第10話 短時間蹂躙
シャンデリアでのぶつかり合い。
圧倒的な攻撃の応酬。
「……ッツ」
拳や足から血が少しだが吹き出る。
奴の槍による一撃はかなり重いのだ。
いい加減、どうにかしなければ。
今はダメージだけで済んでいるが、攻撃速度に影響が出たら戦況が変わってしまう。
「パワーとスピードさえあれば、戦いなんて充分だろ」
ザルクの槍の一突きにより、肩から血が大きく吹き出した。
防御しようのない一撃。
相手の攻撃を見ながら、どこに来るかを察してピンポイントに魔力操作するという神技は、得意だろうと連続できない。
ただ……
「……その発言は聞き捨てならないな」
「!?(空気が変わって────)」
カイルは奴の反撃を完全に無視した、拳による連撃を叩き込む。
ドドドド!と音を鳴らして、高速の連打。
速すぎるがあまりザルクは防御にしか回せてない。
(こいつ!)
戦いのテンポが変わった!
今まで堅実な戦いだったのに。
「ッ……だらぁっ!!」
奴は二つの拳をなんとか躱し、シャンデリアを吊るす鎖を斬った。
シャンデリアごと落ちるカイルの姿を見届け、ザルクは槍を真下に落ちるカイルの方へと向ける。
(空中姿勢は簡単に変えられない。このまま俺の槍で突き刺してやる)
そうしてカイルを追おうとして、飛び降りようとするも────
「?」
カイルはシャンデリアに足を掛けて、ザルク……より更に奥の場所を狙っている様子だった。
(どこ……いや、何を見ている?)
そんな考えがザルクになかった訳じゃない。それでも飛び降りた以上、攻撃は続けるべきだ。
迷いは必ず攻撃の緩さに繋がる。
攻めるべき、頭にそう残したことを後悔した。
「!?」
突如、カイルはシャンデリアを強く蹴り飛ばし、ザルクへ急接近。
「ッ!」
なんとか躱すも、姿勢が崩れてしまった。
追撃はできない。
心の中で舌打ちをしながら、着地した次の手を考える。このチャンスを逃したのは少し痛い。
(……? こいつ何を……?)
カイルは素早く姿勢を変えて、何かをしようとしている。
一体何を────
すると背中にとてつもないスピードで何かがぶつかった。
ドン!という音が後ろから響く。
(────シャンデリア!?)
先程、カイルがそれを蹴り飛ばしていたが……
これを狙っていたのか!!
カイルはザルクが躱すことを信じ、
シャンデリアがいつ壊れるかも計算して他のシャンデリアや壁にバウンドさせながらザルクに命中させたのだ。
そのままザルクは後ろの衝撃に流されるまま、地面へとどんどん近付いていく。
ただ……カイルはそれ“だけ”じゃ許さない。
先程の姿勢変更が効いた。
「(こいつ空中で姿勢を変え────)がっ!!?」
カイルとザルクがすれ違う瞬間、カイルはシャンデリアの上からザルクに一撃を叩き込む。
シャンデリアの衝撃とカイルの蹴りによる相乗効果によって、更に強く地面に激突した。
「ゴホッ!」
ザルクは急いで立ち上がり、頭の中で状況をまとめる。
(あのままじゃ俺に槍を突き刺されるから、
①シャンデリアを蹴って俺に躱してもらう
②蹴られたそれは複雑にバウンド
③俺の背中に激突
④勇者はそれを蹴りで合わせた……
マジで無茶苦茶だな。)
ザルクより遠くの場所を狙っていたのは、他のシャンデリアや壁を見ていたため。
本来狩られる側の人間が、一気に対等どころか優勢に持っていくのは流石としか言いようがない。
現に今、頭の中が混乱している。
(……つかもう考えるのは無駄か。ドツボにハマりそうだ)
そんな事を考えていた時、他のシャンデリア達も一斉にカイルの周りに落ちた。
大量のガラスが散らばる中、ザルクが考えていたのはシンプル。
(チッ……奥にある槍を回収しね〜とな)
ザルクの足下に結界が張られる。
『跳躍』の準備は整った。
「『跳べ』」
カイルよりも速く、槍を回収しなければ。
このスピードにはいくら勇者と言えど対応できない。
圧倒的なパワーとスピード。
両手ともそれを持ち合わせている。
『跳躍』という異能力を計算しなければの話だが。
急いで槍を回収し、すぐ近くまで迫っているカイルへ一突き。
「なっ!」
掴まれた。
しかも片手で!!
「疲れたよな。お互いに」
もう片方の手で壁へ殴り飛ばす。
再び槍を離すことに成功したカイルは、右の拳に魔力を込めて近づく。
(来る────!! 拳の向き的に……頭を潰す気か!)
両腕で頭をガードするザルク。
カイルが振りかぶろうとした瞬間、左腕の袖から“光る物”が。
ドスッ!
そんな音が聞こえた時、ザルクは自身の置かれた状況に気づいた。
“刃物”で……刺されたのだと。
「悪いな。俺は正々堂々だから勇者なんじゃない。どんな方法でも、“正面”で“勇敢”に“勝つ”から勇者なんだ」
ザルクの腹部へと見事に刺さっているのはガラスの破片。
(ガラス────? チッ……シャンデリアの破片か。大量に落ちてたしな)
刃物は腹から背中にかけて見事貫通していた。
カイルの魔力操作があれば、いくらザルクの肌といえど斬れる。
今までの戦いで分かっていたはずなのに……
「見逃したな……クソッ」
破片を抜いて、カイルは腹から血を流すザルクをただ見下ろす。
「その傷じゃ……もう無理だろ。俺は殺生は好きじゃないんだ。大人しく────」
「いいんじゃないか?」
カイルよ言葉をザルクはどこかハイになって覆った。
「ここからは……短時間蹂躙だ」
ザルクは不敵かつ不気味な笑みを浮かべて、ドスの効いた言葉でそう呟く。
「!!」
何を────そう考えるよりも速く、ザルクの拳によって遠くへ殴り飛ばされた。
油断していたのもあり、かなり吹き飛ばされてしまう。
ドゴン!!と壁に激突すると、カイルは後ろの物を掴む。
奥からザルクの「『跳べ』」という声が聞こえ────ない。
ドタドタと上の階から走る音が。
「ッ!?」
まさかのザルクは天井を突き抜けてそこから出てきた。
急いでカイルは背後にあった絵画を武器として使う。
真横に素早く振るも、巨大な絵画なために掴まれてしまった。
バキッと音を鳴らし、絵画はへし折られそうになるも、それより速く絵画を二人の間に置く。
(こいつの攻撃……勢いがとんでもないな!)
今も奴の腹から血が止まらずに出続けている。
────短時間蹂躙だ。
言葉を察するに、それが来るよりも速く決着をつけるつもりだろう。
絵画をどかすか躱すか……
予想外の手を打つつもりか────
「いっ!?」
まさかの絵画に拳で穴を開けて、山勘で攻撃してきた。
どうやらこのまま殴り合うつもりだろう。
「ハハッ」
面白い。
カイルも拳“だけ”に魔力を込めて、絵画越しに叩き込む。
奴もそれを察したのか、攻撃の手を緩めることなく連打。
絵画がボコボコになり互いの顔が見えた瞬間、ザルクの拳をジャンプしながら体を捻って躱す。
カイルの得意技である空中回し蹴り。
何度でもザルクに叩き込むのだ。
自身の足をザルクの側頭部に命中させた。
────が。
(一度対応したのを忘れたのか?)
(……そうだった!!)
そうして足を掴まれ、真上に投げ飛ばされた。
ザルクはカイルよりも高く飛び……
「『跳べ』」
床に突き刺さる槍の下から結界。
ザルクの手に吸い込まれるように加速し、それをキャッチ。
何をするかを察したカイルは、先ほど奴を刺したガラスの破片に魔力を込める。
それを気にも留めず、奴は槍を真上に振りかぶった。
二人はそのまま天井から床へとかなりのスピードで撃墜したのだった。
「はぁ……はぁ……(もう魔力がほとんど残ってねぇ……リゼルの援護に行きたかったがどうやら休憩しないと無理そ────ん?)
砂煙。
この廊下一体が砂煙によって覆われ、何も見えない。
ザッ。
ザッ。
そんな音が近くから聞こえる。
「…………」
疲れか何かでフッと笑ってしまう。
「……クッソ」
砂煙の中から、見覚えのある拳が。
そうしてザルクはカイルに殴られて、完全に力尽きたように倒れた。
「流石だな。結構力入れたんだがなぁ〜」
「まぁな」
なんの種も仕掛けもない。
全力で耐えた。
服はボロボロになってしまったが……後で弁償しよう。
「腹は応急処置してやる。そして消えろ」
探知した結果。
ロイの反応はまだ感じる。
どうやら────
「リゼルも負けたか……ま、そんなものか」
「あぁそうだ。ヴィザがどういった作戦を組んでいるんだ?」
「さぁ〜な。あんまり興味なかったから聞いてない」
「………………」
ザルクやリゼルを倒した。
これで状況は良くなったのだろうか?
魔力を回復したら、急いでロイとカロナと合流しよう。
敵は後一人か。
「今この城をめちゃくちゃな結界を張っているのが俺の最後の仲間だ。でも……あいつは戦えないから、もうお前らの勝ちだ」
「…………そうか」
話せることを話して完全に体力が尽きたのか、そのままザルクは眠ってしまった。
ひとまず一段落した……のだろう。
カロナたちと合流しよう。
話はこれからだ。
〜人物紹介〜
(敵幹部二人)
ザルク・ドン
評価(五段階)
パワー 5
スピード 4
テクニック 3
魔力総量 4
魔力操作 2
リゼル・キャス
評価
パワー 1
スピード 3
テクニック 4
魔力総量 3
魔力操作 4




