのか?」
「これ以上考えても仕方ないだろ?」
墓の前に花を置き、三人はその場を立ち去った。
勇者カイルの物語は既に終わっているというのに、まだやり残したことがたくさんあるらしい。
生き残っていた魔王の息子と、残っていた分身。
死んだ仲間の為に、正真正銘今度こそ……“もう一度”旅をする。
「そういえば……もしミラサンがアンタのことが好きじゃなかったらどうするんだ?」
「それは……めちゃくちゃ恥ずかしいな!! でも、あの世で笑いのタネができたと考えれば、それで良いんじゃないかな」
ロイの言葉にどこかおちゃらけるように返す、カイルなのであった。
第一章
完。
次回:第二章
空中都市編
……ということで、もう少し話が続きます。
応援してくれると幸いです。




