第11話 カロナと“彼女”
【4F:神部屋】
「カロナ……君は……」
彼女の兄であり、王位継承者のログロ・ヴィルべはカロナのことを心配している様子だ。
「お兄様。私はやるべきことをやるだけですから」
淡々と呟くカロナ。
託された思いを、今果たそうとしているのだ。
今彼女は十七歳。
ロイと同い年だ。
そんな“彼女”が出来上がったのは二年前。
(ただの“暗殺者”が……一国を担うお姫様か。笑っちゃうな)
────────────
【二年前】
“彼女”の正体は暗殺者。
昔はというべきだろうか。
────ヴィルべ王家の長女、カロナを暗殺者しろ。
そういう通達が来た。
だからやる。
それ以上の理由を考える必要もない。
(……見ればわかるらしいが……)
下っ端の料理人として潜入したのはいいが、いかんせん料理人と王家との繋がりがないのだ。
ため息が何度も漏れる。
“彼女”にとって、役柄に入り込むことは全く苦ではない。
(もういい)
多少兵士や国の人間に目をつけられたとしても、暗殺さえ成功すればいいのだ。
夜に無理やり襲撃しよう。
大方三階〜四階にいるだろう。
【夜】
フードを被り、誰もいない廊下を通る。
すると奥の部屋からガチャガチャと何かの音が聞こえた。
「あちゃー!! また失敗だー!」
女のハツラツとした声。
そこにいるのがカロナならそこで任務完了。
そうでないとしたら聞くのみだ。
足音を立てずに、ゆっくりとその部屋へと近づく。
扉も開いていた。
ラッキー。そのまま気づかれずに首へナイフを当ててやる。
「あ! ごめんなさい、来客は────」
最悪なタイミングでカロナは後ろを向いた。
互いの視界に互いがハッキリと映り……
「……ッ!!」
どうするかを考えるよりも速く、“彼女”はナイフを振るう。
パシッという音。
腕を────掴まれた!?
「……ふ〜ん」
「(なんて力……)がっ!!」
カロナは彼女の腹を殴り、怯んだ所を奥の窓へと蹴り飛ばした。
「がっ……はっ……!」
窓ガラスにぶつかり、ガラスにはヒビが。
カロナが強い。
攻撃力もスピードも、今の一瞬だけでも分かるくらいに高いものだと気づいた。
……というか当たりどころが悪い。
モロ頭に入ってしまった。
「…………(ク……ソッ……)」
────
【翌日】
「はっ!」
ふかふかなベッドで目を覚ました“彼女”は、少しの腹の痛みを覚えつつゆっくりと起きた。
捕えられた────と思ったのだが、鉄格子もなければ殺風景でもない。
今のは夢?
そう思ってしまうほどだ。
「あ? 起きた?」
今回のターゲットであるカロナが部屋に入ってきた。
ノックもせずに。
「……警戒しないのか?」
「だって“あたし”はあなたより強いから」
「……………………」
怒りが腹辺りまできたが、ここで変に抵抗して本来逃げられたはずのチャンスを失くすのは良くない。
冷静に……尚且つ黙って聞こう。
「私の名前はカロナ……って知ってるか。暗殺者だもんね」
「どうして私を助けた?」
それはあまりにも意外な答えで……
「あたしにそっくりで可愛かったから」
「は?」
可愛い?
それだけで?
“彼女”の頭の中が疑問で覆つくされた。
暗殺者として老若男女問わずに任務を遂行してきた“彼女”
それに……
「そんなにびっくりしてどうしたの?」
「私をどうするつもりだ?」
少しペースを乱されたが、本当に聞きたいことはこれだった。
こいつは昨夜謎の研究を行っていて、本来死刑なはずの彼女を助けた……
つまり怪しい人体実験でもされるとでもいうのか。
「あなたに提案があるの」
「提……案?」
少し怯えた表情で、“彼女”は返す。
カロナはその表情を楽しんでいるようにも見える。
「あたしのボディーガードになって?」
そうして“彼女”はカロナのボディーガードになった。
裏稼業について忠誠を誓っている訳ではない、寝返ったところでだ。
暖かいところで寝れて温かいご飯を食べられるならそれでいい。
────
ボディーガードになったのはいいが、そこからが地獄だった。
作法を叩き込まれ、この城の一員として相応しい人間となる為の鍛錬。
刃物を振るうのは慣れているが、細かい作法については覚えるのに少し時間がかかった。
「凄いね! あたしが教わった時はとても時間かかったのに、あなたは数日でそれらを覚えちゃったんだから!!」
朝から晩まで元気はつらつなカロナは、今日も元気だ。
「私はボディーガードとしての役目を果たしているだけに過ぎません」
姫様には敬語。
教わったことを忠実にやるのみ。
「冷たいな〜」
「あなたには淡々と返した方がいいと」
カロナの両親には、カロナから紹介してもらった。
最初こそかなり警戒されたが、今は色々助けてもらっている。
「そう言えば……あなたの名前は?」
そう言えば“彼女”の名前を知らない。
“彼女”もそれを話したがらないし、それを察した人たちは何も聞かなかった。
城の……ヴィルべ家の人間が“彼女”の警戒を解くのが早かった理由は、彼女の体格がとても良くなかったのもある。
“殺しの正当化”というわけではないが、少なくともそれは同情を得るのに充分で……
「それは……」
「あ! そういえばあたしの研究に付き合ってくれない?」
何かを話そうとした“彼女”を無視してカロナは、“彼女”を連れ出して街へと向かった。
令嬢と“元”暗殺者が、街を探索……そんなことをしたら問題に────はならない。
カロナの異能力は、『擬態』
自身“だけ”だが、適当な人間に見た目を変えることができるのだ。
代償として時間は二〜三時間だけという。
調子よく街を歩くカロナ。
その様子にどこか不安になる“彼女”
「一体何の為に街へ?」
「買い物!」
「買い物?」
「『研究』に使うの」
そういえば研究とはなんだろう。
前来た時は「失敗しちゃった」と言っていたが。
それを聞こうと何度も思うのだが、人体実験だったらどうしようという思いが何度も頭の中で反芻し、聞けなかった。
あんなに優しくしてくれたのに。
それが自分に向けられなくなったら……と思うと、怖い。
もし優しさが自分に向けられなくなるのなら、ギリギリまでカロナの優しさに浸りたかったから。
「あなたは……憧れの人とかいる?」
話したいことが積み重なり、話題がコロコロ変わるのもカロナの特徴だ。
「……いません」
まともな人間に会ってこなかった。
尊敬ができる人間なんて……
「あたしは勇者カイルとその一味を尊敬しているの」
魔王軍を討伐し、圧倒的な大暴れを見せたあの四人。
カロナは彼らに会ったことはない。
今はどこにいるのだろうか。
解散したと聞いたが……
「いないなら、私を尊敬して」
「は?」
「だって言われたくない!? 「私はカロナお嬢様を心の底から尊敬しています」って言われたくない!?」
それに対する“彼女”の考えはとてもシンプルだ。
……
…………
とてもしょーもない。
────────
【城にて】
何か小道具を買ったのを見ていたのだが……
それでもやっぱり聞く勇気なんてなかった。
「………………」
心の中で覚悟を決め、“彼女”は聞く。
「一体何をするつもりなのですか?」
もう覚悟はできた。
何をされても何を言われても、もう充分だ。
「ん? なんでそんな緊張してんの?」
「え? いや……」
「あたしの研究目的は至って簡単だよ。能力の進化……更にその先へ行くためにあるの」
それは誰もがやったことがない。
……やれたことがないと言うべきか。
「この研究が成功すれば……もしかしたら人は異能力を向上できるのかもしれない」




