第15話 天井二人
再び戦場に舞い戻ったカイル。
その目にはもう迷いは感じられない。
後は押し切るのみ。
「よく刃先に気づいたな。そしてそれを良く実現した」
カロナとロイに視線を向け、カイルは「後は任せろ」と告げて分身へと近づく。
分身も気づいているのだろう。
ここが正念場だと。
彼女たちの活躍により、分身が持つ剣の刃先が欠けている。
完全に納刀された一撃を軽減させるには至らないが、それ以外の一撃はダウンするだろう。
(通常の斬撃だけでは俺を殺すことはできない。奴はそう考えて、無理にでも納刀してくるだろうな)
普通の打撃じゃ、癪だが大したダメージは与えられないだろうし、耐えられて納刀されるのが一番良くないパターンだ。
つまりは────
(武器を狙いつつ、分身を止める!)
やるべきことがハッキリした。
久々に、“次”を気にしない戦いをする。
『!!』
一瞬でカイルは分身の前に立ち、奥の部屋へ蹴り飛ばした。
完全に警戒していたはずなのに、カイルの接近に気づけなかった分身は、かなり驚いた様子だ。
奥の部屋へ吹き飛ばされた分身は、カイルによる蹴りの威力で壁を壊しながら部屋へ。
「……(この部屋は)」
そう言えば2Fにも同じようなものがあった。
絵画や展示物などがたくさんある部屋。
貴族のお気に入りは、質の良い物しかない。
……予想外な使い方ができるほどに。
「さて」
近くにある甲冑が持っていた槍を持つ。
分身の止め方など至ってシンプルだ。
攻撃し続けるのみなのだから。
カイルは息を吸い、ドドドド!!と槍による連撃を分身に叩き込む。
『……!!』
その連撃を神技と見違えるくらいに防ぐ分身だが、奴は“ある事”を気にしているために……
ドシュッという音。
肩から血が吹き出た。
剣が壊れることを気にしてしまい、防御が甘くなったのだ。
『?』
分身の視界一杯に暗闇が広がる。
身動きが取れない。
それもそのはず、カーペットを体に巻き付けて動けなくしたのだから。
「ふっ!!」
抵抗されるよりも速く上へと蹴り飛ばし、天井を破壊させて2Fへ。
────普通の打撃じゃ、癪だが大したダメージは与えられないだろうし……
「……チッ」
自分で考えたことだが、やはりムカつくものだ。
三回に渡りこいつを遠くへ蹴り飛ばしているのに、大したダメージを与えられていない。
天井を壊して二階へと突入した分身とほぼ同時にカイルは現れ、一瞬で辺りを見渡す。
ここは社交場。
すぐ前までここで飲み食いしていたのだろう、料理がまだ机に並べられていた。
『…………』
チャキンという納刀特有の音が鳴る前に仕掛けたいのだが、否が応でも鞘に入れようとしてくる。
「ッ!!」
皿や机を分身の真上に放り投げて的を増やす。
居合が自分の方へ向かない為に。
放り投げた物よりも速く、カイルは分身に急接近。
視線が上に向いていたのを見逃さなかった。
(剣を破壊させることは不可能だな。ならやるべきは……鞘の破壊だ)
カイルは防御に回っている分身の鞘を狙って、足を前に出す。
ただ────
「あ」
避けられた。
いつもほとんどの攻撃を受けていたというのに。
そうして分身は納刀完了。
刃が……こっちに向かってくる。
「ッ!!」
ザ
─────────────
シュッ!!!
真横に振られた斬撃を、一気に距離を離すことで回避するも、酷い冷や汗がカイルの額を伝った。
(もう武器破壊は無理だな……)
どんなに攻撃させたところで刃こぼれする様子などない。下手に狙えばカウンターされるだけだ。
『…………!』
これ以上の防戦を避けるために分身も接近。
居合などせずともダメージを与えられるという魂胆か。
「チッ!!」
隙だらけと思い、足を真横に振るい頭へ一撃を叩き込むも……
耐えられた。
ただ今回は余裕の防御ではない。
『!?』
側頭部にクリーンヒット。
分身の鼻と口から大量の血が。
大量出血と頭によるダメージで、分身の視界が揺らぐ。
だが耐えた、反撃できる。
「────!」
乱れた姿勢での斬撃は足元を重点的に狙ったもので、それより上には攻撃が行き届いてはいなかった。
ジャンプして躱し、足を真下に振り下ろす。
……第六感が働いたのか、鞘で受け止められたが。
キランと、欠けた刃先が光った気がする。
それは殺意の現れか、それとも気のせいか。
分身は剣を仕舞い……そして素早くカイルに向かって真上に振るった。
その斬撃により、上階が両断され城がどんどん崩れていく。大量の瓦礫がカイル達の周りに落ちた。
「ゴホッッ!!」
なんとか躱せたものの、一瞬だけ走馬灯が見えた。
これ以上長期戦に持ち込んでも死ぬだけだな。
分身はそこに好機を見出し、攻めの手を更に強めた。
居合はなしに連続で斬撃。
このままチャンスがあれば……
機会を伺っていた時、“代償”が訪れる。
「!!」
クラッと体が傾いた。
酷い目眩と頭痛。
そもそも腹を斬られるなど致命傷。
回復魔法で応急処置をしたとはいえ、ギリギリはギリギリ。
血を出しすぎたのだ。
分身は冷たく淡々と、剣をカイルの心臓に向かって一突き。
彼の命はここまで────
ガキン!
『?』
その音はまるで金属同士がぶつかった音。
いくら魔力による身体強化でも、こんな音は鳴らな
い。
『……!』
剣が彼の手により掴まれた。
心臓に刺さらず、先程の疲弊を感じられないほどの……力。
「漸く……捕まえた」
剣を掴むカイルの手から、血が流れる。
それほどまでに強い力で握っているのだ。
何故心臓を貫けなかったのか。
答えはどこまでも単純で────
カイルの服から、甲冑の一部分がポロリと落ちた。
槍を拾う時についでに持って行ったのだ。
ただ、捕まえることに夢中なカイルでは攻撃に転じられない。
ならどうするか?
そんなものは決まっている。
「今だ……カロナ!!」
分身の背後から、彼女が長剣で分身の体を貫いた。
『…………ッ』
カロナも“彼女”も、どちらも分身に的確なダメージを与えたのだ。
────────
【少し前】
カイルの蹴り飛ばしにより、分身を城外に吹き飛ばした。
その時、数十秒だけだが息を整える時間があった。
「カロナ。お前に分身を倒してもらいたい」
「はい!! ………………はぁっ!?」
素っ頓狂な声を漏らしたカロナ。
「俺じゃ警戒され過ぎて、マトモなダメージを与えさせてはくれないだろう。こういう時必要なのはお前みたいなヤツだ」
「でもどうやって!!」
「まずその傷をできうる限り止血。その後は、誰でもわかる隙を作るからそこを突け」
本当なら殺傷性の高いロイの魔法に任せたかったが、彼はもう出し尽くした。
残るはカロナのみ。
彼女の長剣なら充分ダメージは与えられる。
────────
【現在】
『…………ッ』
二度に渡り、分身は自身の体を剣によって貫かれた。
魔法によって作られた『魔法構造体』にとって、“穴”は致命傷。
“魔力による斬撃”は、即ち魔力を“飛ばしている”と同義。
度重なる魔力消費が……分身に死の刻印を確かに押した。
「良くやった。カロナ」
彼女の頭をぽんぽんと叩くと、カロナはどこか嬉しそうに頷く。
分身は地面に膝をつき、自身の最期を悟ったのか、“最終手段”を取った。
「────来たか」
本来分身に施されている封印は五層。
それは、上から順に力・知識・殺意・思考・生命に分けられている。
恐らくヴィザが解放したのは三層。
それさえできれば支配できるからだ。
残りの二層は、既に分身が勝手に解いたのだろう。
尋常じゃない成長速度は、彼に命の躍動を解放させた。
『…………』
分身の心臓部分と、先程カロナに貫かれた腹部部分からボロボロに灰になっていく。
封印の五層目・生命は、自身の死を代償に、限界を超えた“鼓動”を鳴らす為にある。
(なんて魔力……なんてパワー……! これじゃ避けるのも────)
「カロナ、トドメは任せたぞ」
カイルはそう呟くと、自身の拳に全ての魔力を集中させる。
魔力コントロールが卓越している彼は、無意識のうちに割いてしまい隅々に至ってしまう魔力さえも、拳に集めた。
正真正銘、これが本当の“全魔力による一極集中”だ。
「(ミラ、セシー、ヴァル。お前達の代わりに───
ケジメ。つけといてやる)……終わりにしよう、
“俺”」
互いに全ての魔力を込め……
────放つ。
「ッ……!!」
『!!』
信じられないほどの無音による振りかぶりから、衝突した時の爆音。
衝撃波が城全体から溢れる中、カイルは雄叫びを上げながら、一歩を引かずに押し切ろうとする。
重い重い重い重い重い。
辛い辛い辛い辛い辛い。
どんなに戦ったところで、この感情がなくなることはないのだろう。
(分身……お前はあいつに作られて、そして数年も生を与えられず、本来の目的に扱われずにただ殺戮を起こしてきた。“落ちてるナイフ”にこんな気持ちを抱くのはあれだが────)
そうしてカイルは拳と剣のぶつかり合いの中、誰にいうまでもなく……呟いた。
「もう。終わりにしよう」
『!!』
ピシッ。
再びその音が。
「まぁ所詮…………ただの鉄剣だしな」
『…………!』
剣が……粉々になった。
そして────
分身の背後に、剣を振りかぶろうとするカロナ。
「これで────終わりだっ!!」
そうしてそのまま……分身の腰を両断したのだった。
剣が砕けたのは、単に質が悪かったのか、それとも思いで負けたのか。
……まぁなんにせよ。
「…………終わった」
感想はそれだけでいいと思う。




