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“元”勇者はもう一度  作者: 半端者の柑橘系 
第一章 始まり編
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第14話 死闘と“舌打ち”

戦いはこれから。

カイル不在での戦いは……正直不安だ。


万全なカロナと、リゼルとの戦いを経たロイ。

彼女はともかくロイはマズイ。


前回の戦いで魔力の半分を失ってしまった。

無論それでも平均以上だが……


「ッ!」

カロナと分身の斬り合い。


(……ん?)

一撃は今まで会ったことのないほどに重いが、剣術はそこまででもない。


意地でも鞘に入れようとしてくる。

どんなに連撃を叩き込んでも、防御にしか回ってこないのだ。


『……!!』


「くっ!」

剣を真横に振るい、大きく反撃されカロナは軽く飛ばされる。


ロイが二人の間に割り込んで魔法を放つという作戦だったが、いかんせん隙がない。


変に割り込みカロナに当たるのは……

「どうする?! このままじゃ死ぬぞ」


あの居合。

剣を鞘に入れた時、そのどちらにも魔力を込めて放つ一撃。


これをどうにかしない限り勝機はない。


『……』

相変わらずダンマリな分身。

そもそも話すという行為が彼自身あるのだろうか。


唯一分かるのは、こいつの一挙手一投足が殺意がしっかりこもっていること。


油断すれば足がすぐ震えそうだ。

「……待て、あいつの剣って…」


銅貨五枚の安物。

そしてその剣には────僅かながらヒビが入っていた。


あれがカイルが遺してくれたものなら……!

「カロナ! あれを突くぞ!!」


「えぇ!」

彼女も気づいた。

あそこに転機となるものがあるはずだ。


ロイは遠くへ駆け出し、カロナが真正面から分身へ突進。


カイルは昔から剣術を大して鍛えなかった。

他の剣士の一撃よりも重く、速かったから。


カロナによる精密且つ連続で叩き込まれれば、いくら今のカイルより強かれど“隙”は出来る。


(このまま鞘に入れさせない!!)

分身の姿勢が崩れた瞬間。

短剣による連続を捨てた、長剣による振りかぶり。


すると分身はそこに隙を見出したのか、

軽く跳んでカロナの腕を剣で刺した。


「!!」

痛い。

……よりも先に、今分身は腕を突き刺しているために動けないだろうとカロナは考える。



「────そこっ!!」

足をI字のようにして、そこから足を真下に振り下ろして蹴り飛ばした。


吹き飛ばされた分身は剣を地面に突き刺してバランスを取ろうとした時に……


「水魔法(アクア)!」

水魔法をロープのような形にして、分身の鞘を引っ張る。


剣は分身による強力な握力により離せない。

なら狙うは意識がいっていない(であろう)鞘の方!


「ッ〜!! だらっ!!」

引っ張り成功。

鞘はこっちの────


『…………!』

すると分身は鞘が奪われた瞬間、いち早くそれを察して剣をロイの方へ投げた。


「いっ!?」

なんということだろう。

投げた剣が鞘へと綺麗に収納されたではないか。


「ロイ避けて!!」

魔力が込められたその剣と鞘は、完全な威力を再現するのに充分。


奪うのを諦め、退避に徹しようとしたロイと同じタイミングで、分身は剣を握った。


そのまま三百六十度、全体を斬る。


「……グッ……!」

カロナは剣で防いだものの、肩から出血。


「……ッ」

ロイは躱しきれず背中から血が。


めちゃくちゃだ。

この分身。


どんなに凄い剣術だろうと、圧倒的な“力”の前じゃどうしようもない。


分身はそれを体現しているのかもしれない。


(マズイ……私は戦ってなかったから良いけど、ロイはマズイ!!)


カイルが応急処置を施しただろう。

それでも度重なる戦闘と出血は、ロイの動きを鈍らせる。


「ロイ!!」


「問題……ねぇ……よ……っ!!」

心配しようが、守ろうが、戦おうが、当たり前だが分身は待ってくれない。


戦うしかないのだ。

逃亡の選択肢はない。


「……それよりお前……その腕」

カロナの腕は深く突き刺され、血がダラダラと流れていた。


そんな彼女は痛みを感じる様子はない。

「私は“元”暗殺者よ? 痛みなんて……所詮────ってね」


「……フッ」


勝つ。

あの剣を折るしかない!


(今の水ロープと先程の一撃で……魔力が殆どねぇ。

……やれて二・三発……正真正銘……ラストだな)


『…………』

分身は、剣を鞘に入れずそのまま突撃。

カロナはロイの前に立ち、その一撃を受ける。


「……ッ!!」

その重さに、地面に穴が空いた。

クレーターのような形となるほどの一撃に、足腰に鈍い痛みが。


これ以上長期戦はできない。

やるべきは、強者も弱者……どちらも平等にしてしまう短期決戦。


「うっ!」

短剣が吹き飛ばされ、急いで長剣を両手で持つ。

そのまま押しつぶされそうだ。


このままではまずい。

カロナは無理やり、体を捻じ曲げて押し合いから回避した。


分身の剣が真下に振り下ろされ、更に地面に穴が。

斬撃による衝撃波でカロナは軽く飛ばされた。


(距離が離れた……! なんとか持ち直────)


目前に迫った物。

それは────


「(剣……を……投(・)げ(・)て(・)き(・)た(・)!?)ッ!!?」


殆ど反射だが、なんとか剣を弾く。

弾かれた剣の真下に分身は鎮座する。


チャキンッという納刀音。

また来る。


あの居合が。

(『俺がいなければ』な!!)


居合を叩き込もうとした分身の頭上に、炎魔法による火球。


奴は居合をする際、他に意識が向かないのだろう。

ギリギリで漸く探知できたようだ。


『…………!』

斬撃を頭上に放ち、火球を一刀両断。


「今の勿体ねぇなぁ!!」

煽るように叫ぶロイ。

怒りか、ただ単に気が変わったのか、分身の視線がロイに向く。


すぐさまカロナが距離を詰め、剣と剣を押し合う膠着状態に。


「どう!? 私たちが怖い!?」


『…………』


「怖いよね? 分かるよ……だって、満身創痍な奴が……まだ魔法を撃とうとしてるんだから!」


カロナはそう叫び、分身の剣をロイの方へ向くように仕掛けた。


分身が何をしようとしているのか気づいた時。

もう全てが遅い。


ロイは、先程カロナが吹き飛ばした短剣を持って魔法を放とうとしているのだから。


「風魔法(ウィンド)ッ!!」

風によって飛ばされた短剣はドリルのように鋭い回転を経て分身へ……いや、分身の“剣に”接近。


彼の目には、『この魔法は取るに足らないもの』だと映ったのだろう。


分身は剣を真っ直ぐ振り下ろそうとするも……

その短剣(ドリル)は、剣先をジリジリと削っていく。


『!?』

異変を感じ、短剣を吹き飛ばし距離を取った。

ロイとカロナは分身の下へ走ってくる。


この距離ならば居合が間に合う。

そう思った時────


ピシッ。


『…………!』


剣先が欠けた。



折れたのだ。



剣全体と言わなくても。



折れたのだ。



二人によって。



「(好機────!)ロイ!!」


「分かってる!!(残り一発!)」


殺意に満ちた二つの目。

そんなのを気にも留めず、分身は剣先を眺め続けた。


死がどんどん近づいてくる。

それなのに…………



『……………………………………チッ」


この会場全体とは言わない。

それなのに、そう聞こえてしまう。


分身の舌打ちが二人の耳に響いた時、悪寒が襲った。



「!?」


「ッ!!?」


チャキンッ。



剣を鞘に仕舞う音。



背後にいる分身。

追わなくては────────



そう考えたのも束の間。

ロイの腹とカロナの胸から血飛沫が。



斬られた。

そして……


(速────!)


(────過ぎる……!)


地面にそのまま倒れてしまう。

長いようにして一瞬の斬撃は、分身の“底”を見せるのには充分過ぎた。



「ロイ……待って……死なないで……!!」


「………………」


返事がない。

マズイ……!


「ロイ!!!」


「…………まだくだばっちゃいないぞ……勝手に殺すな……!……カロ……ナ……」


ロイはそのまま気絶。

そう答えるためだけに、体力を使い果たしてしまったらしい。


(ごめんなさい……カロナ……! 私には……何も────)


目を覚ましているカロナに、分身はトドメを刺そうとしてくる。


スローモーションのように、剣がどんどん近づいて……


『!!』


「?」

突如分身が、背後に剣を振るった。

そこには何もいないと言うのに。


新(・)し(・)い(・)強(・)敵(・)が(・)い(・)た(・)かのように。


「────あっ」


分身の背後。

目にも止まらぬ速さで、彼が得意な……空中回し蹴り。


こっちを分身が見た時には、彼は分身を城外へと蹴り飛ばした。


ドゴォと音を鳴らして、壁に大穴を開けた。


「……カイルさん? 生きて……」


「喋るな。出来る限りの応急処置をしろ」

そんなカイルの腹には血が。

彼の言う応急処置は随分と荒療治のようだ。


「そして────今から全力で行く。いつもなら力は溜めておきたい主義なんだがな」


キランと空いた壁から何か見える。

分身だ。


城外へと吹き飛ばされた分身は、同じ高さを持つ建物に両足を乗せ、足に魔力を込める。


壁がメキメキと壊れる中、その反発を利用して城へと跳んだ。


「!」

吹き飛ばして開いた穴から戻ってきた分身は、そのスピードを制御するために、片足をブレーキに使って弧を描くようにカイルへ接近。


そのままスピードに身を任せ、抜刀も同時に扱う。


斬撃の方向を察したカイルは、すぐさま姿勢を低くすることで躱す。


「…………」

支柱や壁を失ったことで、上階からの建物が崩れて落ちてきた。


これが分身の大暴れ。

衰えることなく成長してきた男の全てである。


「決着。つけようぜ?」



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