第13話 襲撃
【4F:カロナ】
ヴィザの仲間による空間支配か、魔力による探知が上手くいかない。
ここにいるのはログロとカロナのみ。
元より彼女は探知が得意ではないのだがな。
すると……
「カロナ!! 無事か!」
「え!?」
壁を壊して現れたのはカイルとロイ。
扉から入ればいいのにというツッコミより先に驚きが勝った。
長年の綺麗な城が……勇者たちによってボロボロに……
「ど、どうして壁を?」
「ああと……話せば長くなるんだが、簡潔に言うと扉を開けるとランダムな位置に転送するんだ」
ロイが適当に説明する。
納得したのかしていないのか、カロナが「う……うん」と彼女も適当に返した。
上手く状況を飲み込めない二人と、冷静に辺りを見渡すカイル。
戦いはそろそろ終わったと思いたいのだが。
「あの……二人に話したいことがあるんです」
「……いいのか?」
ログロが今すぐ説明せんという様子のカロナを停止する。
二人に説明するのは……少し早すぎるんじゃないか?
という思いがあった。
「いいんです」
「「??」」
ぽかんとしているカイルとロイに、カロナは自身の過去を簡単に説明しだす。
それを聞いた二人……主にカイルはどこか勘付いたような表情をしていた。
ロイは悲しそうな表情。
本当に分かりやすい男だ。
「そうか……で、一つ聞きたい。お前は“何”だ?」
カイルが聞きたいことはそこだ。
“彼女”なのか“カロナ”なのか。
「………………」
今まで一緒に鍛えてきたのはどっちなのだろうか。
「今も昔も、皆の前で出してたつもりなのは……“私”です。だって……私は私だから」
「……そっか。ならいいんだ」
カイルの代わりにロイが呟く。
「……うん!」
どこかこの二人は、“良い友情”を持ったらしい。
それだけでは────ない気がしなくもないが。
さておき。
ザルクとリゼルは敗北し、敵の戦闘員は壊滅した。
残るはヴィザのみ。
「勇者様達、俺のことは放っておいてヴィザを探して下さい」
ログロは覚悟を決めた目をカイルに向ける。
「“元”な────って、入れ違いになったらどうするんです?」
「私の命よりも元凶を叩くのが先です。そして……身の守り方は知っているので」
するとログロは、部屋に何かを施し始めた。
これは王国の秘術。
小さな部屋を独立させるのだ。
この部屋に入る方法は一つしかない。
ログロの許可を含めた、この部屋に一つだけの扉。
「……死ぬなよ」
「分かってます」
カロナは頷き、カイル達と共に部屋を出た。
────────
【1F】
「!!」
転送先は一階の長い廊下。
三人は辺りを見渡すも、特に何かの気配は感じない。
「よし、取り敢えず城を探知で────」
カイルが二人の方を向いた時、同じタイミングで誰かにすれ違う。
その男は、カイルが倒した男だった。
「お」
「お前────!」
男の名前はザルク。
先程カイルが倒した男だ。
「ちなみに、これからアンタらの身に起きることは俺たちは知らん!! あんな奴無理無理! プロとして撤退させてもらうぜ〜」
そのままザルクは細身の男とリゼルを抱えて、窓ガラスを破壊し城から脱出。
去り際、リゼルはロイに「バイバイ」とジェスチャーして消えた。
「俺たちの身に起きること? 一体どういう────ッ!!?」
殺気。
廊下の奥、扉越しから。
「カイルサン!?」「カイルさん!!」
あまりにも“緻密な”殺意のせいで、二人は全く気づいていない。
「ッ……!」
殺気と魔力が扉の奥からどんどん強くなっていく。
細胞が死ぬと叫ぶ。
心臓がうるさいほどに鼓動する。
呼吸がどんどん速くなっていく。
圧倒的に強者によって、本来この戦いで叩かれるはずのない五感が極限にまで高まる。
聴覚が……捉えた。
“剣”を────“鞘”に入れる音。
(動け!! 動け動け動け動け動け!! こいつらを……守る守る守る守る! 守るんだ!!!)
初めて命を賭ける戦いをしたみたいだ。
死が目前に迫る感覚は慣れたと思ったのに。
空気が────
変わった。
視覚以外の五感は止まったように感じる。
「……お前ら伏せろ!!!!!」
カイルは急いで二人の頭を掴んで、無理やり姿勢を低くした。
その“上”を通ったのは────斬撃であった。
斬撃は扉や壁を豆腐のように切断し、城の奥まで斬られていた……絶望が否応なしに襲ってくる。
「!!?」
「ッ!!?」
「…………ッ!!」
二人の服を掴み、急いで後退。
この男とは……こいつとは戦ってはいけない。
“せめて”二人だけでも……!
「ロイ、カロナ逃げろ!! これだけはお前らが戦っていい相手じゃねぇ!!」
分身。
ヴィザは完全に封印を解いたのか。
五年前と威力が遜色ないのだ。
「嫌に決まってるだろ!」
「私はもう誰かを失いたく────!!」
「いいから逃げろ!!!」
戦闘中はどこか余裕のあるカイル。
だが今彼にそれはない。
カイルはわかっているのだ。
自分が後一秒先、生きているのか。
それさえも分からない。
「────行け」
「死なないよな!?」
ロイが叫ぶと。
「死なねぇよ。城が“崩壊”したらまた会える」
「そんなレベルなんですか!?」
カロナの叫びにカイルは黙って頷くと、
「急げ!!」と更に急かす。
これ以上我儘は言えない。
「こいつを止めたら、俺もすぐ合流する!!
お前らは近くにいる人間を非難させるんだ、任せたぞ!!」
「死ぬなよ……! カイルサン!!」
ロイとカロナは悔しさを抑えながら、非難誘導に向かった。
後は……
ご丁寧に待ってくれた分身を倒すのみ。
「やるしかない……な!(ミラ……俺がケジメを果たす!)」
────────
【数分後: ロイとカロナ】
逃げろ、後で合流するとカイルは約束してくれた。
ならそれを信じるのみだ。
……悔しいが。
「本当に……これで良かったの? ロイ」
カロナが悔しさを隠さずに呟くも、ロイはそれに応えることはなかった。
二人はわかっているのだ。
あの分身と戦って勝てるビジョンは一切浮かばない。
カイルですら生き残っていられる自信がなさそうだった。
「俺たちに“任せられた”のは、避難誘導だ。カイルサンが任せてくれたのなら、それをやりきるだけ!」
自身の目的を正当化するためには、こう言うしかない。
“逃がされた”という事実こそあるが、逃げたと同義だ。
二人は黙って廊下を走る。
そうして廊下を走っていた時、上から声が。
「そんなに勇者が怖いのですか?」
この下衆な声は────!
「ヴィザ……!」
「お久しぶりですね。“カロナ嬢の使用人”」
「!!」
やはりか……!
そんな考えがカロナになかった訳じゃない。
それでも驚きは隠せない。
「……いつ気づいていたんだ?」
あくまでも沈黙を貫いたカロナの代わりに、ロイが聞いた。
ヴィザはどこまでも不気味で不快な態度を崩さない。
「結構最近です。墓荒らしの趣味はなかったのですが……確認のためには致し方なく」
するとヴィザは指を鳴らす。
それに呼応するように、壁が切り抜かれた。
切り抜かれた壁は、壁の奥にいる人間によって蹴り飛ばされ、ロイの目前に迫る。
「うおっと!!」
勢いよく体を動かしてギリギリで躱した。
寿命が一気に縮んだ気もする。
そして二人は息を吐く。
嫌な予感が的中したからだ。
「クッソ……!」
ロイは……自身の詰めの甘さを心底悔やんだ。
────────
【数分前】
分身との戦い。
ミラが言うには、五年前の動きを忠実に再現したらしい。
チャキンと、分身は剣を鞘に入れる。
もう既にカイルは分身がどう戦うかをイメージしていた。
(奴が鞘に入れた時。とんでもない一撃を叩き込んでくる)
パワーもスピードも、勇者時代から五年という歳月で鍛えた“今のカイル”の方が上だと言うのに。
反射や間合い管理が衰えていない昔のカイルに、全く勝てる気がしないのだ。
カイルの所へ分身は急接近。
鞘から抜こうとする瞬間が、視界の端で見えた。
「!!」
速い────!
なんとか伏せることで斬撃を躱す。
近くにあった太い支柱が綺麗に斬れた。
カイルはそれを利用して支柱に飛び移り、足を振り下ろす。
分身はそれを剣で受け止める。
(やっぱり……! 剣はなまくらだな)
銅貨五枚の安物。
どうやらそこのセンスもカイルと同じか。
片足で分身を壁へと蹴り飛ばし、壁にめり込んだところを追撃。
『……!』
拳による連撃を、完璧に防ぐ分身。
このまま体力を削り切ろうとする、カイルの作戦を察したのか────
「何……!?」
カイルによる二発の拳を敢えて防がず、剣を鞘に入れた。
“たった”二発じゃ死なないと判断したのだろう。
大してダメージは受けていない様子。
……元より表情は変わらないし何も喋らないのだが。
「……ッ! クッソッ!!」
抜刀する寸前に、分身を踏んで上へ跳ぶ。
一秒後。
分身はキィン!と音を鳴らし、真横に抜刀。
城が崩壊することを心配するレベルで、壁や支柱などが両断されていく。
(…………困ったな)
あの威力。
あのスピード。
五年前、ミラが作り共に共闘した時よりも遥かに……
(強い!!)
どうしてこうなった?
もしかしてミラが作った時も、封印があったのか?
なんとか着地。
分身は────
キンッという音。
風がどんどん迫ってくる感じ。
(しまっ────!!)
少し遅れて、接近してくる分身を躱そうとするも……
間に合わず腹を斬られた。
「……ッツ」
少なくともスピードは互角……そう思っていたのだが。
異常な成長スピード。
それはカイルの分身も例外ではない。
地面に倒れ、仰向きの姿勢になる。
ドクドクと血が流れる感覚と共に、敗北感がじわじわと込み上げてきた。
(逃げ……ろ……! ロイ……カロナ……)
────────
【数分後:ロイ・カロナ】
「わたしは邪魔しませんので。では」
どこかへ行くヴィザ。
それはもうどうでもいい。
……どうでもよくなるほどの……敵。
「……負けたのかな。カイルさん」
カロナは軽い笑みを浮かべながら語る。
「……だろうな」
ロイは魔力を手に込めた。
敵は────分身はもう目の前にいる。
「先に死ぬのはどっちかな。私? それともロイかな」
どこか揶揄うようにカロナは呟く。
それとは逆にロイは真面目な顔をしていた。
「さしたとして。だろ」
「────止めよう」
カロナの一言にロイは静かに頷き、向かってくる分身へ攻撃を仕掛けようとしたのだった。




